恩返しはいらない

青空かもめ

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意味なんていらない

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 べつに自分が報われたいわけではない。ただ自分が存在する意義をそこにしか見出だせていないだけだ。だから、自分に何の関係もなくても、他人の苦しみを看過できない。それを取り除いたら僕に何が残るのかを、僕自身が知らないのだ。
 僕はただ単純に、釣糸が絡み付いて動けない海鳥を、助けることができるにも関わらず放置するという思考はできなかった。べつに放置することはできるし、放置してもよい。助けたからといって、僕には何のメリットも無い。でも、僕はそうせざるを得なかった。
 ポケットにライターはあったが、タバコは無かった。手頃な小石を拾ってライターで炙る。それで用心深く釣糸を切る。
 この浜辺に釣り合わないほどに白いその鳥は、人間が近づいてより一層暴れた。しつこく絡み付いた釣糸を取るには、何ヵ所もそれを切る必要があった。鳥に石が触れないように糸を切るのは難しく、僕は左手にいくつも火傷を作った。
 人間から解放された白い海鳥は、その場に留まって僕を見つめていた。そんな顔をするな。頼むから、そのまま三歩歩いて忘れてくれ。恩返しなんて、いらないから。感情のぶつけ合いなんてくだらない。僕は君をかわいそうだと思ったから助けたわけじゃない。哀れんで助けたわけじゃない。僕が、この僕が、この僕自身が、助けたいと思っただけのことだ。なぜかそうしたいと思った僕と、助けて欲しかった君の利害が一致しただけだ。何も恩なんて感じることはないだろう。それに君は、そんなことを考えたりしない、ただの鳥じゃなかったのか? 人間のいない海の上を、思うままに飛び回る、海鳥だったんじゃないのか? 君は僕が憧れるような、自由な存在じゃないのか?
 だけど、残念だったな。君は僕に恩返しなんてできない。君はただの鳥だからな。
 海は相変わらず荒れていて、僕が好きなこの浜に「心地よい」と言うにはうるさすぎるほどの音を振り撒いていた。
 その音が妙に耳の奥にこびりついて離れない。普段は好きな音だけど、今日に限ってはそれは人の声のように耳障りだった。何か「意味」を纏った音。音に意味なんてあるはずもないのに。
 街に戻ればまた人の波。僕は行き場を失った。
 結局僕には広い世界なんて似合わなくて、部屋にとじ込もっている方がいいのだろう。
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