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83 ただいま
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パルティアーズ公爵家での一件以降、ジェラール様だけではなく、貴族社会も慌ただしくなったようだった。とは言え、何が起こっているのかは分からない。『慌ただしいみたいだ』と、デミトリア邸で働く使用人から聞いただけだから。
ジェラール様は『少し慌ただしくなるだろうから、暫くは王城に滞在する事になると思う』と言って、あの日の翌日に登城して以来、ピサンテの家には戻って来ていない。
私はと言うと、今迄通りの生活を送っている。
ピサンテの家で生活をして、朝から夕方迄デミトリア邸でポーション作りや薬草の研究をする。休日には、魔法陣を描いたり魔法の練習をしたり、家庭菜園をする。ただ、今迄と違うところもある。
ー少し寂しいなー
1人が気楽で良いと思っていた時もあったし、独りに慣れていた時もあったのに、今では1人が寂しいと思ってしまう。どうやら、ジェラール様との生活に慣れてしまっていたらしい。
どんな料理を作っても『美味しい』と言ってくれるから、料理を作るのが更に楽しくなっていたけど、ジェラール様が居ないと、料理をする楽しさも半減している。
「“慣れ”って……恐ろしい………」
これから先も、ジェラール様と一緒に居られる訳じゃない。ジェラール様に恋人や婚約者ができれば、私がここに住む訳にはいかなくなる。そうでなくても、ジェラール様は王弟であり大公様だから、いつまでもこんな所に居て良い筈がない。
「また1人に慣れないとね……よし、今日は体をガッツリ動かそう!!」
と、私は家中の掃除をした後、日が暮れる迄家庭菜園に没頭した。
その日は体が疲れていたせいか、夕食を食べてお風呂に入った後、リビングのソファーで寛いでいると、眠気に襲われてうとうととしてしまっていた。
ー部屋に戻って寝ないとー
と思うのに、目蓋と体が重くて動かない。
ーどうせ、私1人だから…いいか……な…ー
『───かぜを──ぞ?』
『──サンドか──しいな』
ー?ー
どこからか声がするのは夢なのか?確認しようにも眠気から抜け出せない。でも、その声がジェラール様の声に似ていて安心する。
「──えり……なさ………」
『──ただいま』
ただいま
そう言ってくれる事が嬉しい。この家に帰って来たと思ってくれる事が嬉しい──なんて思う自分に驚く。
ーでも、夢の中の事なら良いよね?ー
と、私は抗う事は止めて、そのまま又眠りに落ちて行った。
******
「あれ?」
翌朝、ベッドの上で目が覚めた。リビングのソファーで寝落ちした筈で、自分の部屋に移動した覚えは全く無い。
「何で?………まさか!?」
ベッドから飛び出して部屋から出て、急いでリビングに向かった。
「あ、セレーナおはよう。朝からそんなにも慌ててどうしたんだ?今日は休みの日だろう?」
「………」
リビングに居たのは、ジェラール様だった。
「机に置いてあったサンドイッチを食べてしまったんだが、大丈夫だったか?」
「それは……大丈夫です。寧ろ、足りなかったのでは?作り……ましょうか?」
「本当か?なら、玉子サンドを作ってもらえるかな?」
「分かりました。少し待ってて下さい」
「あぁ、いくらでも待つよ」
ー昨日のアレは、夢じゃなかったんだー
久し振りに会ったジェラール様は、なんとなく疲れているように見えた。それなら、疲れがとれる飲み物も用意しよう─と、キッチンに向かう前に、もう一度ジェラール様の方に振り返る。
「ジェラール様、おかえりなさい」
それだけ言ってから、私はキッチンへと向かった。
*ジェラール視点*
「ジェラール様、おかえりなさい」
それだけ言うと、セレーナはキッチンの方へと走って行った。
ドサッ──と、背もたれに体を預けて顔を天井に向ける。
「可愛過ぎないか?」
本人に自覚はないかもしれないが、あんな笑顔を向けられると、俺が帰って来た事を本当に喜んでくれているんだと思ってしまう。セレーナのあんな笑顔を見るのも初めてだ。いつもは遠慮がちに微笑む程度だったのに。
ただ、あの笑顔が俺だけに向けられるなら良いが、他の男にも向けられるとすれば、気に食わない話だ。
セレーナが本来の姿を取り戻してから、更に狭量になった気がする。本当は、セレーナの気持ちを優先してゆっくり─と思っていたけど、無理かもしれない。
ーいや、落ち着こうー
急ぎ過ぎると、セレーナに皺寄せが行く事が目に見えている。セレーナに嫌われてはいないだろうし、信頼は持ってもらえてるだろうから、その信頼を裏切らないようにしなければいけない。
「やっぱり、安心して落ちて来てもらわないとなぁ……」
「何か言いました?」
「セレーナ!?な…何も言ってない!!」
「そうですか?お待たせしました。どうぞ」
目の前には俺の好きな玉子サンドと、紅茶がある。
「うん。『この家に帰って来た』んだな」
王城では手に入らない物の1つだ。たった数日だけだったのに、セレーナの手作りの料理が恋しくてたまらなかった。
「やっぱりセレーナの作った物は美味しいな」
「ふふっ……ありがとうございます」
「…………」
と、セレーナが嬉しそうに笑った。
ゆっくり───は、無理かもしれない
ジェラール様は『少し慌ただしくなるだろうから、暫くは王城に滞在する事になると思う』と言って、あの日の翌日に登城して以来、ピサンテの家には戻って来ていない。
私はと言うと、今迄通りの生活を送っている。
ピサンテの家で生活をして、朝から夕方迄デミトリア邸でポーション作りや薬草の研究をする。休日には、魔法陣を描いたり魔法の練習をしたり、家庭菜園をする。ただ、今迄と違うところもある。
ー少し寂しいなー
1人が気楽で良いと思っていた時もあったし、独りに慣れていた時もあったのに、今では1人が寂しいと思ってしまう。どうやら、ジェラール様との生活に慣れてしまっていたらしい。
どんな料理を作っても『美味しい』と言ってくれるから、料理を作るのが更に楽しくなっていたけど、ジェラール様が居ないと、料理をする楽しさも半減している。
「“慣れ”って……恐ろしい………」
これから先も、ジェラール様と一緒に居られる訳じゃない。ジェラール様に恋人や婚約者ができれば、私がここに住む訳にはいかなくなる。そうでなくても、ジェラール様は王弟であり大公様だから、いつまでもこんな所に居て良い筈がない。
「また1人に慣れないとね……よし、今日は体をガッツリ動かそう!!」
と、私は家中の掃除をした後、日が暮れる迄家庭菜園に没頭した。
その日は体が疲れていたせいか、夕食を食べてお風呂に入った後、リビングのソファーで寛いでいると、眠気に襲われてうとうととしてしまっていた。
ー部屋に戻って寝ないとー
と思うのに、目蓋と体が重くて動かない。
ーどうせ、私1人だから…いいか……な…ー
『───かぜを──ぞ?』
『──サンドか──しいな』
ー?ー
どこからか声がするのは夢なのか?確認しようにも眠気から抜け出せない。でも、その声がジェラール様の声に似ていて安心する。
「──えり……なさ………」
『──ただいま』
ただいま
そう言ってくれる事が嬉しい。この家に帰って来たと思ってくれる事が嬉しい──なんて思う自分に驚く。
ーでも、夢の中の事なら良いよね?ー
と、私は抗う事は止めて、そのまま又眠りに落ちて行った。
******
「あれ?」
翌朝、ベッドの上で目が覚めた。リビングのソファーで寝落ちした筈で、自分の部屋に移動した覚えは全く無い。
「何で?………まさか!?」
ベッドから飛び出して部屋から出て、急いでリビングに向かった。
「あ、セレーナおはよう。朝からそんなにも慌ててどうしたんだ?今日は休みの日だろう?」
「………」
リビングに居たのは、ジェラール様だった。
「机に置いてあったサンドイッチを食べてしまったんだが、大丈夫だったか?」
「それは……大丈夫です。寧ろ、足りなかったのでは?作り……ましょうか?」
「本当か?なら、玉子サンドを作ってもらえるかな?」
「分かりました。少し待ってて下さい」
「あぁ、いくらでも待つよ」
ー昨日のアレは、夢じゃなかったんだー
久し振りに会ったジェラール様は、なんとなく疲れているように見えた。それなら、疲れがとれる飲み物も用意しよう─と、キッチンに向かう前に、もう一度ジェラール様の方に振り返る。
「ジェラール様、おかえりなさい」
それだけ言ってから、私はキッチンへと向かった。
*ジェラール視点*
「ジェラール様、おかえりなさい」
それだけ言うと、セレーナはキッチンの方へと走って行った。
ドサッ──と、背もたれに体を預けて顔を天井に向ける。
「可愛過ぎないか?」
本人に自覚はないかもしれないが、あんな笑顔を向けられると、俺が帰って来た事を本当に喜んでくれているんだと思ってしまう。セレーナのあんな笑顔を見るのも初めてだ。いつもは遠慮がちに微笑む程度だったのに。
ただ、あの笑顔が俺だけに向けられるなら良いが、他の男にも向けられるとすれば、気に食わない話だ。
セレーナが本来の姿を取り戻してから、更に狭量になった気がする。本当は、セレーナの気持ちを優先してゆっくり─と思っていたけど、無理かもしれない。
ーいや、落ち着こうー
急ぎ過ぎると、セレーナに皺寄せが行く事が目に見えている。セレーナに嫌われてはいないだろうし、信頼は持ってもらえてるだろうから、その信頼を裏切らないようにしなければいけない。
「やっぱり、安心して落ちて来てもらわないとなぁ……」
「何か言いました?」
「セレーナ!?な…何も言ってない!!」
「そうですか?お待たせしました。どうぞ」
目の前には俺の好きな玉子サンドと、紅茶がある。
「うん。『この家に帰って来た』んだな」
王城では手に入らない物の1つだ。たった数日だけだったのに、セレーナの手作りの料理が恋しくてたまらなかった。
「やっぱりセレーナの作った物は美味しいな」
「ふふっ……ありがとうございます」
「…………」
と、セレーナが嬉しそうに笑った。
ゆっくり───は、無理かもしれない
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