没落令嬢は、おじさん魔道士を尽くスルーする

みん

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10 夜の商談

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「*********」
「********」


ー誰かの……声がする?ー

「****薬で**作用が**」
「***性が高いからどんな****も**」
「**─になると?」

ーえ?ー

パチッ─と目が覚める。
いつの間にかランプも消えていて、部屋内は真っ暗になっている。今日も残業をして、プラスノルマの精製水を作っていた筈が、どうやら寝てしまっていたらしい。ここは、作業室の奥にある個人スペース。私はいつもここで残業している。


「これが───が使用した?」
「あぁ。とびきりの上等品だ。間違いなく一度でだ」

“思いのまま”“言いなり”

そのワードに、心臓が嫌な音を立てて、嫌な汗が流れ出した。

ーこの声は会長と……誰か知らない人だー

「今日は取り敢えず3本頂こう。効果が確認できたら─────」
「分かりました。ではお代は───」

その2人は私の存在に気付く事なく商談を進め、終わると作業室から出て行った。

「………」

ハッキリとは聞き取れなかったけど、あのワードに、他の誰も居ないこんな夜での商談。きっと、良い─普通の商談ではないだろう。それに、何の為に作らされているのか分からない、私のプラスノルマ分の精製水。

ー私は…何を作る為に使われているの?ー

私はこの日、何とも言えない恐怖を感じた。







それから私がした事は、“調べる事”だった。

“思いのまま”“言いなり”から連想するのは、“媚薬”だった。媚薬と言っても様々な種類がある。一般的に薬局などでも売っている物は安くて、の時や初夜の時、夫婦で使われたりもする。これは特に副作用もなく問題も無い。中レベルの媚薬になると、妊娠しやすいと言う傾向があり、不妊の夫婦が使用したりする。ただ、副作用がある為、薬師や医師の指示のもと、用法をキチっと守って使用しなければならない。それよりも強い媚薬は、使用禁止ではなく、となっている。理由は、媚薬の効能が強ければ強い程副作用が酷くなり、常習性が高くなるから。そして、媚薬が効いている間は、相手の思うがままになってしまうのだ。

媚薬の作り方なんて知らなかったから調べてみると、どのレベルの物もほぼ同じ作り方だった。使用する薬草の配合が少しずつ違うとのと、後は──精製水の純度の違いだけ。純度が高ければ高い程媚薬の効能が強く表れる。
私が作る精製水は青色だから、媚薬を作っているとしても中レベルが精々だろう。

『──青色?』

あの時、青色に反応したレイさん。
もし、私の作った精製水が青色じゃなかったら?
白に近い精製水だったら?

「まさか………ね………」






******

「ちょっと、ニア、大丈夫?」
「え?」
「顔色悪いわよ」

心配そうな顔で、私の顔を覗き込んで来たのはカリーヌさん。

「最近……ちょっと眠りが悪くて……」

媚薬について調べてから、不安な気持ちになる事が増え、お腹が空いていても食事が喉を通らず、眠たいのに眠れない─と言う日々を繰り返している。

「更にやつれて……ニア、貴方、今日はもう帰りなさい。丁度明日は週末だから、今から3日間家でゆっくりしなさい。エドガー様と会長には私から言っておくから」
「え…でも…………」

ーそんな事をすれば、私はどうなる?ー

こんな所でも、追い出されてしまったら……行く所がない。後ろ盾のない独り身の女性なんて……放り出されたらそこでお終いだ。自然とフルフルと手が震え出した。

「ニアさん、大丈夫だから」
「え?」

震える私の手を、優しく包むように握ってくれたのはレイさんだった。

「私からも会長にお願いしておくから。私も平民だけど、この商会への貢献度はトップだからね。その辺りをお願いするから、ニアさんは安心して休むと良いよ」

ー“”って何?ー

私を安心させる為だろう。レイさんは軽いノリで笑っている。その笑顔が、何ともホッとする感じだ。

「やっぱり…お父さ─んみたいだ……」
「………そうか………………………なら……親の言う事は……素直に聞いておこか?」
「?」

さっき迄の穏やかな笑顔と声はどこへやら。笑顔は笑顔でも目は笑ってないし、声のトーンはいつもより低い。

「でも…私、今日のノルマが……」
「ニアさんのノルマも私が作っておくから。勿論、また元気になったらお礼をしてもらうから、気にせず休んでくれ」

何ともレイさんらしい言い回しだ。
それでも、どうなるか分からない…けど……

「ニアさん!?」

「ありがとうございます」と言う前に、少し焦った声で私を呼ぶレイさんの声が聞こえたかな?と思うのと同時に、私の意識はそこで途絶えた。





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