追放された幼女(ロリ)賢者は、青年と静かに暮らしたいのに

怪ジーン

文字の大きさ
209 / 249
第三章 ローレライの負の遺産編

七話 アルステル領、全滅

しおりを挟む
「イヤァアアアアアッ!! フウカあぁぁぁぁっ!!!!」

 街が阿鼻叫喚に包まれる中、一際大きな悲鳴を上げた弥生。ショックでスキル“障壁”すら出せる余裕はなかった。
歯抜けの男の剣が、宙に浮かしたフウカ目掛けて飛んでいく様を、引き返して来たナックやアイシャも目にする。
誰もが、助からない──そう思い全員が目を背けた。

「な、なんじゃこりゃあ!」

 歯抜けの男が間抜けな声を出し、皆は恐る恐る目を向けた。
そこにはフウカの姿はなく、緑色の球体が歯抜けの男の剣とぶつかっているところであった。
球体というよりも、弥生たちが見覚えのある植物の蔦が絡み合い球状になっていたのだ。

「くそっ! ヤヨイー、その球を拾え!」

 ナックは歯抜けの男に向かって剣を投げつけると、真っ直ぐ背中に深く突き刺さる。
ポンポンと毬のように地面を弾んで転がる球を弥生は追いかけた。
地面を滑るように飛び付いた弥生は、ようやく緑色の球を掴んだ。

「フウカ、フウカあ!」

 弥生は蔦を外そうとするが、複雑に絡まりあって外せない。ナック達も追い付きナイフなどの刃物で斬ろうとするが、全く歯が立たない。

「ナックさん、ここは危険です! 移動してからにしましょう。ヤヨイーさんも、カホさんも! 大丈夫ですよ、それはアカツキさんと同じエイルの蔦ですよね。フウカちゃんに被害を与えるとは思えません」

 アイシャの言葉も一理あったが、気になるのは、こうも密閉していると空気の問題が出てくる。フウカの意思に関わらず出たのであれば、エイルが関与している事が弥生の頭には浮かんだ。
神獣エイル──死を司る。
つまりエイル自身が、ある意味死に最も縁遠い。
空気が無いと死んでしまう、その考えに至るかどうかが不安であった。

「やよちゃん、ここを先に出よう。大丈夫だよ、きっと。エイルは今アカツキくんと同化しているのでしょ? つまりはアカツキくんが、フウカちゃんに危害を与えるわけないよ、ね」
「う、うん。ごめんね、フウカ。もうちょっと辛抱してね」

 ナックとアイシャが再び先頭に立って脱出を試みる。今度は弥生達から離れすぎないように注意しながら。

「殺せ、殺せ、殺せぇ!! ローレライを取り戻せぇ!!」
「今こそ復讐の時! こいつらの亡骸をルメール様に捧げるのだぁ!」

 殆んど無抵抗な住民を蹂躙していく奴らが、そう叫ぶのを建物の影に隠れて聞いていた弥生達。

「どういうこと?」
「わたしに聞かないでよ、やよちゃん。アイシャさんやナックさんは、どういう意味かわかる?」

 カホの質問にナックもアイシャも首を横に振る。

「ルメールって、あのルメール教のことだよな? やっぱりルメール教が復活したのか?」
「昔、このグルメールで闊歩していたルメール教は、その名前を借りただけですからね……あれらとは違うと思いますよ」

 事情を知らない一行は、首を捻ることしか出来ない。

 今度は木々に覆われた小高い丘にまで逃げてきた弥生達は、ひとまず大きく息を吐く。そしてそこから見えたアルステル領は、焦土と化していた。

「くそっ! ひでぇな、これは。リンドウの街が崩壊した時は、住民を逃がすことは出来たが……これは……」

 悲痛な表情を浮かべるナック。アイシャも隣で同じような表情を浮かべていた。

「ナック、アイシャさんも、手伝って!!」
「おっと、そうだった」

 アカツキの背中から伸びるエイルの蔦と似たようなもので、球状に包まれたフウカ。弥生とカホはそのうちの一本を掴み外そうと引っ張るが、びくともしない。ナックとアイシャが加わって四人で引くが、それでもピクリともしない。

「そうだ、やよちゃん。アカツキくんに聞いてみるよ」

 カホは荷物から紙とペンを取り出してスキル“通紙”を使う。ところがアカツキの近くに紙が無いのか返事がない。

「うう……私が、私がもっとちゃんとフウカを抱えていたら……ごめんね、お母さんが不甲斐ないばかりに……」

 弥生はフウカを包んだ球体を抱きしめてポロポロと涙を溢し始めた。それは、まるで卵を抱える親鳥のよう。

「フウカぁ、フウカあぁぁぁぁ!!」

 声が枯れるほど叫び、涙が止まらず球体の上にも幾つも涙の跡が残る。すると、今まで頑なだった蔦は、スルスルとほどけて行くではないか。

「あー?」

 蔦はフウカの背中の中に収まっていき、緑色の瞳で見上げながらフウカは、弥生に向かって手を伸ばす。

「良かった……フウカっ!」

 弥生は力強くフウカを抱きしめ、その姿を見たナック達も無事な様子のフウカに安堵する。
一応外傷など無いか確認するも、服の背中が破れただけで、特に問題は無さそうだ。

「これから、なんですけど、わたしは一度、首都グルメールに戻ってこの事を報せようと思います。一応これでもギルドのトップですから」
「待って、アイシャさん!」

 早速向かおうとしたアイシャを弥生が引き止める。フウカの事でいっぱいであった弥生だが、あの歯抜けの男がどうやって現れたのかを、見ていなかった三人に伝えた。

「突然、目の前に?」

 弥生は強く頷く。

「アイシャみたいに幻影魔法なんじゃねえのか? ヤヨイー」
「それは違いますね。幻影魔法は相手に一度嵌める必要があるので己の姿を一度見せないといけませんから……恐らくは別の魔法だと」
「わかった! 瞬間移動の魔法だ!」
「瞬間……って、一瞬で他の場所に移動するってことですか、カホさん? そもそもそんな便利な魔法があるなら、今まででルスカ様が使ってますよ」

 結局答えは出ないまま、“敵は突然現れる”という事実だけをグルメールへと持ち帰ることにアイシャは決め、すぐに去って行ってしまった。

 残った弥生、カホ、ナックの三人は、徒歩で目的のエルラン山脈の入口近いファーマーの街を目指すことになった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

ゴミスキル【生態鑑定】で追放された俺、実は動物や神獣の心が分かる最強能力だったので、もふもふ達と辺境で幸せなスローライフを送る

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティの一員だったカイは、魔物の名前しか分からない【生態鑑定】スキルが原因で「役立たず」の烙印を押され、仲間から追放されてしまう。全てを失い、絶望の中でたどり着いた辺境の森。そこで彼は、自身のスキルが動物や魔物の「心」と意思疎通できる、唯一無二の能力であることに気づく。 森ウサギに衣食住を学び、神獣フェンリルやエンシェントドラゴンと友となり、もふもふな仲間たちに囲まれて、カイの穏やかなスローライフが始まった。彼が作る料理は魔物さえも惹きつけ、何気なく作った道具は「聖者の遺物」として王都を揺るがす。 一方、カイを失った勇者パーティは凋落の一途をたどっていた。自分たちの過ちに気づき、カイを連れ戻そうとする彼ら。しかし、カイの居場所は、もはやそこにはなかった。 これは、一人の心優しき青年が、大切な仲間たちと穏やかな日常を守るため、やがて伝説の「森の聖者」となる、心温まるスローライフファンタジー。

処理中です...