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16 最後の約束
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「おはようございます」
「おはよう……あれ?」
「?」
週明け、いつも通り早目の時間に出勤すると、今日もダミアンさんが居た。私が謝罪を受けたあの日以降、毎日ではないけど、週に1日か2日、ダミアンさんが早目の時間に出勤するようになった。「俺だって、掃除ぐらいできるからな」と言っていた。それはそうだ。平民なのだから、掃除ができなければ家が大変な事になるからね。
今朝もいつも通りに挨拶をすれば、何故かジッと睨まれた後「そのイヤリング、どうしたんだ?」と訊かれたから「これはレイさんに貰った」と言う前に、「いや、言わなくて良い」と、怖い顔で言われてしまった。それから更に睨まれた後「……そうか……だよな………掃除して来る……」なんて呟きながら作業室から出て行った。
「え?何で…睨まれたんだろう?」
「睨んでたんじゃないと思うよ?」
「あ、レイさん、おはようございます。って、滅茶苦茶睨んでましたよ!?」
「理解が早かっただけだと思うよ」
「理解──???」
よく分からないけど、掃除から帰ってきたダミアンさんは、少し元気がない感じだったけど、いつも通りのダミアンさんに戻っていて、それからは睨まれる事はなかった。
******
「今週末の休みに、また付き合ってくれるかな?」
「勿論良いですよ。前に言ってた、行きたいお店ですか?」
「そう。そこが、最後のお店なんだ。」
「最後…………」
そっか…行きたいお店が最後なら、一緒にお出掛けするのも最後なんだ。
「この国にはいつまで居るんですか?」
「ここが今週いっぱいで終わりで、来週は色々片付けをして……来週末には帰国する予定だ」
「そうなんですね…お見送りは…できますか?」
「あー…それはちょっと…難しいかな…」
「そうですよね…」
個人の理由でここに居る訳じゃなく、捜査の為に来たと言う事は、他にも捜査員が居るだろうし、その人達と一緒に帰るんだろう。
「その分……ニアさんの今週末の休みは……全部私にくれないかな?ニアさんには本当にお世話になったし……折角仲良くなったんだから、最後に楽しい思い出をいっぱい作りたいな─と思ってるんだけど」
“最後”
「それとも…こんなおじさんとの思い出は…要らない?」
「そんな事はないです!私も、レイさんには本当に助けてもらいましたし、色んな所に一緒に行けて…食べれて楽しかったです。勿論、今週末も……いっぱい楽しみたいです!」
「なら良かった。行く所は私が決めて良い?」
「はい、レイさんの行きたい所に行きたいだけ行きましょう!えっと……楽しみにしてますね」
ニッコリ笑って答えると「うん。やっぱり笑うと可愛いね」と、頭をポンポンと優しく叩かれた。娘扱い─だろうか?
そう約束してから、レイさんは退職へと向けての処理が大変そうで、作業室にも来れず、会長の執務室に篭りきりになり、殆ど会えないままに週末を迎える事になった。
その週の出勤最終日に、レイさんの退職が発表され、従業員全員驚いたが、“母国に帰る事になった”と言えば、皆納得している様な感じだった。
急な退職と言う事で、送別会ができない代わりに─と、その日はいつもより早目の終業時間になり、会長の差し入れで、職場での食事会となり、少し遅い時間まで皆でワイワイ騒ぐ事となった。
「それじゃあ…レイさん、色々とありがとうございました。こうして、この商会を取り戻せたのも、レイさんのお陰です。本当に、ありがとうございました」
食事会が終わり、皆が帰った後、レイさんと私は会長─モニクに呼び止められた。
「もう、お礼は要りませんよ。それに、私は仕事をしただけだから。それに……最後に迷惑を掛けるかもしれないしね?」
「ふふっ……そうでしたね…でも……無理矢理な事だけは止めて下さいね」
「分かってますよ」
ふふっ─
ははっ─
と、レイさんとモニクが目を細め合って笑っている。
ーこの2人に、何かあったんだろうか?ー
「最後に迷惑─って…まだ何かあるんですか?モニク、大丈夫なの?」
「まだ分からないけどね。そうなった時は…仕方無い事だからね…」
「????」
ー余計に意味が分からなくなったー
こう言う時は………スルーするに越したことはない。
「ニアを、ちゃんと家まで送って下さいね。」
「分かってますよ。では…ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました。レイさん、お元気で」
家まで10分程の距離を、また2人で歩く。
ーこうして送ってもらうのも、今日で最後か…ー
「あ、そうそう。ニアさん、明日の事なんだけど、午前中、どうしても外せない用事があって、ランチを食べるぐらいの時間の待ち合わせになるけど…良いかな?本当は、ランチの前に、街をブラブラしたかったんだけど…」
「私は大丈夫です。それに……明後日もありますからね」
「明後日があると言っても、時間が減る事に変わりはないからね……私としては残念だなぁ…と」
確かに、少し残念ではあるけど、その分楽しめば良い。
家にはあっと言う間に着いて、そこで時間の約束をした後、「また…明日」と言って、レイさんは帰って行った。
ー明日…楽しみ…だなぁ…ー
「おはよう……あれ?」
「?」
週明け、いつも通り早目の時間に出勤すると、今日もダミアンさんが居た。私が謝罪を受けたあの日以降、毎日ではないけど、週に1日か2日、ダミアンさんが早目の時間に出勤するようになった。「俺だって、掃除ぐらいできるからな」と言っていた。それはそうだ。平民なのだから、掃除ができなければ家が大変な事になるからね。
今朝もいつも通りに挨拶をすれば、何故かジッと睨まれた後「そのイヤリング、どうしたんだ?」と訊かれたから「これはレイさんに貰った」と言う前に、「いや、言わなくて良い」と、怖い顔で言われてしまった。それから更に睨まれた後「……そうか……だよな………掃除して来る……」なんて呟きながら作業室から出て行った。
「え?何で…睨まれたんだろう?」
「睨んでたんじゃないと思うよ?」
「あ、レイさん、おはようございます。って、滅茶苦茶睨んでましたよ!?」
「理解が早かっただけだと思うよ」
「理解──???」
よく分からないけど、掃除から帰ってきたダミアンさんは、少し元気がない感じだったけど、いつも通りのダミアンさんに戻っていて、それからは睨まれる事はなかった。
******
「今週末の休みに、また付き合ってくれるかな?」
「勿論良いですよ。前に言ってた、行きたいお店ですか?」
「そう。そこが、最後のお店なんだ。」
「最後…………」
そっか…行きたいお店が最後なら、一緒にお出掛けするのも最後なんだ。
「この国にはいつまで居るんですか?」
「ここが今週いっぱいで終わりで、来週は色々片付けをして……来週末には帰国する予定だ」
「そうなんですね…お見送りは…できますか?」
「あー…それはちょっと…難しいかな…」
「そうですよね…」
個人の理由でここに居る訳じゃなく、捜査の為に来たと言う事は、他にも捜査員が居るだろうし、その人達と一緒に帰るんだろう。
「その分……ニアさんの今週末の休みは……全部私にくれないかな?ニアさんには本当にお世話になったし……折角仲良くなったんだから、最後に楽しい思い出をいっぱい作りたいな─と思ってるんだけど」
“最後”
「それとも…こんなおじさんとの思い出は…要らない?」
「そんな事はないです!私も、レイさんには本当に助けてもらいましたし、色んな所に一緒に行けて…食べれて楽しかったです。勿論、今週末も……いっぱい楽しみたいです!」
「なら良かった。行く所は私が決めて良い?」
「はい、レイさんの行きたい所に行きたいだけ行きましょう!えっと……楽しみにしてますね」
ニッコリ笑って答えると「うん。やっぱり笑うと可愛いね」と、頭をポンポンと優しく叩かれた。娘扱い─だろうか?
そう約束してから、レイさんは退職へと向けての処理が大変そうで、作業室にも来れず、会長の執務室に篭りきりになり、殆ど会えないままに週末を迎える事になった。
その週の出勤最終日に、レイさんの退職が発表され、従業員全員驚いたが、“母国に帰る事になった”と言えば、皆納得している様な感じだった。
急な退職と言う事で、送別会ができない代わりに─と、その日はいつもより早目の終業時間になり、会長の差し入れで、職場での食事会となり、少し遅い時間まで皆でワイワイ騒ぐ事となった。
「それじゃあ…レイさん、色々とありがとうございました。こうして、この商会を取り戻せたのも、レイさんのお陰です。本当に、ありがとうございました」
食事会が終わり、皆が帰った後、レイさんと私は会長─モニクに呼び止められた。
「もう、お礼は要りませんよ。それに、私は仕事をしただけだから。それに……最後に迷惑を掛けるかもしれないしね?」
「ふふっ……そうでしたね…でも……無理矢理な事だけは止めて下さいね」
「分かってますよ」
ふふっ─
ははっ─
と、レイさんとモニクが目を細め合って笑っている。
ーこの2人に、何かあったんだろうか?ー
「最後に迷惑─って…まだ何かあるんですか?モニク、大丈夫なの?」
「まだ分からないけどね。そうなった時は…仕方無い事だからね…」
「????」
ー余計に意味が分からなくなったー
こう言う時は………スルーするに越したことはない。
「ニアを、ちゃんと家まで送って下さいね。」
「分かってますよ。では…ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました。レイさん、お元気で」
家まで10分程の距離を、また2人で歩く。
ーこうして送ってもらうのも、今日で最後か…ー
「あ、そうそう。ニアさん、明日の事なんだけど、午前中、どうしても外せない用事があって、ランチを食べるぐらいの時間の待ち合わせになるけど…良いかな?本当は、ランチの前に、街をブラブラしたかったんだけど…」
「私は大丈夫です。それに……明後日もありますからね」
「明後日があると言っても、時間が減る事に変わりはないからね……私としては残念だなぁ…と」
確かに、少し残念ではあるけど、その分楽しめば良い。
家にはあっと言う間に着いて、そこで時間の約束をした後、「また…明日」と言って、レイさんは帰って行った。
ー明日…楽しみ…だなぁ…ー
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