モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語

みん

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ー余話ー

ゼン

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今でもハッキリと覚えている。



その日は朝から雨が降っていた。



「今日は、聖女様達が還る日だったな。」

朝からグレン様の執務室で仕事をしていると、ふとグレン様が呟いた。

「そうですね。早朝に行う─と言ってましたね。」

聖女様達と、あの巻き込まれた…グレン様の命の恩人でもある彼女も。
聖女様達は、聖女としての力は歴代最高であり、その上3人ともが綺麗な容姿をしていた。その為か、同行していた騎士達も眉目秀麗な面子が揃っていた。

そんな中、特に目立つ訳でも目を引く訳でもない、小柄で物静かな彼女。色々と王都での噂や出来事を耳にして知ってはいた存在。そんな彼女を初めて見た時は、どうやったらこの子が噂通りの娘に見えるんだ?と、首を捻りたくなった。その時の彼女に対する印象は、それだけだった。










次に彼女に会ったのは、それから3日後だった。ギデルののせいで、グレン様の恩人だと言うのに、3日も地下牢に拘束させてしまったのだ。それはそれは、シルヴィア様の怒りは半端無かった。

そして、何故か自分だけが元の世界に還れず、パルヴァンここに飛ばされてしまったと。でも、王城─王都には行きたくないどころか、還れなかった事も知られたくないと言う。彼女の願いは、暫くの間だけ、この邸に置いて欲しい─と言う事だけだった。元の世界に還れるか還れないか、それが分かる迄。もし、還れないとなったら─

『その場合は…私は“薬師”の資格を持っているので、何処かで薬師としてやっていければと思ってます。還れないなら…しっかり自分の足で立って前に…進みたいから…。』

召喚した王族を恨む訳でも、還れなくて嘆く事もなく淡々と言葉を口にする彼女だが、その目はしっかりと前を向いていた。その目が、とても印象的だった。





それから、こっそり鑑定した結果が、まさかの“攻撃力0”。
俺の庇護欲がフル活動を始めたのは…言うまでも無い。もともと、パルヴァンの領民達も、グレン様の命の恩人である彼女の事は、それはそれは温か過ぎる眼差しで見守っていた。そこに来て、更に俺も命を助けられたのだ。彼女は、達が第一に守らなければならない存在リスになった。




毎日笑顔で過ごすハル。ハルから親の話を聞いた事がない。ひょっとしたら、もう既に両親ともに居ないのかもしれない。例えそうではなくても、ハルがこの世界に居る限りは俺が父親のように、ハルを見守っていこう。ハルが、この世界で幸せになるように──。







「それなのに…」


本当に色々あった…あり過ぎたよな?何故ハルにばかり嫌な事が起こるんだ!?それでも、ハルは誰かを責めたりはしなかった。


そこで…ハルの心に入り込んだのが──


エディオル=カルザインだった。



以前、ハルに奴等のうちの一人。本当に気に喰わない。

ー“氷の騎士”と二つ名を持つ──筈だよな?ー

「“氷”って何だった?」

と、訊きたくなる程、エディオルはハルの前では蕩けた顔がデフォルトになっていた。傍から見れば、エディオルのハルに対する好意は明らかなのに、ハル本人だけには伝わらない─と言う、何ともおもしろ──可哀想なやりとりが行われていた。

まぁ、それからも色々あって…一度失ったと思ったハルが、ハルの意思でこの世界に戻って来てくれた時は、素直に嬉しいと思った。戻って来た理由が、例えエディオルだったとしても。

「──ちっ…」

思い出しただけで、思わず舌打ちをする。

そこからが早かった。
エディオルが完璧に外堀を埋め、その埋めた所をルイスがガッチリと固めたのだ。
イラッ─とするが…ハルがあまりにも幸せそうに笑うから、娘を男に取られたような、少し寂しい気持ちになってしまった。

ー娘を持つ父親とは…大変なモノだなぁー

そう感傷に浸っている俺の横で、ロンがニヤニヤと愉しそうに俺を見ている事には、気付かないフリをした。
















エディオルから─と言うのが少し気に喰わないが、俺は本当にハルの父親になれた。ハルが最強魔法使いで、転移魔法陣があった事には本当に感謝しかない。
養子縁組に必要な書類は、王都に行かなければ用意ができない。しかも、俺は特殊なパルヴァンに関わる者の為、どうしても国王の許可も得なければならないから、どうしたって準備には数日─数週間は掛かるところを、やれば1日でできるのだ。








「国王陛下、私とハル様が養子縁組をする事になりました。勿論、許可は下りますね?」

「は?え?養子縁組?え?」

突然現れた俺に、国王陛下の顔色は悪くなっているが、そんな事は気にしない。

「許可…下りますよね?──下りるだろう?」

ニッコリ笑って、国王陛下の前に書類を差し出す。そこへ、宰相がやって来て

「では、私もサインをしておきましょう。」

と、宰相はサラサラとサインをした。
流石はゾル=ハンフォルト公爵だ。理解が早くて助かる。
そして、国王陛下のサインももらい、その日のうちに養子縁組に必要な書類を調えて、翌日には名実ともにハルを娘にする事ができた。




勿論、ハルがゼンの娘になった日、国王陛下と宰相が休みを取ったと言う事は、ゼンは知らない。

















ウェディングドレス姿のハルは、本当に綺麗だった。

ハルを見守って来て3年。娘となってからは、たったの数ヶ月。それでも、今日の晴れ姿を目にすると、胸にグッと来るモノがある。
“バージンロード”と言う路を、ハルと共に歩く。
足元のが、白から水色へ。水色から青色へ─

「…ちっ…独占欲の強い奴め…」

まぁ、それ位ハルを思ってくれていなければ、嫁になんて出さなかったし、ハルがハルだから、これ位が丁度良いのかもしれない。


「エディオル…殿。ハルを、頼みます。」

「はい。確かに。」

2人で声を交した後、ハルは俺の手を軽くギュッと握ってから離し、エディオルの手を取った。

2人が俺に背を向けて、前へと歩き出す。


ー2人で…幸せになれー


心の中でそう呟いて、2人を見送った。



















『ハル様も、騎士の嫁のあるあるを体験されました。』

律儀にも、ルナからキッチリと報告が上がって来たのは、勿論結婚式4日後の朝だった。俺も騎士だったから…勿論知っているし、もそうだったが──。




「ふふっ。ゼンさん、今日も付き合いましょうか?」

「宜しくお願いします。」

と、その日の夜は、ミヤ様とグレン様とシルヴィア様と4人で飲み明かした。









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