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6 帰り道

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「こんな遅くまで、仕事してたの?」
「えっと……」
「ニアさん、今日はちゃんと時間内にノルマ分は終わってたよね?“明日の分を少しでも”と言うには……少し遅すぎる時間じゃない?」
「あの……」

ーどうしよう…特別待遇とか……思われるのも嫌だし……でも、本当の事は言えないし……ー

「ニアさん、言えない事でもあ──」
「ニアさんに、話し相手になってもらっていたのよ。気付いたらこんな時間になってしまって……」
「「奥様!」」

どう答えればいいか分からず困っていると、奥様─モニクが現れた。

「ニアさんとは歳が近いから、時々私の話し相手になってもらってるの。ただ、今日はいつもより長くお喋りしてしまって……ニアさん、ごめんなさいね。今、見送りの者を──」
「それなら、私が送って行きますよ」
「え?でも…迷惑では………」

ー仕事仲間とは言え、夜道を2人でなんて…ー

「私、こう見えても、そこそこ強かったりするんですよ。それに、私も独身だから、誰に何を言われる事もないから大丈夫です」

まさか独身。40代で独身。貴族ではあまりないけど、平民ならよくあったりするのかなぁ?

「それに、お互い平民同士だから、悪く言われる事はないしね」

そう言えばそうだ。平民では、男女2人が一緒に居ても、それがイコール恋仲や婚約者とは限らない。普通に友達として歩いていたりする。

「そう?ニアさんは……それで良いかしら?」

モニクが心配そうな顔をしている。それは演技なのか、それとも───

「奥様、お気使い、ありがとうございます。私は、このままレイさんに送ってもらいます」
「そう……レイさん、宜しくお願いしますね」

モニクはそれだけ言うと、そのまま店の方へと入って行った。

「それじゃあ…帰ろうか……と言うか、家はどこ?」
「あ……あっちの方で……10分位で着くから、送ってもらわなくても──」
「ここで放って帰るのは、平民と言えど紳士としての私の矜持が許さないし、別れた後、ニアさんに何かあったら、立ち直れなくなるから、素直に送らせてもらえるかな?」

ニッコリ笑うレイさん。そう言われると断れる筈もない。

「じゃあ……宜しくお願いします」
「ん……」

私が歩き始めると、レイさんも私に合わせてゆっくりと歩き出した。
それから家に着くまで間、仕事に関しての話はせず、この町に関して色々訊かれた。どうやらレイさんはもともと違う国の生まれで、この国ににやって来たのが1年前で、それもこの商会に引き抜かれる前は、違う領地に住んでいたそうで、まだこの町の事がよく分からないらしい。

「得に、独り身だと食事に困るんだ」

多少の料理はするそうだけど、作れる物は限られている上に、上手ではない。程度の物なんだとか。だから、基本は買って食べたり外食で済ませるそうで、お勧めのお店などを訊かれた。
この町は観光スポットがあり、比較的よく賑わっている町で、色んなお店が立ち並んでいる。独身なレイさんでも住みやすい町かもしれない。

「私、甘い物も好きなんです」
「それなら───」

勿論、美味しいカフェもたくさんある。食べに行く事なんて滅多にないけど、少ない給料から少しずつ貯金して、時々ケーキを買ったりはしている。自分へのご褒美に。

「でも、カフェって、男一人では入り難いから、いつもテイクアウトで…。店内限定のケーキが食べられないのも、独り身の辛いところかもしれない…」

残念そうな顔をしているのを見ると、それが本音なんだろう。
そんな話をしているうちに、あっと言う間に家に辿り着いた。平民の独身が住まう間取りの少ない小さなアパートメントだ。

「あの、送ってもらって、本当にありがとうございました。正直……予定より遅くなってしまって…どうしようかと思ってたので……」
「迷惑じゃなくて良かった。でも…これからは時間に気を付けてね」
「はい。えっと…また、今度お礼をさせてもらいますね」

ーお金がないから、大した事はできないけどー

「別にお礼なんて要らないけど、それはそれでニアさんが納得しないか……あ、なら、一つだけ、私のお願いを聞いてくれるかな?」
「お願いですか?えっと…私が出来る事なら」
「勿論、ニアさんに出来る事だし、変なお願いでもないし、嫌なら断ってくれても良いよ。私のお願いは、ニアさんの週末の休みの1日を、私にくれる事」
「私の休みの1日を……レイさんに?」
「そう」

ニッコリ笑うレイさん。
レイさんに、休日出勤の予定があったんだろうか?あの商会で休日出勤は珍しいけど、兎に角、その休日出勤のレイさんの代わりに、私が出勤すると言う事??

「えっと…レイさんの代わりに、私が出勤すれば良いんですか?」
「はい?出勤?え?何で?」
「え?違うんですか?え?」

「「…………」」

二人揃って「??」が乱れ飛んでいる。暫くお互い黙ったまま見つめ合った後、吹き出すように笑い出したのは、レイさんだった。


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