無口な彼が獣になったら、溺愛モードで困ってます

ずー子

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第2章

1、冒険者協会の窓口にて

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「ウィリアム様。お待ちしておりました。こちら今回の謝礼です。受け取りが遅かったのでご不用なのではと少し話題になっていましたよ」
「いやいやいやいや、要ります、要りますって」
 冒険者協会の窓口の少年はニコニコしながらとんでもないことを口走る。黙っていればすごくかわいい顔をしているのに、この毒舌はどうにかならないものか。
「色々あったんだよ、変な呪いにかかったり、白先生に診てもらったり…」
「白先生にお会いしたんですか!?」
(く、食い気味…!)
 ニコニコ毒舌美少年が黒髪を揺らして身を乗り出してきて、リアムは少しだけ引いた。
「うう…僕もこんな仕事がなければ今すぐにでも白先生に会いに行くのに…!」
「そ、そうなの…?」
 リアムはつい相槌を打つくらいの気持ちでいたが、崇拝モードに入っていた少年は目をキリッとさせた。
「貴方はあの方の凄さをご存知ないんですか?病気は勿論のこと、冒険者としても第一線でダンジョン攻略をしてきました。なのにちっともそれをひけらかさない!それどころか隠居生活みたいにあんな田舎の村でひっそりとされている!僕は!あの方の叡智をもっと世界に広めたいんです!」
「そ、そうなんだ……」
 少年の圧に気圧されながらもリアムは苦笑いを浮かべた。
「僕もいつか白先生みたいになるのが夢なんです!あの方のおそばであの方の素晴らしさを伝えていきたい!」
「へ、へぇ~……」
 もしかして自分はとんでもなくやばいスイッチを押してしまったのかもしれないと冷や汗が流れる。しかし少年はそんなことには気付かずにキラキラした目で話し続けるのでリアムは何も言えずただ相槌を打つだけだった。
(うう……助けてジェラルド)
 心の中でそう助けを求めていたときだった。
「オイ、まだ終わらないのか?」
 天の助けだ。ジェラルドが後ろから声をかけてくれたおかげで少年はやっと我に返ったようだった。
「あれ、貴方は確か…」
 少年はジェラルドを見上げて小首を傾げてみせる。だが、ジェラルドはその先を言わせないと言わんばかりに無言で少年を睨みつける。
「ご、ごめん。もう終わるから、そんな怖い顔しないで?ジェラルド」
 リアムが振り返って微笑むが、少年とジェラルドの間に広がる緊張感のようなものに、無意識にリアムは胸がざわついていた。
(え、もしかして、知り合いとか…?)
「へぇ…今はそんなことをしているんですね」
「…お前こそ無邪気な子供を装って、何を考えているのやら」
(え!本当に知り合いだったの??)
 険悪な雰囲気にリアムが戸惑っていると、少年はにっこり笑って言う。
「そう怖い顔をしないでくださいジェラルドさん」
「……ッチ」
 舌打ちと共に睨まれても怯む様子はなくニコニコしている。どうやらよほど肝が据わった少年のようだった。だが、このまま二人が睨み合っているのも心臓に悪いし何より居心地が悪いので、リアムは恐る恐る声をかけた。
「あ、あの……二人とも知り合いなの?」
すると二人は揃ってこちらを向き直る。
「僕は冒険者協会の窓口ですから!」
「…よくもまあぬけぬけと……」
「え?」
 ぽかんとするリアムにジェラルドはため息混じりに言う。
「…もう用は済んだだろう。戻るぞ、リアム」
「え!?あ、うん…」
 窓口の少年から報酬を受け取ろうと手を伸ばしながら、リアムは慌てて振り返る。
「…でも本当に、要らないのかなって噂になってましたよ?ウイリアムさん。貴方、あの大商人マクスウェル家の次男なんでしょう?お金は売るほど余っているのに、なんで冒険者なんてやってるのかなって」
「え…」
「オイ、烈花。いい加減にしろ!」
 遮るようにジェラルドが声を荒げる。珍しいなと思ったし、少年の言葉でぼんやりしたリアムの頭の中に、それはよく響いた。
「…僕のお金じゃないからね。それは」
 リアムは困ったように笑って言った。
「それに、持って生まれたこの力を役に立たせる方が、人のためになるかなって。だから僕は冒険者になったんだ」
「そうですか。貴方はあの家の人らしくないですね、ウイリアムさん」
 少年は笑顔のままジェラルドに顔を向ける。
「…そういうところが手を出しあぐねてる理由なのかな?」
「………」
「と、とりあえず話はここでおしまい!今度白先生に会ったときに君の話もしておくね!」
 険悪な空気を察して、リアムは苦笑いを浮かべながら話題を逸らすと窓口の少年から報酬を受け取った。
「あ!ありがとう!」
 そのまま足早に立ち去ろうとするリアムの腕を引き寄せてジェラルドは強引に口付けた。
「っ!!」
 突然のことに驚いているうちに舌をねじ込まれる。歯列をなぞるように舐められた後、上顎を撫でられて背筋がゾクリとする感覚に頭がくらくらしてくる。力が抜けそうになったところで漸く解放されたものの、至近距離でじっと見つめられてしまい居た堪れない気持ちになった。
(うう……恥ずかしい…なんでいきなりこんな…)
「…見せつけてくれますね?」
 恥ずかしくて溶けちゃいそうなリアムを他所にジェラルドは目の前の口笛を吹きそうな顔をした少年を睨みつけている。
「ジェラルド、やめて。僕は大丈夫だから」
「……チッ」
 舌打ちと共にジェラルドは少年から視線を外すとリアムの手を引いて、坂道を歩き出した。
***
 宿に戻ってもジェラルドの機嫌は直らず、リアムが何を話しかけても無視されてしまう始末だった。だがそんな態度とは裏腹に、握られたままの手が熱い。それがなんだか気恥ずかしくて落ち着かなかった。
「あの……ジェラルド?」
「……」
「ねぇってば……」
 何度声をかけてみても返事はない。強く握り込まれていて少し痛いくらいだ。
「…あの子と知り合い?」
「烈花と俺の関係なんて今はどうでもいいだろう」
「……怒ってる?僕が他の人と話したから……?」
「そうじゃない」
「じゃあなんでそんな不機嫌なのさ」
 なんだか僕も不機嫌になってきたとリアムは頬をぷくっと膨らませる。ジェラルドはじっとお餅のように膨らむそれを無表情に眺めている。
(む!ちょっと楽しんでるな、ジェラルドの奴……!)
 かつては微かな感情の機敏には気づけなかったリアムだが、今や固く結んだ唇が僅かに上向いてるのを見て、少し和んでいるのがわかってしまった。
「ねぇ、ジェラルドってば」
「……うるさいぞ、リアム」
「だって、君、全然僕の話聞いてくれない…ふむぐっ!」
 頬を掴まれ思わず唇がアヒルみたいになってしまう。
「むぐ!むむぅう!」
「うるさい」
「わ、わらっへるじゃん!むぐ!」
「うるさい」
「むーむー!!」
「うるさい」
 ジェラルドはリアムの頬を両手で掴むと口元だけ少し緩ませる。
「…信じろ。俺はお前を傷つけたりしない」
「……む?」
(傷つける?)
 ジェラルドはリアムの頬を両手で掴むと口元だけ緩ませる。
「だから……俺を信じろ、リアム」
「……うん」
***
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