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第三章 ローレライの負の遺産編
七話 アルステル領、全滅
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「イヤァアアアアアッ!! フウカあぁぁぁぁっ!!!!」
街が阿鼻叫喚に包まれる中、一際大きな悲鳴を上げた弥生。ショックでスキル“障壁”すら出せる余裕はなかった。
歯抜けの男の剣が、宙に浮かしたフウカ目掛けて飛んでいく様を、引き返して来たナックやアイシャも目にする。
誰もが、助からない──そう思い全員が目を背けた。
「な、なんじゃこりゃあ!」
歯抜けの男が間抜けな声を出し、皆は恐る恐る目を向けた。
そこにはフウカの姿はなく、緑色の球体が歯抜けの男の剣とぶつかっているところであった。
球体というよりも、弥生たちが見覚えのある植物の蔦が絡み合い球状になっていたのだ。
「くそっ! ヤヨイー、その球を拾え!」
ナックは歯抜けの男に向かって剣を投げつけると、真っ直ぐ背中に深く突き刺さる。
ポンポンと毬のように地面を弾んで転がる球を弥生は追いかけた。
地面を滑るように飛び付いた弥生は、ようやく緑色の球を掴んだ。
「フウカ、フウカあ!」
弥生は蔦を外そうとするが、複雑に絡まりあって外せない。ナック達も追い付きナイフなどの刃物で斬ろうとするが、全く歯が立たない。
「ナックさん、ここは危険です! 移動してからにしましょう。ヤヨイーさんも、カホさんも! 大丈夫ですよ、それはアカツキさんと同じエイルの蔦ですよね。フウカちゃんに被害を与えるとは思えません」
アイシャの言葉も一理あったが、気になるのは、こうも密閉していると空気の問題が出てくる。フウカの意思に関わらず出たのであれば、エイルが関与している事が弥生の頭には浮かんだ。
神獣エイル──死を司る。
つまりエイル自身が、ある意味死に最も縁遠い。
空気が無いと死んでしまう、その考えに至るかどうかが不安であった。
「やよちゃん、ここを先に出よう。大丈夫だよ、きっと。エイルは今アカツキくんと同化しているのでしょ? つまりはアカツキくんが、フウカちゃんに危害を与えるわけないよ、ね」
「う、うん。ごめんね、フウカ。もうちょっと辛抱してね」
ナックとアイシャが再び先頭に立って脱出を試みる。今度は弥生達から離れすぎないように注意しながら。
「殺せ、殺せ、殺せぇ!! ローレライを取り戻せぇ!!」
「今こそ復讐の時! こいつらの亡骸をルメール様に捧げるのだぁ!」
殆んど無抵抗な住民を蹂躙していく奴らが、そう叫ぶのを建物の影に隠れて聞いていた弥生達。
「どういうこと?」
「わたしに聞かないでよ、やよちゃん。アイシャさんやナックさんは、どういう意味かわかる?」
カホの質問にナックもアイシャも首を横に振る。
「ルメールって、あのルメール教のことだよな? やっぱりルメール教が復活したのか?」
「昔、このグルメールで闊歩していたルメール教は、その名前を借りただけですからね……あれらとは違うと思いますよ」
事情を知らない一行は、首を捻ることしか出来ない。
今度は木々に覆われた小高い丘にまで逃げてきた弥生達は、ひとまず大きく息を吐く。そしてそこから見えたアルステル領は、焦土と化していた。
「くそっ! ひでぇな、これは。リンドウの街が崩壊した時は、住民を逃がすことは出来たが……これは……」
悲痛な表情を浮かべるナック。アイシャも隣で同じような表情を浮かべていた。
「ナック、アイシャさんも、手伝って!!」
「おっと、そうだった」
アカツキの背中から伸びるエイルの蔦と似たようなもので、球状に包まれたフウカ。弥生とカホはそのうちの一本を掴み外そうと引っ張るが、びくともしない。ナックとアイシャが加わって四人で引くが、それでもピクリともしない。
「そうだ、やよちゃん。アカツキくんに聞いてみるよ」
カホは荷物から紙とペンを取り出してスキル“通紙”を使う。ところがアカツキの近くに紙が無いのか返事がない。
「うう……私が、私がもっとちゃんとフウカを抱えていたら……ごめんね、お母さんが不甲斐ないばかりに……」
弥生はフウカを包んだ球体を抱きしめてポロポロと涙を溢し始めた。それは、まるで卵を抱える親鳥のよう。
「フウカぁ、フウカあぁぁぁぁ!!」
声が枯れるほど叫び、涙が止まらず球体の上にも幾つも涙の跡が残る。すると、今まで頑なだった蔦は、スルスルとほどけて行くではないか。
「あー?」
蔦はフウカの背中の中に収まっていき、緑色の瞳で見上げながらフウカは、弥生に向かって手を伸ばす。
「良かった……フウカっ!」
弥生は力強くフウカを抱きしめ、その姿を見たナック達も無事な様子のフウカに安堵する。
一応外傷など無いか確認するも、服の背中が破れただけで、特に問題は無さそうだ。
「これから、なんですけど、わたしは一度、首都グルメールに戻ってこの事を報せようと思います。一応これでもギルドのトップですから」
「待って、アイシャさん!」
早速向かおうとしたアイシャを弥生が引き止める。フウカの事でいっぱいであった弥生だが、あの歯抜けの男がどうやって現れたのかを、見ていなかった三人に伝えた。
「突然、目の前に?」
弥生は強く頷く。
「アイシャみたいに幻影魔法なんじゃねえのか? ヤヨイー」
「それは違いますね。幻影魔法は相手に一度嵌める必要があるので己の姿を一度見せないといけませんから……恐らくは別の魔法だと」
「わかった! 瞬間移動の魔法だ!」
「瞬間……って、一瞬で他の場所に移動するってことですか、カホさん? そもそもそんな便利な魔法があるなら、今まででルスカ様が使ってますよ」
結局答えは出ないまま、“敵は突然現れる”という事実だけをグルメールへと持ち帰ることにアイシャは決め、すぐに去って行ってしまった。
残った弥生、カホ、ナックの三人は、徒歩で目的のエルラン山脈の入口近いファーマーの街を目指すことになった。
街が阿鼻叫喚に包まれる中、一際大きな悲鳴を上げた弥生。ショックでスキル“障壁”すら出せる余裕はなかった。
歯抜けの男の剣が、宙に浮かしたフウカ目掛けて飛んでいく様を、引き返して来たナックやアイシャも目にする。
誰もが、助からない──そう思い全員が目を背けた。
「な、なんじゃこりゃあ!」
歯抜けの男が間抜けな声を出し、皆は恐る恐る目を向けた。
そこにはフウカの姿はなく、緑色の球体が歯抜けの男の剣とぶつかっているところであった。
球体というよりも、弥生たちが見覚えのある植物の蔦が絡み合い球状になっていたのだ。
「くそっ! ヤヨイー、その球を拾え!」
ナックは歯抜けの男に向かって剣を投げつけると、真っ直ぐ背中に深く突き刺さる。
ポンポンと毬のように地面を弾んで転がる球を弥生は追いかけた。
地面を滑るように飛び付いた弥生は、ようやく緑色の球を掴んだ。
「フウカ、フウカあ!」
弥生は蔦を外そうとするが、複雑に絡まりあって外せない。ナック達も追い付きナイフなどの刃物で斬ろうとするが、全く歯が立たない。
「ナックさん、ここは危険です! 移動してからにしましょう。ヤヨイーさんも、カホさんも! 大丈夫ですよ、それはアカツキさんと同じエイルの蔦ですよね。フウカちゃんに被害を与えるとは思えません」
アイシャの言葉も一理あったが、気になるのは、こうも密閉していると空気の問題が出てくる。フウカの意思に関わらず出たのであれば、エイルが関与している事が弥生の頭には浮かんだ。
神獣エイル──死を司る。
つまりエイル自身が、ある意味死に最も縁遠い。
空気が無いと死んでしまう、その考えに至るかどうかが不安であった。
「やよちゃん、ここを先に出よう。大丈夫だよ、きっと。エイルは今アカツキくんと同化しているのでしょ? つまりはアカツキくんが、フウカちゃんに危害を与えるわけないよ、ね」
「う、うん。ごめんね、フウカ。もうちょっと辛抱してね」
ナックとアイシャが再び先頭に立って脱出を試みる。今度は弥生達から離れすぎないように注意しながら。
「殺せ、殺せ、殺せぇ!! ローレライを取り戻せぇ!!」
「今こそ復讐の時! こいつらの亡骸をルメール様に捧げるのだぁ!」
殆んど無抵抗な住民を蹂躙していく奴らが、そう叫ぶのを建物の影に隠れて聞いていた弥生達。
「どういうこと?」
「わたしに聞かないでよ、やよちゃん。アイシャさんやナックさんは、どういう意味かわかる?」
カホの質問にナックもアイシャも首を横に振る。
「ルメールって、あのルメール教のことだよな? やっぱりルメール教が復活したのか?」
「昔、このグルメールで闊歩していたルメール教は、その名前を借りただけですからね……あれらとは違うと思いますよ」
事情を知らない一行は、首を捻ることしか出来ない。
今度は木々に覆われた小高い丘にまで逃げてきた弥生達は、ひとまず大きく息を吐く。そしてそこから見えたアルステル領は、焦土と化していた。
「くそっ! ひでぇな、これは。リンドウの街が崩壊した時は、住民を逃がすことは出来たが……これは……」
悲痛な表情を浮かべるナック。アイシャも隣で同じような表情を浮かべていた。
「ナック、アイシャさんも、手伝って!!」
「おっと、そうだった」
アカツキの背中から伸びるエイルの蔦と似たようなもので、球状に包まれたフウカ。弥生とカホはそのうちの一本を掴み外そうと引っ張るが、びくともしない。ナックとアイシャが加わって四人で引くが、それでもピクリともしない。
「そうだ、やよちゃん。アカツキくんに聞いてみるよ」
カホは荷物から紙とペンを取り出してスキル“通紙”を使う。ところがアカツキの近くに紙が無いのか返事がない。
「うう……私が、私がもっとちゃんとフウカを抱えていたら……ごめんね、お母さんが不甲斐ないばかりに……」
弥生はフウカを包んだ球体を抱きしめてポロポロと涙を溢し始めた。それは、まるで卵を抱える親鳥のよう。
「フウカぁ、フウカあぁぁぁぁ!!」
声が枯れるほど叫び、涙が止まらず球体の上にも幾つも涙の跡が残る。すると、今まで頑なだった蔦は、スルスルとほどけて行くではないか。
「あー?」
蔦はフウカの背中の中に収まっていき、緑色の瞳で見上げながらフウカは、弥生に向かって手を伸ばす。
「良かった……フウカっ!」
弥生は力強くフウカを抱きしめ、その姿を見たナック達も無事な様子のフウカに安堵する。
一応外傷など無いか確認するも、服の背中が破れただけで、特に問題は無さそうだ。
「これから、なんですけど、わたしは一度、首都グルメールに戻ってこの事を報せようと思います。一応これでもギルドのトップですから」
「待って、アイシャさん!」
早速向かおうとしたアイシャを弥生が引き止める。フウカの事でいっぱいであった弥生だが、あの歯抜けの男がどうやって現れたのかを、見ていなかった三人に伝えた。
「突然、目の前に?」
弥生は強く頷く。
「アイシャみたいに幻影魔法なんじゃねえのか? ヤヨイー」
「それは違いますね。幻影魔法は相手に一度嵌める必要があるので己の姿を一度見せないといけませんから……恐らくは別の魔法だと」
「わかった! 瞬間移動の魔法だ!」
「瞬間……って、一瞬で他の場所に移動するってことですか、カホさん? そもそもそんな便利な魔法があるなら、今まででルスカ様が使ってますよ」
結局答えは出ないまま、“敵は突然現れる”という事実だけをグルメールへと持ち帰ることにアイシャは決め、すぐに去って行ってしまった。
残った弥生、カホ、ナックの三人は、徒歩で目的のエルラン山脈の入口近いファーマーの街を目指すことになった。
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