奪われたものは要りません

みん

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80 手の平の上

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私が意識を取り戻した時には、何処だか分からない部屋のベッドの上だった。少し狭い部屋で窓が無いから、今がお昼なのか夜なのかも分からない。
ベッドや置いてある家具を見ると、それなりに良い物だと分かる。

ーもしかして、パルティアーズ邸?ー

カチャッ

「あ、お目覚めになったんですね」

部屋に入って来たのは、メイドらしき女性だった。

「ここは何処ですか?一体誰が──」
「申し訳ありません。私からは何も申し上げられる事はありません。ただ、お嬢様が目を覚まされたらお連れするようにと言われているだけです。ですから、今から支度をさせていただいて、主の元へお連れいたします」
「……分かりました」

ここで、このメイドに詰め寄っても仕方無い。彼女は主の言い付けに忠実なだけ。主を優先するのは当たり前の事だ。ここは素直に従って、その“主”と言う人と対峙するしかない。いざとなったら魔法を──

「余計な事は考えない方がよろしいかと。その左手のブレスレットは、魔力を抑える魔道具です。魔法を使おうとすれば、体が痺れるようになっています」
「………」

ーそんな事を、私に言って良いの?ー

兎に角、これでいざとなっても魔法は使えない事が分かった。

ー夕食は、間に合いそうにないなぁー

自分が危機に直面していると言うのに、頭に思い浮かんだのは、今日の夕食の事だった。



それから、綺麗なワンピースに着替えさせられ、ヒールのある靴を履いてやって来た部屋に居たのは、やっぱり──

「パルティアーズ公爵様ですね?」
「そうだ」

公女様と同じ、金髪にピンク色の瞳の年配の男性。どことなく、公女様に似ている。

「私のようなただの平民に、何かご用件でもありましたか?」
「“セレーナ”……それがお前の名前か?」
「そうですが、それが何か?」

名前を知られていると言う事は、もう私の事は調べられているんだろう。それなら、隠したところで仕方無い。

「父親譲りなのは顔だけではなく、その無礼な態度もだったのだな」
「ありがとうございます」

お父さんに似ていると言うのなら、それすらも褒め言葉に聞こえるから、素直にお礼を言うと、パルティアーズ公爵が苦虫を噛み潰したような顔になる。

「その態度を改めろ。でなければ、お前のも考え直さなければいけなくなるぞ?お前も、今よりももっと贅沢な暮らしがしたいだろう?」
「では、そのまま考え直して下さい。私は、贅沢な暮らしなんて望んでませんから。私をこのまま帰して下さい。夕食の準備をしないといけないので……」
「こんな時にでも冗談を言うのか?本当に可愛げのない娘だな。見た目と可愛らしさで言えば、ナディーヌ偽者の方がよほど良いのだが……」

ーなら、私ではなくナディーヌを可愛がれば良いのでは?ー

この人は一体何がしたいのか?国王様の手前、ナディーヌをどうする事もできず、孫として生かさなければならないし、ナディーヌは自分の孫だと言い切ったのだから、たとえ本物の私が現れたとしても、ナディーヌをべきだ。

「アレはもう使にすらならない。アラール殿下も然り。でも、お前なら立派に公爵令嬢としての務めを果たせられる。お前の後ろ盾にはデミトリア辺境伯が居る。そして、何よりグリンデルバルド大公が女性とくれば、これ以上のものはない」
「囲っている?」

私は“囲われている”んじゃなくて、“料理担当”でしかない──と本当の事を言ったところで、この人が納得する事はないだろう。

「私が提案を受け入れたとして、ナディーヌはどうするんですか?それに、国王様やジェ……大公様が認める事はないと思いますけど……」
「お前が『自分の希望だ』と言えば良いだけだ。『母親が恋しい』と言えば無碍にはできないだろう?ナディーヌは、今は療養中で領地に居るのだから、いつ何があってもおかしくはない」

何とも恐ろしくて愚かな考えなんだろうか。それが、に通じると思っている時点でのに。そもそも、私がアッサリ捕まった時に気付くべきだった。

ー多分、もう遅いけどー

歳を取り戻して魔力が馴染んでくると、今迄とは違う感覚が色々あった。常に私に向けられるを感じるようになった。ソレは、以前は分からなかった“影さん”の気配だった。
そう。影さんは未だに私に付けられている。その影さんが、私が攫われるのを見逃した──と言う事は、これはあの人達の想定内の事で、私が攫われた方が好都合と言う事なんだろう。公爵は、あの人達の手の平の上で踊らされているだけ。

ーご愁傷様ですー

これで、本当にパルティアーズとは綺麗サッパリ縁が切れるかもしれない──と、つらつらと思考にふけっていると、バンッと言う大きな音を立ててドアを開けて公女様が部屋に入って来た。

「お父様、もうお止め下さい!」


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