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第一章 リンドウの街 編

一話 すっぽんぽんの幼女、青年と出会う

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「あ……暑いのじゃ……」

 猛烈な日射しが肌を刺すような暑さと見渡す限りの砂、砂、砂。
たまに吹きすさぶ風は、沸き立ての湯気を浴びるかのように熱い。 

 ここは、ザンバラと呼ばれる広大な砂漠地帯である。
周囲の景色が熱で歪む砂漠を、一人、自分の背丈以上の白樺の杖に体を預けながら、杖を突いて進む少女──

 ──いや、幼女がいた。

「な、なんでワシがこんな目に遭わないといけないのじゃ……」

 その姿は、どんなにサバを読んでも六歳程度の子供にしか見えない。そのくせ妙に喋り方が年寄り臭い。

「くそぉ……あのわらしども、何が勇者じゃ……
こんないたいけな少女を砂漠に置いていくなど、あんまりなのじゃ」

 幼女は勇者パーティーに砂漠のど真ん中で置き去りにされた。
幼女が砂漠のど真ん中に置き去りにされれば、泣き続け、いずれは死に至るだろう。
しかし、彼女は諦めなどしない。

 腰まであるストレートの藍白あいじろの髪は、暑さに負け、垂れている毛先から汗が伝って落ちてきても。
緋色ひいろに輝く瞳に本来少し垂れた目も、暑さと疲れで半開き状態で、普段子供特有の艶やかさがある薄紅の唇は、今は砂漠の暑さにその艶やかさを奪われていても。

 前髪が邪魔なのだろう、髪の毛を掻き上げると汗でくっついて、自然と落ちてこない。

「の、喉が渇くのじゃ……」

 幼女は、百五十年周期で復活する魔王アドメラルクを倒すべく、グランツ王国が任命した勇者パーティーに請われて、ついてきた。

 しかし、このザマである。たとえ、彼女が人々から“大賢者”と呼ばれていたとしても。

 幼女は前回の魔王アドメラルクを倒した英雄の一人で“大賢者”の称号をその功績により与えられ今では通称になっている。
その力は類を見ない程強く知識も豊富。
しかし、欠点が一つある。性格がワガママが過ぎるのだ。

 同行していた勇者パーティーは、下級だが貴族出身で我慢の限界に達し、遂に追い出す事を決め昼寝をしている間にザンバラ砂漠に置いていったのである。

「み…………水……」

 “大賢者”なのだから、もちろん魔法で水を出す事は可能だ。
 実際使ってみたものの、一時はしのげたが、魔法が切れた途端に元々あった唾液等の水分も持っていかれて、余計に喉の渇きが増しただけ。
彼女はその事をすっかり失念していた。

「ふぅ……ふぅ……大体、あの勇者ども……ワシの出した条件もこなせぬくせに」

 勇者パーティーに請われ、付いていくに辺り条件を幾つか出していた。

一、おやつの時間には甘いお菓子を用意する。
一、同じお菓子は続けて出さない。
一、毎日二時間はお昼寝の時間。
一、戦闘は、一日一回。戦闘後は一時間お昼寝。
一、嫌いな野菜は、出さない。食べない。
一、夜寝るときは、灯りをつける。
一、移動は、必ず馬車。そして、二頭立て。

「たった、これだけじゃぞ!? こんなのもこなせぬとは……ふぅ……ふぅ……」

 もちろん、これだけのはずがない、ワガママが欠点なのだ。

 パンツは、グリゼの熊ちゃん印のパンツのみとか、夜寝るときは、パーティー内の女性が添い寝するとか、細々こまごまと挙げてはキリがない。

 幼女は虚ろな目でだが、しっかり前を見て歩く。ただただ、悔しさを噛み締めながら。

「ん? んん! み、水じゃ!! 泉じゃ!!」

 疲れ果てていたが、辛うじて上げた視線の先には、砂だらけの砂漠に映える緑色の草花と、上空に輝く太陽を写す鏡の様に澄んだオアシスが見えて、幼女は狂喜乱舞する。

「ひゃっほ~い!! 水、水じゃ~!!」

 赤茶けたローブと黒のワンピース服を、その場で脱ぐとその上に荷物と白樺の杖を置き、熊ちゃん印のパンツを天高く脱ぎ捨てる。

そして、靴だけ履いたすっぽんぽんの状態でオアシスに向かって走りだした。

「水、水、水じゃ~! そぉ~~~れぃ!」

 ジャンプ一番、オアシスに飛び込もうと構えた時である。
地獄から這い出るような叫び声と共に、オアシスの中からワニのような魔物が大きな口を開けて、飛びかかってきたのだ。

「!! な、なんじゃ? ワシの邪魔をするなぁ!」

 “バーストブラスト”

 幼女は右手に赤い光体をだすと、魔物めがけて放り投げる。
不意に飛びかかってきた魔物相手でも、咄嗟に魔法で対抗するあたり、流石は大賢者である。

使った魔法は、爆発系の魔法。
かなり上位の魔法だ。

 放った赤い光は真っ直ぐに魔物に向かい大爆発を起こす。
魔物は跡形もなく吹き飛びいなくなった──オアシスと共に。

「や、や、や、やってしもうたぁ~~!!」

 綺麗に空いた穴の中に周囲の砂が流れていく、元オアシス。

 目の前の空いた穴を見つめて、頭を抱えしゃがみ込んでしまった幼女の名前はルスカ。

 “大賢者”と謳われた英雄の一人、ルスカ・シャウザードという。


◇◇◇


 時は少しさかのぼり、同じザンバラ砂漠を馬に乗って進むフードを被った青年がいた。

「ふぅ~、暑いですね。お馬さん、もう少し我慢してください」

 彼は自分を乗せた馬に声をかける。
背は高く、がっしりとした体格の青年の顔は、とても精悍で目鼻立ちがしっかりしている。
とても優しい黒い瞳で馬の様子を確認する。
頭の汗を拭く為に、フードを外すと襟元まで伸びた黒髪を拭いていく。
汗でキラリと光る、ちょっぴり広いオデコは愛嬌だ。

 青年は元々この世界の人間ではなく、この世界へ転移で強制的に連れてこられた人間だった。

 彼が転移してきたのは、高校生の時。
クラス全員が巻き込まれた転移だった。しかも、失敗。

 転移を行ったのは、この砂漠から東に向かうとある国の一つ、レイン帝国。
帝国は、魔王アドメラルク討伐の為に転移を行ったのだが、辛うじてレイン帝国の首都に転移出来たのは彼だけだったのである。

 他のクラスメイトの行方はわからない。
彼は転移者として、一時期貴族に囲われたものの、訳あってギルドに所属するパーティーへと加入した。

 彼はパーティーで、重宝されていた。
理由は転移の際に手にいれたスキル能力。

 転移から六年。Cランクだったギルドパーティーも上から三番目のSランクまでかけ上がり、帝国から公式ギルドパーティーと認められた。

 その直後だ。リーダーの男から解雇されたのは。
それからの青年は、旅を続け安住の地を探してこのザンバラ砂漠に来ていた。

「お馬さん、見て下さい。オアシスです。あそこで休憩しましょう」

 やっと一息つけると、安堵の表情を見せる青年だが、慌てる事なくオアシスに向け馬を進める。

「ん?」

 青年はオアシスで煌めく赤い光を視認すると、突然かなりの砂と風が巻き起こり爆発を目にした。

「くっ!! な、何事ですか!?」

 着ていたマントで顔を隠し、飛んでくる砂から目を守る。
ようやく風が止み、マントから顔を覗かせると、そこにあった筈のオアシスが巨大な穴を残し跡形もなく吹き飛んでいた。

「や、や、や、やってしもうたぁ~~!!」

 声のする方を見ると、そこには何故かすっぽんぽんの幼女が頭を抱え込んで座っていた。

 日本からこの異世界ローレライへ転移されてきた彼の名前はアカツキ・タシロ。

 これがお互いのパーティーから追放されたアカツキとルスカとの出会いだった。
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