追放された幼女(ロリ)賢者は、青年と静かに暮らしたいのに

怪ジーン

文字の大きさ
87 / 249
第四章 戦争と勇者編

七話 ナック、婚約する

しおりを挟む
 叙勲式は、伯爵の痴漢騒ぎがあったにも関わらず粛々と執り行われた。
会場の正面奥には玉座があり、そこにパクことエルヴィス国王が座る。玉座は大人用で幼いパクには背もたれに背中はつけないし、足も床に届いていない。
しかし、その顔つきは普段見せるあどけなさを感じさせることなく、厳しい表情を見せていた。

 ダラスの司会の元、ナックの叙勲理由が読み上げられる。その間、ナックはずっと跪いており、顔を伏せていた。

「私はグルメール王国に身命を賭して、時には剣となり、時には盾となり守り抜く事を誓います」

 叙勲理由が読み終わると、ナックは立ち上がり胸に手をあて誓いの言葉を述べた。
その立ち姿を一番末席で見ていたアカツキ達。
弥生なんかは、立派になったと涙を見せ、ルスカに「母親か!」とツッコまれていた。

 パクが勲章を手に立ち上がると同時にナックは再び跪く。
そしてナックの胸元にパク自ら勲章を付けると、閉幕が告げられ拍手が沸き起こった。

 しかし、これだけでは終わりではなかった。パクが手を前に出すと拍手が止み、ナックの腕を取り立たせた。

「騎士ナック。お前は確かまだ独身でしたね?」
「え? は、はぁ……あ、はい!」

 ナックも予定に無かったのか一瞬気のない返事をしてしまう。そしてパクの言葉に、会場にいた貴族達に緊張が走る。
この手の国王からの言葉の意味する所を知っているから。
所謂“嫁の世話”と言うやつである。

 貴族達に緊張が走ったのは、国王が世話をするという以上、断る事は自家に迷惑をかける事を意味していた。

 たかだか騎士爵。貴族と言えど名誉職に過ぎない家に嫁ぐなど、貴族の娘からすれば最悪のシナリオだ。
緊張は、自分の名前を呼ばれないようにと強く願った為である。

「姉リュミエールは、どうだ?」

 会場中の貴族達が驚きのあまりに、ぽかんと口を開けたままである。
いや、貴族だけでなく、当の本人であるナックも、アカツキ達も、ダラスも初耳なのだろう同様に口を開けたまま固まっていた。

「もちろん、今のままでは駄目だ。せめて伯──いや、子爵になる位頑張ってもらわねばならぬが」

 エルヴィス国王のお言葉である。しかし、当のナックは聞いていないのか、普段の目付きの悪さはどっかに行ってしまう位、目を見開き固まっていた。

 恐らくそれほど時間は過ぎていないのだろう。会場内は時間が止まったかのように微動だにせずにいたが、やがて波の様に怒声と歓声と驚きの声が入り交じり沸き起こった。

 アカツキは、周囲の声で我に返りリュミエールを見る。前もって聞いていたのか随分と落ち着いている様子だ。

「アカツキ、アカツキ! ワシの聞き間違いか? ナックとリュミエールが結婚するって聞いたのじゃ」
「えっと……多分そうです」

 流石にルスカもこれには度肝を抜かれたのか、動揺しているのが見て取れる。

 貴族達が前に出て意見しようとするが、警備兵に止められ進めない。
何せ、貴族云々の話ではない。
リュミエールと結婚となれば、立派な王族入り。
後に公爵にもなれるし、パクやワズ大公に何かあればこの国の王様もあり得なくはない。
とはいえ、その場合はリュミエールが女王となるのだろうが。


◇◇◇


「ナック様と……ですか?」

 叙勲式を明日に控え、パクはリュミエールを自室に呼び、自分の考えを伝えた。
もちろん、外に漏れない様に二人きりで。

「すいません、姉上。わた──僕としては、姉上に幸せになって頂きたいと思っております、弟として。ですが、今の貴族達は保身に走るばかりで信用足りません」
「それで、ナック様を?」

 パクはリュミエールの手を取ると頭を下げる。

「駄目です。貴方は国王なのですから、簡単に頭を下げては駄目です」
「いえ、これは弟としてです。姉上の気持ちは知ってい──」

 リュミエールは人差し指をパクの唇にあて、その先を言わない様に止めた。

「エル。私も王族の女です。覚悟は既に出来ています。だから、それ以上言って、私の決心を鈍らせないで」
「姉上……」


◇◇◇


「ナック様。世間知らずの不束な身でありますが……ご不満でしょうか?」

 リュミエールは、ナックの眼前に立つと跪くナックの手を取り立たせる。未だに固まったままだが、その真剣な瞳に見つめられると我に返った。

「え、ええっと……」

 我には返ったが頭の中は、いまだ混乱が続いており、思わずどうしたらいいのかアカツキ達の方に振り返り助けを求める。
しかし、アカツキ達は、そっぽを向いて見ぬふりをした。

 業を煮やしたリュミエールは、後ろを向いたナックを無理矢理自分の方に向かせた。
お互いに目が合い、ずっと視線を離さないリュミエールに覚悟を決めたのか、再び跪く。

「国王陛下の命、しかと受け取りました」

 命令なわけではない。しかし、そこがナックらしいとも言えるだろう。
リュミエールは、ナックの隣に立ち同じようにパクに対して跪く。

「国王陛下の命、しかと受け取りました」

 会場内は、拍手に包まれ二人は祝福される。もちろんアカツキ達も惜しみ無い拍手を送っている。
しかし不満に思った貴族達は、明白に祝福などしておらず、ナックのこれからの貴族人生に影を落としていた。

「ああ、“協力”とはそういう意味ですか。また、厄介な」
「ま、そうじゃろうな。恐らく露払いやナックの手柄の手伝いって所なのじゃ」

 ナックはこれから大変だと、二人は暖かい眼差しでナックとリュミエールの二人を見ていた。
もちろん、協力を惜しむつもりなどない。

 まさか、こんなに早く協力する羽目になるとは思わずに。


◇◇◇


 未だに不満な表情を見せている貴族達は、そそくさと式典会場をあとにしようとしていた。

「急報!! 突然のこと、失礼致します!!」

 貴族達が帰ろうとし扉に手をかける瞬間、叩きつけるように扉が開き貴族達の一部は、大きく転がって倒れる。

「無礼者め!!」

 白髪混じりの男性貴族が兵士に飛びかかるが、突然出てきた白い拳に吹き飛ばされる。

「ちっ! 状況もわからんとは。早く行くのじゃ!」

 ルスカがビクリバコで兵士を守ると、アカツキや弥生は、貴族と兵士の間に立ち塞がって邪魔をさせない。
ダラスがいち早く兵士に駆け寄り知らせの書状を受け取ると、顔から血の気が失われる。

「陛下、これを」

 パクは書状を受け取ると、書状の表に描かれた紋様に驚き書状を開いた。

「緊急会議を行います! ダラス、準備を! 重臣達は、私と来い。それとアカツキ様、騎士ナックも来て下さい」
「私達も……ですか?」
「レイン帝国が……レイン帝国がグランツ王国へ宣戦布告をしました」


◇◇◇


 城内は慌ただしくなる。会議室に集まった面々は、誰しも言葉を失っていた。
書状はレイン帝国ではなく、グランツ王国からで宣戦布告をされたから救援を出して欲しいとの知らせだった。

 このグルメール王国は二つの大国に対して微妙な立ち位置にいた。
ザンバラ砂漠を挟んで隣接しているグランツ王国と、軍事力が高く冒険者ギルドを一手に担うレイン帝国。
グルメール王国は小国ながら、ザンバラ砂漠が入口にあるために属国にならずに両国と良好な関係を築いてきた。

 戦争自体はなかったが、幾度も緊張状態になる事はあり、グランツ王国がレイン帝国に仕掛ければレイン帝国と協力して、レイン帝国が仕掛ければグランツ王国と協力してと、楔的な役割を果たしてきた。

 それでも宣戦布告は、未だ無かった。本来ならグランツ王国に協力するべきなのだろうが、ラーズの件がある。
ワズ大公は、帝国との軋轢を避ける為に息子ラーズの首を自ら斬ったのだ。
今、帝国と構えるとワズ大公がどう出るかわからない。

 裏切る事はないだろう。ただ、動かない可能性はある。それは、この国にとっては痛手だ。
それほどワズ大公がこの国の重要度を占める割合は高い。

 ギルドの件もある。ギルドは帝国のモノだ。
下手をすれば、内乱を起こしかねず内と外と両方に対応しなくてはならないのだ。

 かと言って理由も分からず帝国に味方するわけにもいかない。

 非常に苦しい立場にグルメール王国は立たされた。

「陛下。僕はまずレイン帝国の宣戦布告の理由を探るのが先決だと思います」

 ダラスは忌憚なき意見を述べる。しかし、貴族達は急がねば戦争が始まるぞと、グランツ王国へ味方するように対立する。

 パクはしばらく考え込み目を瞑り、飛び交う意見に耳を傾けていた。

「戦争なんぞ、すぐには起こらんのじゃ」

 突然のルスカの発言に会議室の全員が集中したのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

ゴミスキル【生態鑑定】で追放された俺、実は動物や神獣の心が分かる最強能力だったので、もふもふ達と辺境で幸せなスローライフを送る

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティの一員だったカイは、魔物の名前しか分からない【生態鑑定】スキルが原因で「役立たず」の烙印を押され、仲間から追放されてしまう。全てを失い、絶望の中でたどり着いた辺境の森。そこで彼は、自身のスキルが動物や魔物の「心」と意思疎通できる、唯一無二の能力であることに気づく。 森ウサギに衣食住を学び、神獣フェンリルやエンシェントドラゴンと友となり、もふもふな仲間たちに囲まれて、カイの穏やかなスローライフが始まった。彼が作る料理は魔物さえも惹きつけ、何気なく作った道具は「聖者の遺物」として王都を揺るがす。 一方、カイを失った勇者パーティは凋落の一途をたどっていた。自分たちの過ちに気づき、カイを連れ戻そうとする彼ら。しかし、カイの居場所は、もはやそこにはなかった。 これは、一人の心優しき青年が、大切な仲間たちと穏やかな日常を守るため、やがて伝説の「森の聖者」となる、心温まるスローライフファンタジー。

処理中です...