奪われたものは要りません

みん

文字の大きさ
20 / 91

20 奪われたモノ

「大公様!?あの……これは……わたし……」
「落ち着いて、大丈夫。私はティニーを咎めるつもりはないから」
「わたし……本当に………」

ーあの人は、私のお母さんだった……でもー

「大公様、お願いがあります」
「なんだい?」
「もう“お母さん”の事は……調べなくてもいいです」
「どうして?」

私は、髪の色や瞳の色が変わっていても、お母さんが私だと分かってくれると思っていた。分からなかったとしても、話をすれば分かってくれると思っていた。でも──

「魔力も持ってない私が、公女様の娘だなんて事は有り得ないからです。あの人は……私の“お母さん”じゃなかったんです……」

本当は魔力持ちだったけど、属性が属性だから、国にも神殿にも報告をしていないとルチア様が言っていた。無属性だから、他人からは魔力持ちと感じられる事は殆どない無いとも言われたから、きっと大公様も私は魔力無しだと思っているだろう。

「ティニーがそう言うならそうなんだろね。ただ、君はまだ幼い。もっと我儘を言っても良いんだよ?それこそ、泣きわめいたって、誰も怒ったりはしない」
「ありがとう……ございます………」

貴族のトップに立つような大公様が、わざわざ私と視線を合わせて話をしてくれる。その温かい優しさが嬉しいのに、素直に笑う事も泣く事もできない。どうしたら感情を表せるのかが分からない。

それから、大公様は私には何も訊く事も話をする事もなく私の部屋まで送ってくれた。
大公様と別れた後も眠れる事はなく、そのまま部屋が明るくなるのを待ち続けた。






夜中の出来事は、ルチア様には伝わっていないのか、朝になってもルチア様が私の部屋に来る事はなく、使節団と最後の昼食会が終わり、使節団が帰路の準備を始めても私の部屋に誰かが来る事はなかった。
私は朝食も部屋で1人で食べた。昼食後は、邸の前庭が見える窓から、ズラリと並んだ豪華な馬車や馬の隊列を眺めている。

ー本当に、貴族の世界は凄いなぁー

ピサンテには、馬でも数頭しかいなかった。馬車なんて物はないから、何処に行くにも歩くしかなかった。それが、今は目の前に茶色や白色や黒色の馬が沢山並んでいる。特に目立つのは全身真っ黒な馬。他にも黒色の馬は居るけど、たてがみが赤っぽかったりする。後数時間後には、この馬車や馬達は王都へと帰って行く。

「ん?」

と、そこへ、新たに豪華な馬車が門の方から入って来た。誰か、客が来たのかもしれない。
その馬車が少し離れた位置に停車すると、その馬車へと向かって行くのは王子様だ。と言う事は、王子様が乗る馬車なのか?

「────え?」

その馬車の御者が扉を開けて、その中から女の子が顔を出した。すると、王子様はその女の子に手を差し出し、その女の子は王子様の手を取って馬車から降りて来た。

「な……んで………」

王子様は背中しか見えないけど、女の子は王子様に笑顔を向けていて、とても嬉しそうに何かを話している。ふわふわとしたピンク色の髪の可愛らしい女の子。


「──────ジェイミー?……っ!」

ズキズキと頭が痛みだす。




『同じピンク色の髪と瞳で、まるで姉妹みたい』


『娘の名前はナディーヌ』



更に、王子様とジェイミーの元へやって来たのはお母さん。そのお母さんにジェイミーが抱き付けば、お母さんはジェイミーを抱きしめ返した。



『アンタが生きていると、色々と困るのよ』



「そう言う……事か……………」


1番最初に奪われたのは私の部屋だった。
気付かないうちにお金や宝石を奪われていた。
最後に奪われたのは、お父さんの指輪とあのピンク色のおばあさんの指輪だと思っていた。

でも、それは違っていた。

私からナディーヌ名前とお母さんを奪っていたのだ。






*“お母さん”視点*


「お母さん!」
「ナディーヌ!」

愛しい娘のナディーヌが、私に笑顔で抱きつく。わざわざ、王都からここ迄私を迎えに来てくれたのだ。

「道中、大丈夫だった?」
「大丈夫よ」

まだ記憶が全て戻った訳じゃないけど、ピサンテは私とブライアンとナディーヌの3人が、数年だけだけど幸せな時間を過ごした場所だった。もう一度、あの家を目にしたくて、お父様には内緒で使節団の後を追って来た。ただ、ブライアンが亡くなった後は辛い事が多くて、ナディーヌにとっては辛い思い出しかないと思ったから連れては来なかった。それに、あの惨状は見せなくて正解だったと思う。
最後にあの家を見られて良かったけど、結局、私の結婚指輪を見付ける事ができなかったのは残念だ。

「ナディーヌ、迎えに来てくれてありがとう」
「ナディーヌは、本当に母君の事が好きなんだな」
「勿論ですよ、アラール殿下」

8年ぶりに会ったナディーヌは、魔力を発現させていて驚いた。お父様と私と同じ火属性だったお陰で、お父様もすんなりとナディーヌを受け入れてくれた。貴族となって、もう二度と私もナディーヌも苦しむ事も辛くなる事もないだろう。この8年間、ナディーヌに辛い思いをさせてしまった分、これからは私がナディーヌを護って幸せにする。



その幸せを壊そうとする者が居るのなら、私は容赦するつもりはない。相手が誰であろうとも。





感想 128

あなたにおすすめの小説

夫の幼馴染に家も財産も奪われたので、彼女が捨てた兄妹を連れて出ていきます〜辺境伯家の住み込み家政婦になった今、戻れと言われてももう遅い~

他力本願寺
ファンタジー
夫の幼馴染に家も財産も奪われ、身一つで追い出されたアリシア。 しかし雨の宿場町で、その幼馴染が実子の幼い兄妹を置き去りにした現場を目撃する。 「私が守る」――血の繋がらないエミルとリリィを連れ、彼女は辺境伯家で住み込み家政婦として生き抜くことを選んだ。 帳簿と観察力、揺るぎない実務能力を武器に屋敷を立て直し、偏屈だが真っ直ぐな辺境伯ヴィルヘルムの信頼を得るアリシア。 子どもたちに「先生」と呼ばれ、家族のような温かさに包まれながら、彼との心の距離も静かに縮まっていく。 やがて王都から元夫と幼馴染が「戻ってきてほしい」と懇願してくるが――。 アリシアは静かに微笑み、こう告げた。 「もう、遅いわ」 追放された有能妻が、子どもたちとの家族愛と辺境伯との恋で本当の幸せを掴む、ざまぁと甘さの両方を味わえる完全復讐再生ラブストーリー。

【完結】捨てられた侯爵夫人の日記

ジュレヌク
恋愛
十五歳で侯爵家に嫁いだイベリス。 夫ハイドランジアは、愛人と別邸に住み、三年の月日が経った。 白い結婚による婚姻不履行が間近に迫る中、イベリスは、高熱を出して記憶を失う。 戻ってきた夫は、妻に仕える侍女アリッサムから、いない月日の間書き綴られた日記を手渡される。 そこには、出会った日から自分を恋しいと思ってくれていた少女の思いの丈が詰まっていた。 十八歳になり、美しく成長した妻を前に、ハイドランジアは、心が揺らぐ。 自分への恋心を忘れてしまったとしても、これ程までに思ってくれていたのなら、また、愛を育めるのではないのか? 様々な人間の思いが交錯し、物語は、思わぬ方向へと進んでいく。

娘を毒殺された日、夫は愛人と踊っていた――聖女と呼ばれた私は、王家を静かに崩壊させる

唯崎りいち
恋愛
異世界に転移し、“聖女”として王太子ジークフリートに嫁がされたフェリシア。 愛のない結婚の中で、唯一の救いは娘シャルロットだった。 しかし五歳の娘は、父から贈られたネックレスによって毒殺される。 娘が死んだ日。 王宮では祝賀会が開かれ、夫は愛人と踊っていた。 誰も娘の死を悲しまない世界で、ただ一人涙を流したのは、第八王子リュカだけだった。 やがてフェリシアは知る。 “聖女は子を産んではならない”という王家の禁忌と、娘の死の裏にある政治的思惑を。 ――これは、娘を奪われた聖女が、王家を静かに崩壊へ導いていく物語。

あなたがワインを浴びせた相手は、"子爵令嬢"じゃありませんわ

ばぅ
恋愛
公爵令息の恋人と噂されている「ルリア・ラズベルン子爵令嬢」と勘違いされ、夜会でワインを浴びせられた私。でも残念、完全な人違いです。

旦那様から出て行ってほしいと言われたのでその通りにしたら、今になって後悔の手紙が届きました

伊久留りさ
恋愛
 北辺の国境を守る小さな領地、ヴァルドリア。その城館の一室で、若き領主の妻アリシアは、夫レオンハルトの言葉に静かに耳を傾けていた。 「アリシア、君にはもう少し、この城から離れてもらいたい」  レオンハルトの声は、いつものように低く、落ち着いていた。しかし、その言葉の意味は、アリシアにとってあまりにも唐突で、あまりにも冷たいものだった。 「……離れる、とはどういう意味でございますか」 「つまり、この城にいないでほしい、ということだ。しばらくの間、君には別の場所で暮らしてもらいたい」  アリシアは、ゆっくりと目を閉じた。指先がわずかに震えるのを、彼女は必死に抑えていた。この男の前で、自分が動揺している姿を見せたくなかったからだ。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。

梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。 王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。 第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。 常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。 ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。 みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。 そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。 しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。