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最終章
六話 馬渕、降り立つ
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「今です‼️」
好機と見たアカツキは、アスモデスの腕を捉えていた蔦を外すと、開いた風穴に向けて伸ばしていく。
四本の蔦を螺旋状に絡ませて、アスモデスの肩に空いた風穴に突っ込むと穴を再生させないように螺旋をほどき、閉じないように内側から抑え込む。
「ルスカ、行ってください!」
「任せるのじゃ‼️」
伸びる蔦の上にピョンと飛び乗ると、ルスカは蔦の上を素早く跳ぶように駆け上がっていく。
“闇の聖霊よ あまねく外界を蠢く影よ 我が形となれ 我が声となれ エンシャドーダブル”
再びルスカの影が三つに別れるとルスカを型どった影が二つ起き上がり並走する。
しかし、そこに自由になったアスモデスの腕が襲いかかってくる。
「届いて! “障壁”‼️」
ルスカと違ってアカツキの蔦に必死に四つん這いでしがみつきながら登る弥生は、目一杯手を伸ばしてルスカを障壁で守る。
「痛っ! ……ったたた」
ルスカを守った後、蔦から滑るように地面へと落ちた弥生は、アカツキの目の前にぶつけたお尻を擦りながら差し出す。
「だ、大丈夫ですか?」
「ムリ……絶対割れた……」
緊張感漂う中、二人には余裕が見えていた。ルスカなら何とかしてくれる、いや、絶対してくれるという信頼感が余裕を生じさせる。
出会って、まだ一年も経っていないがその信頼感は、仲間というより、まるで親が子を見守る信頼感に近いものがあった。
二人の暖かい目に見送られルスカは、肩の穴の中へと飛び込む。
「これで終わりじゃ‼️」
“光の聖霊よ 闇を食らいし魂よ 我と汝らの力をもって 大いなる道を築かん 全てを噛み砕く愚かな牙を シャインバースト‼️”
“光の聖霊よ 闇を食らいし魂よ 我と汝らの力をもって 大いなる道を築かん 全てを噛み砕く愚かな牙を シャインバースト‼️”
“光の聖霊よ 闇を食らいし魂よ 我と汝らの力をもって 大いなる道を築かん 全てを噛み砕く愚かな牙を シャインバースト‼️”
三人のルスカの手から白い光が放たれる。三つの白い光は一つとなり眩い輝きが穴の内側から広がっていく。
手元に戻していくアカツキの蔦の上を滑り落ちながらルスカは、手足を目一杯広げてアカツキの顔へと飛び込んだ。
眩い光にアスモデスの体は包まれていく……。
顔に張り付いたルスカをひっぺ剥がし、アカツキは光の中に映るアスモデスの影を見る。魔法を反射されないか不安ではあったが、アスモデスの影はその形を光の中で崩れていくのが見えた。
広がりきった光が収縮すると共にアスモデスの影が吸い込まれていく……。
「グゥアアアアアッ……あ、アドメ……ラぁぁぁルクぅぅぅっ!」
アスモデスの断末魔が、光の中へと吸い込まれていく。
父を殺し、母を殺したアスモデスは、最期まで父親であるアドメラルクの幻影に囚われ続けていたのかもしれない。
暴れていたのも、幻影の中でアドメラルクを追いかけ続けた結果だったのだろう。
光が収縮して消えると、その場には何も残っていなかった。
全てが終わったのだと、満面の笑みを見せリュミエールやセリーが駆け寄ってくる。
いまだに、打ち付けたお尻を擦りながら、弥生もアカツキとルスカの元に向かう。
ルスカも疲れ果てたのか、ぐったりとしながらアカツキの腕に抱き抱えられていた。
「終わりましたね、ルスカ」
「…………」
「ルスカ?」
返事がなくへばった表情のルスカを見ると、懸命に何か喋ろうと口をパクパクと動かしている。
何を話そうとしているのか、アカツキは耳を傾ける。
「……う、上……上じゃ……う、うえを見……ろ」
「上?」
か細く消え入りそうな声で、ルスカは懸命に口を動かす。ルスカの言った通りに上へと首を向けるアカツキは、一瞬目を疑った。
上空からアカツキ達に向かって人が落ちてきたのだ。
咄嗟に自分達に向かってくるセリー達や弥生に向けて蔦を伸ばして、払い除ける。
それと同時に自分もルスカを抱えて後方へ飛び退く。
「ぐうっっ‼️」
突然のことに弥生達を払い除けるので精一杯だったアカツキは、飛び退いたことで衝撃は緩和したものの、丘の斜面を滑っていく。
衝撃音と立ち上る土煙。土煙が収まり現れたのは、不敵に笑う馬渕であった。
馬渕の姿を見るなりこめかみに青筋を立てて、怒りの表情で向かっていくアカツキ。怒りに任せて蔦を使うことなく、剣を振り回すアカツキに対して、不敵に口元を吊り上げながら躱す馬渕。
余裕を見せる表情に更に怒りのボルテージを上げていく。
「あなたが! あなたが、あの改造魔族をけしかけたのですか!? あなたが、レイン帝国を‼️」
「あん? けしかけてねぇよ。アスモデスが勝手にやったことだ。まぁ、此方に持って来たのは俺だがな。くくく……」
右へ左へ剣を振るうアカツキに合わせて、ほぼ、その場所から動かずに上体のみで躱す馬渕は飽きてきたのか、一つ小さくため息を吐くと自分の刀の柄に手をかけた。
「死ね」
ニヤリと口角を吊り上げていき、目をカッと見開くと刀を抜き放つ。
“障壁!”
弥生は、アカツキと馬渕の間に光の壁を作り薙ぎ払う馬渕の刀を、一瞬だけ防ぐのに成功すると、その身を投げ出してアカツキの腰へタックルして飛び込んだ。
「落ち着いて、アカツキくん!」
アカツキの頬を強く叩いて挟み込む。アカツキの頬を挟む暖かい両の手のひらからは、プルプルと小さく震えていた。
「や、弥生さん」
馬渕にしか目に入っていなかったアカツキの視界に弥生が映る。ようやく、落ち着きを取り戻したアカツキは、弥生の背後に迫る馬渕の姿が見えた。
一気に詰め寄ってきた馬渕に、地面を通り抜け下から突き上がってきた四本の蔦に馬渕は、一度退く。
「弥生さん、ありがとうございます。これを、ルスカに」
アカツキの横の空間に亀裂が入ると腕を入れ取り出したのは、回復薬の入った小瓶。それを弥生に渡すと、アカツキは俄然と馬渕に立ち向かっていく。
今度は冷静に、背中から伸びる蔦で牽制しながら。
馬渕の姿を見ただけで、今も足が震える弥生は、勇気を振り絞り小瓶を大事そうに持ちルスカの元へ。
馬渕の危険性は、弥生もよくわかっている。
それにアカツキは、いつ呪いが再発して動けなくなるか分からない。
「ルスカちゃん、これを……」
ルスカの元へ辿り着くと、そこにはルスカの身を案じたリュミエールやゴッツォ、セリーの姿も。
「……は、離れ……るの……じゃ」
「えっ!?」
その瞬間、弥生の右頬に猛烈な痛みが走る。坂道を滑り落ちていく弥生が、蹴られたと気づいたのは、ルスカの側に立つリリスの姿が見えた時であった。
「邪魔するなら、死んでもらうけど?」
ルスカの前に手を目一杯広げて立ちはだかるセリーに、リュミエール。その二人を守るべくゴッツォは更に前に立ち塞がった。
「はぁ……そんなに死に急ぎたいのね。マブチ様は、貴方達みたいな虫けらに用は無いから、殺されずにすむかもしれないのに……」
「嫌ですぅ! ルスカちゃんは、親友なんですぅ! 退きません!」
「彼女は、弟の命の恩人! それにここで死なせてしまっては、ナックに顔向け出来ないわ!」
「娘と娘の親友だ! 俺が命を賭けるには充分過ぎる理由だ!」
三者三様、言いたいことを言い、その眼は一歩も引かないと訴えていた。
リリスは、半ば呆れながらゴッツォの腹に横蹴りを食らわし、うずくまる横を通り抜けセリーの腕を力一杯掴むと一瞬でセ背中に回し、ゴキンと鈍い音が鳴る。
「ああああああぁぁぁぁっ‼️」
「せ、セリー‼️」
悲鳴を上げて眼からボロボロと涙を溢すセリー。肩か肘か、それは判らないがセリーは苦悶の表情を見せていた。
「ほらほら。どうたんだい? さっきの意気込みは?」
馬渕と同じように不敵な笑みを見せるリリス。
その時──リリスやリュミエール達の耳に馬の嘶きが届いたのであった。
好機と見たアカツキは、アスモデスの腕を捉えていた蔦を外すと、開いた風穴に向けて伸ばしていく。
四本の蔦を螺旋状に絡ませて、アスモデスの肩に空いた風穴に突っ込むと穴を再生させないように螺旋をほどき、閉じないように内側から抑え込む。
「ルスカ、行ってください!」
「任せるのじゃ‼️」
伸びる蔦の上にピョンと飛び乗ると、ルスカは蔦の上を素早く跳ぶように駆け上がっていく。
“闇の聖霊よ あまねく外界を蠢く影よ 我が形となれ 我が声となれ エンシャドーダブル”
再びルスカの影が三つに別れるとルスカを型どった影が二つ起き上がり並走する。
しかし、そこに自由になったアスモデスの腕が襲いかかってくる。
「届いて! “障壁”‼️」
ルスカと違ってアカツキの蔦に必死に四つん這いでしがみつきながら登る弥生は、目一杯手を伸ばしてルスカを障壁で守る。
「痛っ! ……ったたた」
ルスカを守った後、蔦から滑るように地面へと落ちた弥生は、アカツキの目の前にぶつけたお尻を擦りながら差し出す。
「だ、大丈夫ですか?」
「ムリ……絶対割れた……」
緊張感漂う中、二人には余裕が見えていた。ルスカなら何とかしてくれる、いや、絶対してくれるという信頼感が余裕を生じさせる。
出会って、まだ一年も経っていないがその信頼感は、仲間というより、まるで親が子を見守る信頼感に近いものがあった。
二人の暖かい目に見送られルスカは、肩の穴の中へと飛び込む。
「これで終わりじゃ‼️」
“光の聖霊よ 闇を食らいし魂よ 我と汝らの力をもって 大いなる道を築かん 全てを噛み砕く愚かな牙を シャインバースト‼️”
“光の聖霊よ 闇を食らいし魂よ 我と汝らの力をもって 大いなる道を築かん 全てを噛み砕く愚かな牙を シャインバースト‼️”
“光の聖霊よ 闇を食らいし魂よ 我と汝らの力をもって 大いなる道を築かん 全てを噛み砕く愚かな牙を シャインバースト‼️”
三人のルスカの手から白い光が放たれる。三つの白い光は一つとなり眩い輝きが穴の内側から広がっていく。
手元に戻していくアカツキの蔦の上を滑り落ちながらルスカは、手足を目一杯広げてアカツキの顔へと飛び込んだ。
眩い光にアスモデスの体は包まれていく……。
顔に張り付いたルスカをひっぺ剥がし、アカツキは光の中に映るアスモデスの影を見る。魔法を反射されないか不安ではあったが、アスモデスの影はその形を光の中で崩れていくのが見えた。
広がりきった光が収縮すると共にアスモデスの影が吸い込まれていく……。
「グゥアアアアアッ……あ、アドメ……ラぁぁぁルクぅぅぅっ!」
アスモデスの断末魔が、光の中へと吸い込まれていく。
父を殺し、母を殺したアスモデスは、最期まで父親であるアドメラルクの幻影に囚われ続けていたのかもしれない。
暴れていたのも、幻影の中でアドメラルクを追いかけ続けた結果だったのだろう。
光が収縮して消えると、その場には何も残っていなかった。
全てが終わったのだと、満面の笑みを見せリュミエールやセリーが駆け寄ってくる。
いまだに、打ち付けたお尻を擦りながら、弥生もアカツキとルスカの元に向かう。
ルスカも疲れ果てたのか、ぐったりとしながらアカツキの腕に抱き抱えられていた。
「終わりましたね、ルスカ」
「…………」
「ルスカ?」
返事がなくへばった表情のルスカを見ると、懸命に何か喋ろうと口をパクパクと動かしている。
何を話そうとしているのか、アカツキは耳を傾ける。
「……う、上……上じゃ……う、うえを見……ろ」
「上?」
か細く消え入りそうな声で、ルスカは懸命に口を動かす。ルスカの言った通りに上へと首を向けるアカツキは、一瞬目を疑った。
上空からアカツキ達に向かって人が落ちてきたのだ。
咄嗟に自分達に向かってくるセリー達や弥生に向けて蔦を伸ばして、払い除ける。
それと同時に自分もルスカを抱えて後方へ飛び退く。
「ぐうっっ‼️」
突然のことに弥生達を払い除けるので精一杯だったアカツキは、飛び退いたことで衝撃は緩和したものの、丘の斜面を滑っていく。
衝撃音と立ち上る土煙。土煙が収まり現れたのは、不敵に笑う馬渕であった。
馬渕の姿を見るなりこめかみに青筋を立てて、怒りの表情で向かっていくアカツキ。怒りに任せて蔦を使うことなく、剣を振り回すアカツキに対して、不敵に口元を吊り上げながら躱す馬渕。
余裕を見せる表情に更に怒りのボルテージを上げていく。
「あなたが! あなたが、あの改造魔族をけしかけたのですか!? あなたが、レイン帝国を‼️」
「あん? けしかけてねぇよ。アスモデスが勝手にやったことだ。まぁ、此方に持って来たのは俺だがな。くくく……」
右へ左へ剣を振るうアカツキに合わせて、ほぼ、その場所から動かずに上体のみで躱す馬渕は飽きてきたのか、一つ小さくため息を吐くと自分の刀の柄に手をかけた。
「死ね」
ニヤリと口角を吊り上げていき、目をカッと見開くと刀を抜き放つ。
“障壁!”
弥生は、アカツキと馬渕の間に光の壁を作り薙ぎ払う馬渕の刀を、一瞬だけ防ぐのに成功すると、その身を投げ出してアカツキの腰へタックルして飛び込んだ。
「落ち着いて、アカツキくん!」
アカツキの頬を強く叩いて挟み込む。アカツキの頬を挟む暖かい両の手のひらからは、プルプルと小さく震えていた。
「や、弥生さん」
馬渕にしか目に入っていなかったアカツキの視界に弥生が映る。ようやく、落ち着きを取り戻したアカツキは、弥生の背後に迫る馬渕の姿が見えた。
一気に詰め寄ってきた馬渕に、地面を通り抜け下から突き上がってきた四本の蔦に馬渕は、一度退く。
「弥生さん、ありがとうございます。これを、ルスカに」
アカツキの横の空間に亀裂が入ると腕を入れ取り出したのは、回復薬の入った小瓶。それを弥生に渡すと、アカツキは俄然と馬渕に立ち向かっていく。
今度は冷静に、背中から伸びる蔦で牽制しながら。
馬渕の姿を見ただけで、今も足が震える弥生は、勇気を振り絞り小瓶を大事そうに持ちルスカの元へ。
馬渕の危険性は、弥生もよくわかっている。
それにアカツキは、いつ呪いが再発して動けなくなるか分からない。
「ルスカちゃん、これを……」
ルスカの元へ辿り着くと、そこにはルスカの身を案じたリュミエールやゴッツォ、セリーの姿も。
「……は、離れ……るの……じゃ」
「えっ!?」
その瞬間、弥生の右頬に猛烈な痛みが走る。坂道を滑り落ちていく弥生が、蹴られたと気づいたのは、ルスカの側に立つリリスの姿が見えた時であった。
「邪魔するなら、死んでもらうけど?」
ルスカの前に手を目一杯広げて立ちはだかるセリーに、リュミエール。その二人を守るべくゴッツォは更に前に立ち塞がった。
「はぁ……そんなに死に急ぎたいのね。マブチ様は、貴方達みたいな虫けらに用は無いから、殺されずにすむかもしれないのに……」
「嫌ですぅ! ルスカちゃんは、親友なんですぅ! 退きません!」
「彼女は、弟の命の恩人! それにここで死なせてしまっては、ナックに顔向け出来ないわ!」
「娘と娘の親友だ! 俺が命を賭けるには充分過ぎる理由だ!」
三者三様、言いたいことを言い、その眼は一歩も引かないと訴えていた。
リリスは、半ば呆れながらゴッツォの腹に横蹴りを食らわし、うずくまる横を通り抜けセリーの腕を力一杯掴むと一瞬でセ背中に回し、ゴキンと鈍い音が鳴る。
「ああああああぁぁぁぁっ‼️」
「せ、セリー‼️」
悲鳴を上げて眼からボロボロと涙を溢すセリー。肩か肘か、それは判らないがセリーは苦悶の表情を見せていた。
「ほらほら。どうたんだい? さっきの意気込みは?」
馬渕と同じように不敵な笑みを見せるリリス。
その時──リリスやリュミエール達の耳に馬の嘶きが届いたのであった。
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