52 / 91
52 2度目の失言
*第一王子アラール視点*
「アラール様、お茶のお誘い、ありがとうございます」
「ナディーヌ、急な誘いに応じてくれてありがとう」
ナディーヌは、私の急な誘いにも関わらず、嫌な顔をする事も無く笑顔でやって来た。ナディーヌの笑顔にはいつも癒やされる。
「アラール殿下、お久し振りでございます」
「パルティアーズ公女も、今日は母上とのお茶会だったんですね」
「はい。王妃様のお茶会に行く前に、アラール殿下に挨拶をと思いまして。本日もナディーヌの事を宜しくお願いします」
母上が『パルティアーズ公女とお茶会をする』と聞いてすぐ、私はナディーヌをお茶会に誘ったのだ。母親と一緒なら必ず来てくれると思ったから。そして、今日は珍しい客人も一緒だった。
「体調が優れないと、ナディーヌが心配していたが、今日は大丈夫なのか?」
「お久し振りでございます。お気遣いありがとうございます。体調は問題ありません。王妃様からのお誘いですから、喜んで参りました」
「なら良かった」
公女とカイリー夫人は、私への挨拶を済ませると、直ぐに母上のお茶会へと向かって行った。
カイリー夫人
詳しい出自は知らないが、自分の娘を喪った後、独りになったナディーヌを守り育てていたと言う事で、ナディーヌと一緒にパルティアーズに来て、表向きとしてナディーヌ付きの侍女として召し上げられた。公爵家では『カイリー夫人』と呼ばれていて、時々王妃のお茶会にも呼ばれて参加している。容姿は美人で貴族社会のマナーは完璧。本人は平民だと言っているが、ひょっとすると元貴族だったのでは?と思っているが訊いた事はない。
そんなカイリー夫人は、最近は体調を崩す事がよくあるそうで、今日は会うのは久し振りだった。ピサンテでの暮らしは大変だったそうで、その体への負担が今になって現れたのかもしれない。
村民から酷い仕打ちをされていたのに、全く擦れていないナディーヌ。そんなナディーヌと、あの唯一の生存者を会わせてはいけない。あの生存者も、ナディーヌを苛めていた者達の1人だろうから。なのに、ロクサーヌはその子に名前呼びを許した上に、叔父上と一緒にお茶会に誘った。
ー何故、そんな事ができるんだ?ー
ナディーヌは公女の実の娘で、ロクサーヌとは友達じゃないのか?その子よりもナディーヌを優先すべきじゃないのか?しかも、あの叔父上までもがあの子を側に置いている事が気に食わない。誰彼構わず信じるなと言っておいて、何故あの子を優先するんだ?父上までもが何も言わない。それなら、ナディーヌを護れるのは私しかいない。
「アラール様、どうかしましたか?」
「いや、何でもない。さぁ、ナディーヌ座ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
******
「叔父上が?」
「はい。アラール殿下にご挨拶にいらっしゃっていますが、どうされますか?」
ナディーヌと2人の時間を楽しんでいると、女官から尋ねられた。
「勿論、通してもらって構わない」
尊敬する叔父上の挨拶を断る理由はない。女官に許可を出すと直ぐに叔父上がやって来た。
「アラール、急に来て悪かったね。視察以来だったから、挨拶だけでもと思ってね」
「いえ、私も叔父上にお会いしたかったので、来ていただいて嬉しいです」
「大公様、お久し振りです」
「あぁ、ナディーヌ嬢も元気そうで良かった。お茶の時間を邪魔して悪かったね。私はこれで失礼するから、また2人でゆっくり──」
「叔父上、ここで一緒にお茶をしませんか?ロクサーヌにはあの子が居るから良いでしょう?ナディーヌも良いよね?」
「あ、はい。でも、ロクサーヌ様が……」
ロクサーヌの事を心配するナディーヌは、本当に優しい子だ。
「ロクサーヌなら大丈夫だ。ロクサーヌにも相手の子が居るからね」
「相手の子?」
「あぁ、ロクサーヌは唯一の生きのこ───」
「アラール!」
「「っ!?」」
ーしまった!また言ってしまった!ー
ピサンテに、唯一の生存者が居る事は極秘事項で、この前うっかりナディーヌの前で言ってしまって注意を受けたばかりだったのに。相手がナディーヌだから油断してしまった。叔父上は微笑んでいるけど……これは、かなり怒っている時の笑顔だ。それに、ナディーヌの顔色もまた悪くなってしまった。余程、ピサンテには良い思い出が無いんだろう。
「“子”と言う事は……生存者は……子供なんですか?」
「それを訊いてどうする?これは極秘で他言無用だと言っただろう?」
「はい、申し訳ありません!」
顔色を悪くして震えているナディーヌに向ける叔父上の視線は、とても冷たくて私でも体が震えそうになる。
ーそこまでナディーヌに怒りを向ける必要があるのか?ー
「叔父上、これは……私の失言です。ナディーヌは何も悪くありません」
「………そうか?兎に角、ナディーヌ嬢、この事は他言無用だ」
「はい………」
「アラール、お茶が終わったら私に連絡をするように」
「はい……」
叔父上はそれだけ言うと、直ぐに部屋から出て行った。
それからのナディーヌに笑顔はなく、いつもよりも早目にお茶の時間を終える事になった。
「アラール様、お茶のお誘い、ありがとうございます」
「ナディーヌ、急な誘いに応じてくれてありがとう」
ナディーヌは、私の急な誘いにも関わらず、嫌な顔をする事も無く笑顔でやって来た。ナディーヌの笑顔にはいつも癒やされる。
「アラール殿下、お久し振りでございます」
「パルティアーズ公女も、今日は母上とのお茶会だったんですね」
「はい。王妃様のお茶会に行く前に、アラール殿下に挨拶をと思いまして。本日もナディーヌの事を宜しくお願いします」
母上が『パルティアーズ公女とお茶会をする』と聞いてすぐ、私はナディーヌをお茶会に誘ったのだ。母親と一緒なら必ず来てくれると思ったから。そして、今日は珍しい客人も一緒だった。
「体調が優れないと、ナディーヌが心配していたが、今日は大丈夫なのか?」
「お久し振りでございます。お気遣いありがとうございます。体調は問題ありません。王妃様からのお誘いですから、喜んで参りました」
「なら良かった」
公女とカイリー夫人は、私への挨拶を済ませると、直ぐに母上のお茶会へと向かって行った。
カイリー夫人
詳しい出自は知らないが、自分の娘を喪った後、独りになったナディーヌを守り育てていたと言う事で、ナディーヌと一緒にパルティアーズに来て、表向きとしてナディーヌ付きの侍女として召し上げられた。公爵家では『カイリー夫人』と呼ばれていて、時々王妃のお茶会にも呼ばれて参加している。容姿は美人で貴族社会のマナーは完璧。本人は平民だと言っているが、ひょっとすると元貴族だったのでは?と思っているが訊いた事はない。
そんなカイリー夫人は、最近は体調を崩す事がよくあるそうで、今日は会うのは久し振りだった。ピサンテでの暮らしは大変だったそうで、その体への負担が今になって現れたのかもしれない。
村民から酷い仕打ちをされていたのに、全く擦れていないナディーヌ。そんなナディーヌと、あの唯一の生存者を会わせてはいけない。あの生存者も、ナディーヌを苛めていた者達の1人だろうから。なのに、ロクサーヌはその子に名前呼びを許した上に、叔父上と一緒にお茶会に誘った。
ー何故、そんな事ができるんだ?ー
ナディーヌは公女の実の娘で、ロクサーヌとは友達じゃないのか?その子よりもナディーヌを優先すべきじゃないのか?しかも、あの叔父上までもがあの子を側に置いている事が気に食わない。誰彼構わず信じるなと言っておいて、何故あの子を優先するんだ?父上までもが何も言わない。それなら、ナディーヌを護れるのは私しかいない。
「アラール様、どうかしましたか?」
「いや、何でもない。さぁ、ナディーヌ座ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
******
「叔父上が?」
「はい。アラール殿下にご挨拶にいらっしゃっていますが、どうされますか?」
ナディーヌと2人の時間を楽しんでいると、女官から尋ねられた。
「勿論、通してもらって構わない」
尊敬する叔父上の挨拶を断る理由はない。女官に許可を出すと直ぐに叔父上がやって来た。
「アラール、急に来て悪かったね。視察以来だったから、挨拶だけでもと思ってね」
「いえ、私も叔父上にお会いしたかったので、来ていただいて嬉しいです」
「大公様、お久し振りです」
「あぁ、ナディーヌ嬢も元気そうで良かった。お茶の時間を邪魔して悪かったね。私はこれで失礼するから、また2人でゆっくり──」
「叔父上、ここで一緒にお茶をしませんか?ロクサーヌにはあの子が居るから良いでしょう?ナディーヌも良いよね?」
「あ、はい。でも、ロクサーヌ様が……」
ロクサーヌの事を心配するナディーヌは、本当に優しい子だ。
「ロクサーヌなら大丈夫だ。ロクサーヌにも相手の子が居るからね」
「相手の子?」
「あぁ、ロクサーヌは唯一の生きのこ───」
「アラール!」
「「っ!?」」
ーしまった!また言ってしまった!ー
ピサンテに、唯一の生存者が居る事は極秘事項で、この前うっかりナディーヌの前で言ってしまって注意を受けたばかりだったのに。相手がナディーヌだから油断してしまった。叔父上は微笑んでいるけど……これは、かなり怒っている時の笑顔だ。それに、ナディーヌの顔色もまた悪くなってしまった。余程、ピサンテには良い思い出が無いんだろう。
「“子”と言う事は……生存者は……子供なんですか?」
「それを訊いてどうする?これは極秘で他言無用だと言っただろう?」
「はい、申し訳ありません!」
顔色を悪くして震えているナディーヌに向ける叔父上の視線は、とても冷たくて私でも体が震えそうになる。
ーそこまでナディーヌに怒りを向ける必要があるのか?ー
「叔父上、これは……私の失言です。ナディーヌは何も悪くありません」
「………そうか?兎に角、ナディーヌ嬢、この事は他言無用だ」
「はい………」
「アラール、お茶が終わったら私に連絡をするように」
「はい……」
叔父上はそれだけ言うと、直ぐに部屋から出て行った。
それからのナディーヌに笑顔はなく、いつもよりも早目にお茶の時間を終える事になった。
あなたにおすすめの小説
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?
青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。
けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの?
中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))