前世竜王だった私の右腕が選んだのは私の兄で、私は左腕に囚われる

みん

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シャノンを忘れる必要はない。

シャノンを思い出にして、前に進むだけ。

番だから─だけで、その番を愛せるのか?





色々悩んだりもしたが─

番─ララ殿の側に居るのは、本当に心地好かった。嫌な気持ちも浄化されるように穏やかになる。ララ殿を知りたいと思った。さっきは言えなかったが、ちゃんと番だと伝えて竜国に来てもらおう─と、素直に思えた。





「人族のララ殿には分からないと思うけど…本当なんだ。本能で分かるし…それに…ララ殿の側に居るのは心地好くて…気持ちが落ち着くんだ。」

そう伝えると、ララ殿はビックリしたように目を大きく見開いた。
それから、左手で左の耳朶に触れながら、少し恥ずかしそうに

「すみません。本当に番の感覚が分からなくて。でも…そう言ってもらえる事は…嬉しい?です。」

仕草を見て、ヒュッと息を呑んだ。

シャノンと同じだった─

シャノンは、竜王になってからは、普段あまり顔に感情を乗せる事はなかった。ただ、“恥ずかしい”と思っている時は、左手で左の耳朶を触れる癖があった。を、今、目の前のララ殿がした。胸がギュウッと締め付けられる。

「ん?」

と、ララ殿が心配そうな顔で俺の顔を窺い見る。それに慌てて誤魔化して謝った。

ーただの、偶然だー

そう言い聞かせた。













ーララ殿は、竜に慣れているんだろうか?ー

竜国に連れて行く為に、竜化して迎えに行った。ジュード殿は怖がってはいないが、大きさには驚いていた。でも、ララ殿は、特に驚いた様子も恐怖感もなかった。


「うわぁ────」

空を飛んでも、とても楽しそうに、目をキラキラさせていて、可愛らしいな─と思った。

だけど─

暫くすると、彼女から“悲しい”感情が伝わって来た。番だから─なのか、ララ殿が強く感じた感情が、何となく俺に伝わって来るのだ。

『ララ殿、ひょっとして…疲れたか?』

「─っ!いえ、全然!疲れていません!ただ、その…あまりにも…空が綺麗だから─」

ララ殿はそれだけ言うと口をつぐみ、またキラキラな目をして空を見つめていた。














2人を竜国に連れて来てから3ヶ月が経った。

ジュード殿は、女性か?と思う程の容姿をしている。物腰も柔らかく性格も良い。その為、ジュード殿に付いた侍女達も、ジュード殿をすんなり受け入れたようだった。ブラントとも、仲睦まじい姿をよく見掛けると聞いたから、うまくいっているのだろう。

ー時々、目のやり場に困る位…ジュードが溺愛しているのが…何とも…と、誰かが言っていたなー




「あら、ごめんなさい?見えなかったの。」

クスクスッ─

と、女の嗤う声が聞こえた。

ー何だ?ー

実はこの3ヶ月。俺は殆どララ殿には会えていない。竜国の辺境地で地盤沈下が起こり、そちらの対処の為に俺が対応に出向いた。空中に浮かぶ竜国。その竜国での地盤沈下は、竜国事態の存亡に関わる為、早急に対処しなければいけないのだ。それに、下にある人族にも影響が出てしまう。

番との時間を割かれるのは、正直辛かったが

「アドルファス様、私の事は気にせずに、どうか職務を果たして来て下さい。あの…私は、ここで、アドルファス様の帰りを待ってますから。」

そう番であるララ殿に、笑顔で言われたら…行かないわけにもいかず

ーさっさと対処して帰って来よう!ー 

と、今迄にない程の速さで辺境地に飛び、4~5ヵ月掛かるのでは?と言われるところを3ヶ月で終わらせて、今日、帰って来たのだ。

「アドルファス、ご苦労様。本当にありがとう。暫くは休暇を取ってあるから、ララ殿のところに行ってあげて?ララ殿、ずっの待ってるって、ジュードが言ってたから。」

と、竜王ブラントに言われて、一も二もなくララ殿のもとへと足を向けた───のだが…。




「こんなにもアドルファス様が会いに来ないって…あなた、本当に番なの?人族のくせに竜国の王城で、よくのうのうと暮らせるわね?」

ー何だ?今の声は…ララ殿に付けた侍女のカレンじゃないのか?ー

カレンは、もともとは俺付きの侍女で、身分もしっかりしていて信頼もしていた為、俺の不在の間ララ殿を任せていったのだ。

そっと、気付かれないように少し離れた位置から様子を見てみると、びっしょりと濡れたララ殿と、カレンが居た。

「番かどうかは、人族である私には…正直分かりません。でも、アドルファス様が、私がアドルファス様の番だと言ったんです。それが全てです。それとも、アドルファス様が…嘘をついているとでも?」

「─っ!人族のくせに…生意気な──っ」

と、カレンが手を振り上げる

ーなっ!?ー

竜族が本気で人族を殴れば、ただでは済まない。距離があり、間に合わない─

ドスッ「──えっ!?」

一瞬の出来事だった。

カレンが手を振り上げて、ララ殿めがけて、その手を振り下ろそうとした時、その手を受け止め、そのままその手をひ練り上げた後、カレンを後ろに倒した。

「人族だから、儚くて弱いだけの生き物だと?確かに、竜族よりも人族は弱い生き物だけど、黙ってやられるだけの生き物じゃない。短い生を、精一杯生きているの。あなたに馬鹿にされる様な存在ではないの。それに、あなたは私だけではなく、本来遣えている主であるアドルファス様をも…愚弄したのよ?アドルファス様が、私が番だと言った事を信じなかった。そして、その番である私に手を出した。これが、どう言う意味か…分かっているの?」

これで、カレンは下がるか?と思ったが、カレンは更に行動に出る。
自身の腰に佩帯していた剣に手をのばした。

流石にそれは─と、一瞬にして怒りが込み上げ足を踏み出そうとした時─スッとララ殿が俺に視線を向けて来た。

ー気配を消していた俺に…気付いていた?ー

その瞳を見た瞬間、フッと俺の怒りが消える。


「カレン!何をしているの!?」

そこへ、ララ殿に付けたもう一人の侍女がやって来た。

「キーラ、来ないで!」

「カレン!止めなさい!!」

カレンは、キーラの静止も聞かず剣を抜く。

「カレ──え?」

キーラが、ララ殿を庇うように、カレンとララ殿の間に体を滑り込ませた瞬間、ララ殿がキーラの腰に佩帯していた剣を引き抜いた。

「キーラさん。私は大丈夫なので、下がってもらえますか?」

「………」

右手に剣を持ち、フワリと微笑むララ殿─微笑んでいるだけなのに、キーラはピシッと動けなくなった。

ーこの気配は…どうして?ー

キーラだけではない。カレンも動かない。そして、俺は嫌な汗がブワリと出て来る。

「言いましたよね?儚くて弱いだけの生き物ではない─と。」

スッと剣先を下にして、左手を腰に添える

ーシャノン!ー

シャノンの剣の構え方は独特だった。この構え方、この気配。全てがシャノンだ。

ーどうして!?どうして、ララ殿が!?ー

すると、またララ殿が俺を一瞥してからカレンに意識を向ける。

「どうしたんですか?そっちが来ないなら─私から行きましょうか?」

と、言い終わった時には、ララ殿が剣の柄の方でカレンの鳩尾に一発入れていた。











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