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拾
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シャノンを忘れる必要はない。
シャノンを思い出にして、前に進むだけ。
番だから─だけで、その番を愛せるのか?
色々悩んだりもしたが─
番─ララ殿の側に居るのは、本当に心地好かった。嫌な気持ちも浄化されるように穏やかになる。ララ殿を知りたいと思った。さっきは言えなかったが、ちゃんと番だと伝えて竜国に来てもらおう─と、素直に思えた。
「人族のララ殿には分からないと思うけど…本当なんだ。本能で分かるし…それに…ララ殿の側に居るのは心地好くて…気持ちが落ち着くんだ。」
そう伝えると、ララ殿はビックリしたように目を大きく見開いた。
それから、左手で左の耳朶に触れながら、少し恥ずかしそうに
「すみません。本当に番の感覚が分からなくて。でも…そう言ってもらえる事は…嬉しい?です。」
その仕草を見て、ヒュッと息を呑んだ。
シャノンと同じだった─
シャノンは、竜王になってからは、普段あまり顔に感情を乗せる事はなかった。ただ、“恥ずかしい”と思っている時は、左手で左の耳朶を触れる癖があった。それを、今、目の前のララ殿がした。胸がギュウッと締め付けられる。
「ん?」
と、ララ殿が心配そうな顔で俺の顔を窺い見る。それに慌てて誤魔化して謝った。
ーただの、偶然だー
そう言い聞かせた。
ーララ殿は、竜に慣れているんだろうか?ー
竜国に連れて行く為に、竜化して迎えに行った。ジュード殿は怖がってはいないが、大きさには驚いていた。でも、ララ殿は、特に驚いた様子も恐怖感もなかった。
「うわぁ────」
空を飛んでも、とても楽しそうに、目をキラキラさせていて、可愛らしいな─と思った。
だけど─
暫くすると、彼女から“悲しい”感情が伝わって来た。番だから─なのか、ララ殿が強く感じた感情が、何となく俺に伝わって来るのだ。
『ララ殿、ひょっとして…疲れたか?』
「─っ!いえ、全然!疲れていません!ただ、その…あまりにも…空が綺麗だから─」
ララ殿はそれだけ言うと口をつぐみ、またキラキラな目をして空を見つめていた。
2人を竜国に連れて来てから3ヶ月が経った。
ジュード殿は、女性か?と思う程の容姿をしている。物腰も柔らかく性格も良い。その為、ジュード殿に付いた侍女達も、ジュード殿をすんなり受け入れたようだった。ブラントとも、仲睦まじい姿をよく見掛けると聞いたから、うまくいっているのだろう。
ー時々、目のやり場に困る位…ジュードが溺愛しているのが…何とも…と、誰かが言っていたなー
「あら、ごめんなさい?見えなかったの。」
クスクスッ─
と、女の嗤う声が聞こえた。
ー何だ?ー
実はこの3ヶ月。俺は殆どララ殿には会えていない。竜国の辺境地で地盤沈下が起こり、そちらの対処の為に俺が対応に出向いた。空中に浮かぶ竜国。その竜国での地盤沈下は、竜国事態の存亡に関わる為、早急に対処しなければいけないのだ。それに、下にある人族にも影響が出てしまう。
番との時間を割かれるのは、正直辛かったが
「アドルファス様、私の事は気にせずに、どうか職務を果たして来て下さい。あの…私は、ここで、アドルファス様の帰りを待ってますから。」
そう番であるララ殿に、笑顔で言われたら…行かないわけにもいかず
ーさっさと対処して帰って来よう!ー
と、今迄にない程の速さで辺境地に飛び、4~5ヵ月掛かるのでは?と言われるところを3ヶ月で終わらせて、今日、帰って来たのだ。
「アドルファス、ご苦労様。本当にありがとう。暫くは休暇を取ってあるから、ララ殿のところに行ってあげて?ララ殿、ずっの待ってるって、ジュードが言ってたから。」
と、竜王ブラントに言われて、一も二もなくララ殿のもとへと足を向けた───のだが…。
「こんなにもアドルファス様が会いに来ないって…あなた、本当に番なの?人族のくせに竜国の王城で、よくのうのうと暮らせるわね?」
ー何だ?今の声は…ララ殿に付けた侍女のカレンじゃないのか?ー
カレンは、もともとは俺付きの侍女で、身分もしっかりしていて信頼もしていた為、俺の不在の間ララ殿を任せていったのだ。
そっと、気付かれないように少し離れた位置から様子を見てみると、びっしょりと濡れたララ殿と、カレンが居た。
「番かどうかは、人族である私には…正直分かりません。でも、アドルファス様が、私がアドルファス様の番だと言ったんです。それが全てです。それとも、アドルファス様が…嘘をついているとでも?」
「─っ!人族のくせに…生意気な──っ」
と、カレンが手を振り上げる
ーなっ!?ー
竜族が本気で人族を殴れば、ただでは済まない。距離があり、間に合わない─
ドスッ「──えっ!?」
一瞬の出来事だった。
カレンが手を振り上げて、ララ殿めがけて、その手を振り下ろそうとした時、その手を受け止め、そのままその手をひ練り上げた後、カレンを後ろに倒した。
「人族だから、儚くて弱いだけの生き物だと?確かに、竜族よりも人族は弱い生き物だけど、黙ってやられるだけの生き物じゃない。短い生を、精一杯生きているの。あなたに馬鹿にされる様な存在ではないの。それに、あなたは私だけではなく、本来遣えている主であるアドルファス様をも…愚弄したのよ?アドルファス様が、私が番だと言った事を信じなかった。そして、その番である私に手を出した。これが、どう言う意味か…分かっているの?」
これで、カレンは下がるか?と思ったが、カレンは更に行動に出る。
自身の腰に佩帯していた剣に手をのばした。
流石にそれは─と、一瞬にして怒りが込み上げ足を踏み出そうとした時─スッとララ殿が俺に視線を向けて来た。
ー気配を消していた俺に…気付いていた?ー
その瞳を見た瞬間、フッと俺の怒りが消える。
「カレン!何をしているの!?」
そこへ、ララ殿に付けたもう一人の侍女がやって来た。
「キーラ、来ないで!」
「カレン!止めなさい!!」
カレンは、キーラの静止も聞かず剣を抜く。
「カレ──え?」
キーラが、ララ殿を庇うように、カレンとララ殿の間に体を滑り込ませた瞬間、ララ殿がキーラの腰に佩帯していた剣を引き抜いた。
「キーラさん。私は大丈夫なので、下がってもらえますか?」
「………」
右手に剣を持ち、フワリと微笑むララ殿─微笑んでいるだけなのに、キーラはピシッと動けなくなった。
ーこの気配は…どうして?ー
キーラだけではない。カレンも動かない。そして、俺は嫌な汗がブワリと出て来る。
「言いましたよね?儚くて弱いだけの生き物ではない─と。」
スッと剣先を下にして、左手を腰に添える
ーシャノン!ー
シャノンの剣の構え方は独特だった。この構え方、この気配。全てがシャノンだ。
ーどうして!?どうして、ララ殿が!?ー
すると、またララ殿が俺を一瞥してからカレンに意識を向ける。
「どうしたんですか?そっちが来ないなら─私から行きましょうか?」
と、言い終わった時には、ララ殿が剣の柄の方でカレンの鳩尾に一発入れていた。
シャノンを思い出にして、前に進むだけ。
番だから─だけで、その番を愛せるのか?
色々悩んだりもしたが─
番─ララ殿の側に居るのは、本当に心地好かった。嫌な気持ちも浄化されるように穏やかになる。ララ殿を知りたいと思った。さっきは言えなかったが、ちゃんと番だと伝えて竜国に来てもらおう─と、素直に思えた。
「人族のララ殿には分からないと思うけど…本当なんだ。本能で分かるし…それに…ララ殿の側に居るのは心地好くて…気持ちが落ち着くんだ。」
そう伝えると、ララ殿はビックリしたように目を大きく見開いた。
それから、左手で左の耳朶に触れながら、少し恥ずかしそうに
「すみません。本当に番の感覚が分からなくて。でも…そう言ってもらえる事は…嬉しい?です。」
その仕草を見て、ヒュッと息を呑んだ。
シャノンと同じだった─
シャノンは、竜王になってからは、普段あまり顔に感情を乗せる事はなかった。ただ、“恥ずかしい”と思っている時は、左手で左の耳朶を触れる癖があった。それを、今、目の前のララ殿がした。胸がギュウッと締め付けられる。
「ん?」
と、ララ殿が心配そうな顔で俺の顔を窺い見る。それに慌てて誤魔化して謝った。
ーただの、偶然だー
そう言い聞かせた。
ーララ殿は、竜に慣れているんだろうか?ー
竜国に連れて行く為に、竜化して迎えに行った。ジュード殿は怖がってはいないが、大きさには驚いていた。でも、ララ殿は、特に驚いた様子も恐怖感もなかった。
「うわぁ────」
空を飛んでも、とても楽しそうに、目をキラキラさせていて、可愛らしいな─と思った。
だけど─
暫くすると、彼女から“悲しい”感情が伝わって来た。番だから─なのか、ララ殿が強く感じた感情が、何となく俺に伝わって来るのだ。
『ララ殿、ひょっとして…疲れたか?』
「─っ!いえ、全然!疲れていません!ただ、その…あまりにも…空が綺麗だから─」
ララ殿はそれだけ言うと口をつぐみ、またキラキラな目をして空を見つめていた。
2人を竜国に連れて来てから3ヶ月が経った。
ジュード殿は、女性か?と思う程の容姿をしている。物腰も柔らかく性格も良い。その為、ジュード殿に付いた侍女達も、ジュード殿をすんなり受け入れたようだった。ブラントとも、仲睦まじい姿をよく見掛けると聞いたから、うまくいっているのだろう。
ー時々、目のやり場に困る位…ジュードが溺愛しているのが…何とも…と、誰かが言っていたなー
「あら、ごめんなさい?見えなかったの。」
クスクスッ─
と、女の嗤う声が聞こえた。
ー何だ?ー
実はこの3ヶ月。俺は殆どララ殿には会えていない。竜国の辺境地で地盤沈下が起こり、そちらの対処の為に俺が対応に出向いた。空中に浮かぶ竜国。その竜国での地盤沈下は、竜国事態の存亡に関わる為、早急に対処しなければいけないのだ。それに、下にある人族にも影響が出てしまう。
番との時間を割かれるのは、正直辛かったが
「アドルファス様、私の事は気にせずに、どうか職務を果たして来て下さい。あの…私は、ここで、アドルファス様の帰りを待ってますから。」
そう番であるララ殿に、笑顔で言われたら…行かないわけにもいかず
ーさっさと対処して帰って来よう!ー
と、今迄にない程の速さで辺境地に飛び、4~5ヵ月掛かるのでは?と言われるところを3ヶ月で終わらせて、今日、帰って来たのだ。
「アドルファス、ご苦労様。本当にありがとう。暫くは休暇を取ってあるから、ララ殿のところに行ってあげて?ララ殿、ずっの待ってるって、ジュードが言ってたから。」
と、竜王ブラントに言われて、一も二もなくララ殿のもとへと足を向けた───のだが…。
「こんなにもアドルファス様が会いに来ないって…あなた、本当に番なの?人族のくせに竜国の王城で、よくのうのうと暮らせるわね?」
ー何だ?今の声は…ララ殿に付けた侍女のカレンじゃないのか?ー
カレンは、もともとは俺付きの侍女で、身分もしっかりしていて信頼もしていた為、俺の不在の間ララ殿を任せていったのだ。
そっと、気付かれないように少し離れた位置から様子を見てみると、びっしょりと濡れたララ殿と、カレンが居た。
「番かどうかは、人族である私には…正直分かりません。でも、アドルファス様が、私がアドルファス様の番だと言ったんです。それが全てです。それとも、アドルファス様が…嘘をついているとでも?」
「─っ!人族のくせに…生意気な──っ」
と、カレンが手を振り上げる
ーなっ!?ー
竜族が本気で人族を殴れば、ただでは済まない。距離があり、間に合わない─
ドスッ「──えっ!?」
一瞬の出来事だった。
カレンが手を振り上げて、ララ殿めがけて、その手を振り下ろそうとした時、その手を受け止め、そのままその手をひ練り上げた後、カレンを後ろに倒した。
「人族だから、儚くて弱いだけの生き物だと?確かに、竜族よりも人族は弱い生き物だけど、黙ってやられるだけの生き物じゃない。短い生を、精一杯生きているの。あなたに馬鹿にされる様な存在ではないの。それに、あなたは私だけではなく、本来遣えている主であるアドルファス様をも…愚弄したのよ?アドルファス様が、私が番だと言った事を信じなかった。そして、その番である私に手を出した。これが、どう言う意味か…分かっているの?」
これで、カレンは下がるか?と思ったが、カレンは更に行動に出る。
自身の腰に佩帯していた剣に手をのばした。
流石にそれは─と、一瞬にして怒りが込み上げ足を踏み出そうとした時─スッとララ殿が俺に視線を向けて来た。
ー気配を消していた俺に…気付いていた?ー
その瞳を見た瞬間、フッと俺の怒りが消える。
「カレン!何をしているの!?」
そこへ、ララ殿に付けたもう一人の侍女がやって来た。
「キーラ、来ないで!」
「カレン!止めなさい!!」
カレンは、キーラの静止も聞かず剣を抜く。
「カレ──え?」
キーラが、ララ殿を庇うように、カレンとララ殿の間に体を滑り込ませた瞬間、ララ殿がキーラの腰に佩帯していた剣を引き抜いた。
「キーラさん。私は大丈夫なので、下がってもらえますか?」
「………」
右手に剣を持ち、フワリと微笑むララ殿─微笑んでいるだけなのに、キーラはピシッと動けなくなった。
ーこの気配は…どうして?ー
キーラだけではない。カレンも動かない。そして、俺は嫌な汗がブワリと出て来る。
「言いましたよね?儚くて弱いだけの生き物ではない─と。」
スッと剣先を下にして、左手を腰に添える
ーシャノン!ー
シャノンの剣の構え方は独特だった。この構え方、この気配。全てがシャノンだ。
ーどうして!?どうして、ララ殿が!?ー
すると、またララ殿が俺を一瞥してからカレンに意識を向ける。
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