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第六章 レイン帝国崩壊編

八話 幼女、弥生を鍛える

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「参りました。もう少し、いい勝負が出来ると思ったのですが……」
「そうだな。助言させてもらうなら、折角手数が増えたのに活かせてねぇな」

 容易に木の上から飛び降りたナックは、ワズ大公に頂いた宝剣を肩に担ぎ余った手をアカツキに差し出す。
ナックの手を取り立ち上がったアカツキは、ズボンの埃を払う。

「手数……ですか?」
「あぁ、今のお前には手が六本あるようなもんだ。だが、逃げる避けるに四本も使っている。さっき見た感じだと一本あれば十分に自分の体を持ち上げられる。ならば二本は防御や回避に回し、残った四本を攻撃に回せばいい。さっきの奇襲攻撃も鋭かったしな」

 なるほどと言っていることには納得した表情のアカツキだが、どこか煮えきらないようにナックは思えた。

「他に何かあるのか?」
「いえ……その、この蔦って切られたら痛いのではないかと思って……」
「自分でわからないのか?」
「はい……なので、一度ナックさんに切って貰えないかと」
「お、俺が!? 大丈夫なのか?」

 急に不安げな表情に変わるナック。もし、アカツキと神経が繋がっていれば、その激痛は計り知れない。

「もし、何かあればルスカを呼んで頂ければ大丈夫だと思います。それに知っていると、そうでないとでは攻撃に思い切りが違いますから」

 そうか、いや、しかしと呟きながらナックは決めかねていたが、アカツキはナックの眼前に蔦を一本差し出す。
ナックは宝剣を両手で構えると、一度大きく生唾を飲み込み「いくぞ」と柄を握る力が増す。

 思い切りナックは振りかぶり、縦一文字に斬り降ろす。

 ガキィン‼️ ──とまるで金属同士がぶつかったような音がして、空中に何かが舞い地面へと落ちる。

「いっ!?」
「げっ‼️」

 二人は一瞬同時に驚く。そして──

「うわぁああああっ! こ、これ大丈夫なのですか!?」

 アカツキが叫びナックの顔色が真っ青になり固まっていた。

「ま、不味いよな、これ……」
「多分……。これは、もう元に戻らないかもしれません」

 二人の視線は地面に落ちた物体から動かせずにいた。
キラリと日の光に反射する半ばから折れたナックの宝剣。
ただの剣ならいざ知らず、これはワズ大公に頂いた宝剣である。
ナックは、一度鞘を取りに行き、戻ってくると折れた剣先を鞘に納めたあと、柄の方も鞘へと納める。

「アカツキ……見なかったってことで……」
「はい。私は何も見ていません……」

 そっと宝剣を木に立て掛けて、ナックは何事もなかったように自分の剣を抜剣するのであった。


◇◇◇


 一方、ルスカも弥生を連れて来ていたのは、リンドウの街から少し出た場所にある砂地の平野。

「さぁ、始めるのじゃ」
「ちょ、ちょっと待って。えーっと、セリーちゃんは分かるのだけれども、その子達は?」

 ルスカに弥生、それに手伝って欲しいとルスカに頼まれたセリーに他、子供が三人。ルスカとセリーの友達でもある年長のハリーとユーリとユーキの双子である。

「こんなところで、何するつもりなの? ルスカちゃん」

 手伝って欲しいとは言われたが何をするのか聞いていないセリー達はルスカに注視する。

「なに、簡単じゃ。石がアチコチ落ちているじゃろ。それをヤヨイーに投げつければいいのじゃ」

 ルスカの言葉に一同は唖然とする。弥生もこれには、すぐに反論にかかるが既に半べそであった。

「仕方ないのぉ。説明するのじゃ」
「是非、そうしてよぉ。これじゃ只のイジメだよぉ」

 流石にハリー達もルスカの頼みとはいえ、人に石をぶつけるには抵抗がある。
是非とも納得出来る説明が欲しかった。

 ルスカは、まず弥生のスキル“障壁”の欠点を三つ挙げる。
一つは、魔法に関しては無力なこと。
二つ目は、手元、もしくは近くにしか障壁が張れないこと。
最後に、障壁を一度張って、消して、次に張るまでに時間がかかることを述べた。

「大きくなくていいのじゃ。障壁を何度も張り直しばいいだけじゃ」
「いいだけじゃ……って、そんないきなり──」
「よし。早速始めるのじゃ。皆、石を取れ」

 弥生を囲むようにルスカ達は散らばると、両手に手頃な石を持つ。
まずは見本だと、ルスカが弥生に向けて石を投げつける。
“障壁”と、自分の周囲に咄嗟に障壁を張るとルスカが、すかさず小さな“ストーンバレット”で攻撃した。

「痛っ! ルスカちゃん、魔法は無理だって……」
「誰がそんなに大きく障壁を張れと言ったのじゃ! 大きさは精々手のひら位にするのじゃ。次やったら、本気でストーンバレットお見舞いしてやるからの」

 ルスカは手に残った一個を投げつける。なるべく、小さい障壁を意識して跳ね返すと後頭部にセリーが投げた石がぶつかる。

「遅いのじゃ。防いだら直ぐに消す為には、ギリギリの距離で張るのじゃ。石の攻撃くらいだと、防いだかどうかを確認する必要はないのじゃ。ほれ、次じゃ」

 ハリーが、ユーリが、ユーキが次々に石を弥生に投げつける。たまに、防ぎ損ない当たった場所が腫れたり血を流したりするが、すぐにルスカが魔法で治療する。
傷は治っても痛みは引かない。
涙目になりながらも弥生は、石を必死に防ぎ続けるのであった。

 夕方になりハリー達が帰宅しなければならず、今日はお開きとなる。
また明日手伝ってもらうことをルスカが勝手に約束してしまうと、弥生は地面で大の字でヘトヘトになりながら、頬に涙が流れた。

「ほれ、ヤヨイー。帰るのじゃ」
「はぁ……はぁ…………あ、アカツキくん」

 家の前まで着くと同じように剣を杖代わりにしながら帰宅していたアカツキと、バッタリ出会う。
アカツキと弥生はお互いの顔を見合せながら、思わず頬が緩む。

「アカツキ! お腹空いたのじゃ」

 ルスカは足元がガクガクと震えているアカツキに抱きつくと、屈託のない笑顔を見せる。
鬼のような発言にアカツキは、抱きついたルスカをそのままに家へと入って行く。
弥生も後に続くが、まるで子泣き爺のようにへばりつくルスカを剥がそうともせずにご飯の用意をしようとするアカツキを、拝むのであった。


◇◇◇


 翌日も朝靄がかかる時間からアカツキはナックと、弥生はルスカと鍛え続けた。
意外にも、早くも進展があったのは弥生の方であった。

 初めはルスカだけであったが昼前にはセリー達も合流する。ルスカ一人で石を投げつけていた時は四苦八苦していたが、セリー達が合流してこの日も時間が迫り終わりが見えた頃には、三回に二回は受けきれるようになる。

 この訓練の成果はこれだけではなかった。いくら何でも、石を投げる方も得意な訳ではない。特にセリーなんかは顕著に弥生に当てる所に投げるのも大変である。
当たらない石、そう判断した時は弥生は、無理に障壁を出して防ごうとはしない。自分に当たりそうなものだけを防いでいく。
つまり、攻撃の見極める力がついたことになる。
弥生の段階は次へと進もうとしていた。


◇◇◇


 一方アカツキの方では未だにナックから一本取れずにいた。
決してアカツキが悪い訳ではなく、ナックの調子がアカツキとの訓練の中上がっていっていた。
元々傭兵上がりで剣も自己流であるナックは、アカツキのように蔦を使ったりして変則的な相手と相性が良い、アカツキの腕が上がるほど。

 ナックの足元の地面からアカツキの蔦が飛び出してくると同時に茂みからもう一本が襲う。咄嗟にバックステップで避けたナックは、そのまま勢い良く体を反転させながら剣を薙ぎピタリと止めた。
止まった剣のすぐ側には、大きく剣を振り上げたまま固まっていたアカツキの首が。

「また、俺の勝ちだな」
「何で後ろにいるのに気づくのですか……全く……」

 ニヤリと笑ったナックから一言「勘」と言われてアカツキには珍しく悔しそうに地団駄を踏む有り様であった。
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