超能力者、異世界にて

甘木人

文字の大きさ
32 / 58
5章 精彩に飛ぶ

5-8

しおりを挟む
「ちょっと、その汚い泣き顔で隣を歩かないでくれませんこと?」

 心底不快そうな表情で、綴歌が五樹と距離を取る。しかし、それを物ともせずに五樹はずるずると鼻水をたらし、しゃくりあげている。

「な、泣いで、ねえよおぉ……」

「でしたら、その目から零れているものは何ですの」

「汗だよお……」

 被害者の一人の自宅を訪ね、事情聴取を終えたところである。訪ねたのは木本家という比較的大きな家で、二世帯が生活している。亡くなったのは木本信彦という二十三歳の男性であり、昨年、二児の父になったばかりであった。
 虚しくなるほどの空元気で歓迎され、快く話をしてくれた。しかし、話が進むにつれ、重くなる雰囲気と口調。とどめとなったのは、幼い兄妹の父親を探すという一言であった。

 予想と覚悟の済んでいた綴歌は木本家に対して静かに哀悼の意を表した。それに対し、五樹は泣き崩れた。涙を零し、声をあげ泣いた。それにつられ、信彦の妻である木本静が泣きだし、彼女の父母と義父母が泣き出し、子供も泣き出した。
 話は充分に聞けたとはいえ、平常であるのは綴歌のみ。皆を慰めるのに苦心し、平静が戻った頃、彼女は既に疲労困憊であった。

「だっでよお、あんなちっこい子が、必死に父親探してたら、つらいだろうがよお……」

「あー、はいはい」

 綴歌とて、辛くないわけではない。だが、この職種を選んだということは、人の哀しみ、不幸、怒り、後悔、絶望と向き合うことになると分かっていた。分かっているなら、耐えることもできる。

「はあ……よし、落ち着いた!」

「……遅いですわよ」

 聞き込みによって得た情報を手帳に記す。
 木本家は、住良木村と御剣を始めとする各都市の物流に大きく携わっている。住良木村は決して大きな集落ではなく、すべてを自給自足で賄うことはできない。そのため、村で穫れる海産物を輸出し資金を獲得、舟や衣類、食料を仕入れる。それを始めたのがこの家系であった。

 伝えられた情報には、村人たちにも伝えられていない流通の経路や資金の流れもあった。そして、その中には村の存続にかかわるものも含まれていた。

 住良木村を漁港とする計画である。この村の漁場は、全国的に見ても魚介類の種類、漁獲量が優れている。その上、立地条件も良く、鉄道の開発と普及により、各都市への輸送が迅速かつ大量に行えるようになる。政府は日ノ本の人口増加による食糧難を危惧しており、それを解消する手段の一つとして、この村の再開発を提案した。

 つまりは住良木村を一度潰し、巨大な漁港としてつくり変えようとしていたわけである。それによって、施設や資源を充実させ、漁に出るのに必要な物資の安定供給を、漁獲物の陸揚げ、輸送に関する設備、つまりは駅を設置、また漁獲物の一部の加工、貯蔵施設を建設する。この際、住良木村の住人は一時的な退去を強いられるが、その期間の生活は保障され、開発後も漁港の管理を任されることになっていた。
 
 漁港計画は反対の声も上がったものの、大多数が賛成を示し、開発は決行されることとなった。準備は順調に進んだ。豊潤な人材のおかげで、測量も済み、建設を行う組合も決まった。しかし、その矢先に生じたのが今回の事件である。
 漁港計画の中心であった人々のほぼ全員が死亡し、不浄の出現によって計画は一時頓挫。加え、今回の事件を、この土地に生きて死んでいった者達の祟りだという輩まで現れ、計画反対の声が強まっているのだという。
 
 流麗な文字の記された帳面を眺め、ぱたんと閉じる。
 海の不浄だけでも厄介だというのに、村自体が開発の賛成派と反対派で分断されている。開発が不浄のお陰で止まっているというのなら、それを取り除こうとしている魔導官は賛成派と見られてしまうだろう。となると、反対派からの情報収集は困難となることは十分に考えられる。

「困りましたわね……」

「何が?」

 そんなことは考えてもいないであろう五樹を見る。いつも通り、能天気そうな顔をしている彼に、なんだか無性に腹が立った。

「二人とも~」

 向かいから華也が大きく手を振っている。

「華也さん、そちらの聞き込みを済みまして?」

「その件なんですが、なんだか皆さん非協力的でして……」

 彼女にしては珍しく憤りを覚えているような顔をしている。
 よく見ると、魔導官服が湿り気を帯び、髪から水がしたたり落ちている。

「門前払いで、水をかけられまして」

「やはり、そういったことをなさる人もいるようですわね。とりあえず、どうぞ」

 懐から手拭を取り出し、手渡す。華也は礼を言いながら、髪を拭く。

「やはり、というと心当たりが?」

「ええ、その辺も話しますわ。とりあえず、集会所に戻りましょう」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...