超能力者、異世界にて

甘木人

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4章 挙り芽吹く

4-6

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 突然の地震に驚いたが、影響はなかった。ただ、六之介りゅうのすけ綴歌つづかが合流地点にいつまでたっても現れない。周囲の様子を見て回るとと、彼らが探索に向かった場所が崩れているようである。土砂を除けてみるが、人一人の力でどうこうできるものではなさそうだった。

 飯場に戻るべきだと判断するのに時間はかからず、駆け出す。
 しかし、である。それを妨げる者たちが現れた。

 異様に細い体躯は、土塊と木の根を乱暴に掻き混ぜ、人型に押し固めたような不格好さで、動きは単調かつ鈍足であった。

「なるほど、これが……!」

 瞬時に謎の人影の正体であると理解する。四肢は末端に向かうほど乱雑な形状を取っており、指はなく、枝や根が生えているだけである。頭部にはぐるぐると蔦が絡みつき、鳥の巣を連想させる。動くたびに土がこぼれ、中身の枝が折れる音が聞こえてくる。

 袖をまくり、陽炎を構える。敵意がなければそのまま素通りしたかもしれないが、泥人形は明らかにこちらへ意識を向けている。そして、なによりも。

「五体、ですか」

 地面から死者が甦るかのように泥人形が現れる。いずれも容姿に大きな差はなく、人型で、植物を宿した土塊である。
 華也を囲うように、五体が立ち並ぶ。痙攣するように動く者、だらりと力なく俯く者、左右にふらふらと揺れる者、二足歩行がままならず四足で構える者、ただ微動だにせず華也を見る者。

 先手に転じたのは、泥人形である。四足が背後に回り駆け出す。頭部を形成する蔦同士が軋み合い、高い声となる。

「……ふむ」

 それを軽くいなす。
 続く四体の攻撃。いずれも攻撃と呼ぶのも躊躇われるほど拙いもの。ただ腕を振るう、体当たり、頭突き。訓練を受けた者であれば、歯牙にもかけないような動き。

 泥人形たちの動きを見ながら、その様子を探る。
 この者たちに個は感じられない。魔力量も少なく、おそらくは駒であろう。感覚器官はないが、相手を認識し攻撃を仕掛けている。つまり、どこかに操作する者がおり、この場を見ているはずなのだ。

 いったん離れ、温度変化を発動。自身と周囲の温度を同化する。しかし、泥人形は真っ直ぐにこちらへ向かってくる。すなわち、温度による知覚ではない。

 懐から煙球を出し、地面にたたきつける。それと同時に木の上を退避、魔力を抑える。しかし、やはり泥人形は向かってくる。視覚、魔力の探知でもない。

 では、いったいどのように探知しているというのか。残るは、音と匂いだ。

「もう少し調べたいところですが……」

 生憎、やることがある。
 魔術具を四つ取り出し、放る。それぞれが地面に落下し、起動する。巨大な緑色の柱が四本、高くそびえ、分枝しながらつながっていく。立体的に形成されたそれは、複雑に入り組んだ足場だった。
 刺突に特化した『陽炎』から、鋸状の連刃を有し『陽炎』の二倍の長さを持つ『黒潮』へと魔導兵装の刃を取り換える。

 強化の魔導を発動。青く輝く身体を翻し、華也が跳ぶ。
 無数に伸びた緑の支柱を足場に、縦横無尽に駆け巡る。今の彼女に上も下も、右も左も存在しなかった。

 『黒潮』を押し当て、強引に引く。連刃が絡みつき、削り、乱暴にえぐり取る。土であろうと木であろうと関係ない、暴力的な斬撃。泥人形が腹部から切断される。一時たりとも休まらない。傍にいた泥人形の腕を上空から襲い掛かり切断、足を、首を。跳んだ先にいた者に容赦はなく、等しくばらばらに解体する。

 一方的な蹂躙、泥人形は反応すらできずに、ただ生贄のように無防備に立ち尽くすだけであった。
 柱が消えるころ、そこ立っていたのはただ一人。刃をおさめ、頬についた土を軽く払い、飯場へと駆け出した。


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