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大槍武祭編
3話
しおりを挟む大会日和と言わんばかりの快晴。家の外は大賑わい。
会場へ向かう道は大和国民で溢れていた。
「はぁ、人混みは嫌いなんだよなぁ」
影丸は人混みを掻き分け会場へ向かう。
通り過ぎざまに影丸の事に気付いた人たちが「頑張れよ!」と声をかけてくる。
今回、行われる会場は大和一大きい大和闘技場。
大槍武祭のランキング戦はいつもここで行われる。
ランキング戦と言ってもこれは決勝トーナメントなのだ。
ランキング戦は三日間で行われる。だが上杉流の道場に通っている武人全員でトーナメントなどいくら時間があっても足りるものではない。
だからこの決勝トーナメントまでに非公開で予選を行なっている。
その予選を勝ち抜いた十六人が決勝トーナメントに出場することが出来るのだ。
会場に着いた影丸は出場者達が待機している控室へ向かった。
扉を開けると控室の中は緊迫感に包まれていた。
出場者達は扉を開ける音に全員が反応し、目を向けた。影丸が入ってくると目つきが変わる。他の出場者に向けているものとは違う。何か殺気に近いものを鋭い視線と共に送っているようだった。
またか…。
これは大槍武祭の時は何時もある事だ。
別に影丸がいじめられているという訳ではないが、単純に浮いているのだろう。
これは影丸の立場の問題だ。
影丸は真田家の長男でありながら真田流ではなく、上杉流を学んでいる。
家元が剣術を使う流派の者に負けるわけにはいかない。
そう思っている彼等は開始前からプレッシャーをかけているのだ。
「おう!来たか!」
影丸を見つけた冬瓜が声をかけた。目の前に立ち、ジッと影丸の身体や顔色を見る。
「準備は出来ているようだな。」
「出来てなきゃこねぇよ。」
「いや、出来てなくても来いよ!」
やり取りをしながら影丸も冬瓜を見た。
冬瓜も準備万端という感じだ。だが、少し気負い過ぎ、気合いが入り過ぎているようだった。
「出場者の皆様。そろそろ開会式が始まりますので準備してください。」
「よし!行くか!」
出場者達は控室を出て、入場門の手前で待機する。
闘技場からは今回の司会であろう人の声が聞こえてくる。
影丸と冬瓜が以外の者は全員がそわそわし出す。無理もない。二人以外はこれが初出場だ。
この大会は両国のお偉いさん方も大勢見に来る。初出場で緊張すんなと言うのが無理な話だ。
「では、今回の主役の登場です。」
その声を合図に影丸達は歩き出す。
闘技場に入って来る出場者、そして司会が出場者達の名前を読み上げる。
上杉流槍術免許皆伝、上杉冬瓜。
上杉流槍術免許皆伝、真田影丸。
上杉流槍術九段、宝思念
上杉流槍術九段、矢田辰馬
上杉流槍術九段、四方銀時
上杉流槍術九段、伊吹隼人
上杉流槍術九段、二式空
上杉流槍術九段、林道基
上杉流槍術九段、速水相馬
上杉流槍術九段、帯刀陸
上杉流槍術九段、半田清
上杉流槍術九段、生駒宗徳
上杉流槍術八段、錦戸楽
上杉流槍術八段、桜庭守
上杉流槍術八段、飛鳥日向
上杉流槍術八段、桂緋色
影丸の名前が呼ばれた時、観客の声に混じりシャルロットの声が聞こえる。
声のする方に目を向けるとお偉いさん方の所から手を振っているシャルロットの姿があった。
戦争中だからだろう、前回よりも重臣達の人数はかなり少なかった。
「これより、大槍武祭の開催を宣下する。」
舞台に上がった上杉流師範、上杉家当主、上杉龍馬の開会宣言。
それを合図に観客達の一際大きな歓声と拍手。
全ての人に見えるように大きなトーナメント表が掲げられた。名前の欄には一から十六の番号が書かれている。
これからトーナメントの組み合わせを決める抽選が行われるのだ。
司会者が二つの箱を持って来る。一つの箱の中には一から十六の番号が書かれた札が入っている。出場者達はその中から札を一枚取り、引いた札の番号の所に出場者の名前が入る。
簡単な決め方だ。
もう一つの箱には出場者の名前の書かれた札が入っている。司会者が札を引き、引いた札に書かれた名前の者が番号札が入った箱を引く。これは番号札を引く順番を待つ決めるためのものだ。
出来るだけ平等に組み合わせてを決めるためにこの方法を採用している。
出場者達はいつ名前を呼ばれるのかとそわそわしていた。そんな中、抽選は淡々とそしてスムーズに進んで行く。
そして、遂に影丸の札が引かれ名前を呼ばれる。
呼ばれたのは五番目、ゆっくり前に出る。
他の出場者達も影丸がどの位置に着くのか気になるようでまじまじとこっちを見ている。
影丸は箱の中に手を入れる。影丸は「一番」と書かれた札を引いた。
トーナメント表の一番左端に影丸の名前が貼られる。
その後も淡々と進んでいき、ようやくトーナメント表が出来上がった。
何も仕組まれてはいない。だか何の因果か、影丸が一番左端。冬瓜が一番右端と言う観客全員が望む優勝候補が決勝で当たるトーナメント表になった。
「よし!お前とは決勝戦だな。待ってるぜ!」
「ああ。」
てか、俺の方が先に決まるだろ。
開会式は終わり会場は一回戦の準備に入る。準備には少し時間がかかる。魔法による呼び出しの放送が入るまでは自由時間だ。
影丸は街をぶらぶらして待つことにした。
「うわぁ、人多」
街の物凄人混みをかき分けて歩く。
ドンッ!
「すいません。」
誰かとぶつかった影丸はとっさに謝る。
だが、その返事はなかった。
「うん?」
その代わりに見知った金色の髪をした少女が腕に抱きついていた。
「へへぇ!」
「何してんだよ、お前。」
「時間潰しに街回るんでしょ。私も一緒に行く。」
「それは構わないが、お前席どりしてないと…て、お前自分の席あるからしなくていいのか。」
「そうですよ。特等席、私偉いんだから。」
「そうでしたね。お偉い姫様には敬語を使わないといけませんね。」
「むぅぅ…。」
シャルロットは俯向き少し怒った様子で頬を膨らませる。
「冗談だ。そんな顔するな。」
影丸は笑いながら頭を撫でる。
「それじゃあ、どこ行こうか。」
「はい!私、焼き鳥食べたい!」
「じゃあ、焼き鳥食べに行くか。」
「うん。」
影丸とシャルロットは焼き鳥屋を探しに街を回る。先々進む影丸に必死について来る。
影丸はそんなシャルロットを見て手を握り引く。
シャルロットは少しドキッとし赤面する。
「あった。」
シャルロットはすぐに焼き鳥屋を見つけ、影丸の手を引き店に駆け寄る。
「へいらっしゃい!おっ!影丸君じゃないか。」
「どうも」
その焼き鳥屋は影丸のよく知るオヤジの店だった。
「へっへー、彼女連れとはイイね!」
「彼女じゃないよ。ただの警護対象。」
影丸の言葉にシャルロットはまだ頬を膨らませる。
「警護対象?って姫様か!これは失礼しました。」
「構いませんよ。」
シャルロットは礼儀正しく大人びた対応をする。外面は出来上がっている様だった。
「そうですよ。こんな餓鬼に気使う必要ないですよ。」
影丸はシャルロットのデコを指で弾く。
「餓鬼じゃないわよ。」
赤面しながらデコを抑え小声で呟く。
「ハハハ、仲が良いことで。それで何にする。」
ズラッと並べられた焼き鳥。シャルロットはギリギリまで近づきじっくりと見回す。
「シャル、近づきすぎ。」
「いいでしょ。うーん、どれにしようかなぁ。……それじゃあ、これとこれ。」
シャルロットは並んでいる焼き鳥から両手で二つ選び取る。
目を輝かせながら焼き鳥を少し見つめた後、勢い良くかぶり付く。
そして当たり前の様に影丸がお会計をする。
「うーん!美味しーー!」
顔にタレを付けて無邪気に焼き鳥を頬張る姿が小動物の様で影丸は笑みをこぼす。
「ほら、顔にタレ付いてるぞ。」
影丸は懐から手拭いを取り出し、シャルロットの顔に付いたタレを拭き取る。
シャルロットは身体をビクッとさせまだ赤面する。
「不意打ちばっかりしないで…。」
頬を赤らめたまま恥ずかしそうに言う。
「不意打ちって何だよ」
「もう…。はい、一口あげる。」
シャルロットは手に持つ焼き鳥を影丸の顔の前に差し出す。
「いや、俺はいいよ試合あるし。」
「えぇ、そんな事言わないで。ほら、一口だけ美味しいよ。」
一瞬、哀しそうな顔したシャルロットに「仕方ないな」とつい思ってしまった。
「わかったよ…ほら。」
影丸は口を突き出す。
「はッ!はい、あーん!」
シャルロットは嬉しそうに影丸の口に焼き鳥を持っていく。
確かにうまい。
ついやってしまったがこれって恋人同士がやる様な事だよな。これからはこう言う事はしないよう気をつけよう。
「どう?美味しいでしょ?」
「ああ。」
「よかった。」
シャルロットは嬉しそうに笑う。
『一回戦に出場する方は闘技場へ来て下さい。』
魔法による放送が入る。
「もうか、案外早かったな。」
「えぇ、もう終わり。」
「そうみたいだな。さて、闘技場に行くか。」
「もう…。」
「また、明日回ってやるから。」
「……うん。」
影丸は急いで闘技場へ戻る。シャルロットは影丸の服の袖を掴んで控室まで付いて来た。
「あの…もう控室なんですけど。」
「うん。」
「いや、うんじゃなくて自分の席に戻れよ。」
「……影、負けないでね。」
「ああ、わかってるよ。」
「負けたら影を側近から解任するから。」
「わかった。」
「負けたら影に勝った人を側近にするから。」
「わかったから、早く行け。」
「…うん。」
シャルロットはしょんぼりしながらトボトボ歩いて行く。
「はぁ…。」
影丸は控室に入ると対戦相手である桂緋色が睨みつけて来た。
「試合前にデートとは余裕だな。」
「別にデートじゃねぇよ。」
「余裕かましてると痛い目見るぞ。」
「かもな」
口論ではないが、真剣な表情のやり取りは控室の空気を重くする。
『選手の人は準備に入って下さい』
魔法の放送が入る。
二人は立ち上がり、影丸は西の入場門、桂緋色は東の入場門へ向かう。
入場門前に着くとお互い、木槍を持ち身体を解す。影丸は木槍を手になじませる様に木槍を振る。
『さぁ、選手の入場です!』
司会者の入場の合図。
「さてと。」
影丸はゆっくり闘技場へ入る。
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