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第六章 レイン帝国崩壊編
六話 幼女と青年と弥生、穏やかな暮らしの中で
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「今回はパクにやられましたね」
「そうじゃな、ワズ大公やダラスのあの様子をみると、本当に知らされてなかったようじゃ」
式典は波乱で終了し、城の中庭へと出てきたアカツキ達はお互いに顔を見合せ困惑していた。
ゾロゾロと帰宅する貴族や参列者は、アカツキ達の横を通る度にチラチラと見てくる。
「おーい、お前ら。おめでとうさん」
「目出度いのは、お主じゃろうが、ナック」
ニヤニヤと笑いながらアカツキの輪に加わるナック、そしてリュミエール。
今回は皆が驚かされたのだが、どうもナックとリュミエールにはその様子がない。
ナックはいまだにニヤニヤと笑い、リュミエールはこちらに視線を合わせようとしないのだ。
ピンと来た、アカツキとルスカ。
ルスカはナックの脛を白樺の杖で、いきなり振り抜く。
「痛ぇっ! な、何するんだ!?」
「今回のこと、お主ら知っておったじゃろ!」
ギロリと目を剥き睨み付けてくるルスカにナックとリュミエールをそっぽを向いて知らない振りをするのだが、その表情は分かりやすい。
「全く……ナックさんも人が悪いな」
流星もナックの表情からアカツキやルスカの推測は合っているのだと確信すると、一つナックの背中を叩いてみせた。
クリストファーに会いにいく流星とカホ、そして少し用事があるとアイシャとは、ここで別れて、リンドウの街に帰宅するナックと共に馬車に乗り込んだアカツキ達。
アカツキ達を乗せた馬車を城の三階のテラスから見送るワズ大公は、ホッと胸を撫で下ろす。
「ナックに与えた家名のこと、バレなかったな」
フーッと息を吐きワズ大公は、額の汗を拭い城の中へと入っていった。
◇◇◇
ナックの馬車に便乗させてもらいリンドウの街に戻ってアカツキ達は、馬車の止まった場所に驚く。
リンドウの街に似つかわしくない、唯一の豪邸。アイシャがアカツキ達の家を斡旋してくれた時に紹介してくれた邸宅の前であった。
「もしかして、ここがナックの家なの? すごっ」
弥生は目を丸くしながらも、あのナックがここまで立派になったとオカンのように涙を浮かべる。
大袈裟なと耳まで真っ赤なナック。
しかし、驚いた理由はそれではない。アカツキがアイシャに紹介してもらった時、月に金貨一枚の賃貸だと聞いていた。
子爵になったばかりのナックが騙されているのではないかと、心配するアカツキ達。
「はっ? 金貨一枚? 嘘だろ?」
ナックはアカツキ達から話を聞き唖然とする。どうやらそんな話は聞いていなかったようであった。
ただ、エルヴィス国王から直接与えられたのだとナックは言う。
「大丈夫ですよ。この邸宅は今は王国自体の持ち物ですから」
王族らしからぬ一般的な茶色のワンピースに身を包んだリュミエールは、馬車から降りると迷い無く鉄柵状の門扉の鍵を開ける。
「だ、大丈夫なのか、リュミエール」
「ナック様、ご心配要りません。ここの元の持ち主はプレデリス伯爵ですから」
何処かで聞いた名前だと、アカツキ達は首を傾げる。
「ああ、思い出しました。アイシャさんに痴漢行為をしたあの伯爵ですね」
アカツキの言葉でルスカも弥生も思い出す。ナックの騎子爵の叙勲式前にアイシャのお尻を触った人物である。
リュミエールによると、プレデリス伯爵はその後財産を没収されて辺境へと飛ばされたという。
「ですから、この邸宅はナック様のものですわ」
「リュミエールよ、さっきから気になっていたんじゃが、何故“様”を付けるのじゃ? お主ら夫婦になるのじゃろ? それにナックに“様”は大袈裟なのじゃ」
「確かにルスカの言う通りですね。最後のは放っておくとして」
リュミエールは、そう言われましてもとモジモジとスカートを摘まみながらチラチラとナックの方を恥ずかしそうに視線を送る。
「そうそう、ナックもリュミエールさんを、ちゃんと呼び捨てで呼んであげなきゃね」
弥生はナックの背中をぐいっと押してリュミエールの方へと近寄らせる。
「ほれ、リュミエールもじゃ。そうじゃな……リュミエールは呼び捨てじゃないのじゃ。夫婦なのだから“あなた”じゃ、“あなた”」
ナックに近づけようとリュミエールのお尻をぐいぐいと押すルスカ。
二人は顔を赤くして、アカツキに助けを求める視線を送るが、アカツキは視線をわざと合わさないで、気づかぬふりをする。
何故なら、嫌ならばナックの力があれば弥生を振り切れるし、リュミエールもルスカの押す力なんて、強くないはずだ。
元々助ける必要がないのだ。
やがて、お互いに体がくっつく所まで近づく。リュミエールの豊かな胸がルスカによって、押し付けられるとナックの顔はゆでダコのように真っ赤になり、視線が泳ぐ。
「ほらほら、ナック」
「ほれほれ、言うのじゃ」
弥生とルスカはニヤニヤしながら押す力を緩めない。
「あ、あぅ、り、リュミ……エール」
「はい……あ、あな……た」
二人は照れながらたどたどしくも呼び合う。弥生とルスカはニヤニヤとしながら、出番は終わりだと押すのをやめて、アカツキの側へ。
ナックとリュミエールの二人の甘い空間に取り残され、アカツキ達はそのまま家へと退散する。
ただ一人、馬車をしまい戻ってきた事情が分からずにいたミラージュを残して。
◇◇◇
家に戻ってきたアカツキは、すぐに裏庭へ向かうと、馬車に便乗させてもらった為、代わりにナックの部下が馬を持って来てくれていた。
井戸で水汲みを行い、晩御飯の仕度を始めるアカツキ。
「弥生さん、すいませんが洗濯物を取り込んで下さい。ルスカはお皿の用意をお願いします」
弥生とルスカに指示を飛ばし調理にかかろうと火をくべ出すアカツキに、弥生は洗濯物を折り畳む。
既にお皿を並べ終えたルスカは暇そうに椅子に座り足をブラブラさせながら二人の様子を見ていた。
「そう言えば、お主らは結婚せんのじゃ?」
火起こしで息を思い切り吹いてしまったアカツキは、煤が舞いむせ込み、慌てた弥生は折角畳んだ洗濯物を散乱させた。
「い、いきなりどうしたのですか、ルスカ?」
「いや、ナック達や流星達を見て、そう思っただけじゃが」
「は、反対じゃないの? ルスカちゃんは……」
弥生が恐る恐るルスカに問うが、これはアカツキにも牽制している。ルスカの許可が出れば、と。
「しませんよ、ルスカ」
「えっ!? しないの!?」
アカツキに牽制をする前に右ストレートを食らう弥生。既に目には涙が浮かび泣きそうである。
アカツキは、言葉足らずだったかと、すぐに弥生を椅子に座らせて一度点けた火種を消し自分も椅子に座る。
いつになく真剣な表情に変わったアカツキを見て弥生も涙を必死に止める。
「すいません、弥生さん。言葉が足りなかったようで。しないと言ったのは、“今は”と言うことです。それは私の呪いがあるからです。もし馬渕が見つからず、このままだと私は生きる屍となり身動きも意識も失います。全ては終わってから、ということです」
「なんじゃ、そういうことか。良かったの、ヤヨイー」
「うん……うん!」
嬉し涙かホッとして涙腺が緩んだのかは分からないが、弥生の目尻からは涙が止めどなく溢れていた。
「そうと決まれば、とっとと準備してドラクマに乗り込まねばの!」
ルスカがやる気を出し拳を天へと突き上げると、弥生も同じく「おーっ!」と掛け声と共に突き上げる。
緊張感が感じられない二人ではあったが、アカツキにとって、何時、呪いが再発するか分からない不安を取り除いてくれる雰囲気が好きで、二人に向かって優しく微笑むのであった。
「そうじゃな、ワズ大公やダラスのあの様子をみると、本当に知らされてなかったようじゃ」
式典は波乱で終了し、城の中庭へと出てきたアカツキ達はお互いに顔を見合せ困惑していた。
ゾロゾロと帰宅する貴族や参列者は、アカツキ達の横を通る度にチラチラと見てくる。
「おーい、お前ら。おめでとうさん」
「目出度いのは、お主じゃろうが、ナック」
ニヤニヤと笑いながらアカツキの輪に加わるナック、そしてリュミエール。
今回は皆が驚かされたのだが、どうもナックとリュミエールにはその様子がない。
ナックはいまだにニヤニヤと笑い、リュミエールはこちらに視線を合わせようとしないのだ。
ピンと来た、アカツキとルスカ。
ルスカはナックの脛を白樺の杖で、いきなり振り抜く。
「痛ぇっ! な、何するんだ!?」
「今回のこと、お主ら知っておったじゃろ!」
ギロリと目を剥き睨み付けてくるルスカにナックとリュミエールをそっぽを向いて知らない振りをするのだが、その表情は分かりやすい。
「全く……ナックさんも人が悪いな」
流星もナックの表情からアカツキやルスカの推測は合っているのだと確信すると、一つナックの背中を叩いてみせた。
クリストファーに会いにいく流星とカホ、そして少し用事があるとアイシャとは、ここで別れて、リンドウの街に帰宅するナックと共に馬車に乗り込んだアカツキ達。
アカツキ達を乗せた馬車を城の三階のテラスから見送るワズ大公は、ホッと胸を撫で下ろす。
「ナックに与えた家名のこと、バレなかったな」
フーッと息を吐きワズ大公は、額の汗を拭い城の中へと入っていった。
◇◇◇
ナックの馬車に便乗させてもらいリンドウの街に戻ってアカツキ達は、馬車の止まった場所に驚く。
リンドウの街に似つかわしくない、唯一の豪邸。アイシャがアカツキ達の家を斡旋してくれた時に紹介してくれた邸宅の前であった。
「もしかして、ここがナックの家なの? すごっ」
弥生は目を丸くしながらも、あのナックがここまで立派になったとオカンのように涙を浮かべる。
大袈裟なと耳まで真っ赤なナック。
しかし、驚いた理由はそれではない。アカツキがアイシャに紹介してもらった時、月に金貨一枚の賃貸だと聞いていた。
子爵になったばかりのナックが騙されているのではないかと、心配するアカツキ達。
「はっ? 金貨一枚? 嘘だろ?」
ナックはアカツキ達から話を聞き唖然とする。どうやらそんな話は聞いていなかったようであった。
ただ、エルヴィス国王から直接与えられたのだとナックは言う。
「大丈夫ですよ。この邸宅は今は王国自体の持ち物ですから」
王族らしからぬ一般的な茶色のワンピースに身を包んだリュミエールは、馬車から降りると迷い無く鉄柵状の門扉の鍵を開ける。
「だ、大丈夫なのか、リュミエール」
「ナック様、ご心配要りません。ここの元の持ち主はプレデリス伯爵ですから」
何処かで聞いた名前だと、アカツキ達は首を傾げる。
「ああ、思い出しました。アイシャさんに痴漢行為をしたあの伯爵ですね」
アカツキの言葉でルスカも弥生も思い出す。ナックの騎子爵の叙勲式前にアイシャのお尻を触った人物である。
リュミエールによると、プレデリス伯爵はその後財産を没収されて辺境へと飛ばされたという。
「ですから、この邸宅はナック様のものですわ」
「リュミエールよ、さっきから気になっていたんじゃが、何故“様”を付けるのじゃ? お主ら夫婦になるのじゃろ? それにナックに“様”は大袈裟なのじゃ」
「確かにルスカの言う通りですね。最後のは放っておくとして」
リュミエールは、そう言われましてもとモジモジとスカートを摘まみながらチラチラとナックの方を恥ずかしそうに視線を送る。
「そうそう、ナックもリュミエールさんを、ちゃんと呼び捨てで呼んであげなきゃね」
弥生はナックの背中をぐいっと押してリュミエールの方へと近寄らせる。
「ほれ、リュミエールもじゃ。そうじゃな……リュミエールは呼び捨てじゃないのじゃ。夫婦なのだから“あなた”じゃ、“あなた”」
ナックに近づけようとリュミエールのお尻をぐいぐいと押すルスカ。
二人は顔を赤くして、アカツキに助けを求める視線を送るが、アカツキは視線をわざと合わさないで、気づかぬふりをする。
何故なら、嫌ならばナックの力があれば弥生を振り切れるし、リュミエールもルスカの押す力なんて、強くないはずだ。
元々助ける必要がないのだ。
やがて、お互いに体がくっつく所まで近づく。リュミエールの豊かな胸がルスカによって、押し付けられるとナックの顔はゆでダコのように真っ赤になり、視線が泳ぐ。
「ほらほら、ナック」
「ほれほれ、言うのじゃ」
弥生とルスカはニヤニヤしながら押す力を緩めない。
「あ、あぅ、り、リュミ……エール」
「はい……あ、あな……た」
二人は照れながらたどたどしくも呼び合う。弥生とルスカはニヤニヤとしながら、出番は終わりだと押すのをやめて、アカツキの側へ。
ナックとリュミエールの二人の甘い空間に取り残され、アカツキ達はそのまま家へと退散する。
ただ一人、馬車をしまい戻ってきた事情が分からずにいたミラージュを残して。
◇◇◇
家に戻ってきたアカツキは、すぐに裏庭へ向かうと、馬車に便乗させてもらった為、代わりにナックの部下が馬を持って来てくれていた。
井戸で水汲みを行い、晩御飯の仕度を始めるアカツキ。
「弥生さん、すいませんが洗濯物を取り込んで下さい。ルスカはお皿の用意をお願いします」
弥生とルスカに指示を飛ばし調理にかかろうと火をくべ出すアカツキに、弥生は洗濯物を折り畳む。
既にお皿を並べ終えたルスカは暇そうに椅子に座り足をブラブラさせながら二人の様子を見ていた。
「そう言えば、お主らは結婚せんのじゃ?」
火起こしで息を思い切り吹いてしまったアカツキは、煤が舞いむせ込み、慌てた弥生は折角畳んだ洗濯物を散乱させた。
「い、いきなりどうしたのですか、ルスカ?」
「いや、ナック達や流星達を見て、そう思っただけじゃが」
「は、反対じゃないの? ルスカちゃんは……」
弥生が恐る恐るルスカに問うが、これはアカツキにも牽制している。ルスカの許可が出れば、と。
「しませんよ、ルスカ」
「えっ!? しないの!?」
アカツキに牽制をする前に右ストレートを食らう弥生。既に目には涙が浮かび泣きそうである。
アカツキは、言葉足らずだったかと、すぐに弥生を椅子に座らせて一度点けた火種を消し自分も椅子に座る。
いつになく真剣な表情に変わったアカツキを見て弥生も涙を必死に止める。
「すいません、弥生さん。言葉が足りなかったようで。しないと言ったのは、“今は”と言うことです。それは私の呪いがあるからです。もし馬渕が見つからず、このままだと私は生きる屍となり身動きも意識も失います。全ては終わってから、ということです」
「なんじゃ、そういうことか。良かったの、ヤヨイー」
「うん……うん!」
嬉し涙かホッとして涙腺が緩んだのかは分からないが、弥生の目尻からは涙が止めどなく溢れていた。
「そうと決まれば、とっとと準備してドラクマに乗り込まねばの!」
ルスカがやる気を出し拳を天へと突き上げると、弥生も同じく「おーっ!」と掛け声と共に突き上げる。
緊張感が感じられない二人ではあったが、アカツキにとって、何時、呪いが再発するか分からない不安を取り除いてくれる雰囲気が好きで、二人に向かって優しく微笑むのであった。
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