傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました

みん

文字の大きさ
34 / 57

夜会へ

しおりを挟む
「お兄様、今日は宜しくお願いします。」

「シルフィーの初めての夜会のエスコートができて、私も嬉しいよ。」




今日は、王妃陛下の誕生日パーティの日。ベルフォーネ様から招待状を渡され、デビュー前ではあるが、私もキリクス伯爵家の令嬢として参加する事になった。

と言う事は…おそらく、マクウェル様もルーラント公爵家の令息として参加するだろう。きっと、今の状況を、父は勿論の事兄も……ベルフォーネ様や王太子殿下も把握していると思うけど…。

王城へ向かう馬車に、父と兄と私の3人が乗り込み、ゆっくりと馬車が動き出したところで、私は口を開いた。


「お父様とお兄様は、既に把握してると思うけど…ひょっとしたら、マクウェル様や学園に通っている人達から…何か言われたりするかもしれません。2人には、迷惑を掛けてしまうかもしれません。」

すみません─と、軽く頭を下げる。

「シルフィー、顔を上げて?お前が謝る必要なんてないからね?」

「お父様…。」

顔を上げて父に視線を向ける。

は…少し頭が弱いから、全て影の者が見ていると…知らないんだ。自分が見て聞いた事しか信じていない。あぁ、馬鹿なのはだけではなく、その側に居る者も…だったな。まぁ…一番の悪はだけどね。」

ニッコリ笑うお父様。
この笑顔は、本当に怒っている時の笑顔だ。

「でも、シルフィーが何もしていないと言う事は、何か考えがあるのだろう?だから、私もユリウスも今はまだ黙ってはいるが…相手の出方次第では、私かユリウスが動くからね?」

「あの、その事なんだけど…今日の夜会の後、お祖父様を含めてお話したい事があるの。時間を…つくってもらえる?」

今日は王妃陛下の誕生日パーティなので、領地に居るお祖父様とお祖母様も参加すると聞いていた。ならば丁度良いと思い、話を聞いてもらおうと思っていた。

「分かった。お祖父様にもお願いしよう。」

「ありがとうございます。」



そうして気が付けば、既に王城の門を潜り抜けていた。



















「叔父上が夜会に参加するとは、珍しいですね。」

「───何をしれっと言っているんだ。」

今日は王妃陛下姉上の誕生日パーティ。もともと参加するつもりはなかったのだが──

何故か、兄上から参加しろと言われてしまったのだ。例え兄弟と言えど国王陛下から言われてしまえば、断る事はできない。その事は、王太子でもあるレオナールも、ニヤニヤしながら見ていて知っていただろうに…何とも腹黒い甥っ子である。

「叔父上も、そろそろ婚約者を探されては?」

「その為に参加させられたのか?」

「さぁ?私には…分かりかねますね。」

分からない─と言う割にはニヤニヤと愉しそうにしているレオナールを見ていると、ホールの方から少しだけザワザワとした雰囲気が漂って来た。
今俺達が居るのは、王族専用のホールに繋がる控室。夜会などでは、王族は最後にホールに入る為、それ迄はこの控室で待機する事になっている。

ホールで何があったのか、ここからでは分からない。少し気になりながらもそのまま控室で時間が来るまで過ごしていた。

















ホールに入場して、直ぐに気が付いた。
いや、直ぐに視界に捕えた。

シルフィー=キリクス伯爵令嬢。

学園では後ろに一つに纏められている髪が、今日はサイドを編み込みハーフアップにしている。
彼女の瞳と同じ青色のエンパイアタイプのドレス。16歳とは思えない様な大人びたシルフィーがそこに居た。

おそらく、あの時ざわついたのは…シルフィー=キリクスが社交場に現れたからだろう。彼女は、色んな意味で注目を浴びていたから。

100年ぶりに生まれキリクスの令嬢。

社交場に現れない深窓の令嬢。

そして、今の学園での噂の傷物令嬢。

好奇心旺盛な視線を向けられていても、シルフィーは、そこに凛として立っている。その姿から視線を外せずにいると、シルフィーと目が合った。

シルフィーは驚いたのか、少し目を見開いた後、スッと目を細めて軽く微笑んで来た。

「──っ!?」

こんな俺でも、幼い頃には厳しくマナーを躾けられた。それは体に自然と染み込んでいるようで、今も何とか表情を崩す事も声を出す事も耐えれた。

どうやら、本当に俺はヤバいらしい。

一度を認識してしまうと、もうどうなっても可愛くしか見えないようだ。少しの表情の変化でさえ、可愛く見える。

「───マジか……」

「あぁ、叔父上…もう自覚はしていたんですね?」

「────レオナール…お前……」

「魔力の相性が良いそうですね?」

今日の夜会に、シルフィーが参加するのを知っていたから、俺を参加させた─と言う事か。

「今日のシルフィーは、本当に綺麗ですね。この夜会で、釣書が殺到するかもしれませんね?」

「………」

俺の甥っ子は、相変わらずニヤニヤと嗤っている。

「シルフィーが叔母上に…私は、大歓迎ですよ?」

そう言って、腹黒な甥っ子はベルフォーネ嬢の元へと向かって行った。













しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

悪夢から逃れたら前世の夫がおかしい

はなまる
恋愛
ミモザは結婚している。だが夫のライオスには愛人がいてミモザは見向きもされない。それなのに義理母は跡取りを待ち望んでいる。だが息子のライオスはミモザと初夜の一度っきり相手をして後は一切接触して来ない。  義理母はどうにかして跡取りをと考えとんでもないことを思いつく。  それは自分の夫クリスト。ミモザに取ったら義理父を受け入れさせることだった。  こんなの悪夢としか思えない。そんな状況で階段から落ちそうになって前世を思い出す。その時助けてくれた男が前世の夫セルカークだったなんて…  セルカークもとんでもない夫だった。ミモザはとうとうこんな悪夢に立ち向かうことにする。  短編スタートでしたが、思ったより文字数が増えそうです。もうしばらくお付き合い痛手蹴るとすごくうれしいです。最後目でよろしくお願いします。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜

見丘ユタ
恋愛
意地悪な双子の姉に聖女迫害の罪をなすりつけられた伯爵令嬢リーゼロッテは、罰として追放同然の扱いを受け、偏屈な辺境伯ユリウスの家事使用人として過ごすことになる。 ユリウスに仕えた使用人は、十日もたずに次々と辞めさせられるという噂に、家族や婚約者に捨てられ他に行き場のない彼女は戦々恐々とするが……彼女を出迎えたのは自称当主の少年だった。 想像とは全く違う毎日にリーゼロッテは戸惑う。「なんだか大切にされていませんか……?」と。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

処理中です...