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1 追い出された令嬢
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私の名前は─ニア。
幼い頃は家名を持っていたけど、それも10歳の頃には失った。幸せだった思い出も10歳で止まっている。
私は3歳の時に高熱を出し倒れて以降、体調を崩しやすくなった。そんな私を、両親はいつも優しく看病をしてくれた。思い通りにいかない自分の体が恨めしくて、夜になると両親には内緒でコッソリと泣く事もあった。
5歳を過ぎると、病弱ながらも普通の生活ができるようになり、友達もできた。領地が隣同士で同じ爵位の女の子─モニク。体調の良い時は、よく一緒に遊んだ。
そして、私の10歳になる誕生日の前日に、ソレは起きた。領地内で崖崩れが起こり、急遽、両親が視察と援助物資を持って行く事になった。
「明日は無理かもしれないが、帰って来たらお祝いしよう」
「1人にしてしまうけど、ごめんね」
そう言って、両親は2人揃って同じ馬車に乗って行った。崖崩れが起こって大変だろうけど、幸いな事に怪我人は居なかった為、両親も早いうちに帰って来るだろう─と、家令や使用人達も思っていた。
それが──
「旦那様と奥様が……お亡くなりになりました………」
崖崩れがあった現場に辿り着いた両親を、二度目の崖崩れが襲ったのだった。
私はショックで高熱を出し倒れ、それから2週間の間、発熱を繰り返し───落ち着いた頃には両親の葬儀も終わっていて……
「今日から、ここの主は私だから」
と、父の実の弟─叔父の家族が邸にやって来た。
父と母の両親─祖父母は4人共既に他界している為、この叔父家族が私にとっての唯一の親族となる。
その叔父には、妻と兄妹が居る。私にとって従兄妹となる2人だけど、もともと仲はあまり良いものではなく、一緒に住むようになって更に酷いものになっていった。
食事はたまに味がおかしい時もあったけど、最低限の量は出されていた。世間体を気にしてか、病気になった時は医師を呼び、ちゃんと薬代も出してくれていた。
「病気ばっかりで、何の役にも立たないんだな」
「熱を出したからって、面倒をみてもらえると思わないでね」
「ただの居候のくせに……薬代が勿体無い」
ただ、寝込んでいる私に寄り添ってくれる人は誰も居なかった。
そして、11歳の誕生日の前日、叔父に呼ばれて執務室へと行くと──
「明日で約束の1年になる。それと同時に、お前は伯爵令嬢ではなくなるから、この邸から出て行ってもらう。」
「え?約束?邸から…出て行け?」
10歳の私には全く意味が分からなかった。何故伯爵令嬢ではなくなるのか。何故、自分の邸から出て行かなければいけないのか。“約束”とは何なのか─
「あぁ、でも安心しろ。ちゃんと、次の場所を見付けてあるからな。お前はただ、そこへ行くだけだ。」
何処へ?─と訊く前には執務室から追い出され、部屋に戻ると、叔父達と一緒にやって来た使用人の1人が、私の荷物を纏めていた。
もともとこの邸に居た使用人も数名いたけど、その者達は下女のような仕事しかさせられていない為、私の周りには味方なんて1人も居なかった。
「お嬢様…何もできなくて…申し訳ありません」
「お嬢様、どうぞ、これをお持ち下さい」
翌日、私の見送りをしてくれたの、以前からいた使用人2人。そのうちの1人は、母の侍女をしていたミリー。そのミリーが私に手渡して来たのは、母が生前よく身に着けていた、小粒ながら綺麗な色のアメジストのネックレスだった。
「これは、奥様が大奥様─お嬢様にとってのお祖母様から引き継いだネックレスです。コレだけは……取られないようにと、私が隠し持っていました。コレは、お嬢様のものです」
「お祖母様と……お母様の……ミリー、ありがとう」
「いえ……これぐらいしかできず……申し訳ありません。お嬢様、どうか……どうか、お元気で………」
そして、私は小さな鞄一つと、そのネックレスを持ち馬車に乗り込んだ。
******
「俺の仕事は、ここに送り届ける事だから、これで帰るよ。元気でな…お荷物お嬢様」
「……ありがとう…ございました……」
“お荷物お嬢様”──
あの邸で、陰で使用人達が私の事をそう呼んでいたのは知っていた。従兄妹達が、私の事をよく、そう呼んでいたからだ。
休憩する事もなく、来た道を戻って行く馬車を見送った後、背後にある建物に目を向ける。
「………修道院…………」
そこは、修道院だった。ある意味で有名な修道院だ。
基本、修道院には神様の教えを請う者が集う場所だが、孤児の面倒を見る場所でもある。
そして、ここは………お金さえ払えば、どんな者でも受け入れる事で有名な修道院だった。
決して悪い事ではない。暴力を振るわれた既婚女性や、虐待された子供達の受入れ先になっているから。そして、私もその内の1人なんだろう。叔父が、私が邪魔で、お金でここに送りこんだのだ。伯爵籍から抜かれて………。
そうして、私は11歳の誕生日の日に平民になり、修道院に入る事になった。
❋今週末は1日2話の更新で、以降は、基本は1日1話更新で頑張ります。宜しくお願いします❋
( ∗ᵔ ᵕᵔ) ˶ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
幼い頃は家名を持っていたけど、それも10歳の頃には失った。幸せだった思い出も10歳で止まっている。
私は3歳の時に高熱を出し倒れて以降、体調を崩しやすくなった。そんな私を、両親はいつも優しく看病をしてくれた。思い通りにいかない自分の体が恨めしくて、夜になると両親には内緒でコッソリと泣く事もあった。
5歳を過ぎると、病弱ながらも普通の生活ができるようになり、友達もできた。領地が隣同士で同じ爵位の女の子─モニク。体調の良い時は、よく一緒に遊んだ。
そして、私の10歳になる誕生日の前日に、ソレは起きた。領地内で崖崩れが起こり、急遽、両親が視察と援助物資を持って行く事になった。
「明日は無理かもしれないが、帰って来たらお祝いしよう」
「1人にしてしまうけど、ごめんね」
そう言って、両親は2人揃って同じ馬車に乗って行った。崖崩れが起こって大変だろうけど、幸いな事に怪我人は居なかった為、両親も早いうちに帰って来るだろう─と、家令や使用人達も思っていた。
それが──
「旦那様と奥様が……お亡くなりになりました………」
崖崩れがあった現場に辿り着いた両親を、二度目の崖崩れが襲ったのだった。
私はショックで高熱を出し倒れ、それから2週間の間、発熱を繰り返し───落ち着いた頃には両親の葬儀も終わっていて……
「今日から、ここの主は私だから」
と、父の実の弟─叔父の家族が邸にやって来た。
父と母の両親─祖父母は4人共既に他界している為、この叔父家族が私にとっての唯一の親族となる。
その叔父には、妻と兄妹が居る。私にとって従兄妹となる2人だけど、もともと仲はあまり良いものではなく、一緒に住むようになって更に酷いものになっていった。
食事はたまに味がおかしい時もあったけど、最低限の量は出されていた。世間体を気にしてか、病気になった時は医師を呼び、ちゃんと薬代も出してくれていた。
「病気ばっかりで、何の役にも立たないんだな」
「熱を出したからって、面倒をみてもらえると思わないでね」
「ただの居候のくせに……薬代が勿体無い」
ただ、寝込んでいる私に寄り添ってくれる人は誰も居なかった。
そして、11歳の誕生日の前日、叔父に呼ばれて執務室へと行くと──
「明日で約束の1年になる。それと同時に、お前は伯爵令嬢ではなくなるから、この邸から出て行ってもらう。」
「え?約束?邸から…出て行け?」
10歳の私には全く意味が分からなかった。何故伯爵令嬢ではなくなるのか。何故、自分の邸から出て行かなければいけないのか。“約束”とは何なのか─
「あぁ、でも安心しろ。ちゃんと、次の場所を見付けてあるからな。お前はただ、そこへ行くだけだ。」
何処へ?─と訊く前には執務室から追い出され、部屋に戻ると、叔父達と一緒にやって来た使用人の1人が、私の荷物を纏めていた。
もともとこの邸に居た使用人も数名いたけど、その者達は下女のような仕事しかさせられていない為、私の周りには味方なんて1人も居なかった。
「お嬢様…何もできなくて…申し訳ありません」
「お嬢様、どうぞ、これをお持ち下さい」
翌日、私の見送りをしてくれたの、以前からいた使用人2人。そのうちの1人は、母の侍女をしていたミリー。そのミリーが私に手渡して来たのは、母が生前よく身に着けていた、小粒ながら綺麗な色のアメジストのネックレスだった。
「これは、奥様が大奥様─お嬢様にとってのお祖母様から引き継いだネックレスです。コレだけは……取られないようにと、私が隠し持っていました。コレは、お嬢様のものです」
「お祖母様と……お母様の……ミリー、ありがとう」
「いえ……これぐらいしかできず……申し訳ありません。お嬢様、どうか……どうか、お元気で………」
そして、私は小さな鞄一つと、そのネックレスを持ち馬車に乗り込んだ。
******
「俺の仕事は、ここに送り届ける事だから、これで帰るよ。元気でな…お荷物お嬢様」
「……ありがとう…ございました……」
“お荷物お嬢様”──
あの邸で、陰で使用人達が私の事をそう呼んでいたのは知っていた。従兄妹達が、私の事をよく、そう呼んでいたからだ。
休憩する事もなく、来た道を戻って行く馬車を見送った後、背後にある建物に目を向ける。
「………修道院…………」
そこは、修道院だった。ある意味で有名な修道院だ。
基本、修道院には神様の教えを請う者が集う場所だが、孤児の面倒を見る場所でもある。
そして、ここは………お金さえ払えば、どんな者でも受け入れる事で有名な修道院だった。
決して悪い事ではない。暴力を振るわれた既婚女性や、虐待された子供達の受入れ先になっているから。そして、私もその内の1人なんだろう。叔父が、私が邪魔で、お金でここに送りこんだのだ。伯爵籍から抜かれて………。
そうして、私は11歳の誕生日の日に平民になり、修道院に入る事になった。
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( ∗ᵔ ᵕᵔ) ˶ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
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