没落令嬢は、おじさん魔道士を尽くスルーする

みん

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5 新しい魔道士②

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バサバサバサッ

「あー……すみません……」
「「…………」」

机の上に山積みになっていた書類が雪崩を起こした。
その散らばった書類を掻き集めているのは─レイさん。もう、エドガーさんも私も驚く事はない。「何故か?」それは───

ガチャン

「あー…すみません……」
「「…………」」

魔道士としては驚く程の腕前の持ち主なのに…それ以外の事が雑過ぎる人だった。今も、散らばった書類を掻き集めているのに必死になり、書類の上に置いていたコップに気付かず手がぶつかってしまい、落ちてしまったのだ。
レイさんの机の上は、いつも色んな物が置かれている。

「ガラス片は危ないから、箒を──」
「いっ──っ!」
「………大丈夫……ですか?」

落ちて割れたコップのガラス片、を素手で拾おうとして手に怪我をしてしまったリオさん。

「ニア、お前も一緒に行って、レイの手当をして来てくれ」
「分かりました」

エドガーさんに言われて、私はレイさんを連れて医務室へと向かった。





医務室と言っても、常に医師が待機している訳でなはい。今も不在だった為、レイさんの手当を私がする事になった。

「痛くないですか?」
「うん、大丈夫。ありがとう」

ボサッとした髪で、長目の前髪で殆ど目が隠れてしまってハッキリとは分からないけど、多分……笑顔なんだろう。基本、レイさんはいつも穏やかだ。ただ、一度だけ「どうして君みたいなが働いているの!?」と、少し機嫌が悪そうな低い声で言われた事があったけど……。「えっと…私、小柄ですけど、25歳なんです」と言えば、驚いた後、ひたすら謝られた。その時以降、レイさんからあの時みたいな声は一度も耳にはしていない。

「ニアさんって、よく残業してるけど…大丈夫?」
「え?」

ーあれ?いつもレイさんの方が早く退勤してるのにー

「私、魔力量が少なくて規定量の精製水を作り上げるのが遅いから、残って翌日分を作ったりしてるんです」
「そうなんだ…でも……あまり無理をしては駄目だよ?もし、規定量に無理があるなら減らしてもらうのも良いんじゃないかな?私が入った分余裕あると思うし。」

確かに、レイさんは精製水を作るのが早い。しかも、思い通りの純度の精製水を作れる為、ポーション作りにも余裕が出て来ている。ただ…私が残業して作っている精製水は、規定量外のモノ。そして、その事は他言無用と言われている。

「今のところは大丈夫なので、もし、本当に駄目だな…って思った時は相談してみます」
「そっか……本当に…無理はしないようにね」
「ありがとうございます」

レイさんはニコッと微笑んだ後、私の頭をポンポンと優しく叩いた。




******

「ランチ、一緒に食べても良いですか?」
「勿論よ、どうぞ」

レイさんがやって来てから1週間。お昼休みの時間になった時にレイさんから声を掛けられ、(カリーヌさんと3人)一緒にランチを食べる事になった。
この1週間、レイさんは色んな人と日替わりでランチを取っていた。

「早く、この職場の人に慣れたくて」
「まだ1週間だけど、もう馴染んでるわよね。魔力も凄いって、皆言ってるわよ」
「馴染んでいるように見えてるなら良かったです。魔力に関しては…平民ながら良いものを授かったなぁと、親に感謝してます」

サラッと実力を認めるレイさんは、全く嫌味がない。いや、本当に実力があるんだけど……これがダミアンさんだったら『当たり前だ。ようやく俺の実力が分かったか!』とか言いそうだよね……イラッとするのは………仕方無い。

「でも、この商会って、働き手にとっては本当に良い条件が揃ってますよね。給金は能力次第で上げてくれると聞いてますし、何より、キチンと休みがあって、残業も殆ど無いですし……ここに引き抜かれて、本当に良かったと思います」
「そうね……休みがちゃんとあって、残業が殆ど無いのは、子持ちの私としても、本当に助かるわ………」
「…………ですね……………」

ー何とも言えないー

カリーヌさんにも言っていない。

私がどう言う経緯でここにやって来たのか。給料が最低条件さえ満たされていない事。手当てのない残業をして、ノルマ以外の精製水を作っている事。

「助けて」とは言えない。私には、ここ以外に行く所なんてないから、ここで頑張るしかないのだ。

「でも、残業があったとしても、その分もちゃんと出るから、残業になっても文句を言う人も居ないわね」
「それじゃあ、残業はある意味ではラッキーですね」
「………」

それからも、レイさんの質問にカリーヌさんが答えると言う感じで2人の話が盛り上がるのとは正反対で、私は憂鬱な気持ちでランチを食べた。


その日の午後は気持ちが下がったせいか、小さなミスを繰り返し、ダミアンさんには『役立たずが更に役立たずになってどうするんだ?』何て事を言われ、カリーヌさんには心配された。

兎に角、精製水作りに集中できなかったせいで、その日はいつもより残業も長くなり、帰り時間がいつもより遅くなってしまい、外に出ると真っ暗だった。
比較的治安の良い土地ではあるけど、1人で帰宅するには不安がある。

「どうしようかな───」
「あれ?ひょっとして、ニアさん?」
「はい?」

呼ばれて振り返ると、そこにはレイさんが居た。








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