奪われたものは要りません

みん

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48 大きな一歩

「魔力の流し方はいつも通りにすれば大丈夫だからね」
「はい」
「たとえ魔獣が出て来ても、セレーナには髪の毛1本も触れさせないから安心してちょうだい」
「はい」


あの木の魔法陣を発動させる日の3日前から、何度も模擬訓練をして、当日の今日を迎えた。
念の為に、私はお父さんの“護りのマント”を羽織っている。そして、頭の中で最終確認をする。

魔法陣に魔力を流す
暫く流しても発動しない場合は、一度流すのを止める
発動した場合は、そのまま魔力を流し続けて様子を見た後、魔法陣がハッキリ浮かび上がっている事が確認できたら魔力を止めて、魔法陣を“模写”する

上書きの魔法は弾かれるから、浮かび上がった魔法陣を模写する事になった。その模写の魔法も、それなりの高度な魔法だけど、エルトン様もジェラール様もアデールさんも使えるんだそうだ。

ー周りの人達が凄過ぎるー

兎に角、私はそんな凄過ぎる人達に護られているから、信じて安心して落ち着いて魔力を流すだけ。

「セレーナの良いタイミングで始めれば良いからね」

数回の深呼吸を繰り返してから、私は少しずつ魔力を魔法陣に流し始めた。

複雑な魔法陣であればあるほど必要な魔力は多くなるから、この魔法陣も少し流したところで発動する事はない。必要な魔力が取り込まれると、光を発して魔法陣が浮かび上がる。それでようやく魔法陣が発動するから、それ迄は魔力を流し続ける必要がある。

ー気を緩めると、一気にごっそり持って行かれそうー

魔力を一気に持って行かれないように、自分で調節をしながら少しずつ流さないといけない。一体どれ程の魔力が必要なのか──ただ、私の魔力を取り込んでいると言う事は、この魔法陣を発動させられる可能性があると言う事。

ー絶対に成功させる!ー

私は、そのまま魔力を少しずつ流し続けた。


ブンッ──

と小さな音を立てた後、光を発した魔法陣が浮かび上がった。

「セレーナ、そのまま落ち着いて続けて」

アデールさんの言葉に頷いて、そのまま魔力を流し続けると、更に魔法陣の光が増して、組み込まれた魔法陣がハッキリと浮かび上がった。

「私がいこう。セレーナ、一旦魔力を止めてくれ」

エルトン様に言われて魔力の流れを止めるとすぐに、浮かび上がった魔法陣を“模写”した。

「それじゃあ、また魔力を流してもらうけど、ここからは更に気を引き締めて行こう」
「はい」

私はまた、魔力を流し始めた。
暫く流し続けると、魔法陣の中心部分に穴のような空間ができて、それが少しずつ広がって行った。

ーあの穴の奥から、何か嫌な感じがするー

今すぐ逃げたくなるような嫌な感じで、自然と体が震えだす。

「大丈夫だ」
「!?」

背後から私の肩に手を添えて支えるように立って、優しい声を掛けてくれたのはジェラール様だ。

「何があってもセレーナを護るから」
「はい……」

肩に添えられた手と、掛けられた声に安心して、体の震えも落ち着いた。ただただ、嫌な感じが消える事はない。

「来る────」
「っ!!」

ジェラール様のその一言の後、魔法陣の穴の奥から現れたのは───

「ヘルハウンドか!」

あの日の夜に窓越しに見た魔獣だった。

ー大丈夫!今日の私は独りじゃない!ー

「私に任せて!」

アデールさんはそう言うと、魔法陣から完全に出て来る前に、そのヘルハウンドに攻撃魔法を飛ばして意識を失わせた後、眠らせる魔法を掛けて、用意していた“魔力封じ”を掛けた結界の中に閉じ込めた。

“魔力封じ”とは、魔獣対策の魔法の1つで、魔力を持ったモノの魔力の流れを止める魔法で、魔力の流れを止めると、魔法が使えなくなる。魔獣の命の源は魔力だから、魔力封じの魔法を掛けられると、ただの普通の動物と変わらない生き物になる。

「セレーナ、魔力の流れを止めても良いよ」
「はい」

ジェラール様に言われたところで、私は魔力を流すのを止めたけど、魔法陣は光を発して発動したままだ。

「まだ魔獣が出て来るかもしれないな」
「今回、1頭しか出て来なかったと言う事は、前回は、予め捕獲しておいた魔獣を一気に召喚したのかもしれないわね」

もしそうなら……どうしてここまでしてピサンテを?いつから計画を?まだまだ分からない事だらけだ。でも、焦ったところで仕方無い。先ずは、目の前の事を1つずつ調べていけば良い。駄目だと思っていた魔法陣を発動させる事ができた。それは、大きな一歩だ。

「まだ魔獣が現れるかもしれないけど、この魔法陣に返還の魔法も組み込まれているかどうかの確認もしたいから、このまま警戒しながら様子を見よう」

あの日の惨劇は朝を迎える前には、魔獣は居なくなっていた。少なくとも、この魔法陣は3時間以上は稼働していた事になる。そんな複雑な魔法陣を、たった1日で準備ができるとは思え無い。本当に、カイリーさんは、いつから計画をたてていたんだろう?


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