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大和逃亡編
17話
しおりを挟む翌朝、日の出と共にシャルロットは目を覚ました。
照りつける日差しに目が眩む。昨日と出来事が夢であってほしいと願った心に現在の状況が夢では無い事を突きつける。
湧き上がる怒り、恨みに憎しみ、憎悪は全く消えてはいない。
その憎悪の感情が自分は生きているのだと実感させる。
昨日、シャルロットは全てを失った。その事実がシャルロットの生きる意志を奪い取る。
「起きたか?」
朝一で影丸が声をかける。
「早起きね」
「寝てないからな」
今の状況では寝てもいられない。いつ追手が来るかわからない状態で見張りなしとはいかない。それに、この森では敵はあってだけではない。
「そろそろ出発する」
「出発って何処にいくのよ?」
絶望するシャルロットには逃げる理由が見つからなかった。
「まずはフォルニアを出て大和を越える。まずは大和の向こうのリナント王国を目指す」
大和はフォルニアを含め、四つの国と面している。南にはフォルニア。東と西は海に面して、北に三つの国が面している。左からリナント王国、ウルガン王国、カルバーン王国と並んでいる。
「他国に行けば、逃げ切れるの?」
「逃げ切れるかは分からんが、手は出しにくくなるはずだ。最終目的地はカルバーン王国。あそこは、他国の干渉しない国として有名だ。商人はよく来るが、他国と貿易もしていない。カルバーン王国に入れば、大和も簡単には手を出せないだろう」
「逃げて…どうするの?逃げてもしょうがないじゃ無い。どうせアイツは何処までも追いかけて、私達を殺そうとする。必死に逃げて、生き恥を晒すより、ここで素直に捕まって、死んだ方がマシじゃ無いの?」
脱力仕切った体に生気のない瞳、完全生きる希望を見失うシャルロット。あの強大な大和から逃げ切れる気が湧いてこない。
そして、影丸の行為を無にする発言に影丸は怒りが湧く。が、怒りを吐き出すように口から息を吐いた。
「確かに、大和は俺たちを殺すまで追ってくだろう。逃げ切れる保証なんてものは無いし、これからどうなるかも分からない。だが、お前はまだ生きてる。お前は、フォルニアを復興したく無いのか?」
「…復興?」
その言葉はシャルロットが想像もしなかった事だった。
「そんなの出来るわけないでしょ!」
その言葉は、シャルロットの心に一縷の光を灯した。だが、現実的ではないその意見は否定せざるを得ない。
「出来わけない…か。そうかもしれない。でも、お前達が居なきゃ出来ないことだ。可能性はゼロに近いが、やろうとしさえすればゼロにはならない。やらなければゼロだ。一とゼロは全然違う。フォルニアの復興。生き恥を晒す理由には十分だと思うがな」
一とゼロは違う。それでも可能性はゼロに等しい。そのはずなのに、彼の言葉はそう聞こえなかった。
彼が言うと何故か出来る気がしてくる。
「復興…そうね。可能性はゼロではないけど、やらなきゃゼロ。本当、言いようね」
シャルロットは軽く笑い。顔を上げる。
「もう少し、生き恥を晒して見るのもいいかもね」
シャルロット中の怒りや憎しみが無くなったわけではない。影丸の前向きな意見に、どうしても気持ちが明るくなる。
大和は憎い。それも吐きそうなほど。それでも、影丸に出会わせてくれたことにだけは感謝をした。
影丸達は馬を走らせ、東の海岸へ向かう。道無き道を走り、入り組んだ森を駆け抜ける。時々と草木が顔に当たり、目を瞑る。
「ねぇ、なんでこんなところ走るの?木が顔に当たって痛いんだけど」
「こんな道だから走るんだ。少し我慢しろ」
東の森はこういう所だから逃げるルートに選んだ。恐らく、大和は影丸達を今、この時も追っていることだろう。道無き道を走るからこそ東へ逃げる意味がある。森を真っ直ぐ突っ切り、少しでも距離を稼がなければならない。
そんな道を数時間走ったところで、シャルロット達の目に光が差し込む。
「眩しいっ!」
少し離れているが海岸線を視界に捉えた。潮風が吹き、キラキラと光を反射し輝く海。最速で海岸へ来れたと言っていいだろう。
「綺麗…」
シャルロットにロニエも海を見るのは初めて。果てしなく、広大に広がる青い海につい見惚れる。
「見惚れてるとこ悪いが、まだ休憩じゃないぞ」
影丸達は再び、海岸線に沿って走り出す。
おかしい…
フレアふと思った。
なぜ、こんな簡単に森を抜けることが出来た?
この森は危険なモンスターが沢山いるはずだ。なのに、一匹も遭遇し無いとはどういう事だ?運が良かった?それで片付けるのは簡単だ。だか、運何かじゃなく何か理由があるとすれば……
「影丸殿、私達に何か隠していることはないですか?」
馬を走らせ、馬上から疑いの目を向ける。影丸は馬を止め横目でフレアを見る。
「昨夜も言いましたが、私はあなたを信用していない。今、言っているのはここまでうまく言っている事に対しての疑念からだ。まず一つ、我々を国を捨ててまで助けた理由。そして、国を捨てる覚悟があったなら、事件が起きる前に何とか出来たのではないのか?あなたは大和の将軍家の長男。フォルニアを襲撃するという情報は早い段階で知っていたのではないのか?もう一つは、この森は危険な猛獣達が多く出没するとして知られている森だ。なのに、昨夜といい、今といい、猛獣と全く、というより、生き物を全く見かけない。これもあなたが何かしているのではないか?」
影丸は少し黙る。シャルロットは振り返り影丸を見つめる。
「いいだろう。だが、一つ目の問い。味方する理由については答えるつもりはない。その答えは王子が知っている。そして、亡き王妃もそれを聞き、納得し、二人を任せてくれた。貴様に答える通りはない。二つ目の問い、早い段階で助けられたのではないかと言うことだが、全て知っているわけではないが、フォルニア襲撃に真田家は参加していない。そして、この事に対し、俺に襲撃の前情報がいかないようにされていた。俺はある人から、近いうち襲撃されると言う情報を聞いていたからだ。」
「誰にその情報を?」
「カーナ王だ」
「えっ!お父様が?!」
シャルロットは驚きの声を上げる。
「フォルニア王家の者に備わっているスキル、『未来視』でフォルニアを襲撃される未来を見た。だが、このスキルは欠点が多く、見える未来は曖昧で、起こる時期も不明だった。だがら、対応出来るように準備をしていた」
「その話、私聞いてない」
シャルロットは怒っている半面、拗ねているような様子で言う。
「今、言っただろ」
「なんでもっと早く言わないの?」
「お前、聞ける精神状況じゃなかっただろ!話しの途中に茶々入れるなよ」
シャルロットはムスッとした顔で黙り込む。
「三つ目の問いだが、これは俺のスキルだ」
「えっ!影、スキル持ってないって…」
「お前もう黙ってろ!」
「……はい」
影丸の言葉にシュンとした様子で落ち込むシャルロット。そんな様子影丸はホッとしていた。
災厄の悲劇を体験し、怒りや憎しみ、絶望に侵されたシャルロットの姿はもうない。かつて、何気ないやりとりが今のやりとりと重なる。
最速の回復と言っていい。影丸はその姿を見て心底安心した。
「『威圧』それが俺のスキルだ。俺と同格、もしくはそれ以下の力、強さの生物に対し、恐怖心と、プレッシャー、を与える。俺と対象者との間に実力差があればあるほど与えるプレッシャーは大きくなる。俺はこのスキルをお前達以外の生物にかけていた。だから、生き物が近くに居ないんだ。答えられる範囲で答えた。気は済んだか?」
「一つ目の理由を話さないと言うのは気に入らんが今回はそれで納得してもいい。だが、完全に心を許したわけじゃない。立場が立場だ、分かりますよね」
「まぁ、今はそれでいい。これから強大な敵と俺たちは戦っていかなければならない。戦力は一人でも多い方がいい。ある程度でも信頼してもらわないと、俺も戦力として数えられん。仲間が欲しいのはお互い様だろ」
「そうですね」
影丸達は再び走り出す。
少し時間を使ったが、この時間は決して無駄な時間ではなかったと思う。
多少は今の話で警戒心を解けたと思う。信頼は少しずつ得られればいい。
もう、半日以上は走ったか、馬にもシャルロット達にも疲れが見えていた。
「そろそろ休憩するか」
影丸達は川を見つけ、そこで休憩をする。
「食べ物あるの?」
「あるけど、俺が準備した食べ物は非常食だ。川で魚を捕る」
「素手?」
「いや、スキルを使う」
「スキルで取れるの?」
「さっきも話したが俺のスキル『威圧』は実力差が大きくければ大きいほど与える圧も大きくなる。で、実力差があり過ぎるとこういう事になる」
影丸は川に入りスキル『威圧』を発動する。シャルロットが川の水面を見ていると、失神した魚が何匹も浮かび上がってくる。
「おおー!すごい!」
面白いほど多くの魚が浮かび、シャルロットとロニエは嬉しそうにそれを見つめる。
フレアが魔法で火をつけ、川魚に枝を通し焼いていく。塩があれば良いのだが、贅沢を言える状況ではない。
数分ほど焼いた川魚をシャルロットとロニエは勢いよく頬張った。
昨日から何も食べていないシャルロット達。相当お腹が空いていたのだろう。沢山あった魚をあっという間に平らげた。
影丸達は少しの休憩を挟み、再び走り出した。
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