見捨てられた(無自覚な)王女は、溺愛には気付かない

みん

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32 初めてのお花

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「カミリア様、お花が届きました」
「お花?」

食後に一眠りして目が覚めると、アンナさんが花を持って来てくれた。それは、ピンク色のガーベラで、片手で持てる程の大きさの花束。

「可愛い……でも、誰がどうして?」
「テオファーヌ=ドラクレイ様から、お見舞いとして送られて来ました」
「ドラクレイ様と言う事は……宰相の関係の方ですか?」
「はい。宰相の弟君です」

ーどうして、宰相の弟が私なんかに?会った事は…ない筈だけどー

とは言え、花をもらったのは初めてだ。たまに、オニキスで『花を貰った』と嬉しそうに話している使用人が居た。それを羨ましく思う時もあった。

「お花を貰うって、こんなにも嬉しい事だったんですね……」
「…………はい?」

アンナさんの顔がピシッと固まる。

「私、今迄お花を貰った事がなくて…あの、お礼に手紙を書いても良いですか?失礼にならなければ」
「勿論、手紙をご用意させていただきます。失礼になどなりません。失礼だなどと言う者が居ようものなら、私が締め上げます」
「締め上げる!?」

それは駄目だよね!?アンナさんとウラリーさんは、時々おかしくなる。優しいのは優しいけど。

そして、アンナさんは直ぐに手紙を用意してくれて、お礼の手紙を書いた。







*テオファーヌ視点*


「テオファーヌ様、王城より手紙が届きました」
「王城から?兄上からか?」
「一通はそうですが、もう一通は違うようです」

そう言って俺に手紙を渡すと、ドラクレイ家の執事は俺の部屋から退出した。
確かに、一通は兄上からのもので、もう一通には名前が表記されていなかったから、先ずは兄上からの手紙を読むと─俺の体調窺いから始まり、花を貰った第二王女が、お礼の手紙を書いたから読むように─との事だった。

“お前が花を贈っていたとは、知らなかったから驚いたよ”

第二王女に挨拶をしようと思っていた慰労会。でも、体調を崩したらしく挨拶どころか、見る事もできなかった。

ー大丈夫だろうか?ー

ここはスネフェリングで、ルテリアルのように第二王女を蔑ろにする者は居ないし、王付きの医者が診てくれたのも知っていたが、どうしても気になった事もあり花を贈った。それが、まさかお礼の手紙が返って来るとは思わなかった。

ー本当に、ルテリアル国王の子なのか?第二王女の方がまともで、国王の方が汚点ではないんだろうか?ー

その手紙には、自己紹介のような文面から始まり、わざわざ花を贈ってくれた事への感謝と、とても嬉しかったと言う事が書かれてあった。字体は本人を表すように、少し小さ目の大きさだが、とても綺麗な字だ。
そこでようやく気付く。

「あぁ、そうか。第二王女は、俺には気付いていない……知らないのか」

自己紹介から始まった手紙。第二王女は、、俺が離宮オニキス迄抱き上げて運んだ護衛だと言う事を、知らないのだ。全く知らない者から花が届けば、不思議に思っただろうに、こうして丁寧にお礼を書いてくれたのか。“貰って当たり前”ではなく。

「姉妹でもえらい違いだな」

今は1ヶ月の休暇中で、登城する予定は無い。

でも─

俺は机に向かい、引き出しから便箋を取り出した。




******


折り返し第二王女に手紙を出してから3日後─

「まさか、お前がカミリア様に面会を申し出ていたとは思わなかったよ」
「迷惑を掛けたならすみません」
「迷惑ではないよ。単純に驚いただけたから。テオが、カミリア様を気に掛けていたのは知っていたからね。カミリア様も、花のお礼がしたいと言っていたから、丁度良かった」

“元気になったら挨拶をさせて欲しい”と手紙を出すと、お茶の招待状が届いた。第二王女の字ではなかったから、お付の侍女が書いたものだろう。きっと、本人は『わざわざ休みの日に呼び出すなんて!』と言ったところに、侍女達が『大丈夫です。問題ありません。お茶をしましょう』とか言って強行突破させたんだろう。

「それに、カミリア様には、もっと色んな人と関わりを持って、視野を広げて欲しいと思っていたからね」

どうやら、兄上も第二王女の事が気になっているようだ。

「そうですね。それで、第二王女の笑顔が増えれば良いですね」

ルテリアルでは息を殺して生きていた第二王女。ここでの生活が、笑顔溢れるものになれば良いと願うばかりだ。






「休暇中にわざわざ来ていただいて、ありがとうございます。あの…お見舞いのお花も、ありがとうございました。改めて…私、ルテリアルが第二王女のカミリアです。宜しくお願いします」

ペコリと簡単に頭を下げる第二王女。ツン─と鼻を上げて誘って来た誰かとは大違いだ。

「ご挨拶ありがとうございます。私は、テオファーヌ=ドラクレイ。第一騎士団の副団長を務めています」
「この度は、ルテリアルの為に尽力下さって、ありがとうございました」

そう言ってまた、頭を下げる第二王女。

「実は、王女殿下とは、初めてではないんですよ?」
「え?」

キョトンとする第二王女。以前よりも健康的で年相応に見える。そして、何より──可愛らしい女の子だ。


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