追放された幼女(ロリ)賢者は、青年と静かに暮らしたいのに

怪ジーン

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最終章

十五話 馬渕、人を超える

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 弥生がアカツキの復活を祈っているその頃。
馬渕と相対していたルスカは攻めあぐねていた。

 どれだけ傷付けても、すぐに再生してしまう馬渕。馬渕を倒すには、どうしても一撃で消滅させるしか手段が浮かばなかった。

(方法は無くはないんじゃが……如何せん、時間が……)

 ルスカはチラリとアカツキ達の様子を見ると、再び視線を馬渕へと向けて覚悟を決める。
その身に宿る者の力の二段階目の解放。

(が出てしまうと、マブチを倒すどころか世界が滅びかねんしの。何とか途中で──)

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァ……!」

 奇声を上げて、力を振り絞り出すルスカ。今は服が破れるからと脱いでいる余裕はない。ルスカの体が浮き上がり地面と結ぶ複数の鎖が服を突き破って体から伸びると、すかさずルスカは一本を掴む。

 躊躇うことなく、鎖を引きちぎる。残された鎖は三本。

「ヴゥゥゥ……ガァアアアアーーッ‼️」

 ルスカの様に幼い声ではない、野太く鈍い重低音を響かせる声で叫ぶと、渦巻く黒い魔力が一層ルスカを中心として拡大していく。
徐々にルスカの肌は浅黒く変貌し、目は瞳と同じ緋色に染まる。

 そしてルスカは続いて三本目の鎖に手をかける。

 そんなルスカを馬渕は腕を組み静観していた。別にルスカの全力を引き出したいとか、そんな理由ではなく、ただ見極めるつもりであった。
ルスカではなく、ルスカの

 馬渕の興味は、その一点だけであった。いずれ自分がその力を手に入れるために。三本目に手をかけた事で、馬渕はほくそ笑む。

 ところが、ルスカは、三本目の鎖から手を離したり、再び掴んだりと、なかなか引きちぎろうとしない。
それどころか、浅黒くなった肌に映える緋色の目は、苦悶の表情さえ浮かべていた。

「くく……どうやら二本目までは、意識を保てているようだな」

 馬渕は今後この力を手に入れた時の事を考えていた。殺してしまうと不味いか、自分に移植してしまうか、それならば再びレプテルの書が必要になるかもな、と。

 そして馬渕の考えは正しかった。今、ルスカの中では、ルスカとルスカの中の者の意識がせめぎ合っていた。

「グゥウウウッ……」

 周囲に拡がった魔力の渦が収縮していくと、ルスカは鎖から手を離して地面に降り立つ。
フーッフーッと、肩で息をしながら、ルスカは顔を上げて馬渕を睨む。

「なんだ、負けたのか。お前の中の奴も大したことはないな」
「ふーっ……ワシの事をレプテルの書で調べたのか?」
「あぁ。でもガッカリだ。その程度とは思わなかったよ。何だっけ“喰らうもの”だっけか? 名前負けだな。そんなものにビビっている神々ってのも大したことねぇな」

 腹を抱えて笑う馬渕を、ルスカは睨み続ける。

「なんだ、怒ったのか? 神々を馬鹿にされて」

 あざける馬渕の表情にも、ルスカは動じずに淡々と答える。

「別に顔も知らぬ神など、どうでもよいのじゃ。ただワシのアカツキを傷付けたお主が許せぬだけなのじゃ!」
「くく……やれるものなら、やってみるんだな!」

 口を大きく開けて笑いながら馬渕は、一気にルスカの懐へ。そして拳を振り下ろす。
ルスカは体から一気に魔力の渦が噴き出して迎え撃つ。
どす黒い魔力に触れた振り下ろした拳から馬渕の身体を侵食していく。
皮は剥がれて肉が散り、骨は粉々になっていく馬渕の体。

 しかし、馬渕から笑みが消えることはなく、魔力の渦が馬渕の顔ギリギリまで迫った時、ルスカは後方へ弾き跳ばされる。

 転がるルスカはすぐに立ち上がり、馬渕の姿を確認すると、そこには全く無傷の姿。左目の虚空の穴が、その笑みを余計に不気味にさせていた。

「な、なんなのじゃ、こやつは!?」

 馬渕は、ルスカの持つ“人”というものの認識を変えていた。

 他人の痛みを知らず、自分の痛みすら認識しない存在。“人”として何かが欠如したような、もしくはこれが“人”として完成した姿なのか。
未知な存在にルスカは、馬渕を人ではなく、一種の化け物として捉え始めていた。

「どうした、ボーッとして。次の段階に行かねぇのか? ならば、お前の中の物をよこせ!」

 馬渕は再びルスカの懐に飛び込むと、両拳で殴り続ける。
魔力の渦が馬渕の腕を蝕むも、気付けば再生しておりルスカは両腕で防ぐのが精一杯と、劣勢を強いられる。

「くく……どうやら、俺の再生の方が早ぇみてぇだな‼️ ホラ、ホラ、ホラッ!」
「あまり調子に乗るなよ!」

 ルスカは、横っ飛びで馬渕と距離を取ると“ストーンバレット”を唱える。
大岩が弾丸となり馬渕へ迫るが、自分の拳をぶつけて破壊してしまう。

「チッ! 化け物め!」

 常に距離を取り続けて“ストーンバレット”を連射するも、悉く破壊されていく。

“光の聖霊よ 闇を食らいし魂よ 我と汝らの力をもって 大いなる道を築かん 全てを噛み砕く愚かな牙を シャインバースト!”

 両手を向けて、手のひらの前に白銀の光が集まり光の玉となって飛んでいく。
その大きさは、馬渕の体を丸飲みするほどの大きさ。

 流石に横に飛び退いて回避するも、足は光の玉へ飲み込まれる。
受け身を取り、立ち上がった馬渕の足は、既に再生を終えていた。

「厄介なやつじゃ」

 手数もダメ、一撃必殺も躱された。ルスカに残された手は、本当に少なくなってきていた。
再びルスカの周囲に、どす黒い魔力が噴き荒れ、ルスカの魔力が上がっていく。

「ふんっ!」

 魔力の高まりを感じた馬渕は、人とは思えない跳躍力で高く飛び上がると、そのままルスカの元へと落ちていく。
嫌な予感を感じたルスカは、後方へ飛び退いて躱しにかかる。
ルスカに向けられた馬渕の拳は、空を切りそのまま地面へと突き刺さった。

 丘周辺が揺れ始め、突き刺さった拳から地面に亀裂が入ると、割れた地面が飛び散っていく。
人としてあり得ない力に、ルスカの表情は一変する。
今のルスカでも直撃を食らえば、只では済まないレベルであった。

 今まで馬渕と対峙していたナック達は、馬渕がルスカに集中している間に、リュミエールやワズ大公に助けられて、薄れる意識の中、動向を見守っていたが、その圧倒的なパワーに、自分達は完全に遊ばれていたのだと思いしる。

「あり得ぬ……最早お主は人としての存在を越え──まさか! お主、神に挑むつもりなのか」
「あん? そんなつもりはねぇよ。ただな、俺が今からやることに神ってのが邪魔をしかねないからな。邪魔をしようにも出来ないレベルまで上がるつもりなだけさ」

 一体馬渕は、何を成そうというのか。この場にいる誰もが、その答えを持ち合わせていなかった。
想像以上の馬渕の思惑にルスカは唖然としてしまう。
そして、馬渕がその一瞬の隙を見逃すはずはなかった。

 我に返った時、馬渕は目の前にまで迫ってきており、ルスカはほんの刹那動き出しが遅れてしまった。
そして、馬渕の拳がルスカに届く距離に迫り、振り抜いた拳は、僅か二十センチ手前で止まった。

 ルスカの視界には、緑黄色の複数の植物の蔦が絡み合い壁となって立ち塞がっていたのが飛び込んできていた。

 忌々しい顔に変わる馬渕とは対照的に、ルスカの顔は晴れ渡る。
馬渕の事をこの時ばかりは忘れて振り返ると、そこには涙を流して笑う弥生と、弥生の隣に支えられる事もなく自力で立つアカツキの姿があった。
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