追放された幼女(ロリ)賢者は、青年と静かに暮らしたいのに

怪ジーン

文字の大きさ
104 / 249
閑話

暁side 転移前の世界

しおりを挟む
 まだ太陽が昇り始めた頃、目を覚ましたアカツキは布団から起き上がると、隣で寝ている妹のほのかを起こさないように、寝室を出ていく。

 アカツキの家は、二階建てアパートの一室1LDK。そこに自分と妹、そして母の三人で暮らしていた。

 家賃は四万と都内では破格だが、安いのには安いなりの理由があり、築四十年と古い。

 目覚めたアカツキの最初にすることは、朝ご飯の準備。
テーブルに開かれて置かれた教科書を見ながら、卵をかき混ぜる。
普段家事や妹の世話で追われるアカツキにとって、朝のこの時間が唯一の勉強が出来る時間帯。

 卵焼きを作り、付け合わせにソーセージを焼き始める。
そこにご飯が炊き上がったお知らせが鳴ると、妹のほのかが起きてくる。

 歳は十一だが、同年代の子と比べて背の低いほのか。
顔も同年代より幼く、くりっとした目が愛らしい。
アカツキに顔を洗ってくるように、言われると洗面所に向かう。

 今でもアカツキと一緒にお風呂に入りたいと言ってきたり、膨らみ始めた胸を隠すことなく裸でうろうろしたりと行動も幼いため、アカツキは甘やかせ過ぎたかと反省する日々だった。

「お兄ちゃん、大スキー!」と言われながら抱きつかれるとデレっとしてしまい、どうしても甘くなる。

 アカツキの唯一の楽しみがほのかの成長である。しかし、ほのかも成長していくと大好きとか言わなくなるだろう。
それが、少し寂しいと思ってしまうアカツキがいた。

「お母さん、また帰ってこないね」

 朝食を食べ始めた頃、ほのかがボソリと呟く。アカツキ達の母親は、ホステスをしているのだが帰宅が朝や昼になることも多い。
何をしているのかはアカツキもわかってはいるのだが、ほのかに寂しい思いをさせて憎む一方で嫌いになれないでいた。
それは、ほのかが生まれる前、母親が自分に向けてくれていた愛情が忘れられず、いつかほのかにもと願う。

「寂しいか、ほのか?」

 アカツキの問いに首を横に振り「お兄ちゃんがいるからいい」と。

「俺は何処にもいかないから」

 今までアカツキは、ほのかとの約束を破ることは、なかった。
しかし、初めて約束を破ることになる。

 ほのかに謝ることも出来ずに……


◇◇◇


 朝食を食べ終えるといつも通りほのかの黒い艶やかな髪をとかしてやり、左側を三つ編みをしてリボンを結ぶ。

 小さい頃から、ほのかの髪型は変わることはない。
アカツキは何度も挑戦してきた。
ほのかの後頭部に三つ編みを結う練習を。
しかし、何故かいつも左側に寄ってしまう。

 そして、いつしかこの髪型が当たり前になったのだ。
大好きな兄がしてくれたこの髪型を、ほのかが嫌がるはずもなく、他の髪型などもう考えられない。

「ありがとう、お兄ちゃん」

 準備を終えたほのかは、アカツキのお古の黒いランドセルを背負い靴を履く。
アカツキも紺色のブレザーを羽織り、ほのかと共に家を出る。

 最近は物騒な事も多く、アカツキはほのかの手を繋ぎ、小学校まで送って行く。

 小学校の校門前で、ほのかの担任の女性に出会い、一礼するとほのかを見送る。

 カラフルなランドセルが見える中、ほのかの黒いランドセルはやはり目立つ。
自分も高校を一年間過ごし慣れてきた。
そろそろ、バイトでも始めてほのかに新しいランドセルでも、そう考えながらアカツキは、高校へと走り出した。


◇◇◇


 アカツキの高校は公立で、正直進学校というほどでもない。
いわば、可もなく不可もなくである。
生徒も不良みたいなのは、たまーに、一学年に一人か二人程度。
アカツキのクラスは、その手のタイプは居ない。

 だからといって、問題がないわけではない。ハブられているわけではないが、アカツキは常に一人だった。

 孤独を装っているわけではない。かといって、一人が好きなわけではない。
ただ、馴染めないのだ。
やれ合コンだの、やれ音楽がどうのこうの、ドラマ見た? みたいな話に、興味がないだけ。

 今日も一人、窓際の席から外を眺めていると、珍しく隣の席の曽我かほるが、話かけてきた。

「ねぇ、田代くん。今日の一限の英語って宿題無かったよね?」

 おかしな聞き方である。「あったっけ?」とか「やった?」とかならわかるが「無かったよね?」とは。
希望なのだろう。無いって言って欲しいのだろう。

 アカツキは「あるよ」と容赦なく打ち砕く。

 カホは、やっぱりかぁと頭を抱えて「やよちゃん、宿題見せて~」と、廊下側の席に座る三田村弥生に泣きついた。

 そして、再び一人きり。だけどアカツキは、もう慣れていた。


◇◇◇


「なぁなぁ、田代ぉ。百円貸してくれへんか?」

 昼休みに入るや否や関西から転校してきた上原辰郎が、話かけてくる。

「嫌だ」とアカツキが一蹴するも、「ほんまか! おおきにいーって、あかんのかーい!」と教室に関西弁が響き渡る。

「えー、頼むわー。ジュース買いたいんやけど、ここのジュースって高いやん。百三十円もするやん。足らへんねん」

 手を合わせて拝んでくるタツロウにイラッとする。

「百三十円もって、普通だろ?」
「アホいいなやぁ! 関西の自販機は全部五十円や!」
「ほんとかよ……」

 半分嘘である。五十円の自販機は多々あるが、全部が全部ではない。

 そろそろ面倒になってきたアカツキは、追い返すために百円をタツロウに渡す。

「おおー、さんきゅーべりーまっちや。明日返すからな!」
「本当は面倒だから、貸したのでしょ?」

 タツロウと入れ違いでアカツキに話かけたのは、三田村弥生。
両手を後ろ手に組んで、アカツキに顔を近づけて笑顔を見せていた。

「そうだよ。三田村さん」

 今日は珍しく、いつもなら話かけてくるのは、この弥生くらい。
本当に珍しい。何かの前兆を思わせるくらいに。

「もう、弥生でいいっていってるじゃない、田代くん」
「だったら、俺のことアカツキって呼んだら呼ぶ」
「え? ええ、ええ……っと、あはは。い、いいのかな?」

 慌てふためく弥生の反応が予想外で、アカツキもどうしたものかと悩む。

 弥生なら「うん、わかった。アカツキくん。ほら、呼んだよ、次はアカツキくんの番だぁ」とか笑いながら、からかってくるものだとばかり思っていたのだ。

「おおーい、三田村。ちょっといいかー!」

 照れながらあたふたしている弥生をクラス委員の馬渕恭助が呼ぶ。

「やよちゃーん。放課後、みんなでカラオケ行こうってさー」

 カホが手招きしながら、先に用事を言っている。
アカツキとカホを見比べながら、どうしようかと困っている弥生を見て「行ってきたら」と送り出す。

「ごめんね」と一言謝り、弥生はカホや馬渕の元に向かう。
そんな弥生の背中を見送りながら、アカツキは不思議な違和感を覚える。

 昼休みと言えば、教室で弁当を食べる者もいるだろうが、食堂に行ったり中庭でお弁当を広げたりと、教室内の人は少ない。

 いつもなら。

 アカツキの感じた違和感。それは、教室内にクラスメイト全員がいたこと。
そして、空気が酷く重い。

「な、なんだ!?」

 馬渕の声を皮切りに、クラスメイト全員が騒ぎ出す。
足元が覚束ないとでも言うのだろうか。
上手く立てず、床に立っている気もしない。
まるで、空中にいるような。

「うわあぁぁぁぁっ!!」「きゃぁぁぁぁ!!」

 そして、一斉に悲鳴が上がると、教室内には一人の人間も居なくなってしまった。


◇◇◇


「ほのか! あーちゃん!」
「お母さん!! お兄ちゃんが、お兄ちゃんがぁ……」

 電話を受け急ぎ家へと戻ってきた、アカツキ達の母親は、泣いて震えるほのかを抱きしめる。

 二人にテレビから流れるニュースが耳に入ってきた。

「本日昼頃、都内にある公立◯△高校二年A組の教室から全生徒が居なくなるという事件が起きました。なお、警視庁はなんらかの事件に巻き込まれたのではないかと……」

 今日から二ヶ月。ニュースはこの話題で持ちきりとなる。
そして、その後は放送の回数も減り、やがて人々の記憶から薄れていく。

 ただ一人、大好きだった兄を失った少女以外は……

「お兄ちゃぁぁぁぁーーーん!!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

ゴミスキル【生態鑑定】で追放された俺、実は動物や神獣の心が分かる最強能力だったので、もふもふ達と辺境で幸せなスローライフを送る

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティの一員だったカイは、魔物の名前しか分からない【生態鑑定】スキルが原因で「役立たず」の烙印を押され、仲間から追放されてしまう。全てを失い、絶望の中でたどり着いた辺境の森。そこで彼は、自身のスキルが動物や魔物の「心」と意思疎通できる、唯一無二の能力であることに気づく。 森ウサギに衣食住を学び、神獣フェンリルやエンシェントドラゴンと友となり、もふもふな仲間たちに囲まれて、カイの穏やかなスローライフが始まった。彼が作る料理は魔物さえも惹きつけ、何気なく作った道具は「聖者の遺物」として王都を揺るがす。 一方、カイを失った勇者パーティは凋落の一途をたどっていた。自分たちの過ちに気づき、カイを連れ戻そうとする彼ら。しかし、カイの居場所は、もはやそこにはなかった。 これは、一人の心優しき青年が、大切な仲間たちと穏やかな日常を守るため、やがて伝説の「森の聖者」となる、心温まるスローライフファンタジー。

処理中です...