見捨てられた(無自覚な)王女は、溺愛には気付かない

みん

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27 侵攻再び

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「ギライマがまた、ルテリアルに侵攻し始めるようです」

その報せがもたらされたのは、私達がスネフェリングにやって来てから2ヶ月が過ぎた頃だった。

「それでは、私はルテリアルに戻ります」

そう言って、大神官様はルテリアルへと帰って行った。先の争いでは、レオノールも戦地に立っていたけど、今回はスネフェリングの騎士達が参戦すると言う事で、私と一緒にスネフェリングで過ごす事となった。


「これから、スネフェリングは寒季に入るので、タイミング的には良かったですね」

寒季に入ってしまうと、国内の移動が大変になるそうで、その前にルテリアルに移動したいと思っていたそうだ。ただ、あまりにも早く移動し始めると、ギライマの動きが予想外な動きになるかも知れないと言う事で、いつ動くべきか─と議論を繰り返していたそうだ。

「指揮を取るのは、我が国の第一騎士団の副団長ですから、ルテリアルが負ける事は決してありません」

アンナさんとウラリーさんが自信満々な顔をしている。勿論、私もスネフェリング帝国の武力を知っているし、負けるとは思っていない。私が心配していると言うか、信じていないのは、寧ろルテリアル国王だ。


スネフェリングの助けを当たり前と思っていないか?

そして、裏切らないか?

ーオードリナ様は、今回も戦地へ行くのかな?ー


「さあ、カミリア様、色々と準備を始めましょう!」
「準備…ですか?」
「そうです。スネフェリングの寒季を迎えるには、より温かい服や防寒具が必要となりますから、今日は仕立て屋を呼んでいるんです」
「でも…外に出なければ──」
「外に出なくとも、温かい服と防寒具は必要になりますから、カミリア様に拒否権はありません」
「はい……」

そうして、私は今日も着せ替え人形の様に、色んな服に着替えさせられる事となった。






ルテリアルへの侵攻第一陣を退けた─

と言う報せがあったのは、1週間後だった。スネフェリングは大陸の帝国なのに、海戦にも対応できる軍隊を持っているそうで、ギライマからの第一陣は、ルテリアルに足を踏み入れる事なく、海上で撃退されたそうだ。そこで、スネフェリングがルテリアルに付いている─と判明したのにも関わらず、ギライマがルテリアル侵略を諦める事はなかった。第二陣、第三陣と、侵攻の手を緩めようとはしなかった。
ギライマは獣人の国。獣人は身体能力が高く、自身の自己治癒力が高い為、怪我人が出てもすぐに回復し、また戦力に戻れるようになる為、死にさえしなければ諦めない限り侵攻し続ける。



そうして、気が付けば3ヶ月が過ぎていた。




「今年は比較的に天気が穏やかですね。初雪もまだですし…」

1年の約半分が寒季のスネフェリング。寒季に入ると天気の悪い日が増え、日に日に寒くなっていき、3ヶ月位経つと雪が降るそうだ。でも、今年は天気の良い日が多く、例年よりも寒さがマシで、3ヶ月経っても初雪が降らないのも、珍しいそうだ。
ただ、気候が温暖な国で育った私やレオノールにとっては、それでも寒さが身に染みる。

「寒季に入ってもお天気が良いので、作物も例年より収穫量が増えているそうです」
「それは良い事ですね。レオノールが土地を浄化した事も関係あるかもしれないですね」

レオノールは人質わたしとは違って、聖女としてスネフェリングに来ているから、週に3日は各領地を巡っている。

『穢れた土地を浄化して綺麗になると嬉しいし、領民の人達が本当に喜んでくれて、それがまた嬉しくて』

と、レオノールが楽しそうに話していた。
ルテリアルは加護のお陰で、土地も滅多に穢れる事がなく、たまに穢れが出て聖女が浄化しても感謝はされるけど、大喜びされる事は少ない。あくまでも、ルテリアルの崇拝対象は4大精霊で、聖女は、その4大精霊の“遣い手”と言う認識に近いのかもしれない。

「何だか、カミリア様とレオノール様がいらっしゃってから、我が国は良い事が増えた気がします」

ウラリーがお茶を淹れながら嬉しそうに言ってくれたけど、私は関係無くて、聖女レオノールのお陰だろう。

ー本当に、私とは真反対の存在なのねー







*ルテリアル王国*


「もう、今日は無理だわ!」
「せめて、子供だけでも……」
「本当に無理なのよ!分からないの!?」
「何事ですか?」
「王妃陛下!」
「お義母様!」

ここは、ルテリアルの王都にある神殿の一室。
ギライマからの侵攻を受け、戦いで傷付いた兵士や民達の治療をこの神殿で行っている。そこには、白属性の第一王女ヘレンティナの姿もあった。とは言え、王都は戦地にはなっていない為、治療するのは戦地で大怪我をして転送されて来る者達だけ。しかも、ルテリアル側が有利で戦力も高い為、転送されて来る数も少ない。以前のレオノールなら、特に問題無く治癒できていた人数だが、ヘレンティナはその少ない人数でもやっと─と言うところだった。

「お義母様、治癒のし過ぎで疲れているからと言っても、次次に怪我人を連れて来るんです。私に……倒れる迄続けろと言う事ですか!?」
「まぁ…なんて酷い事を……そこの貴方、ヘレンティナが倒れてしまえば、それこそ悪影響が出るわ。外に居る怪我人は他の者に治療させなさい。今日は、もうこれで終わりにしなさい」
「承知しました」

カティエ王妃から言われれば、一介の神官でしかない者は従うしかなく、それ以上は何も言わずに部屋から出て行った。

「……たったの数人でこれとは……」

神官はそう呟いた後、急いで怪我人達の居る部屋へと向かった。



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