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第四章 戦争と勇者編
七話 ナック、婚約する
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叙勲式は、伯爵の痴漢騒ぎがあったにも関わらず粛々と執り行われた。
会場の正面奥には玉座があり、そこにパクことエルヴィス国王が座る。玉座は大人用で幼いパクには背もたれに背中はつけないし、足も床に届いていない。
しかし、その顔つきは普段見せるあどけなさを感じさせることなく、厳しい表情を見せていた。
ダラスの司会の元、ナックの叙勲理由が読み上げられる。その間、ナックはずっと跪いており、顔を伏せていた。
「私はグルメール王国に身命を賭して、時には剣となり、時には盾となり守り抜く事を誓います」
叙勲理由が読み終わると、ナックは立ち上がり胸に手をあて誓いの言葉を述べた。
その立ち姿を一番末席で見ていたアカツキ達。
弥生なんかは、立派になったと涙を見せ、ルスカに「母親か!」とツッコまれていた。
パクが勲章を手に立ち上がると同時にナックは再び跪く。
そしてナックの胸元にパク自ら勲章を付けると、閉幕が告げられ拍手が沸き起こった。
しかし、これだけでは終わりではなかった。パクが手を前に出すと拍手が止み、ナックの腕を取り立たせた。
「騎士ナック。お前は確かまだ独身でしたね?」
「え? は、はぁ……あ、はい!」
ナックも予定に無かったのか一瞬気のない返事をしてしまう。そしてパクの言葉に、会場にいた貴族達に緊張が走る。
この手の国王からの言葉の意味する所を知っているから。
所謂“嫁の世話”と言うやつである。
貴族達に緊張が走ったのは、国王が世話をするという以上、断る事は自家に迷惑をかける事を意味していた。
たかだか騎士爵。貴族と言えど名誉職に過ぎない家に嫁ぐなど、貴族の娘からすれば最悪のシナリオだ。
緊張は、自分の名前を呼ばれないようにと強く願った為である。
「姉リュミエールは、どうだ?」
会場中の貴族達が驚きのあまりに、ぽかんと口を開けたままである。
いや、貴族だけでなく、当の本人であるナックも、アカツキ達も、ダラスも初耳なのだろう同様に口を開けたまま固まっていた。
「もちろん、今のままでは駄目だ。せめて伯──いや、子爵になる位頑張ってもらわねばならぬが」
エルヴィス国王のお言葉である。しかし、当のナックは聞いていないのか、普段の目付きの悪さはどっかに行ってしまう位、目を見開き固まっていた。
恐らくそれほど時間は過ぎていないのだろう。会場内は時間が止まったかのように微動だにせずにいたが、やがて波の様に怒声と歓声と驚きの声が入り交じり沸き起こった。
アカツキは、周囲の声で我に返りリュミエールを見る。前もって聞いていたのか随分と落ち着いている様子だ。
「アカツキ、アカツキ! ワシの聞き間違いか? ナックとリュミエールが結婚するって聞いたのじゃ」
「えっと……多分そうです」
流石にルスカもこれには度肝を抜かれたのか、動揺しているのが見て取れる。
貴族達が前に出て意見しようとするが、警備兵に止められ進めない。
何せ、貴族云々の話ではない。
リュミエールと結婚となれば、立派な王族入り。
後に公爵にもなれるし、パクやワズ大公に何かあればこの国の王様もあり得なくはない。
とはいえ、その場合はリュミエールが女王となるのだろうが。
◇◇◇
「ナック様と……ですか?」
叙勲式を明日に控え、パクはリュミエールを自室に呼び、自分の考えを伝えた。
もちろん、外に漏れない様に二人きりで。
「すいません、姉上。わた──僕としては、姉上に幸せになって頂きたいと思っております、弟として。ですが、今の貴族達は保身に走るばかりで信用足りません」
「それで、ナック様を?」
パクはリュミエールの手を取ると頭を下げる。
「駄目です。貴方は国王なのですから、簡単に頭を下げては駄目です」
「いえ、これは弟としてです。姉上の気持ちは知ってい──」
リュミエールは人差し指をパクの唇にあて、その先を言わない様に止めた。
「エル。私も王族の女です。覚悟は既に出来ています。だから、それ以上言って、私の決心を鈍らせないで」
「姉上……」
◇◇◇
「ナック様。世間知らずの不束な身でありますが……ご不満でしょうか?」
リュミエールは、ナックの眼前に立つと跪くナックの手を取り立たせる。未だに固まったままだが、その真剣な瞳に見つめられると我に返った。
「え、ええっと……」
我には返ったが頭の中は、いまだ混乱が続いており、思わずどうしたらいいのかアカツキ達の方に振り返り助けを求める。
しかし、アカツキ達は、そっぽを向いて見ぬふりをした。
業を煮やしたリュミエールは、後ろを向いたナックを無理矢理自分の方に向かせた。
お互いに目が合い、ずっと視線を離さないリュミエールに覚悟を決めたのか、再び跪く。
「国王陛下の命、しかと受け取りました」
命令なわけではない。しかし、そこがナックらしいとも言えるだろう。
リュミエールは、ナックの隣に立ち同じようにパクに対して跪く。
「国王陛下の命、しかと受け取りました」
会場内は、拍手に包まれ二人は祝福される。もちろんアカツキ達も惜しみ無い拍手を送っている。
しかし不満に思った貴族達は、明白に祝福などしておらず、ナックのこれからの貴族人生に影を落としていた。
「ああ、“協力”とはそういう意味ですか。また、厄介な」
「ま、そうじゃろうな。恐らく露払いやナックの手柄の手伝いって所なのじゃ」
ナックはこれから大変だと、二人は暖かい眼差しでナックとリュミエールの二人を見ていた。
もちろん、協力を惜しむつもりなどない。
まさか、こんなに早く協力する羽目になるとは思わずに。
◇◇◇
未だに不満な表情を見せている貴族達は、そそくさと式典会場をあとにしようとしていた。
「急報!! 突然のこと、失礼致します!!」
貴族達が帰ろうとし扉に手をかける瞬間、叩きつけるように扉が開き貴族達の一部は、大きく転がって倒れる。
「無礼者め!!」
白髪混じりの男性貴族が兵士に飛びかかるが、突然出てきた白い拳に吹き飛ばされる。
「ちっ! 状況もわからんとは。早く行くのじゃ!」
ルスカがビクリバコで兵士を守ると、アカツキや弥生は、貴族と兵士の間に立ち塞がって邪魔をさせない。
ダラスがいち早く兵士に駆け寄り知らせの書状を受け取ると、顔から血の気が失われる。
「陛下、これを」
パクは書状を受け取ると、書状の表に描かれた紋様に驚き書状を開いた。
「緊急会議を行います! ダラス、準備を! 重臣達は、私と来い。それとアカツキ様、騎士ナックも来て下さい」
「私達も……ですか?」
「レイン帝国が……レイン帝国がグランツ王国へ宣戦布告をしました」
◇◇◇
城内は慌ただしくなる。会議室に集まった面々は、誰しも言葉を失っていた。
書状はレイン帝国ではなく、グランツ王国からで宣戦布告をされたから救援を出して欲しいとの知らせだった。
このグルメール王国は二つの大国に対して微妙な立ち位置にいた。
ザンバラ砂漠を挟んで隣接しているグランツ王国と、軍事力が高く冒険者ギルドを一手に担うレイン帝国。
グルメール王国は小国ながら、ザンバラ砂漠が入口にあるために属国にならずに両国と良好な関係を築いてきた。
戦争自体はなかったが、幾度も緊張状態になる事はあり、グランツ王国がレイン帝国に仕掛ければレイン帝国と協力して、レイン帝国が仕掛ければグランツ王国と協力してと、楔的な役割を果たしてきた。
それでも宣戦布告は、未だ無かった。本来ならグランツ王国に協力するべきなのだろうが、ラーズの件がある。
ワズ大公は、帝国との軋轢を避ける為に息子ラーズの首を自ら斬ったのだ。
今、帝国と構えるとワズ大公がどう出るかわからない。
裏切る事はないだろう。ただ、動かない可能性はある。それは、この国にとっては痛手だ。
それほどワズ大公がこの国の重要度を占める割合は高い。
ギルドの件もある。ギルドは帝国のモノだ。
下手をすれば、内乱を起こしかねず内と外と両方に対応しなくてはならないのだ。
かと言って理由も分からず帝国に味方するわけにもいかない。
非常に苦しい立場にグルメール王国は立たされた。
「陛下。僕はまずレイン帝国の宣戦布告の理由を探るのが先決だと思います」
ダラスは忌憚なき意見を述べる。しかし、貴族達は急がねば戦争が始まるぞと、グランツ王国へ味方するように対立する。
パクはしばらく考え込み目を瞑り、飛び交う意見に耳を傾けていた。
「戦争なんぞ、すぐには起こらんのじゃ」
突然のルスカの発言に会議室の全員が集中したのだった。
会場の正面奥には玉座があり、そこにパクことエルヴィス国王が座る。玉座は大人用で幼いパクには背もたれに背中はつけないし、足も床に届いていない。
しかし、その顔つきは普段見せるあどけなさを感じさせることなく、厳しい表情を見せていた。
ダラスの司会の元、ナックの叙勲理由が読み上げられる。その間、ナックはずっと跪いており、顔を伏せていた。
「私はグルメール王国に身命を賭して、時には剣となり、時には盾となり守り抜く事を誓います」
叙勲理由が読み終わると、ナックは立ち上がり胸に手をあて誓いの言葉を述べた。
その立ち姿を一番末席で見ていたアカツキ達。
弥生なんかは、立派になったと涙を見せ、ルスカに「母親か!」とツッコまれていた。
パクが勲章を手に立ち上がると同時にナックは再び跪く。
そしてナックの胸元にパク自ら勲章を付けると、閉幕が告げられ拍手が沸き起こった。
しかし、これだけでは終わりではなかった。パクが手を前に出すと拍手が止み、ナックの腕を取り立たせた。
「騎士ナック。お前は確かまだ独身でしたね?」
「え? は、はぁ……あ、はい!」
ナックも予定に無かったのか一瞬気のない返事をしてしまう。そしてパクの言葉に、会場にいた貴族達に緊張が走る。
この手の国王からの言葉の意味する所を知っているから。
所謂“嫁の世話”と言うやつである。
貴族達に緊張が走ったのは、国王が世話をするという以上、断る事は自家に迷惑をかける事を意味していた。
たかだか騎士爵。貴族と言えど名誉職に過ぎない家に嫁ぐなど、貴族の娘からすれば最悪のシナリオだ。
緊張は、自分の名前を呼ばれないようにと強く願った為である。
「姉リュミエールは、どうだ?」
会場中の貴族達が驚きのあまりに、ぽかんと口を開けたままである。
いや、貴族だけでなく、当の本人であるナックも、アカツキ達も、ダラスも初耳なのだろう同様に口を開けたまま固まっていた。
「もちろん、今のままでは駄目だ。せめて伯──いや、子爵になる位頑張ってもらわねばならぬが」
エルヴィス国王のお言葉である。しかし、当のナックは聞いていないのか、普段の目付きの悪さはどっかに行ってしまう位、目を見開き固まっていた。
恐らくそれほど時間は過ぎていないのだろう。会場内は時間が止まったかのように微動だにせずにいたが、やがて波の様に怒声と歓声と驚きの声が入り交じり沸き起こった。
アカツキは、周囲の声で我に返りリュミエールを見る。前もって聞いていたのか随分と落ち着いている様子だ。
「アカツキ、アカツキ! ワシの聞き間違いか? ナックとリュミエールが結婚するって聞いたのじゃ」
「えっと……多分そうです」
流石にルスカもこれには度肝を抜かれたのか、動揺しているのが見て取れる。
貴族達が前に出て意見しようとするが、警備兵に止められ進めない。
何せ、貴族云々の話ではない。
リュミエールと結婚となれば、立派な王族入り。
後に公爵にもなれるし、パクやワズ大公に何かあればこの国の王様もあり得なくはない。
とはいえ、その場合はリュミエールが女王となるのだろうが。
◇◇◇
「ナック様と……ですか?」
叙勲式を明日に控え、パクはリュミエールを自室に呼び、自分の考えを伝えた。
もちろん、外に漏れない様に二人きりで。
「すいません、姉上。わた──僕としては、姉上に幸せになって頂きたいと思っております、弟として。ですが、今の貴族達は保身に走るばかりで信用足りません」
「それで、ナック様を?」
パクはリュミエールの手を取ると頭を下げる。
「駄目です。貴方は国王なのですから、簡単に頭を下げては駄目です」
「いえ、これは弟としてです。姉上の気持ちは知ってい──」
リュミエールは人差し指をパクの唇にあて、その先を言わない様に止めた。
「エル。私も王族の女です。覚悟は既に出来ています。だから、それ以上言って、私の決心を鈍らせないで」
「姉上……」
◇◇◇
「ナック様。世間知らずの不束な身でありますが……ご不満でしょうか?」
リュミエールは、ナックの眼前に立つと跪くナックの手を取り立たせる。未だに固まったままだが、その真剣な瞳に見つめられると我に返った。
「え、ええっと……」
我には返ったが頭の中は、いまだ混乱が続いており、思わずどうしたらいいのかアカツキ達の方に振り返り助けを求める。
しかし、アカツキ達は、そっぽを向いて見ぬふりをした。
業を煮やしたリュミエールは、後ろを向いたナックを無理矢理自分の方に向かせた。
お互いに目が合い、ずっと視線を離さないリュミエールに覚悟を決めたのか、再び跪く。
「国王陛下の命、しかと受け取りました」
命令なわけではない。しかし、そこがナックらしいとも言えるだろう。
リュミエールは、ナックの隣に立ち同じようにパクに対して跪く。
「国王陛下の命、しかと受け取りました」
会場内は、拍手に包まれ二人は祝福される。もちろんアカツキ達も惜しみ無い拍手を送っている。
しかし不満に思った貴族達は、明白に祝福などしておらず、ナックのこれからの貴族人生に影を落としていた。
「ああ、“協力”とはそういう意味ですか。また、厄介な」
「ま、そうじゃろうな。恐らく露払いやナックの手柄の手伝いって所なのじゃ」
ナックはこれから大変だと、二人は暖かい眼差しでナックとリュミエールの二人を見ていた。
もちろん、協力を惜しむつもりなどない。
まさか、こんなに早く協力する羽目になるとは思わずに。
◇◇◇
未だに不満な表情を見せている貴族達は、そそくさと式典会場をあとにしようとしていた。
「急報!! 突然のこと、失礼致します!!」
貴族達が帰ろうとし扉に手をかける瞬間、叩きつけるように扉が開き貴族達の一部は、大きく転がって倒れる。
「無礼者め!!」
白髪混じりの男性貴族が兵士に飛びかかるが、突然出てきた白い拳に吹き飛ばされる。
「ちっ! 状況もわからんとは。早く行くのじゃ!」
ルスカがビクリバコで兵士を守ると、アカツキや弥生は、貴族と兵士の間に立ち塞がって邪魔をさせない。
ダラスがいち早く兵士に駆け寄り知らせの書状を受け取ると、顔から血の気が失われる。
「陛下、これを」
パクは書状を受け取ると、書状の表に描かれた紋様に驚き書状を開いた。
「緊急会議を行います! ダラス、準備を! 重臣達は、私と来い。それとアカツキ様、騎士ナックも来て下さい」
「私達も……ですか?」
「レイン帝国が……レイン帝国がグランツ王国へ宣戦布告をしました」
◇◇◇
城内は慌ただしくなる。会議室に集まった面々は、誰しも言葉を失っていた。
書状はレイン帝国ではなく、グランツ王国からで宣戦布告をされたから救援を出して欲しいとの知らせだった。
このグルメール王国は二つの大国に対して微妙な立ち位置にいた。
ザンバラ砂漠を挟んで隣接しているグランツ王国と、軍事力が高く冒険者ギルドを一手に担うレイン帝国。
グルメール王国は小国ながら、ザンバラ砂漠が入口にあるために属国にならずに両国と良好な関係を築いてきた。
戦争自体はなかったが、幾度も緊張状態になる事はあり、グランツ王国がレイン帝国に仕掛ければレイン帝国と協力して、レイン帝国が仕掛ければグランツ王国と協力してと、楔的な役割を果たしてきた。
それでも宣戦布告は、未だ無かった。本来ならグランツ王国に協力するべきなのだろうが、ラーズの件がある。
ワズ大公は、帝国との軋轢を避ける為に息子ラーズの首を自ら斬ったのだ。
今、帝国と構えるとワズ大公がどう出るかわからない。
裏切る事はないだろう。ただ、動かない可能性はある。それは、この国にとっては痛手だ。
それほどワズ大公がこの国の重要度を占める割合は高い。
ギルドの件もある。ギルドは帝国のモノだ。
下手をすれば、内乱を起こしかねず内と外と両方に対応しなくてはならないのだ。
かと言って理由も分からず帝国に味方するわけにもいかない。
非常に苦しい立場にグルメール王国は立たされた。
「陛下。僕はまずレイン帝国の宣戦布告の理由を探るのが先決だと思います」
ダラスは忌憚なき意見を述べる。しかし、貴族達は急がねば戦争が始まるぞと、グランツ王国へ味方するように対立する。
パクはしばらく考え込み目を瞑り、飛び交う意見に耳を傾けていた。
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