追放された幼女(ロリ)賢者は、青年と静かに暮らしたいのに

怪ジーン

文字の大きさ
74 / 249
第三章 迫る因果編

二十二話 青年の背後から迫る影は

しおりを挟む
 大通りでワズ大公を待ち構えていたアカツキ達。
ルスカに労いの言葉をかけられるも、元々自分の治めていた街を攻めるという断腸な思いで臨んだワズ大公。
あっさりと門を破壊し、ケリをつけたルスカの言葉はどことなく皮肉混じりにしか受け取れなかった。

「どうしたのじゃ? ワズ大公」
「いや、相変わらずだな……と思ってな」

 どっと疲労感が増したワズ大公の横には、見覚えのある男性が。

「おじさん! どうしてワズ大公と?」

 ファーマーの街の現状を知らせに街を出た、エリーの知り合いの中年の男性は、どことなく申し訳なさそうにしている。

「いやぁ、お金借りてまで出たのはいいが、ツイていたんだよ。急いで馬車を飛ばした先にワズ大公の軍が領地の近くまで来ていたんだ」

 ワズ大公は馬を降り、例のグルメールに派遣された横柄な門兵からファーマーの事情を聞き出し、すぐに軍を派遣した事を説明する。
ちょっと自慢なのだろう、ワズ大公は早期の決断を褒めろと言わんばかりに胸を張っていた。

 アカツキ達もワズ大公にファーマーで起きた話を伝える。

「なっ!? 魔族? それも改造魔族だとぉ! しかも倒し終えたぁ!?」

 規格外の話にワズ大公は、口を開きっぱなしになり、自慢しようとしていた自分の小ささに、恥ずかしさすら感じられた。

「それにしても、ゴブリンと共闘してファーマーの軍を壊滅とか、お主ら下手をしたら反逆者だぞ」
「壊滅していないのじゃ! 生き残りはゴブリンの巣窟で、養生しておるし、死者は魔族のせいなのじゃ!」

 ワズ大公はもうお腹一杯一杯で何も言えなくなる。
それにアカツキからの話を聞き、ワズ大公は一つの決断をせざるを得なかった。

「あの“双斧のガリブ”を人質で脅し殺すなど……帝国と戦争になりかねんな」
「あの、ファーマーの現ギルマスのあたいとしては、避けたいのですが、恐らく帝国の知ることになるでしょう」

 ワズ大公の沈痛な面持ちにアカツキもルスカも気づく。
帝国との争いを回避するには、誰かが責任を取らなくてはならない。

「やはりラーズの首が必要か……」

 自分の息子を差し出すと自ら口にするワズ大公の心の痛みは計り知れないだろう。
その場にいた誰もが、声をかけることが出来なかった。

「疲れている所悪いが、手伝ってくれ。最後の一仕事だ」

 ワズ大公は、戦争、そして魔族との戦いで見た目からしてボロボロで疲れているであろうアカツキ達を見て、自国の、それも我が息子の結末を見届けて貰うつもりでいた。
それは、親として国の重鎮として自分の責任を示す、証人として。

 ワズ大公を先頭にラーズの住む大きな屋敷の門前にやってくる。
最後の悪あがきだろうか門は閉じられているが、兵士は居ない。
ワズ大公が号令を発すると、一斉に門に梯子を立て掛け国軍の兵士が一気に乗り越えた。

 アカツキ達は、ただ見ているだけ。
手出し無用と念を押されたが、アカツキ達は最初から手伝うつもりは無い。
何故ならこれはワズ大公の手で終幕を迎えなくてはならないのだ。

「ラーズ公、捕縛!」

 間もなく、兵士からラーズ捕縛の伝令がやってくる。
ワズ大公は、天を仰ぎその頬に一筋の涙が流れた。


◇◇◇


 ラーズは一人、ワズ大公の前に縛られた姿でひざまずかされる。

「……ラーズよ、何か言い残したいことはあるか」
「父上……あの……最後は最愛の者と一緒に……」
「ん? それは誰だ? お前は独身だろう?」
「リリーという女性です……」

 ワズ大公は、兵士に屋敷をくまなく探させる。
しかし、兵士からの報告は使用人しかおらず、リリーという名前の使用人もいないという。
使用人達の証言は取れた。
使用人の話によると確かにラーズは日がな一日、そのリリーという女性と一緒だったらしい。

「ラーズよ。そのリリーという女は、お前を見捨て逃げたようだな」
「そう……ですか」

 ラーズの表情は残念で落ち込むというより、逃げたと聞き嬉しそうにも見えた。

「ラーズよ。何故、我がお前の首を跳ねねばならぬ? 何故だ!!」

 しかし、ラーズは黙りのまま顔を伏せている。
ワズ大公も、もう何も言わず腰の剣を抜く。

「ワズ大公! ちょっと待ってください!」

 今まで見守っていたアカツキが口を挟む。

「アカツキ、もういいのだ……」
「よくありません! まだ解決していません! そもそも、他の兵士や将校などの中に逃げた者はいないのに、その女性だけが逃げたのはおかしくないですか?」
「むう……いや、確かにそうだが」

 アカツキは、ラーズの前に立ちその場でしゃがみ目線を合わせる。

「ラーズさん、その女性とは何処で知り合ったのですか?」
「どうして僕が君にそんな事を話す必要が──」
「ラーズ、答えよ!!」

 既に死を覚悟していたラーズは、処刑を引き伸ばしたアカツキに苛立つが、ワズ大公に一喝された。

「出会ったのはこの領地を拝領してからだ。偶々出会った集団の中に僕に一目惚れしてくれたリリーがいただけだ」
「集団?」
「他の連中は顔も知らんよ。何せフードを被っていたしな」

 それを聞いたアカツキとルスカ、そしてワズ大公は大いにショックを受ける。
フードの連中……ラーズが出会ったのはグルメールの動乱の直後この領地を治める様になってから、そしてファーマーのすぐ近くにはエルラン山脈が。

「くそっ! ラーズ、お前は何てことを!!」

 悔しそうな顔をしたワズ大公は、近くの壁を力任せに拳を叩きつける。

 エルラン山脈に逃げたと報告を受けているフードの連中、それは動乱時アカツキ達を襲おうとした奴ら。
時期的にも近い。

 そのリリーがフードの連中の一味の可能性が出てくる。
もしそうだとすると、ラーズはルメール教と関係を持った事になり、ますますラーズの擁護の可能性が潰されてしまった。


◇◇◇


 アカツキの提案で、横柄な態度を取っていた者達の取り調べが始まる。
ラーズの処刑は免れないが、裏を取る必要が出てきた為に一時保留となった。

 横柄な態度を取っていた連中は、軒並みそそのかされたと口裏を合わせる。
唆したのはリリーという女性と、もう一人、肉人形となったあの小太り将校だった。

 ラーズにはワズ大公に孫の顔を早く見せてやれと唆し、リリーと部屋に籠る。
時折部屋から出てきたリリーや、小太りの将校から兵士達は、妙なエリート意識を埋め込まれていた。
“このファーマーを発展させるのだ”
“ラーズ様は、王国から独立を考えていらっしゃる”
“お前達は、その立役者となるのだ”と。

 初め聞いた時、アカツキ達やワズ大公は、そんな馬鹿なと思う。
例え、そんな風に唆されたとしても、ワズ大公を軽視したり、国軍に逆らうなどと思えなかった。
しかし、ルスカは一つだけ方法があると言う。

「魔法……ですか?」
「そうじゃ。そういった類いの魔法があるのじゃ」

 ルスカが言うには、幻影魔法に相手の心に直接訴えかけ信じさせる魔法があると。

「しかし、魔法だと解けるでしょう」
「うむ。だから人数を絞ったのじゃろ」

 あとは軍という特徴を活かしたのではないかという。
軍に大事なのは統制だ。
全員が右を向いたら、左を向きたくても右を向かないといけない。
そして中には何も疑わず右を向く者も出てくる。
だから街の一般の人々は、唆されなかったのだろうと。

 聞き取りの結果、リリーと改造魔族だった小太りの将校が繋がり、ルメール教に魔族の影がちらつき出す。
それは、うわべの魔王崇拝だった過去のルメール教とは全く違うものだった。

 そして、三日後……

 ラーズは、自ら希望して父親のワズ大公の手で処刑された。

「大丈夫なのじゃ?」

 椅子に座り両手で顔を覆い隠し落ち込むワズ大公を心配して声をかける。

「我はワズ大公。このグルメール王国の重鎮だ……そうそう落ち込んでおれん。……が、すまぬ。今だけは……今だけは……」

 ワズ大公一人残し、部屋を出たルスカの後ろからは、泣き叫ぶワズ大公の声が聞こえてきた。


◇◇◇


 エルラン山脈の中腹にある岩に腰かけたフードを被った男性が、二十代位の目が切れ長の女性に声をかける。
女性は驚くも、フードの男性の顔を見てほっとする。

「迎えに来てやったぜ、リリー。いや、リリス」
「ありがとうございます。マブチ様」
「ふっ……どうだったんだ? 好きでもない男に抱かれた感想は?」

 マブチがニヤリとイヤらしく口角を片方抱け上げる。
それを見たリリスは、軽く鼻で笑う。

「嫌に決まってます。しかし、こんな事やる必要があったのでしょうか? わざわざ改造魔族を持ち出してまで。私には無駄に見えましたわ」
「意味なんてねぇよ。ただ、モルクのジジィが気にしている奴がいてな。そいつに改造魔族をぶつけて試したかっただけだ」
「それで結果は? どうでしたの?」

 無意味な事を聞くなと、鼻で笑って見せる。

「大したことねぇな。あんなのに苦戦しているようじゃ、俺の敵じゃねぇよ」

 岩から立ち上がるが、ガッカリとした様子のマブチに元気を出して貰おうリリスは、マブチの腕に自分の腕を回し身体を密着させた。

「そうそう、そう言えばマブチ様がこの間気にしていらした男が居ましたわよ」
「見てたし知っているさ、全部」
「殺さないのですの?」
「あれがまだ完成していないからな。今はやらん。あいつには精々苦しんで死んでもらいたいからな」

 そしてマブチの表情が変わる。目からは輝きが失われ、醜悪な笑みで嗤う。
最早、その表情には人間性が感じられなかった。
マブチは、アカツキのいるファーマーを山の中腹から見下ろす。

「もがき、苦しみ、そして死の恐怖に怯えさせてやるぜ、田代!!」

 マブチとリリスは、その後山奥へと消えて行った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

ゴミスキル【生態鑑定】で追放された俺、実は動物や神獣の心が分かる最強能力だったので、もふもふ達と辺境で幸せなスローライフを送る

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティの一員だったカイは、魔物の名前しか分からない【生態鑑定】スキルが原因で「役立たず」の烙印を押され、仲間から追放されてしまう。全てを失い、絶望の中でたどり着いた辺境の森。そこで彼は、自身のスキルが動物や魔物の「心」と意思疎通できる、唯一無二の能力であることに気づく。 森ウサギに衣食住を学び、神獣フェンリルやエンシェントドラゴンと友となり、もふもふな仲間たちに囲まれて、カイの穏やかなスローライフが始まった。彼が作る料理は魔物さえも惹きつけ、何気なく作った道具は「聖者の遺物」として王都を揺るがす。 一方、カイを失った勇者パーティは凋落の一途をたどっていた。自分たちの過ちに気づき、カイを連れ戻そうとする彼ら。しかし、カイの居場所は、もはやそこにはなかった。 これは、一人の心優しき青年が、大切な仲間たちと穏やかな日常を守るため、やがて伝説の「森の聖者」となる、心温まるスローライフファンタジー。

処理中です...