10 / 22
10 夜の商談
しおりを挟む
「*********」
「********」
ー誰かの……声がする?ー
「****薬で**作用が**」
「***性が高いからどんな****も**」
「**思いのまま─になると?」
ーえ?ー
パチッ─と目が覚める。
いつの間にかランプも消えていて、部屋内は真っ暗になっている。今日も残業をして、+ノルマの精製水を作っていた筈が、どうやら寝てしまっていたらしい。ここは、作業室の奥にある個人スペース。私はいつもここで残業している。
「これが───が使用した?」
「あぁ。とびきりの上等品だ。間違いなく一度で言いなりだ」
“思いのまま”“言いなり”
そのワードに、心臓が嫌な音を立てて、嫌な汗が流れ出した。
ーこの声は会長と……誰か知らない人だー
「今日は取り敢えず3本頂こう。効果が確認できたら─────」
「分かりました。ではお代は───」
その2人は私の存在に気付く事なく商談を進め、終わると作業室から出て行った。
「………」
ハッキリとは聞き取れなかったけど、あのワードに、他の誰も居ないこんな夜での商談。きっと、良い─普通の商談ではないだろう。それに、何の為に作らされているのか分からない、私の+ノルマ分の精製水。
ー私は…何を作る為に使われているの?ー
私はこの日、何とも言えない恐怖を感じた。
それから私がした事は、“調べる事”だった。
“思いのまま”“言いなり”から連想するのは、“媚薬”だった。媚薬と言っても様々な種類がある。一般的に薬局などでも売っている物は安くて、初めての時や初夜の時、夫婦で使われたりもする。これは特に副作用もなく問題も無い。中レベルの媚薬になると、妊娠しやすいと言う傾向があり、不妊の夫婦が使用したりする。ただ、副作用がある為、薬師や医師の指示のもと、用法をキチっと守って使用しなければならない。それよりも強い媚薬は、使用禁止ではなく、製造禁止となっている。理由は、媚薬の効能が強ければ強い程副作用が酷くなり、常習性が高くなるから。そして、媚薬が効いている間は、相手の思うがままになってしまうのだ。
媚薬の作り方なんて知らなかったから調べてみると、どのレベルの物もほぼ同じ作り方だった。使用する薬草の配合が少しずつ違うとのと、後は──精製水の純度の違いだけ。純度が高ければ高い程媚薬の効能が強く表れる。
私が作る精製水は青色だから、媚薬を作っているとしても中レベルが精々だろう。
『──青色?』
あの時、青色に反応したレイさん。
もし、私の作った精製水が青色じゃなかったら?
白に近い精製水だったら?
「まさか………ね………」
******
「ちょっと、ニア、大丈夫?」
「え?」
「顔色悪いわよ」
心配そうな顔で、私の顔を覗き込んで来たのはカリーヌさん。
「最近……ちょっと眠りが悪くて……」
媚薬について調べてから、不安な気持ちになる事が増え、お腹が空いていても食事が喉を通らず、眠たいのに眠れない─と言う日々を繰り返している。
「更にやつれて……ニア、貴方、今日はもう帰りなさい。丁度明日は週末だから、今から3日間家でゆっくりしなさい。エドガー様と会長には私から言っておくから」
「え…でも…………」
ーそんな事をすれば、私はどうなる?ー
こんな所でも、追い出されてしまったら……行く所がない。後ろ盾のない独り身の女性なんて……放り出されたらそこでお終いだ。自然とフルフルと手が震え出した。
「ニアさん、大丈夫だから」
「え?」
震える私の手を、優しく包むように握ってくれたのはレイさんだった。
「私からも会長にお願いしておくから。私も平民だけど、この商会への貢献度はトップだからね。その辺りをチラつかせてお願いするから、ニアさんは安心して休むと良いよ」
ー“チラつかせて”って何?ー
私を安心させる為だろう。レイさんは軽いノリで笑っている。その笑顔が、何ともホッとする感じだ。
「やっぱり…お父さ─んみたいだ……」
「………そうか………………………なら……親の言う事は……素直に聞いておこか?」
「?」
さっき迄の穏やかな笑顔と声はどこへやら。笑顔は笑顔でも目は笑ってないし、声のトーンはいつもより低い。
「でも…私、今日のノルマが……」
「ニアさんのノルマも私が作っておくから。勿論、また元気になったらお礼をしてもらうから、気にせず休んでくれ」
何ともレイさんらしい言い回しだ。
それでも、どうなるか分からない…けど……
「ニアさん!?」
「ありがとうございます」と言う前に、少し焦った声で私を呼ぶレイさんの声が聞こえたかな?と思うのと同時に、私の意識はそこで途絶えた。
「********」
ー誰かの……声がする?ー
「****薬で**作用が**」
「***性が高いからどんな****も**」
「**思いのまま─になると?」
ーえ?ー
パチッ─と目が覚める。
いつの間にかランプも消えていて、部屋内は真っ暗になっている。今日も残業をして、+ノルマの精製水を作っていた筈が、どうやら寝てしまっていたらしい。ここは、作業室の奥にある個人スペース。私はいつもここで残業している。
「これが───が使用した?」
「あぁ。とびきりの上等品だ。間違いなく一度で言いなりだ」
“思いのまま”“言いなり”
そのワードに、心臓が嫌な音を立てて、嫌な汗が流れ出した。
ーこの声は会長と……誰か知らない人だー
「今日は取り敢えず3本頂こう。効果が確認できたら─────」
「分かりました。ではお代は───」
その2人は私の存在に気付く事なく商談を進め、終わると作業室から出て行った。
「………」
ハッキリとは聞き取れなかったけど、あのワードに、他の誰も居ないこんな夜での商談。きっと、良い─普通の商談ではないだろう。それに、何の為に作らされているのか分からない、私の+ノルマ分の精製水。
ー私は…何を作る為に使われているの?ー
私はこの日、何とも言えない恐怖を感じた。
それから私がした事は、“調べる事”だった。
“思いのまま”“言いなり”から連想するのは、“媚薬”だった。媚薬と言っても様々な種類がある。一般的に薬局などでも売っている物は安くて、初めての時や初夜の時、夫婦で使われたりもする。これは特に副作用もなく問題も無い。中レベルの媚薬になると、妊娠しやすいと言う傾向があり、不妊の夫婦が使用したりする。ただ、副作用がある為、薬師や医師の指示のもと、用法をキチっと守って使用しなければならない。それよりも強い媚薬は、使用禁止ではなく、製造禁止となっている。理由は、媚薬の効能が強ければ強い程副作用が酷くなり、常習性が高くなるから。そして、媚薬が効いている間は、相手の思うがままになってしまうのだ。
媚薬の作り方なんて知らなかったから調べてみると、どのレベルの物もほぼ同じ作り方だった。使用する薬草の配合が少しずつ違うとのと、後は──精製水の純度の違いだけ。純度が高ければ高い程媚薬の効能が強く表れる。
私が作る精製水は青色だから、媚薬を作っているとしても中レベルが精々だろう。
『──青色?』
あの時、青色に反応したレイさん。
もし、私の作った精製水が青色じゃなかったら?
白に近い精製水だったら?
「まさか………ね………」
******
「ちょっと、ニア、大丈夫?」
「え?」
「顔色悪いわよ」
心配そうな顔で、私の顔を覗き込んで来たのはカリーヌさん。
「最近……ちょっと眠りが悪くて……」
媚薬について調べてから、不安な気持ちになる事が増え、お腹が空いていても食事が喉を通らず、眠たいのに眠れない─と言う日々を繰り返している。
「更にやつれて……ニア、貴方、今日はもう帰りなさい。丁度明日は週末だから、今から3日間家でゆっくりしなさい。エドガー様と会長には私から言っておくから」
「え…でも…………」
ーそんな事をすれば、私はどうなる?ー
こんな所でも、追い出されてしまったら……行く所がない。後ろ盾のない独り身の女性なんて……放り出されたらそこでお終いだ。自然とフルフルと手が震え出した。
「ニアさん、大丈夫だから」
「え?」
震える私の手を、優しく包むように握ってくれたのはレイさんだった。
「私からも会長にお願いしておくから。私も平民だけど、この商会への貢献度はトップだからね。その辺りをチラつかせてお願いするから、ニアさんは安心して休むと良いよ」
ー“チラつかせて”って何?ー
私を安心させる為だろう。レイさんは軽いノリで笑っている。その笑顔が、何ともホッとする感じだ。
「やっぱり…お父さ─んみたいだ……」
「………そうか………………………なら……親の言う事は……素直に聞いておこか?」
「?」
さっき迄の穏やかな笑顔と声はどこへやら。笑顔は笑顔でも目は笑ってないし、声のトーンはいつもより低い。
「でも…私、今日のノルマが……」
「ニアさんのノルマも私が作っておくから。勿論、また元気になったらお礼をしてもらうから、気にせず休んでくれ」
何ともレイさんらしい言い回しだ。
それでも、どうなるか分からない…けど……
「ニアさん!?」
「ありがとうございます」と言う前に、少し焦った声で私を呼ぶレイさんの声が聞こえたかな?と思うのと同時に、私の意識はそこで途絶えた。
54
あなたにおすすめの小説
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
捨てられた妻は悪魔と旅立ちます。
豆狸
恋愛
いっそ……いっそこんな風に私を想う言葉を口にしないでくれたなら、はっきりとペルブラン様のほうを選んでくれたなら捨て去ることが出来るのに、全身に絡みついた鎖のような私の恋心を。
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
夜更けにほどける想い
yukataka
恋愛
雨粒の音に紛れて、久しぶりの通知が鳴った。
もう恋はしないと決めた夜に、彼の名前が戻ってきた。
これは、四十代を迎えた主人公が同窓会でかつての恋人と再会し、心を揺らす物語です。
過去の未練と現在の生活、そして再び芽生える恋心。
やがて二人は、心と体を重ね合わせることで、忘れていた自分自身を取り戻していきます。
切なくも温かい、大人の純愛ストーリーです。
四十四歳の篠原夕は、企画会社で走り続けてきた。離婚から三年。実母の通院に付き添いながら、仕事の締切を積み木のように積み上げる日々。同窓会の知らせが届いた秋雨の夜、幹事の真紀に押し切られるように参加を決めた会場で、夕は久我陸と再会する。高校時代、互いに好き合いながら言葉にできなかった相手だ。近況を交わすうち、沈黙がやさしく戻ってくる。ビストロ、川沿い、駅前のラウンジ。途切れた時間を縫うように、ふたりは少しずつ距離を縮める。冬、陸は地方出張の辞令を受ける。夕は迷いながらも、今の自分で相手に向き合うと決める。ある夜、雪の予報。小さな部屋で肩を寄せた体温は、若い頃よりあたたかかった。春が来る。選ぶのは、約束ではなく、毎日の小さな行き来。夕は言葉を尽くすこと、沈黙を恐れないことを学び直し、ふたりは「終わりから始める」恋を続けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる