見捨てられた(無自覚な)王女は、溺愛には気付かない

みん

文字の大きさ
29 / 46

29 崩壊の始まり

しおりを挟む
*テオファーヌ=ドラクレイ視点*


、ご苦労だった」
「ありがとうございます」

ー何とも厭味ったらしい言い方だー

3年掛かった─と言っているのだ。
ルテリアルにまともな騎士、兵力など無く、俺達スネフェリングの騎士達だけで片付けたにも関わらず。まともに感謝する事すらできない者がトップなのだから、騎士や貴族もまともではないのだろう。

『ありがとうございました』

ーいや、一人だけ、まともな子が居たなー

第二王女カミリア

3年前にルテリアルに行った時に、廊下にへたり込む第二王女を抱き上げて離宮迄運んでいる間、申し訳無さそうな顔をして必死に謝って、送り届けた後は、頭を下げてお礼を言っていた。色々と王女とは思えない子だった。年齢にしては小さく、王族とは思えない程の低姿勢。アマデュー大神官の要求で、人質としての名目で保護できた事は、正直ホッとした。結局、俺は挨拶をする事なく、軍を率いてルテリアルに来たから、あの子がどうなっているのかは分からない。ルテリアルよりはまとも──普通の生活ができているだろうけど。

ースネフェリングに戻ったら、挨拶をしに行こうかー

「後日やって来る復興支援部隊が到着し次第、私達はスネフェリングに帰還します」

それだけ伝えて、俺は謁見の間から退出した。





「テオファーヌ様、お疲れ様でした」

謁見の間を出たところで声をかけて来たのは、第一王女ヘレンティナだった。

「ありがとうございます」
「折角お会いできたので、今からお茶でもどうですか?」
「申し訳ありません。後始末や復興支援部隊との引き継ぎの作業があるので、ゆっくりしている時間がないんです」
「あら……この私の誘いを断るの?」

チラッと上目遣いで拗ねたような口調の第一王女。精霊の加護持ちだった前王妃の子で、稀な白属性で、今回の戦渦では怪我人の治療をしていて、貴族の間では高評価を得ているが、一緒に行動していた神官からの評判は良く無い。

『王女殿下は、貴族しか治癒しない』
『疲れたと言って、数人しか治癒しない』
『何かあれば、王妃陛下が庇うから、何も言えない』

と言っていた。この3年で思った事はただ一つ。4大精霊の加護が無くなったのは、王族の傲慢さが故だ。無くなって当然だ。そんなルテリアルがいつまでのか?

『10年……も掛からず、6年か7年あれば、自滅の路を自ら選ぶ事になると思うよ。きっちりお返しをしなければね?』

と、不敵に笑っていたアマデュー大神官。

ーアレは、聖人君子ではないー

スネフェリングの恩人に変わりはないが、今となっては、あの時アマデュー様個人としてスネフェリングを援助してくれたのは、俺達が使えると思ったからかもしれない。敵にまわすと恐ろしい存在となっていただろう。

「申し訳ありません。指揮を取る者として、職務を放棄する事はできませんので」
「スネフェリングの騎士は、融通がきかないのね。でも、今日は急だから仕方無いとして……次に声を掛けた時は、必ず来てもらうわ」

そう言って、第一王女は不満気な顔をして去って行った。

ー傲慢な王女だなー

お茶をするより、今は国内の立て直し、復興作業に専念するべき時なのだ。それは、王族が率先して行わなければならない。

「平和慣れや無知と言うのは、恐ろしいものだな」

ーまた声を掛けられる前に、引き継ぎ作業を調えて帰国しようー



第一王女の宣言通り、何度か声を掛けられたが忙しい事を理由に断り、その間にスネフェリングからの復興部隊が到着した。そうして、俺は第一王女とお茶をする事なくスネフェリングへの帰路に就いた。





*エイダン国王視点*
(国王執務室にて)

「スネフェリングの騎士団も、聞いていた程の実力では無かったな」
「そうですね……」

確かに、我が国の兵や民、領土の被害は少なかったが、いつもいつも最後の詰めが甘く、敵を逃しては又攻められ──気が付けば3年も経っていた。契約の5年迄、後2年。その2年、スネフェリングには食料を、スネフェリングは我が国の復興作業をしてもらうのだが──

「2年後は、もうスネフェリングをても良いだろう」

ギライマは制圧され、もう二度とルテリアルに侵攻して来る事はない。それに、今回の事で、ルテリアルにはスネフェリング帝国が付いている─と示す事もできたのだから、そう簡単に我が国に手を出す国はないだろう。

「ですが…聖女レオノールと第二王女が、10年と言う契約ですから、もし、我々がスネフェリング帝国との約束を反故した─となると……第二王女は………」

宰相が言葉を濁す。

「惜しい事だが、聖女は大神官の元で保護されているだろし、に関して言えば、厄介払いができるのだから、都合が良いだろう」





*ルテリアル王国・宰相視点*

「カティエには、私から話しておく」

と、国王陛下はそう言って、私を執務室から下がらせた。


カティエ王妃の唯一の子であり、汚点と呼ばれている第二王女。何度か見掛けた事はあるが、儚げで今にでも消えてしまいそうな子だった。でも、あの王女の纏う空気がとても綺麗なもののような感じがして、私はどうしても第二王女が“汚点”だとは思えないのだ。

厄介払い──

「…………」

王族の傲慢さ。それを分かっていても諌める事ができない私のような者達。加護が無くなってしまったのは、当然の事だったのかもしれない。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目の人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。 そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。 そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。 「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」 そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。 かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが… ※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。 ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。 よろしくお願いしますm(__)m

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。

サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

【完結】番が見ているのでさようなら

堀 和三盆
恋愛
 その視線に気が付いたのはいつ頃のことだっただろう。  焦がれるような。縋るような。睨みつけるような。  どこかから注がれる――番からのその視線。  俺は猫の獣人だ。  そして、その見た目の良さから獣人だけでなく人間からだってしょっちゅう告白をされる。いわゆるモテモテってやつだ。  だから女に困ったことはないし、生涯をたった一人に縛られるなんてバカみてえ。そんな風に思っていた。  なのに。  ある日、彼女の一人とのデート中にどこからかその視線を向けられた。正直、信じられなかった。急に体中が熱くなり、自分が興奮しているのが分かった。  しかし、感じるのは常に視線のみ。  コチラを見るだけで一向に姿を見せない番を無視し、俺は彼女達との逢瀬を楽しんだ――というよりは見せつけた。  ……そうすることで番からの視線に変化が起きるから。

処理中です...