追放された幼女(ロリ)賢者は、青年と静かに暮らしたいのに

怪ジーン

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第六章 レイン帝国崩壊編

七話 青年、只今訓練中

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 ナックの叙勲式から数日が経った頃、アカツキに一つの変化が現れる。
それは、背中から伸びるエイルの蔦の数。
当初二本であったものが、四本まで増えていた。

 アカツキは今、それを最大限に利用していた。一つは野菜を刻み、もう一つはフライパンを振るう。アカツキ本人は火の調整をしながら鍋をかき混ぜる。
今まではこれが精一杯だったのが、二本増えたことで一つは裏庭で馬の手入れをしたり洗濯物を干したり、残り一本は部屋の床を拭いていた。

「エイルもまさか、こんな使い方されるとは思っておらんじゃろうな……」
「そうだねぇ。アカツキくんは、時間が短縮されて喜んでいるけど」

 ルスカは皿を並べながら二階から布団を降ろしてきた弥生と、アカツキをずっと見ていた。

「よぉ、邪魔するぜ……って、なんだ!? あ……アカツキか」
「気安く来すぎじゃ、ナック」

 玄関扉をノックもせずに開けて入ってきたナックの足下をアカツキの蔦が雑巾を持って通り抜ける。
ここ数日、ナックはちょくちょくアカツキ達の元を訪れていた。

「今日もサボりですか? 感心しませんねぇ」

 首だけ後ろを向きナックの対応をするアカツキ。布団を干して裏庭から戻ってきた弥生もナックの顔を見て呆れていた。

「そう言うなって……割りと暇なんだよ。いいじゃねぇか」
「領主が暇って、駄目でしょう。リュミエールさんも気苦労が絶えませんね」
「いえ。いつもここに居ますから。もう慣れましたわ」
「いっ!? り、リュミエールいつの間に」

 背後に立っていたリュミエールの顔を見てナックは気まずそうな表情に変わる。
サボりにきたナックをリュミエールが連れ戻す。これが、ここ数日の日課になっていた。

「それで、今日もサボりにきたの、ナック?」
「いやいや、違うからヤヨイー。アカツキ、お前らドラクマにいつ向かうんだ?」
「いつ……とは決めていませんが、そろそろグランツリーには向かおうかと」
「やっぱりな……」

 カツカツカツと、ナックには今までと比べて不似合いな靴の音をさせてアカツキに近づくと、急に胸ぐらを掴みかかる。

「お前ら、俺を置いていくつもりか!」
「お、置いていくって……な、ナックさんはここの領主でしょ……」

 アカツキの方が背丈はあるがナックは腕を目一杯伸ばして片手でアカツキを持ち上げる。
ルスカが、一瞬白樺の杖に手をかけるがナックの言葉を聞いてその手を放した。

「確かに俺は領主だが、その前にお前らの友人だ! これはエルヴィス国王もリュミエールも承知している。だから、結婚ではなく俺は婚約で止めているんだ! それをお前は……絶対ついて行くからな‼️」

 物凄い剣幕のナックにアカツキは、たじろぐ。当初からアカツキの中ではルスカと二人で行く予定であった。
流星やカホ、それに弥生すらも置いていく。
別に足手纏いとかそういうことではなく、アカツキは以前大勢の人に心配をさせてしまった為に、せめて他の人を巻き込みたくないと思っていた。

「アカツキくん……」

 弥生もてっきりナックを連れていくと思っており、アカツキがその気がないのを知ると、自分も置いていかれるのだろうかと不安そうな表情に変わる。

「心配するななのじゃ、ヤヨイー。アカツキがどう言ったとしてもワシが説得してやるのじゃ」
「ルスカ!」
「アカツキの気持ちも分かるがな、それでも馬渕に対しては皆思う所があるはずじゃ」

 弥生は馬渕に麻薬漬けにされた。当時のナックにとって弥生は数少ない大事な友人。流星やカホも麗華のことがある。
誰もが何かしら馬渕に関わっているのだ。
アカツキは、ナックの手を自分の胸ぐらから離すとナックに手を差し出して握手を求める。
ナックと握手を交わすと、次に弥生の元へ行き同じく握手を求めたのであった。

「黙って行くんじゃねぇぞ!」

 ナックはそう言い残すと、リュミエールに首根っこを掴まれ連れて行かれる。

「そうと決まれば、ヤヨイー。お主を鍛えねばの。以前のように動けないままなどなりたくないじゃろ?」

 ルスカは、これ見よがしにニヤリと白い歯を見せて笑って見せる。
内心、弥生は嫌な予感しかしなかった。


◇◇◇


 翌日、アカツキは一人でナックの邸宅を訪れる。庭の手入れをしていたミラージュに軽く挨拶すると、すぐにナックの自室兼執務室へとリュミエールに案内される。

「おいおい。珍しいな、アカツキがサボりか」
「違いますよ。少し相談があって来たのです。一緒にしないでください。随分家事が時間短縮出来るようになったので、もうやることは終えています」
「う、そ、そうか。悪いが書類に目を通さなくてはいけないから、このままでいいなら相談聞くぞ」

 机の上に積み重ねられた書類に目を通す手を休めない。

「それでは遠慮なく……。実は少し鍛えて貰おうかと思いまして」
「剣か? 前にも話をしたが、俺はかなり自己流だ。教えれることなどないぞ?」
「いえ。私もかなり変わった戦法になりそうなので」

 アカツキは背中から四本の蔦をうごめかして見せる。

「なるほどな……。そいつを利用するのか。面白そうだ! すぐに終わらすから待っていてくれ。って、そういやルスカ様や、ヤヨイーはどうした?」

 ナックは本当に目を通しているのかと思わせるくらいに書類を右から左へと動かしていく。

「ルスカも弥生さんを鍛えるって、張り切って朝からどっかに行っちゃいましたよ」
「そうか。……よし! 終わった‼️」

 ナックは立ち上がると机の横に立て掛けている自分の剣を掴み、アカツキの肩を抱いて部屋を出ようとするが、一度立ち止まり扉の横の棚の上にある見事な装飾の剣をジッと見ていた。

「随分と立派な剣ですね」
「うーん、ワズ大公に頂いた物なんだが、どうも立派過ぎてな……まぁ、いいか。こいつも持っていこう」

 複雑な金細工を鞘に施し彩り豊かな宝石が七つ埋め込まれている宝剣を持ち、再びナックは楽しそうにアカツキを邸宅の裏庭へと連れて行く。

「よし、ここでやるか。手加減しないからな」

 浮かれながらアカツキから距離を取ると、ナックはお試しに宝剣を鞘から抜くと、無造作に地面へと鞘を投げ捨てる。

 裏庭と言っても平野部はそれほど広くなく、表の庭の半分もない。しかし、すぐ側には雑木林があり、ここも裏庭の一部となっていた。
アカツキもアイテムボックスから剣を取り出すと、構えることなく切っ先を地面へと向けていた。

「行きます‼️」
「おう!」

 掛け声と共に真っ直ぐナックへと向かうアカツキは、エイルの蔦二本を地面へと突き刺してナックの目の前で飛び上がる。
「うおっと!」と、自分の頭上を飛び越えてきたアカツキが剣を振るってくると、ナックは振り向く勢いで、剣を剣でかち上げた。

 態勢を崩したアカツキに向けて追撃をかけ、そのまま剣を振り下ろすが、蔦一本で雑木林の木に巻きつけて自らの体を強引に雑木林まで引っ張られて剣が躱される。

 すぐに雑木林の中へと追って来たナックに対して、蔦を何度も木に巻きつけて、奥へ奥へと下がって行く。
伊達に蔦を使って家事をしていない。
既に自らの手足と同じ感覚で自由に操る。

「ちっ、待ちやがれ!」

 ナックも負けじと木々を躱しながら、見失わないように後を追う。

「なにぃ!」

 突如木々を縫って鋭く尖った蔦の先端が、真横から飛び出してくる。
驚いたナックは咄嗟に剣の柄を当てて、軌道をずらす。
その一瞬の動きでアカツキの姿を見失ってしまった。

 ナックの背後から地面を這って蔦が迫る。捉えた! そうアカツキは確信したにも関わらず、ひょいっと狙った足を上げることで避けられてしまう。

(あの人ナック、後ろに目でも付いているのですか‼️)

 隠れて見ていたアカツキは、悔しがると同時に懐かしく思う。
それは初めてナックと出会った時。
あの時も、ナックは初見のルスカの魔法に対して対応していた。

「そこかっ!」

 蔦は常にアカツキに繋がっている。つまり、蔦の先にはアカツキがいるということ。
ナックは避けた蔦の後を追いかける。

 見つかった、とアカツキは蔦を木の枝へと巻きつけて、高い木の上へと回避を試みる。
ところが、ナックは木々の間隔が狭くなるほど鬱蒼としたのを利用して、木々を蹴って駆け上がってきた。

「嘘でしょ!? ぐわっ!」

 驚き動きの止まったアカツキを見逃さず、一気に詰め寄り剣を薙ぐと、寸でのところでピタリと止める。
自分の首元に剣が迫りバランスを崩したアカツキは、木の上から落ちてしまった。
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