追放された幼女(ロリ)賢者は、青年と静かに暮らしたいのに

怪ジーン

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第四章 戦争と勇者編

五話 麗華の想いは……

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「アカツキ!」

 ルスカがすぐに駆け寄り、アカツキの拳に魔法をかける。

“キュアヒール”

 拳の傷は治せても、心の傷を癒すことなどは魔法ではできない。
アカツキが今何を思って怒っているのか、ルスカには手に取る様に分かる。分かるが、癒す術が分からない。

「私は、私は、この世界に来てこれ程怒りを覚えた記憶がありません。許せない、です! 絶対に!!」
「アカツキ……」

 今まで見せたことのないアカツキの表情に不安を覚えたルスカは、アカツキを足元から見上げるが、アカツキはルスカのそんな心配に気づいておらず、ただ何処か遠くを見ている。

「アカツキ、アカツキ!!」

 ルスカは何度も呼び掛け、アカツキの服の裾を引っ張るとアカツキはルスカを見るのだがその目にルスカが写ってはいない。

「アカツキ、抱っこじゃ!!」

 ルスカが両手を伸ばし抱っこを求めてくる。周りは何事かとその光景を見ていた。
必死に背伸びをして抱っこを要求してくるルスカをアカツキが抱き抱える。

 「顔が怖いのじゃ……」とルスカが、アカツキの両頬をつねったり、叩いたり、両手で顔を挟むと上下に動かし顔を歪ませくる。

 まず吹き出したのはカホだった。続いてされるがままのアカツキを笑い出したのは流星。
やがてアカツキの黒い瞳に、ルスカが写し出される。

「ルスカ、痛いです」

 その表情は、幾分穏やかになっており、ルスカだけでなくその場にいた全員がホッとする。

「ありがとうございます、ルスカ」

 片手で抱えながら頭を撫でてやると、ルスカは目を細め嬉しそうに微笑んだ。

「ルスカ様。それにアカツキだったかのぉ。不肖の弟子が本当に申し訳ない。大したもてなしは出来ぬが、ゆっくりしてのぉ」

 クリストファーの言葉に甘え、アカツキ達は弥生が回復するまでの間、世話になる事を決めたのだった。


◇◇◇


 アカツキ達が、クリストファーの家に滞在していた頃、麗華はファーマーを抜けて、エルラン山脈の麓に来ていた。

「ふ~、ここまで来れば一息つけますわ」

 馬を降りて、エルラン山脈を進むがかなり険しく、麗華はすぐに根をあげる。

「どうして……どうして、私はいつも一人なの……」

 羨ましかった。いつも笑顔で周囲に人が集まる弥生が。だけど、ある日気づく。弥生の笑顔がただの仮面であることを。
陰口を叩いたこともあった。

“三田村弥生は、八方美人でいつも男に媚びを売っている”と。

 だが、陰口は思ったより広まらず、逆に自分が陰口を叩いていたと、弥生に告げ口する者まで出てきた。

「レイちゃん、レイちゃん」

 だけど、弥生はそんな事を気にする事なく、自分に寄ってくる。
偽りの笑顔の仮面を見せつけながら。

 それがまた麗華の癪に障る。“どう? 一人が寂しいのなら、貴方も偽りの仮面を着けてみては?”まるで、そう言われているみたいで。

「もう! 馬渕の奴、何処に居るんですの?」

 苛立ちながらも、険しい道を歩く麗華。一人になると、いつもある二人の人物が思い浮かぶ。
それは、麗華の取り巻きの二人の男女のクラスメイト。

「どうして今日は、あの二人を鮮明に思い出すのかしら?」

 唯一学校で自分の側に居てくれた二人。性格が災いして、厳しい言葉を浴びせる事もあったが、二人は自分から離れる事はなかった。この世界に来るまでは。

 やがて道と呼べないほどゴツゴツした地面だが、広い場所に出ると、視線の先には男の人と思われる後ろ姿が。
馬渕ではないと確信する。
何故なら昔良く見た背中だったから。

 麗華は初めはゆっくり、そして段々と歩幅が広くなり走り出す。
麗華は、声を大にして呼び掛けようとすると、男の人は振り向き、その顔を見せる。
懐かしい顔、昔と全く変わらない顔。
麗華は嬉しくて嬉しくて、気づいていない。
この再会が七年ぶりだということを。

「今まで、何処に」そう麗華が話そうとする瞬間、麗華は目を疑う。

 その男の人の右手が落ちた──地面に。どろどろの液体状になって。

 麗華が足を止めた次の瞬間、腹部に痛みが走る。

「うそ……どうして……」

 恐る恐る痛みの原因を確認する。いや、改めてと言うべきだろう。
男の落ちたどろどろの右手から自分に何かしら鋭い物が向かって来たのだ。

 腹部から背中に貫通したを見て、顔がどんどん白くなり血の気が引いていく。
やがて体は熱くなってきて、痛みが全身を支配する。
は、麗華の腹部から抜けると、再び元の位置へと戻っていく。
麗華が目で追うと、白くなった顔に絶望が刻まれた。

 男は、全身がどろどろに溶けていったかと思うと、やがて溶けた肉の塊となり巨大な人型へと変化した。

「イヤアアアァァァァッッッ!!!!」

 恐怖でひきつり涙が止まらず動けない麗華の頭上に、肉人形の大きな拳が迫ってきていた。


◇◇◇


「麗華さん、麗華さん」

 麗華は耳元で囁かれる懐かしい声に、目を覚ます。
その目覚めはとても心地よく、転移してから初めて熟睡したようにも思えた。

 目の開けた先には、良く見知った顔が二つ。元クラスメイトの男女の顔が。
いつも自分に連れ添った──違う。いつも自分の側に一緒にいてくれていた二人。
その顔は当時のまま。自分だけ老けた気分になる。

「いいえ。麗華様は、いつもお綺麗ですよ」
「もう、二人とも! 何処に行っていたのよ。私……私、寂しかったんですのよ!!」

 麗華の初めて口にした本心だった。

「麗華さん」
「麗華様」

 差し出す二人の手を掴むと麗華は立ち上がり二人を抱き締める。

「麗華さん。これからはずっと一緒ですよ」
「本当ね? 私だけ置いていかないでくださいな」
「置いてなんかいきません」

 二人と手を繋ぎ、麗華は歩く。真っ暗な空間に唯一光る明かりを目指して。
そして、三人は並んで明かりの中へと消えていく。

いつまでも、一緒にいてください──

 その言葉と共に。


◇◇◇


「上手く適合したみてぇだな。魔族だけでなく、人もいけるとはな」
「マブチ様。あれ、放っておくのですか?」
「ちょっと未完成だが、コイツを試しておくかな」

 岩場の陰で、一部始終を見ていたマブチは、剣を鞘から抜くと、あっという間に肉人形の目の前にやってくる。
肉人形が視界に捉えると、どうやらマブチを敵と認識したようで、対峙する。

 マブチは、剣を構えることなくゆっくりと肉人形に近づくと足元が何かに触れる。

「ん? チッ! 靴が汚れたじゃねぇか」

 不快感を露にしたマブチは、麗華……だったものを邪魔だと言わんばかりに蹴り飛ばす。
視線が自分から外れて好機とみたのか、肉人形はマブチめがけて拳を放ってきた。

 一閃。マブチは自分に向かってきた拳を剣で手首から斬り落とすと慌てることなく、手首の無くなった腕をヒラリと躱す。

「俺に拳を向けたな」

 ニヤリと嗤うマブチを他所に肉人形は、手首を再生させる、が再生した手首がすぐに切れて落ちる。

 マブチはなにもしていない。ただ、立っているだけだ。
だが、肉人形は再生させては切れ、再生させては切れを繰り返す。
己の身体の一部を使い再生させているのだろう。
再生させる度に、身体が縮こまって小さくなっていく。

 やがてマブチと変わらない大きさになり、マブチは両肩から胸の辺りでクロスする様に袈裟斬りをすると、肉人形はあっさりと崩れた。

「お見事です。マブチ様」
「ふん。自慢にもならんな」

 剣に付いた汚れを落とすべく、一度剣を振ると鞘に仕舞う。

「まだまだ完成には程遠いな」

 マブチは、側にいたリリスの腰に手を回すと、そのまま去ってしまった。


◇◇◇


 麗華の今の状況など知るよしもないアカツキ達は、体調が戻った弥生も含めて出発の準備に取りかかっていた。

「田代」

 流星に呼び止められアカツキは振り向く。

「俺は今回の事を事細かにワズ大公へと伝える。それでだな……悪いがカホも連れて行ってやってくれ」
「カホさんを? いや、しかし……」
「俺もすぐにでも協力してやりてぇ。けど、ゴブリン達のこともある。
それに弥生も回復したと言っても万全じゃねぇだろ? 気心の知れたカホが役に立つ筈だ、同じ女性だしな」
「女性なら他にも……」

 アカツキは、準備している二人を見る。一人は幼女、一人は何処か抜けている犬の獣人。

「……分かりました、お言葉に甘えます」
「ああ。俺もゴブリン達が独立出来る様になれば、駆けつけるよ」

 握手を交わした後、流星は一足先にアカツキ達と別れて、アイルの街を出発する。

「それでは、クリストファーさん、お世話になりました」
「うむ、無事を祈っとるでのぉ。ルスカ様もお元気で」
「じじいのお主に言われたくないのじゃ」

 アカツキ達も馬に跨がり、アイルの街を後にしたのだった。
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