追放された幼女(ロリ)賢者は、青年と静かに暮らしたいのに

怪ジーン

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第一章 リンドウの街 編

十九話 幼女と青年、厄介事を押し付ける

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「それは何なのですか、ルスカ?」

 黒い服の男を一撃で仕留めたそれは、ルスカの白樺の杖の先から出た白い拳だった。
ルスカが杖を地面に突くと、白い拳は消えてしまった。

「これはビクリバコと言う、ワシのオリジナルの魔法じゃ。以前露店商をしていた転移者が売っていた物をヒントに開発したのじゃ」
「転移者……ビクリバコ……あっ、ビックリ箱の事ですか!?」

 アカツキの出した答えに頷くと、ルスカは杖を民家の壁に向けると先ほどの魔法を使用する。
凄い音と共に、民家の壁に拳大のめり込みが出来た。

 アカツキが知っているビックリ箱のレベルではない。

「ルスカ、これは人に向けちゃ駄目なやつです」

 アカツキが穏やかに諭す。
その理由は目の前にいる、死んだ男や痛みで転がっている男達。
背中に汗をかきながら、先ほどのルスカの表情や力を見て、体が震えるのだった。

「こらぁ! 人ん家の壁に何をしてるん……だ? って、うわぁ!!」

 めり込んだ壁の家の家主が出てきて、一度は怒鳴るが足元の惨状を見て仰天し悲鳴を上げた。

「逃げるのじゃ!」
「えっ、あっ、待ってください」

 アカツキの手を取り、きびすを返して、こなれた感じでこの場を後にするルスカ。
そんなルスカに引っ張られ、後を追いかけように逃げるアカツキだった。


◇◇◇


「はぁ……はぁ……」

 さっき男達から逃げる為に全力で走り、そして今男達の遺体が住民に見つかり二度目の全力疾走で、流石にアカツキの息も荒くなっていた。

「はぁ……しかし、逃げて良かったのでしょうか」

 このローレライに来て結構な年月を過ごしたアカツキだが、人の生き死にに関しては、まだ慣れずにいた。
このリンドウの街は穏やかだが、アカツキのいた帝国では、この手の事件は日常茶飯事にも関わらず。

「あの手の事件の管轄はギルドじゃ。今からアイシャの所に行くのだから問題ないのじゃ」
「そう……ですね。ルスカ、助けてくれてありがとうございます」

 アカツキはしゃがんでルスカに礼を言う。

「気にする必要などないのじゃ。それよりあの二人の事をアイシャに相談するのが先じゃ」
「あっ! そう言えばあの二人はどうしたのです?」

 ルスカはここに居る。もし、他の奴らが家を突き止めていれば危険だ。
アカツキは家へと引き返そうとするが、ルスカがそれを制止した。

「あの二人なら大丈夫じゃ。ちゃんと隠してきたのじゃ」
「隠すって、何処へ?」
「ほら、あるじゃろ。あの家には静かにしておれば見つかりにくい場所が」

 アカツキは思い出したのか、ハッとした顔をする。

「屋根裏、ですか?」
「そうじゃ、あそこなら梯子を屋根裏に運んで静かにしとれば気づかれんのじゃ」

 内見の時にルスカが隠れた場所。確かに隠すにはもってこいの場所だった。

「それじゃ、アイシャの所に行くのじゃ。随分遅くなってしまったのじゃ」

 先に歩き出すルスカを止めようとするアカツキ。
しかし、その手をすぐに引っ込めると、ルスカの後をついて歩き出した。


◇◇◇


 すっかり周囲の家々の灯りも消えて、静寂の中の二つの足音だけが響く。

 アイシャの家に着いた二人は、窓を見ると真っ暗で寝ているのか留守なのかわからない。

 どうしたものかと考えるアカツキの隣で、ルスカが白樺の杖で扉をノックする。

「ちょっと、ルスカ。もう少し音を小さく……」
「アイシャ! 起きるのじゃ! 早く開けるのじゃ!!」

 アカツキの制止を聞かず、ルスカは更に強くノックしながら叫ぶ。
周囲の住民が起きるのではないかと、一人冷や冷やしているアカツキ。

 すると家の中から物音がして、窓に明かりが灯る。が、ルスカは気づいておらず更にドアを叩き続ける。

「ええい、こんな扉壊してくれるのじゃ!」

 ルスカの発言を聞いたアカツキは、すぐに止めに入る。

「ルスカ、起きたみた──」
“ビクリバコ”
「誰ですかぁ、こんな夜な──へぶっ!!」

 アカツキがルスカに声をかけるのと同時にアイシャが扉を開けると、そこにルスカの魔法が飛んできた。

 思いっきり腹に魔法を食らったアイシャは部屋の一番奥まで転がっていく。

 気を失ったアイシャが目覚めたのは、それから約一時間後だった。


◇◇◇


「酷いですよ、ルスカ様!」

 いまだに痛むお腹を押さえながら、二人掛けの椅子に座っているアカツキとルスカの前に、アイシャも椅子に腰を掛ける。

「ぬぅ……ごめんなさいなのじゃ」

 流石に悪いと思ったのかルスカの表情は暗い。
アイシャは、一つ大きく息を吐いた。

「もう、いいですよ。それよりこんな夜更けに二人して何もか用ですか? はっ! もしかしてアカツキさん、夜這いに……」
「そんなつまらない理由で来ませんよ」
「つまらない!?」

 地味にショックを受けたアイシャを見て、キョトンとするアカツキ。
アカツキが理由がわかっていない様子に、ルスカは思わず吹き出しそうになる。

「ええっと、そんな事ではなくてですね。実は……」

 アカツキは、奴隷輪が付けられる前に逃げてきた姉弟を匿っている事と、奴隷商人が出した二人を探すクエストを、ギルドが受けた事、そしてアカツキが先ほど奴隷商人の取り巻きに命を狙われ、ルスカが返り討ちにした事を話をした。

「また、厄介な事を……」

 アイシャは、半ば呆れつつ話を続ける。

「まず、ルスカ様が取り巻きを返り討ちにした事は、特に問題ありません。
問題はギルドがクエストを受けた事と、その匿っている二人の所有権が奴隷商人にある事ですね」

 所有権、アカツキは奴隷輪が付けられていない二人を物として扱うような発言に眉をしかめる。
アイシャもそれに気づいたようだが、話を更に続けた。

「少なくとも、金銭の取引が終えていれば正当性があるのですよ。
もちろん、奴隷商人の方に不備があれば、受けたクエストを破棄するどころか、その正当性も無くなるのですが」

 アカツキもルスカも、何か手は無いかと考える。アイシャもギルドマスターという立場だが、二人の気持ちは理解出来た。

「例えば……正当性が失われる時は、どんな時ですか?」
「そうですね、少なくとも犯罪に何かしら関わっているような取引だった場合ですかね」

 犯罪と聞いて、顎に手を当てながら何かを考える素振りのアカツキ。そして、その目は大きく開かれた。

「例えば、麻薬はどうですか?」

 アカツキがミラとパクの父親が麻薬中毒なのを話すと、アイシャは立ち上がった。

「それです!! その奴隷商人が知っていようがいまいが、麻薬の購入の為に、取引するのは禁じられています! って、麻薬ぅ!?」

 麻薬と聞き驚いたアイシャは、再び力なく椅子に座る。

「アカツキさん、本当にその二人の父親は麻薬中毒なのですか?」
「私が確かめた訳では無いですが、二人が言うには間違いなく」

 手を組み、その手を自分の額に当てて大きく落ち込む様子のアイシャ。
小さな声で「また、厄介な話を……」と呟いた。


◇◇◇


 ひとまずギルドとしては、ミラ達の父親を調べ終えるまで、クエストは停止するとアイシャが約束をしてくれた。

 また、ミラ達はアカツキとルスカの監視の元に置いておくのを条件に、奴隷商人には手を出させないとも約束を交わす。

 アカツキにもたれかかって眠っているルスカを背負うと、アカツキ達は家へと帰って行った。

 家へと着くと二階にすぐに上がり、一旦ルスカを寝室のベッドに運んだ後、廊下の天井に向かって声を掛ける。

「ミラ、パク。アカツキです。もう大丈夫ですよ」

 廊下の天井の一部がズレて、ポッカリ空いた穴からミラが顔をゆっくり覗かせる。
アカツキを確認したミラは、梯子を立て掛けパクと共に降りてきた。

「アカツキさん、無事で良かったです」
「……ありがとう」

 梯子から降りてすぐにアカツキに抱きついたミラとパク。
二人の体は冷えており、埃だらけだ。

「今からお風呂を沸かしますから、お湯を運ぶのを手伝ってください」

 二人を連れて一階に降りると、アカツキが釜に火を点ける間に裏庭の井戸から水を汲んできてもらった。

かまどが二つしかないのは不便ですねぇ。あとオーブンもあればいいのに……」

 さっきまでの緊張感が嘘の様に、日常に戻ってきたアカツキは、家を選ぶ時台所を重視すれば良かったと後悔していた。

「あの、アカツキさん。オーブンっていうのは……?」
「ああ、ええっと窯ですかね。パンを自分で作りたいと思いまして」

 固いパンに飽き飽きしていたアカツキは、前々から自分で作れないかと考えていたらしく、今目の前にあるかまどを恨めしそうな目で見る。

「あの、窯なら作って貰ったらどうですか? 首都のグルメールなら窯を作っている人がいた筈です」
「それは、本当ですか!? 是非、お願いしたいですね!」

 アカツキは、ミラの肩を掴み大いに喜び、そして意気揚々とした表情になる。

 お湯を沸かし、浴槽へと溜め込むと二人に入る様に勧める。
初めは渋っていたミラだったが、パクの為でもあると諭され、パクと二人で風呂へと向かった。

 窓の外から青白い夜明けの光が射し込んでくる。
 椅子に座り休んでいたアカツキは、朝ご飯を用意しようとするが、一睡もしていない為、一つ大きな欠伸をすると、そのままテーブルに伏して眠りにつくのだった。 
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