80 / 91
80 手の平の上
しおりを挟む
私が意識を取り戻した時には、何処だか分からない部屋のベッドの上だった。少し狭い部屋で窓が無いから、今がお昼なのか夜なのかも分からない。
ベッドや置いてある家具を見ると、それなりに良い物だと分かる。
ーもしかして、パルティアーズ邸?ー
カチャッ
「あ、お目覚めになったんですね」
部屋に入って来たのは、メイドらしき女性だった。
「ここは何処ですか?一体誰が──」
「申し訳ありません。私からは何も申し上げられる事はありません。ただ、お嬢様が目を覚まされたらお連れするようにと言われているだけです。ですから、今から支度をさせていただいて、主の元へお連れいたします」
「……分かりました」
ここで、このメイドに詰め寄っても仕方無い。彼女は主の言い付けに忠実なだけ。主を優先するのは当たり前の事だ。ここは素直に従って、その“主”と言う人と対峙するしかない。いざとなったら魔法を──
「余計な事は考えない方がよろしいかと。その左手のブレスレットは、魔力を抑える魔道具です。魔法を使おうとすれば、体が痺れるようになっています」
「………」
ーそんな事を、私に言って良いの?ー
兎に角、これでいざとなっても魔法は使えない事が分かった。
ー夕食は、間に合いそうにないなぁー
自分が危機に直面していると言うのに、頭に思い浮かんだのは、今日の夕食の事だった。
それから、綺麗なワンピースに着替えさせられ、ヒールのある靴を履いてやって来た部屋に居たのは、やっぱり──
「パルティアーズ公爵様ですね?」
「そうだ」
公女様と同じ、金髪にピンク色の瞳の年配の男性。どことなく、公女様に似ている。
「私のようなただの平民に、何かご用件でもありましたか?」
「“セレーナ”……それがお前の名前か?」
「そうですが、それが何か?」
名前を知られていると言う事は、もう私の事は調べられているんだろう。それなら、隠したところで仕方無い。
「父親譲りなのは顔だけではなく、その無礼な態度もだったのだな」
「ありがとうございます」
お父さんに似ていると言うのなら、それすらも褒め言葉に聞こえるから、素直にお礼を言うと、パルティアーズ公爵が苦虫を噛み潰したような顔になる。
「その態度を改めろ。でなければ、お前の扱いも考え直さなければいけなくなるぞ?お前も、今よりももっと贅沢な暮らしがしたいだろう?」
「では、そのまま考え直して下さい。私は、贅沢な暮らしなんて望んでませんから。私をこのまま帰して下さい。夕食の準備をしないといけないので……」
「こんな時にでも冗談を言うのか?本当に可愛げのない娘だな。見た目と可愛らしさで言えば、ナディーヌの方がよほど良いのだが……」
ーなら、私ではなくナディーヌを可愛がれば良いのでは?ー
この人は一体何がしたいのか?国王様の手前、ナディーヌをどうする事もできず、孫として生かさなければならないし、ナディーヌは自分の孫だと言い切ったのだから、たとえ本物の私が現れたとしても、ナディーヌを取るべきだ。
「アレはもう使い物にすらならない。アラール殿下も然り。でも、お前なら立派に公爵令嬢としての務めを果たせられる。お前の後ろ盾にはデミトリア辺境伯が居る。そして、何よりグリンデルバルド大公が囲っている女性とくれば、これ以上のものはない」
「囲っている?」
私は“囲われている”んじゃなくて、“料理担当”でしかない──と本当の事を言ったところで、この人が納得する事はないだろう。
「私が提案を受け入れたとして、ナディーヌはどうするんですか?それに、国王様やジェ……大公様が認める事はないと思いますけど……」
「お前が『自分の希望だ』と言えば良いだけだ。『母親が恋しい』と言えば無碍にはできないだろう?ナディーヌは、今は療養中で領地に居るのだから、いつ何があってもおかしくはない」
何とも恐ろしくて愚かな考えなんだろうか。それが、あの人達に通じると思っている時点で終わっているのに。そもそも、私がアッサリ捕まった時に気付くべきだった。
ー多分、もう遅いけどー
歳を取り戻して魔力が馴染んでくると、今迄とは違う感覚が色々あった。常に私に向けられる何かを感じるようになった。ソレは、以前は分からなかった“影さん”の気配だった。
そう。影さんは未だに私に付けられている。その影さんが、私が攫われるのを見逃した──と言う事は、これはあの人達の想定内の事で、私が攫われた方が好都合と言う事なんだろう。公爵は、あの人達の手の平の上で踊らされているだけ。
ーご愁傷様ですー
これで、本当にパルティアーズとは綺麗サッパリ縁が切れるかもしれない──と、つらつらと思考にふけっていると、バンッと言う大きな音を立ててドアを開けて公女様が部屋に入って来た。
「お父様、もうお止め下さい!」
ベッドや置いてある家具を見ると、それなりに良い物だと分かる。
ーもしかして、パルティアーズ邸?ー
カチャッ
「あ、お目覚めになったんですね」
部屋に入って来たのは、メイドらしき女性だった。
「ここは何処ですか?一体誰が──」
「申し訳ありません。私からは何も申し上げられる事はありません。ただ、お嬢様が目を覚まされたらお連れするようにと言われているだけです。ですから、今から支度をさせていただいて、主の元へお連れいたします」
「……分かりました」
ここで、このメイドに詰め寄っても仕方無い。彼女は主の言い付けに忠実なだけ。主を優先するのは当たり前の事だ。ここは素直に従って、その“主”と言う人と対峙するしかない。いざとなったら魔法を──
「余計な事は考えない方がよろしいかと。その左手のブレスレットは、魔力を抑える魔道具です。魔法を使おうとすれば、体が痺れるようになっています」
「………」
ーそんな事を、私に言って良いの?ー
兎に角、これでいざとなっても魔法は使えない事が分かった。
ー夕食は、間に合いそうにないなぁー
自分が危機に直面していると言うのに、頭に思い浮かんだのは、今日の夕食の事だった。
それから、綺麗なワンピースに着替えさせられ、ヒールのある靴を履いてやって来た部屋に居たのは、やっぱり──
「パルティアーズ公爵様ですね?」
「そうだ」
公女様と同じ、金髪にピンク色の瞳の年配の男性。どことなく、公女様に似ている。
「私のようなただの平民に、何かご用件でもありましたか?」
「“セレーナ”……それがお前の名前か?」
「そうですが、それが何か?」
名前を知られていると言う事は、もう私の事は調べられているんだろう。それなら、隠したところで仕方無い。
「父親譲りなのは顔だけではなく、その無礼な態度もだったのだな」
「ありがとうございます」
お父さんに似ていると言うのなら、それすらも褒め言葉に聞こえるから、素直にお礼を言うと、パルティアーズ公爵が苦虫を噛み潰したような顔になる。
「その態度を改めろ。でなければ、お前の扱いも考え直さなければいけなくなるぞ?お前も、今よりももっと贅沢な暮らしがしたいだろう?」
「では、そのまま考え直して下さい。私は、贅沢な暮らしなんて望んでませんから。私をこのまま帰して下さい。夕食の準備をしないといけないので……」
「こんな時にでも冗談を言うのか?本当に可愛げのない娘だな。見た目と可愛らしさで言えば、ナディーヌの方がよほど良いのだが……」
ーなら、私ではなくナディーヌを可愛がれば良いのでは?ー
この人は一体何がしたいのか?国王様の手前、ナディーヌをどうする事もできず、孫として生かさなければならないし、ナディーヌは自分の孫だと言い切ったのだから、たとえ本物の私が現れたとしても、ナディーヌを取るべきだ。
「アレはもう使い物にすらならない。アラール殿下も然り。でも、お前なら立派に公爵令嬢としての務めを果たせられる。お前の後ろ盾にはデミトリア辺境伯が居る。そして、何よりグリンデルバルド大公が囲っている女性とくれば、これ以上のものはない」
「囲っている?」
私は“囲われている”んじゃなくて、“料理担当”でしかない──と本当の事を言ったところで、この人が納得する事はないだろう。
「私が提案を受け入れたとして、ナディーヌはどうするんですか?それに、国王様やジェ……大公様が認める事はないと思いますけど……」
「お前が『自分の希望だ』と言えば良いだけだ。『母親が恋しい』と言えば無碍にはできないだろう?ナディーヌは、今は療養中で領地に居るのだから、いつ何があってもおかしくはない」
何とも恐ろしくて愚かな考えなんだろうか。それが、あの人達に通じると思っている時点で終わっているのに。そもそも、私がアッサリ捕まった時に気付くべきだった。
ー多分、もう遅いけどー
歳を取り戻して魔力が馴染んでくると、今迄とは違う感覚が色々あった。常に私に向けられる何かを感じるようになった。ソレは、以前は分からなかった“影さん”の気配だった。
そう。影さんは未だに私に付けられている。その影さんが、私が攫われるのを見逃した──と言う事は、これはあの人達の想定内の事で、私が攫われた方が好都合と言う事なんだろう。公爵は、あの人達の手の平の上で踊らされているだけ。
ーご愁傷様ですー
これで、本当にパルティアーズとは綺麗サッパリ縁が切れるかもしれない──と、つらつらと思考にふけっていると、バンッと言う大きな音を立ててドアを開けて公女様が部屋に入って来た。
「お父様、もうお止め下さい!」
2,038
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!
さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」
「はい、愛しています」
「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」
「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」
「え……?」
「さようなら、どうかお元気で」
愛しているから身を引きます。
*全22話【執筆済み】です( .ˬ.)"
ホットランキング入りありがとうございます
2021/09/12
※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください!
2021/09/20
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる