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大和逃亡編
18話
しおりを挟む影丸達が馬を走らせて数時間。日が暮れ始めた頃、大和とフォルニアの国境付近の村に着く。影丸は村に入る前に荷物からローブを取り出した。
「お前ら、これ着とけ」
「なんで?」
「あまり顔を見られたくない。バレるかもしれないが、出来れば俺たちが通った痕跡を残したくない」
四人は顔が分からないくらい深くフードを被り、村へ入る。
いつも通りの村の様子。フォルニア王都が落ちた事など知りもしないのだろう。まだ、ここまで情報が届いていない。
「村人達に大和が裏切った事言わなくて良いの?」
「言ってもしょうがない。どうせすぐにわかる事だ」
「殺されるかも知れないじゃない!」
「言って信じるかどうかも怪しい。それに今言って逃げれば、捕まって殺されるだけだ。何もしない方が殺されない」
何も知らない。いつも通り村。シャルロットの頭には焼け落ち、死人が転がる王都が焼き付き離れない。このいつも通りが、今のシャルロットにはあまりに眩しい過ぎる。
「なんだ?お前また泣いてんのか?」
「またって何よ!」
泣いてはないが、目に涙は貯めていた。
「お前、最近よく泣いてたからなぁ」
「何よ…」
「見てて辛いなら見なくて良いから。これから泣くときはロニエに分からないように泣け。お前が泣いてると不安になる」
「分かってる…分かってる……今日が最後………もう泣かないから…」
シャルロットは俯き顔を隠し、ポロポロ涙を流す。影丸は背後から片手を回し、軽く抱きしめる。
シャルロットはその手を強く握る。
「ねぇ、思い出したんだけど、側近辞めた後、パーティーで私に他人みたいな感じで敬語で話したのはなんで?」
「ああ、あの時は大公殿下にお前と仲良くするなみたいな命令受けてたからだな」
「……」
「どうした?」
「ヤバイ、お父様が死んだ時のことも思い出しちゃった…」
止まりかけていた涙が再び溢れ出す。
「自爆してんじゃねぇよ」
四人は村で少しの食料と水を買い、泊まることなく村を出た。
その直後、突然の雨に見舞われ、影丸達は国境付近の洞穴へ逃げ込む。
「急に降ってきたな」
濡れたローブを脱ぎ、急いで火を起こす。その横で、ロニエが崩れるように座り込む。
「ロニエ、大丈夫?」
「…はい」
荒い息遣いに顔色も良くない。フレアはロニエのおでこに手を当てる。
「かなり熱がありますね」
ロニエを寝かせ日のそばに寄せる。
「疲れが溜まってたんだろう。無理もない。シャルかフレアでもいいや、治癒魔法使ってやれ。治らないにしても、身体が楽になるくらいはするだろう。」
シャルロットがロニエに治癒魔法をかけると、心成しか荒かった息が落ち着いたように感じる。
「これは少し時間がかかるかもしれませんね」
「別に問題ない。国境前で休憩は入れるつもりだったからな。多分、追ってはかかってないから安心しろ」
「どういう事?」
「ずっと警戒していたが、そう言った気配は感じなかった。俺たちが他国に逃げるには絶対に大和を通らなければならない。奴は大和でつかまえようとしてるんだろう」
影丸の予想通り、大和はフォルニアを落とした後、早馬で大和へ影丸の裏切りと王子と王女を逃したことを報告した。大公王は大和から「出さなければいい」とフォルニアから大和へ入国して来るであろうポイントで待ち構えていた。
「考えはあるのですか?」
「待ち構えてるって言っても、全てを完全に押されるなんて出来ない。待ち構えてるポイントは大体想像がつく。後は最短距離で一気に他国へ逃げ込む。これしかない」
安易な作戦ではあるが、これが一番逃走率の高いだろう。変にごちゃごちゃ逃げながら行くより、素早く抜けてしまうのがいい。持久戦になると確実に捕まる確率が上がる。
「あなたは武人でどの位の強さなのですか?」
「なんだいきなり?」
「フォルニアであなたの戦闘を見た時、正直別格だと思いました。大和はそれほど人口が多くない。多少なら戦っても勝てるのではと思ったのです」
「確かに、武人は多くない。逃亡ポイントを押さえると武人は分散するから突破も可能では、という話か?」
「はい」
「こういうのは自分は強いって言ってるみたいで嫌なんだが、武人の中でもトップ5には入ると思う。突破も、部隊によっては不可能ではないかも知れないが、危険過ぎる。もし、大和特殊武人が来たら完全に積みだ」
「大和特殊部隊?」
大和特殊部隊。ただ、強さのみで編成されたエリート部隊だ。家紋は関係ない。強さのみで選出された武人達。たった二十人で二千の兵を無傷で撃退したという武勇すらある。
「後は、武甕雷だな。あいつにあってもヤバイ」
武甕雷家当主、武甕雷焔。五将軍の一人で武人ナンバーワンと言われている男だ。真田流と同じ刀を使う流で似ているところも多い。彼は国内では敵無し。無敗の男と呼ばれ、彼と戦った武人は口を揃えて「あれは勝てん」と笑いながら言う。現当主は歴代当主で一番強いとも言われている。負けを知らぬ男。『天災』とまで言われている。
「武甕雷焔…」
「だが、武甕雷は基本王宮を守護しているはずだから大丈夫だと思う」
気づけば、外は音を搔き消すほどの豪雨になり、雷な鳴り響いていた。
「そんなの居るのに、復興とか出来るの?」
少し煽るような話に不安を口にする。
「シャル。戦の必勝法って知ってるか?」
「何それ?」
「戦はな、頭を取れば終わるんだよ。将棋で言う王、玉を取る。それで俺たちは勝てる。ただ、今の俺達が、王を取ってもそれはただの暗殺だ。戦の土俵に上げる必要がある。」
「どうするの?」
「簡単だ。他国を巻き込めばいい。」
「そんな簡単に行くわけないじゃない」
「確かに簡単じゃないな。まぁ、そこに関しては俺に任せろ。今お前は逃げることかだけ考えてればいい。他国へ逃げて、復興はそれからだ」
「…わかった」
何故だろう。
どんな確率の低い事でも影丸が言うとそう思えない。
何でもできる気がする。
私はそれ程に彼に酔っているのか。
酔っているなら、それはそれでいい。
彼が居れば何でもできる気がする。どこでだって生きていける。
私は…彼無しでは生きていけないのだろう……。
そう思った瞬間だ
その日の夜中、シャルロットは魘されていた。まだ雨は降っている。その雨音は、フォルニアを包む業火の音に似ている。その雨音が、あの日の悪夢を蘇らせる。
その悪夢、サーシャの声を使い、シャルロットへ訴えかける。
「何で、助けてくれなかったの?」
ズタボロのサーシャはシャルロットに迫ってくる。
「サーシャ…ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい…」
心からそう思った。
『ごめんなさい』
サーシャが。母が。国民が。シャルロットに『どうして』と津波の様に押し寄せ、無限の問いかけをする。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」
そう連呼しながらハッと目が覚めた。大量の汗を掻き、息も荒くなっていた。
「どうした?寝れないのか?」
「……夢を見ました。…みんなが何で助けてくれなかったのかって、迫ってくるの」
「怖かったのか?」
「怖かった」
不安げな顔をするシャルロットを抱き寄せる。
「私…本当に生きてていいのかな」
「またそんな暗い話か?」
「だって…」
「安心しろ。お前は生きてていいんだ。
「…ホント?」
「ああ、お前が誰にどれだけ否定されようと、俺が肯定してやる。お前を否定する奴は、俺が否定してやる。だからお前達は胸張って堂々と生きてればいい」
…自己の肯定。心地いい言葉。そして、何より暖かい。
シャルロットはそのまま影丸に身体を預け、再び眠りにつく。
翌朝には雨が上がり、ロニエの熱も下がり、万全の状態。
今日が第一の峠になるだろう。大和への入国。影丸達が早速向かったのは雨宿りした洞穴とは別の少し小さめの洞穴だ。
奥は全く見えず、中に吸い込まれる様に風が吹き込む。外から見ると、奥へ進むにつれ、穴が小さくなっている様にも見える。正直、中にはいるのは怖い。
「ここに入るの?」
「ああ、この洞窟は大和の国境の先まで続いている。この洞窟の存在は、大和奴らも知らないはずだ」
四人は松明を持ち、中に入る。冷んやりとした空気に冷たい凸凹の岩肌。洞窟が狭いせいか、壁が迫ってくる様な圧迫感を感じる。シャルロットの右手にはロニエがしがみつき、左手で影丸の服の袖を掴む。
そんな道はとても長く続いた。
「ねぇ、長くない」
「うるさい。黙って歩け」
一時間ぐらい歩いた頃、洞窟の先に光が見える。
出口が見えたと、喜んだがそれは日の光では無かった。
「…綺麗」
一際大きな空間。様々な色に輝く、鉱石が岩肌から露出し、洞窟内を照らす。光の正体はこれだ。
「綺麗」と言う感想の後に思ったのは「まだ続くの?」と言う感想だ。
そして、空間には四人が来た道とは別にいくつもの道に別れていた。
「影、どれに進むの?」
「……」
影丸無言で立ち尽くす。
「影?」
「…わからん」
「え?影、この洞窟知ってるのよね?」
「……」
「どうして黙るの?」
「実は、俺ここ初めてなんだよな」
三人は驚きの声を上げる。
「知ってるんじゃないの?」
「ここの事はかなり昔に親父に聞いたんだよ。ここの洞窟は大和に繋がってるって。その時に、他の奴らは知らないみたいな事を言ってたから」
「いや、影のお父さんが知ってる時点で影丸だけの情報じゃないじゃない!そんなんでどうやってここから出るのよ!」
「まぁそんな怒んなって。何とかなる」
お先真っ暗。影丸達は再び歩き出す。
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