彼は世界最強の側近です。

ヒデト

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大槍武祭編

1話

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「姫さまーーー!姫さまーーーーー!!」


王宮内を多くの使用人が姿を消した王女を探し、走り回る。
だが、慌てているのは使用人だけで重臣達に慌てる様子はない。


「またですか。本当に困った姫様だ」


ここは大陸の南にある小国、フォルニア王国。綺麗な街並み、賑わう市場、店の亭主が客を呼ぶ声に混じり、子供達の笑い声が聞こえる。その街中、人混みを深々と帽子を被るロープを着た少女が走り抜けて行く。
その少女は、時々店の前で立ち止まり物欲しそうに売り物を眺める。だが、眺めるだけで買いはしない。店の人が声をかけると黙って立ち去る。


「欲しかったな…」


少女は目をキラキラさせ、街を見て回る。
そんな時だ。近くで男の怒鳴り声が聞こえてくる。


「テメー、盗みとはいい度胸だな!」


人が群がっている中心、強面のオヤジが子供を怒鳴りつけている。状態から盗みをした子供を捕まえたと言う感じだ。


「すっすいません…でっでもお金なくて…」


その子供は手足が痩せ細り、まともな食事を取っていないのがすぐわかった。


「テメー、金がなかったら盗んでもいいのか?」


強い口調で言い放ち、その痩せ細った身体を殴りつけた。鈍い音をたて、子供は地面に這い蹲りうめき声をあげる。その光景はあまりに痛々しかった。


「だッ大丈夫?」


ローブを着た少女は駆け寄り優しく声をかけ、治癒魔法を使う。子供は緑色の光に包まれた。


「ちょっとあなた!少しやりすぎじゃないの?謝ってるじゃない!それに、こんなに痩せちゃって、少しくらい分けてあげてもいいじゃない!」


ローブを着た少女は感情的に大声を上げる。


「あん?誰だあんた?こいつの仲間か?」

「違うけど」

「じゃあすっこんでろ!それとも、あんた代わりに金払ってくれんのか?」

「そっそれは…」


払ってあげたい、という気持ちはある。が、あいにく持ち合わせがなかった。
ローブの少女は何も言えず、一歩が下がる。
すると、背後からキンッという音がなり、コインが飛んでくる。それを店のオヤジは慌ててキャッチする。


「これでいいか?」


手に槍を携えた若い男は人混みからするりと現れ言う。それは子供が盗んだ物を買うには十分な金だった。


「あっああ、じゃあお釣り…」

「釣りはいらねぇからこの子を許してやってくれ」

「ああ、わかった。もう盗みなんてするんじゃねぇぞ」


オヤジは店に戻り、群がっていた人達も散っていった。
子供も「ありがとう」と一言言い、頭をペコっと下げ去って行く。その場にはローブの少女と金を支払った男だけが残った。


「……」


お互い黙り込む。
そして、ローブの少女は男から逃げる様にこそっと離れようとする。


「おい!どこへ行く」

「うっ…」


ローブの少女の身体がピタリと止まる。


「さて、お前は一体何をしているんだ」

「え、えぇぇと……誰方かと勘違いされているのでは」

「へぇ、勘違い。この俺が守るべき主人を勘違いしていると、そういうのか。なぁ、シャルロット」


男は深くかぶった帽子をばさりと脱がす。
良い香りがふわっと広がり、金色の髪がひらりとなびく。


「さぁ、帰るぞ。みんな心配してる。」

「うっ…」


シャルロット・ブリュンヒルデ。現在十四歳。そして俺、真田影丸。十七歳になり、シャルロット・ブリュンヒルデの側近になってから八年が経過していた。


「もう見つかっちゃったか」


シャルロットは使用人の目を盗み、王宮を抜け出すのが癖になっている。癖というのも少し違うか。王宮からなかなか出ることのできないシャルロットは街に興味があった。だから時々、王宮を抜け出している。そして、その頻度もかなり多い。使用人はいつもヒヤヒヤしながら探しているが重臣達はいつものこと過ぎて少し呆れ気味で心配する事もしなくなっている。


「もう少しだけ待ってよ!今日はまだ全然見れてないの」

「そんな事知らねぇよ。さぁ、帰るぞ」


王宮に戻ろうとすると、シャルロットが服の袖を掴む。


「影、お願い♡」


シャルロットは上目遣いで甘える様におねだりする。


「お前、俺の事バカにしてんのか?!」

「えっ?」

「お前のそんな顔見たって何にも感じねぇんだよ。」


その言葉に照れが少しも無い。それを見てシャルロットは肩を落とし落ち込み、諦める。
影丸は少し性格が悪い。シャルロットの落ち込んだり、嫌がったりしていると表情を見るのが好きだった。影丸にはその落ち込んだ表情が一番可愛く見えていた。
影丸は一瞬笑みをこぼす。


「少しだけだぞ」

「えっ?」


シャルロットの表情がみるみる明るくなる。


「やったーー!」


シャルロットは走り出した。


「おい!本当に少しだけだぞ!」

「わかってる!」


本当にわかってんのかよ、と思いながらシャルロットの後ろをついて行く。
だが、楽しそうにしていたのはほんの僅か、十分ほど見て回り再び声をかける。


「そろそろ帰るぞ」

「えー早いよ。もう少しだけ」

「無理」

「あと五分」

「無理」

「あと一分」

「無理」

「ちょっと」

「死ね」


少し間が空いた。


「…え?今なんて?」

「死ね」

「ちょっと待って、死ねって何?」

「悪い、口が滑った」

「主人に死ねって口が滑ったとか言うレベルじゃないと思うんだけど」

「うん?そうか?余りにもしつこいからつい」

「いや、ついって」


そんなやり取りをしていると、影丸とシャルロットの視界に人集りが入る。


「あれ、何してるんだろ?」

「知らん。それより帰るぞ」


そんな影丸を後にスタスタと人集りに走っていくシャルロット。影丸は溜息をつき歩いて後を追った。
人集りの中心では、男同士が向かい合い机を挟み腕を組んでいる。
「はじめ!」の合図とともに二人の男は組んだ腕に力を入れる。


「あれ何してるの?」

「うん?あー、あれは腕相撲だな」

「なにそれ?」

「腕の力比べってとこかな」


どうやら腕相撲で商売をしているようだ。
金を払えば誰でも参加可能で、勝てば賞金をもらえるらしい。
そして相手は、腕周りが女性の腰周りほどもある巨漢だった。
今のところ負けなしのようだ。


「さぁ!ここまで無敗!この男に挑む者はいないか!!」


無敗の男は自信に満ちた顔で腕を組み癇癪を見下ろす。今まで何人もの男達がその男に負けるところを見ている観客からは勝てないだろういう空気が漂っていた。


「ねぇ、影出てよ」

「嫌だよ、金がもったいない」

「勝てばいいじゃない。それとも勝てないの?」

「はぁあ?」


安っぽい売り言葉。わかっているが少しイラっとする。


「やってやるよ!」


安っぽい売り言葉を買い、影丸はお金を払う。


「お!お兄さん。挑戦するかい?」

「ああ」


影丸の身体はそれなりにでかい。一般人と比べたら確実に力があるように見える。だが、男と比べるとどうしても小さく見える。
観客からは「大丈夫か?」という声も上がる。その声を聞き、シャルロットも心配そうに見つめる。
だが、影丸はあの腕を見てなお、負けるとは微塵も思っていなかった。


「まぁ、兄ちゃん。腕が折れないように手加減してやるよ」

「そんな気遣いはいらん。あんたこそ、初めから本気でこないと恥かくぞ」


影丸の言葉にイラつく男。


こいつ、腕ごとへし折ってやる!!


お互い腕を組み、腕相撲の態勢を作る。男はイラつきからか妙に力が入っている。
回しが静まり緊張が走る。
そして、


「はじめ!」


合図した瞬間、両者の腕に力が入る。机はミシミシと音を立て、男は雄叫びを上げ、力を入れた。
だが、勝負はほんの一瞬だった。
少し静寂した後、「おーー!」という声が辺りを包んだ。
相手の手と甲が机についている。
巨漢の男とポカンと口を開き、驚きを隠せない様子だった。


「しょっ勝者!挑戦者ーーーー!!!」


その声の後に続く観客の歓声に驚きの声。シャルロットと飛び跳ねて喜んでいた。
だが、影丸は当たり前と言わんばかりに顔色一つ変えず、賞金を受け取り、大して喜ぶ事なく帰ってくる。


「すごい!本当に勝った」

「なんだよ?負けると思ってたのか?」

「だってあの腕だよ」

「まぁ、素人ならそう思うだろうな」

「影も素人でしょ」

「そうだ。まぁ腕相撲は力も大事だが、それよりも速さの方が重要なんだ。どんなに力があろうと、その力を発揮できなければ意味がない。この腕相撲はどちらが先に力を発揮できるかの勝負と言っていい。奴の敗因はそのことを知らなかった事だ」

「へぇぇ、なんだか奥が深いね」


と言っても、影丸は力を比べだったとしても勝っていただろう。


「さぁ、これで気は済んだだろ。帰るぞ」

「まぁ、仕方ないか」


その後、シャルロットは素直に王宮へと帰った。

そして、いつもの様に重臣に影丸とシャルロットは説教をコッテリと絞られた。


856年。さぁ、もうすぐ大槍武祭である。
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