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78 それぞれの思惑
「うわー」
「大丈夫?」
「大丈夫です!」
馬に乗るのは初めてで、2人で乗るのも初めてで、意外と高さがあって驚いたけど、いざ馬が走り出すと高さの事は全く気にならなくなった。風を切って走って行くのも、気持ち良い。それに何より、私の後ろから支えてくれているのがジェラール様だから、安心して任せられると言う事もあって、恐怖心は全く無かった。
そうして、ジェラール様のお陰で、帰りは快適であっと言う間に家に辿り着いた。
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
ジェラール様にお礼を言ってから、馬の首を撫でて「ありがとう」と馬にもお礼を言う。
ーやっぱり、乗馬を習おうー
「私で良かったら、乗馬を教えようか?」
「私の心が読めたりしますか?」
「だから、分かり易いと言っただろう?」
こう言う場合、私が遠慮しても最後にはジェラール様の言う通りに事が進む。それなら、素直に受取った方が良い──と言う事を、この数日の間に学習した。
「それじゃあ、お言葉に甘えて…時間の余裕がある時にお願いします」
「了解」
ジェラール様の予想外のお迎えで、予定よりも早く帰って来たから、夕食迄の時間に余裕ができた。
「ミートパイなんだけど、今迄作った事なかったよね?」
「初めて作ってみたんですけど、上手くできたみいなので、明日にでも作って出しますね」
「そうか…私も、セレーナが初めて作ったミートパイを食べたかったな……」
「えっと……」
残念そうな顔をするジェラール様。少し拗ねているようにも見えて可愛い。
「あの…試作した残りで良かったらあるんですけど、夕食時に食べますか?」
「勿論、頂こう!」
パツと笑顔になったジェラール様も、やっぱり可愛く見える。本当は、試作品ではなくて、新しく作った物を食べてもらいたかったけど、こんな笑顔を見せられると仕方無い。きっと、食べる事が好きなんだろう。
「今日は、食後にプリンも用意してます」
「それは楽しみだ」
その日、夕食に出したミートパイを、『美味しい』と言って残さず食べてくれた。
**パルティアーズ公爵視点**
「“セレーナ”と言う名の平民のようですが、デミトリア辺境伯家付きの薬師で、デミトリア辺境伯が後ろ盾となっています。隠しているようですが、魔力持ちのようで、水を扱う所を確認しました。それと、今はグリンデルバルド大公様が管理をしているピサンテに住んでいるようです」
「ピサンテに?」
あの大公が、自分の管理している領に住まいを移した事は社交界でも知られている。煩わしい結婚から逃れる為だろうとも。それが、まさか女を囲っているとは思わなかった。
最新の映像記録の魔道具に映し出された娘を見る。銀髪に水色の瞳。私の記憶にある、あの男にそっくりな娘。
「気に食わない顔だな……」
顔だけなら、ナディーヌの方が幾分かは可愛らしいが……それでも、ナディーヌはもう使い物にすらならない。報告では、アラール殿下はもうナディーヌを見限っている。
「セレーナか……」
おそらく、この娘が本物なんだろう。何故魔力持ちだと言う事を隠しているのか。魔力持ちであれば、いつでも受け入れると言うのに。
今からでも遅くはない。大公と恋仲と言うのなら尚更良い。パルティアーズに王族の血が入るのだ。あの男の血が入っているのは気に食わないが、大公でお釣りが来る。
「ふむ……この娘を連れて来い。嫌がるようなら、多少の傷は仕方無い」
「承知しました」
「くれぐれも、国王陛下や大公には気付かれぬようにな」
「承知しました」
この娘を手に入れれば、国王陛下と大公は、後から理由をつければなんとでもなるだろう。
“ナディーヌは偽者で、ようやく本来が現れた”
“カイリー母娘が、神殿での親子鑑定を不正した”
事実を公にしセレーナを披露した後、ナディーヌを始末すれば良い。その前に──
「手紙の用意をしてくれ」
「畏まりました」
アリシアをどうするかは
アリシアの返答次第だ
**アリシア視点**
『私には、口だけ、見せかけだけの母親は必要ありません。私の話を聞かず、私の手を払い除けた母親も要りません』
『はっ…いつまで被害者ぶりするの?貴方には、いくらでも“知る”チャンスはあった筈よ』
『最後の選択で、自ら貴方は娘とブライアンとの縁を完全に切ったのよ。自分の為、保身の為にね。全て自分で選んでおいて被害者面するのは止めなさい』
ナディーヌとあの女性に言われた事を、何度も何度も思い出す。
あの子はブライアンにそっくりだった。どうして、あんなに愛していたブライアンとナディーヌを忘れてしまっていたのか。事故と呪術のせいなのに。
ーどうして、私だけが責められないといけないの?ー
被害者面じゃなく、被害者なのに。
「アリシア様、パルティアーズ公爵様からお手紙が届きました」
「お父様から?」
「直ぐに返事を書くようにと、使いの者が待っています」
急ぎのようだと、直ぐに開封して手紙を読む。
「………」
どうやら、お父様にその存在がバレたようだ。これは、チャンスなのかそれとも───
「ナディーヌ………」
私は、急いで手紙の返事を書いた。
「大丈夫?」
「大丈夫です!」
馬に乗るのは初めてで、2人で乗るのも初めてで、意外と高さがあって驚いたけど、いざ馬が走り出すと高さの事は全く気にならなくなった。風を切って走って行くのも、気持ち良い。それに何より、私の後ろから支えてくれているのがジェラール様だから、安心して任せられると言う事もあって、恐怖心は全く無かった。
そうして、ジェラール様のお陰で、帰りは快適であっと言う間に家に辿り着いた。
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
ジェラール様にお礼を言ってから、馬の首を撫でて「ありがとう」と馬にもお礼を言う。
ーやっぱり、乗馬を習おうー
「私で良かったら、乗馬を教えようか?」
「私の心が読めたりしますか?」
「だから、分かり易いと言っただろう?」
こう言う場合、私が遠慮しても最後にはジェラール様の言う通りに事が進む。それなら、素直に受取った方が良い──と言う事を、この数日の間に学習した。
「それじゃあ、お言葉に甘えて…時間の余裕がある時にお願いします」
「了解」
ジェラール様の予想外のお迎えで、予定よりも早く帰って来たから、夕食迄の時間に余裕ができた。
「ミートパイなんだけど、今迄作った事なかったよね?」
「初めて作ってみたんですけど、上手くできたみいなので、明日にでも作って出しますね」
「そうか…私も、セレーナが初めて作ったミートパイを食べたかったな……」
「えっと……」
残念そうな顔をするジェラール様。少し拗ねているようにも見えて可愛い。
「あの…試作した残りで良かったらあるんですけど、夕食時に食べますか?」
「勿論、頂こう!」
パツと笑顔になったジェラール様も、やっぱり可愛く見える。本当は、試作品ではなくて、新しく作った物を食べてもらいたかったけど、こんな笑顔を見せられると仕方無い。きっと、食べる事が好きなんだろう。
「今日は、食後にプリンも用意してます」
「それは楽しみだ」
その日、夕食に出したミートパイを、『美味しい』と言って残さず食べてくれた。
**パルティアーズ公爵視点**
「“セレーナ”と言う名の平民のようですが、デミトリア辺境伯家付きの薬師で、デミトリア辺境伯が後ろ盾となっています。隠しているようですが、魔力持ちのようで、水を扱う所を確認しました。それと、今はグリンデルバルド大公様が管理をしているピサンテに住んでいるようです」
「ピサンテに?」
あの大公が、自分の管理している領に住まいを移した事は社交界でも知られている。煩わしい結婚から逃れる為だろうとも。それが、まさか女を囲っているとは思わなかった。
最新の映像記録の魔道具に映し出された娘を見る。銀髪に水色の瞳。私の記憶にある、あの男にそっくりな娘。
「気に食わない顔だな……」
顔だけなら、ナディーヌの方が幾分かは可愛らしいが……それでも、ナディーヌはもう使い物にすらならない。報告では、アラール殿下はもうナディーヌを見限っている。
「セレーナか……」
おそらく、この娘が本物なんだろう。何故魔力持ちだと言う事を隠しているのか。魔力持ちであれば、いつでも受け入れると言うのに。
今からでも遅くはない。大公と恋仲と言うのなら尚更良い。パルティアーズに王族の血が入るのだ。あの男の血が入っているのは気に食わないが、大公でお釣りが来る。
「ふむ……この娘を連れて来い。嫌がるようなら、多少の傷は仕方無い」
「承知しました」
「くれぐれも、国王陛下や大公には気付かれぬようにな」
「承知しました」
この娘を手に入れれば、国王陛下と大公は、後から理由をつければなんとでもなるだろう。
“ナディーヌは偽者で、ようやく本来が現れた”
“カイリー母娘が、神殿での親子鑑定を不正した”
事実を公にしセレーナを披露した後、ナディーヌを始末すれば良い。その前に──
「手紙の用意をしてくれ」
「畏まりました」
アリシアをどうするかは
アリシアの返答次第だ
**アリシア視点**
『私には、口だけ、見せかけだけの母親は必要ありません。私の話を聞かず、私の手を払い除けた母親も要りません』
『はっ…いつまで被害者ぶりするの?貴方には、いくらでも“知る”チャンスはあった筈よ』
『最後の選択で、自ら貴方は娘とブライアンとの縁を完全に切ったのよ。自分の為、保身の為にね。全て自分で選んでおいて被害者面するのは止めなさい』
ナディーヌとあの女性に言われた事を、何度も何度も思い出す。
あの子はブライアンにそっくりだった。どうして、あんなに愛していたブライアンとナディーヌを忘れてしまっていたのか。事故と呪術のせいなのに。
ーどうして、私だけが責められないといけないの?ー
被害者面じゃなく、被害者なのに。
「アリシア様、パルティアーズ公爵様からお手紙が届きました」
「お父様から?」
「直ぐに返事を書くようにと、使いの者が待っています」
急ぎのようだと、直ぐに開封して手紙を読む。
「………」
どうやら、お父様にその存在がバレたようだ。これは、チャンスなのかそれとも───
「ナディーヌ………」
私は、急いで手紙の返事を書いた。
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