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4章 挙り芽吹く
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突然の地震に驚いたが、影響はなかった。ただ、六之介と綴歌が合流地点にいつまでたっても現れない。周囲の様子を見て回るとと、彼らが探索に向かった場所が崩れているようである。土砂を除けてみるが、人一人の力でどうこうできるものではなさそうだった。
飯場に戻るべきだと判断するのに時間はかからず、駆け出す。
しかし、である。それを妨げる者たちが現れた。
異様に細い体躯は、土塊と木の根を乱暴に掻き混ぜ、人型に押し固めたような不格好さで、動きは単調かつ鈍足であった。
「なるほど、これが……!」
瞬時に謎の人影の正体であると理解する。四肢は末端に向かうほど乱雑な形状を取っており、指はなく、枝や根が生えているだけである。頭部にはぐるぐると蔦が絡みつき、鳥の巣を連想させる。動くたびに土がこぼれ、中身の枝が折れる音が聞こえてくる。
袖をまくり、陽炎を構える。敵意がなければそのまま素通りしたかもしれないが、泥人形は明らかにこちらへ意識を向けている。そして、なによりも。
「五体、ですか」
地面から死者が甦るかのように泥人形が現れる。いずれも容姿に大きな差はなく、人型で、植物を宿した土塊である。
華也を囲うように、五体が立ち並ぶ。痙攣するように動く者、だらりと力なく俯く者、左右にふらふらと揺れる者、二足歩行がままならず四足で構える者、ただ微動だにせず華也を見る者。
先手に転じたのは、泥人形である。四足が背後に回り駆け出す。頭部を形成する蔦同士が軋み合い、高い声となる。
「……ふむ」
それを軽くいなす。
続く四体の攻撃。いずれも攻撃と呼ぶのも躊躇われるほど拙いもの。ただ腕を振るう、体当たり、頭突き。訓練を受けた者であれば、歯牙にもかけないような動き。
泥人形たちの動きを見ながら、その様子を探る。
この者たちに個は感じられない。魔力量も少なく、おそらくは駒であろう。感覚器官はないが、相手を認識し攻撃を仕掛けている。つまり、どこかに操作する者がおり、この場を見ているはずなのだ。
いったん離れ、温度変化を発動。自身と周囲の温度を同化する。しかし、泥人形は真っ直ぐにこちらへ向かってくる。すなわち、温度による知覚ではない。
懐から煙球を出し、地面にたたきつける。それと同時に木の上を退避、魔力を抑える。しかし、やはり泥人形は向かってくる。視覚、魔力の探知でもない。
では、いったいどのように探知しているというのか。残るは、音と匂いだ。
「もう少し調べたいところですが……」
生憎、やることがある。
魔術具を四つ取り出し、放る。それぞれが地面に落下し、起動する。巨大な緑色の柱が四本、高くそびえ、分枝しながらつながっていく。立体的に形成されたそれは、複雑に入り組んだ足場だった。
刺突に特化した『陽炎』から、鋸状の連刃を有し『陽炎』の二倍の長さを持つ『黒潮』へと魔導兵装の刃を取り換える。
強化の魔導を発動。青く輝く身体を翻し、華也が跳ぶ。
無数に伸びた緑の支柱を足場に、縦横無尽に駆け巡る。今の彼女に上も下も、右も左も存在しなかった。
『黒潮』を押し当て、強引に引く。連刃が絡みつき、削り、乱暴にえぐり取る。土であろうと木であろうと関係ない、暴力的な斬撃。泥人形が腹部から切断される。一時たりとも休まらない。傍にいた泥人形の腕を上空から襲い掛かり切断、足を、首を。跳んだ先にいた者に容赦はなく、等しくばらばらに解体する。
一方的な蹂躙、泥人形は反応すらできずに、ただ生贄のように無防備に立ち尽くすだけであった。
柱が消えるころ、そこ立っていたのはただ一人。刃をおさめ、頬についた土を軽く払い、飯場へと駆け出した。
飯場に戻るべきだと判断するのに時間はかからず、駆け出す。
しかし、である。それを妨げる者たちが現れた。
異様に細い体躯は、土塊と木の根を乱暴に掻き混ぜ、人型に押し固めたような不格好さで、動きは単調かつ鈍足であった。
「なるほど、これが……!」
瞬時に謎の人影の正体であると理解する。四肢は末端に向かうほど乱雑な形状を取っており、指はなく、枝や根が生えているだけである。頭部にはぐるぐると蔦が絡みつき、鳥の巣を連想させる。動くたびに土がこぼれ、中身の枝が折れる音が聞こえてくる。
袖をまくり、陽炎を構える。敵意がなければそのまま素通りしたかもしれないが、泥人形は明らかにこちらへ意識を向けている。そして、なによりも。
「五体、ですか」
地面から死者が甦るかのように泥人形が現れる。いずれも容姿に大きな差はなく、人型で、植物を宿した土塊である。
華也を囲うように、五体が立ち並ぶ。痙攣するように動く者、だらりと力なく俯く者、左右にふらふらと揺れる者、二足歩行がままならず四足で構える者、ただ微動だにせず華也を見る者。
先手に転じたのは、泥人形である。四足が背後に回り駆け出す。頭部を形成する蔦同士が軋み合い、高い声となる。
「……ふむ」
それを軽くいなす。
続く四体の攻撃。いずれも攻撃と呼ぶのも躊躇われるほど拙いもの。ただ腕を振るう、体当たり、頭突き。訓練を受けた者であれば、歯牙にもかけないような動き。
泥人形たちの動きを見ながら、その様子を探る。
この者たちに個は感じられない。魔力量も少なく、おそらくは駒であろう。感覚器官はないが、相手を認識し攻撃を仕掛けている。つまり、どこかに操作する者がおり、この場を見ているはずなのだ。
いったん離れ、温度変化を発動。自身と周囲の温度を同化する。しかし、泥人形は真っ直ぐにこちらへ向かってくる。すなわち、温度による知覚ではない。
懐から煙球を出し、地面にたたきつける。それと同時に木の上を退避、魔力を抑える。しかし、やはり泥人形は向かってくる。視覚、魔力の探知でもない。
では、いったいどのように探知しているというのか。残るは、音と匂いだ。
「もう少し調べたいところですが……」
生憎、やることがある。
魔術具を四つ取り出し、放る。それぞれが地面に落下し、起動する。巨大な緑色の柱が四本、高くそびえ、分枝しながらつながっていく。立体的に形成されたそれは、複雑に入り組んだ足場だった。
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一方的な蹂躙、泥人形は反応すらできずに、ただ生贄のように無防備に立ち尽くすだけであった。
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