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少年編

第31話 次の漁場へ

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トゥルバル国滞在最終日。晴天、風もそこそこ吹いていて予定通り出港と連絡がきた。

「メイ、お土産買わなかったのか?」
「あ、小さい物だから、手荷物に入ってるんだ。」

ゴウが私の荷物の少なさに驚いていた。まぁ、手元には残さず実家に送ってるからね。お土産はいくら買ってもいいけど、船内の自室に置くことになってるから量は限られてくる。

「初めてだったからたくさん買い物したけど、次からは考えて買わないと置く場所がないな。」ゴウが自分の荷物を見てため息をついた。
「兄弟達にお土産でしょ?沢山いるからねぇ。」

船に戻ると待機を命じられた。出港するとき新人や下っ端船員は自室でその時を待つ。
「出航ーーー!!!」

船長の掛け声が、風魔法で船の隅々に響き渡る。
「次はどこに行くんだろ♪」
「えっと、確か・・・『 三国共有島さんごくきょうゆうとう』だ!」

ゴウによる漁師のための豆知識。
三国共有島は、トゥルバル国、ジュア首長国連邦、アリア新聖王国の三国が所有している島である。所謂、代表者会議などが行われたりするときに使う島で独立島らしい。三国の大使館みたいなのがあって、それぞれの大使が居住している。そこに魚や交易品を卸したり、そこで暮らしている人達との情報交換などが目的で寄るらしい。

特に獣人国家であるジュア首長国連邦は入国が難しいため、三国共有島での情報はかなり貴重でハラ王国や他国でも高く売れるんやって。

「漁師って魚捕るだけじゃないんだね。船に乗って驚いたよー。交易品で商人みたいにやり取りしたり、諜報活動っていうか、他国の情報収集も兼ねてるなんてスゴイなぁ!」

「あったり前だろ!魚だけ捕って何の稼ぎになるんだよ。お前、本当に箱入りだよなぁ。そういう情報や個人でも交易して給金を自分で増やすんだよ!そのための共通語習得だろ?それと戦闘だったり、商人との駆け引き、情報屋とのツテを作ったりする技術なんかもあると重宝されるぜ。」

「ゴウかっこいい!さすが学校に行ってただけはあるね。」
「まぁな!父さんだけじゃ下のチビ達養えないし、俺も頑張らないといけないからさ。」

立派になって!でも、こうやって教えて貰えるのは助かるわぁ。冒険者になる前にこの仕事ができて良かったな。
『ゴウって物知りだよね。勉強になるねー。』
”うん!一緒の船でよかったよ。”

コンコンッ
「そろそろ持ち場で仕事始めろー。」ナイトが呼びに来た。
「「はいっ。」」


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三国共有島までは2日で着くらしい。1週間は滞在する予定で、なんと休息日が3日間も貰えるという嬉しい情報があった。大使館内は許可なく入ってはいけないけど、トゥルバル国よりは制限がないので、自由に観光ができる。

「おい!ぼーっとすんな!そっちの網を引いてくれー。」
ロゼの声でハッとした。網を引き寄せて大量の魚を木箱に詰めていく。

午後から漁の手伝いをしている。明日これを納品するわけやけど、すっごい魚の臭いがくさい。

翌日までは生で置いとくから、温度が高いと腐ってしまうのもあってより強烈に臭いがする。

エルフ船員が水魔法とか氷魔法とかで保存するのかと思ってたけど、全然そんな様子はないし。航海中は船員が食べる分もあるけど、余ったのを売る感じで、干物にしたり保存食を作ることもない。

箱ごと卸売りして、腐っている魚は買い付け側が処分するのが通例のようだ。

ただし、高級魚が釣れた場合は船尾に網籠を取り付けて海に浸けたまま運び、生きた状態で売り買いする。

塩も貴重やし、干物にするには手間ひまかかる。場所もとるから作らんのかな?等と考えながら作業をしていた。

ネイマには聖霊体で魚に触れてもらって、ステータスブックのページを埋めていくのを手伝ってもらっている。高級魚とか見つかったらラッキーやしね。

人の目があるときは、大っぴらにネイマも動けない。だから聖霊体で飛び回ってもらい海の知識の蓄積に貢献してくれている。

ユニークスキル通訳Lv.1は、単純に文字や言葉がわかるだけではない。物の相場の値段がわかるし、Lv.2になると遠回しに言われた嫌みとか心の声とまではいかないけど、相手の真意が頭に伝わる。翻訳とは違うから?

ステータスブックをよく読むと、【通訳】とは、臨機応変にその場・その時の意思疎通を仲立ちしてコミュニケーションを成立させることが重視される、て書いてある。

このステータスブック優秀!私が何でやろ?と思うとそれに反応するように注釈をつけてくれてるからなぁ。

そんなことを考えながら私が仕事をしている間、ネイマは聖霊体で海をお散歩中。

『メーイ!なんか面白い子いるよ。』念話でネイマから連絡が入った。

”何見つけたの?”
『水の精霊♪』

”えー!ネイマ以外って初めてだね。しばらく遊んできたら?”
『そうするねー!』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

仕事を終えて自室へ戻ると、ゴウが寝転がっていた。
「お疲れ!」
「お疲れ~。お腹空いたぁ。」

「なぁ、メイ。お前【無人島ムジントウ】って知ってるか?」
「人がいない島ってこと?」

無人島ムジントウは、通称【無尽冬ムジントウ】とも言われており、年中雪が降っている。三国共有島の近くにあり、今まさに船が横切っているそうだ。肉眼でも見えるらしい。そこは魔族が住んでいると噂がある。雪が積もって寒いため、人だけではなく、獣人やドワーフ、エルフなども好んで住むことはないため無人島と言われる由来があり、罪人や訳ありの流れ者が辿り着く場所とも言われているらしい。ここはどこの国も所有していないので、未だに生態系はわかっていない島だと教えてくれた。

「なんか危ない場所なのかな?」
「わからないけどな!でも、魔族がいるとか、雪が降ってるって気になるだろ?!」

この世界レイグラム・ドランダスでも雪はかなりめずらしいらしい。私は日本におったから四季を知ってるし、修学旅行とかで北海道も行ったことあるからそこまでテンション上がらないけどねぇ。

「ゴウは雪見たことないの?」
「さっき遠目で見たぜ。でも、触ってみたいんだよなぁ。」

「フワフワしてるのもあるし、冷たくてカチカチなのもあるもんねぇ。」
「メイ!お前触ったことあるのか?!」

しまった・・・。口が滑った。
「ほ、本で読んだだけだよ!そういう感じだって書いてたから、僕も気になってたんだ。」
「何だよ~。・・・遠くで見てたら地面が白くて、風が吹いたらあっちから来るのはすごく冷たかった。」

「3日間も休息日あるから、小舟とかで渡れたらいいんだけどね。冒険っていうか、探検してみたい!」
「絶対無理だろ~?・・・うん。でも一応父さんに聞いてみる、か?・・・ダメなら仕方ないけどな。」

「いいね!あ、でも同じ日に休息日ってダメかもなぁ。」
「それも聞いてみよう!ナイトさんにお願いしてみようぜ!!昔みたいに一緒に旅したいよ。」

ゴウが真剣にキラキラした目で見てくるから・・・お姉さんは落ちました!
よし、ひと肌脱いじゃおうか。

「じゃあナイトさんには後で二人で頼みに行こう。先にロゼさんに聞いてきてよ。」
「わかった!じゃあ時間も遅いし、食堂で集合な!」

ゴウは急いで部屋を出て行った。張りきっちゃってかわいいなぁ。
そういえばネイマ遅いな。”ネイマ?帰って来てる?”念話で話しかけた。

・・・・・あれ?聞こえてないのかな。


『・・・うん。後で合流するー。先にご飯食べに行ってー。』
”わかったぁ。”

ネイマの返事が何となく気にかかったけど、先に食堂へ向かう事にした。
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