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王都からの手紙
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「あら、もうそんな時期なのね。どうしようかしら…」
私がこの世界にやって来てから半年。
王都に住んでいるアシーナさんのお兄さんから届いた手紙を読んだ後、アシーナさんは困ったように呟いた。
『お兄さんに、何かあったんですか?』
「違うのよ。兄は元気よ。毎年の事なんだけど…スッカリ忘れてたわ」
それは─
毎年、この季節(日本で言うところの夏)になると、王都よりも比較的涼しいイスタンス領に、避暑として甥と姪が一週間程滞在しに来るそうで、“今年も宜しく頼む”と言う内容の手紙だったそうだ。
『私の事なら、気にしなくても良いですよ?犬として、それらしくしときますし、必要なら隠れておきますよ?』
東の森には大分慣れたし、アシーナさんが結界を張った洞窟があり、そこで寝泊まりする事もできる。
「ルーナを隠そうとは思ってないわよ。街の人達も知ってるからね。ただねぇ……滞在中に満月の夜があるのよ。」
『──あ!』
私が人間だと言う事は、まだアシーナさんしか知らない。
本来であれば、異世界から落ちて来た者を見付けた場合は国王に報告をしなければいけないのだけど、一緒に召喚された筈の他の4人の情報が全く無い事。逆に、私を探していると言う情報も無い事で、ひょっとしたら、召喚したのはこの国ではないかもしれない。それに、水の精霊の加護付き、おまけに白狼になっている。その私に何かあったら、水の精霊がどう反応するか分からない─と言う事で、アシーナさんは私の事を国王に報告しない事にしたのだ。
精霊と言うのは、人間なんかが対応できる相手ではないらしい。大昔には、火の精霊を怒らせ、たった一晩で火の海で焼き消されたと言う国もあったそうだ。
ーその国の人は、一体何をしたの!?ー
と叫びたくなった。
「兎に角、満月の夜だけなんとかしないといけないわね。あの子達が来る迄後一週間。何とか…なるかしら?」
『?』
アシーナさんは「何とかするわ!」と、小首を傾げて見ている私を一撫ですると、「少し部屋に篭もるわね!」と、いつもポーションを作っている部屋に入って行った。
そうして、次にアシーナさんがその部屋から出て来たのは、その日の夕方だった。
「この前、見掛けた時に買っておいて良かったわ」
アシーナさんが手に持っていたのは、黒色?の石のピアスだった。そのピアスはピン状のモノではなく、ノンホールピアスみたいなタイプのモノだ。
「このピアスに、“認識阻害”の魔法を組み込んでみたの。満月の夜にコレを着けて、後は……申し訳ないけど、普段使っていない3階の屋根裏部屋か、森の洞窟で寝るか。それで、あの子達には気付かれないと思うわ。」
『アシーナさん、態々作ってくれて、ありがとうございます!この黒色は、何か意味があるんですか?』
「この世界では、自分の色の宝石や石を身に着ける習慣があるのよ。恋人なんかは、お互い自分の色を贈り合ったりもするわね。それで、この前お店に行った時に黒曜石─シルバーオブシディアンを見掛けたから、ルーナに何か作ろうと思って買っておいたのよ」
アシーナさんが、私の左耳にそのピアスを装着してくれた。
「普段は普通のピアスとして着けられるわ。ルーナの出す水玉をその石に吸収させると、“認識阻害”の魔法が発動するようにしたわ。その効果は半日」
『石に水玉を吸収させる……ファンタジーですね』
「もともと、黒曜石は水と月とは相性が良いし、その上シルバーオブシディアンなら、本当にルーナにピッタリだと思ったのよ。ちゃんと発動するか、また明日にでも確認してみましょう。取り敢えず……今日は時間がないから、夕食は外で食べましょうか」
そうして、その日の夕食はペット同伴可能なお店で食事を済ませた。
その帰り道─
「アシーナさん!」
「───デルバート様…。」
アシーナさんの名前を呼びながら駆け寄って来たのは、青色の瞳に、金髪の長髪を右サイドで一括りにして胸の方に髪を垂らした、アシーナさんと同年代位の男性だった。“─様”と呼ぶと言う事は、貴族の人なのかもしれない。
「こんな時間に街に居るとは、珍しいですね?」
「えぇ。今日は…この子と食事をしに来ていたので…。」
アシーナさんが、私の頭を撫でる。
「この子?あぁ…。街の人達が噂をしていた…犬か…。」
スッと私を見下ろすその目が、何となく冷たいような…?と思ったのは一瞬で、その人はニコッと笑って私の頭を撫でた後、もう一度アシーナさんへと視線を戻した。
「時間も遅いから、私が森迄送りましょう」
「いえ、大丈夫です。遅いと言っても人通りはありますし、この通り、番犬も一緒ですから。それでは、失礼しますね」
「そうですか…。それでは…気を付けて」
その男性は、少し残念そうな顔をしてもと来た道を戻って行った。
私がこの世界にやって来てから半年。
王都に住んでいるアシーナさんのお兄さんから届いた手紙を読んだ後、アシーナさんは困ったように呟いた。
『お兄さんに、何かあったんですか?』
「違うのよ。兄は元気よ。毎年の事なんだけど…スッカリ忘れてたわ」
それは─
毎年、この季節(日本で言うところの夏)になると、王都よりも比較的涼しいイスタンス領に、避暑として甥と姪が一週間程滞在しに来るそうで、“今年も宜しく頼む”と言う内容の手紙だったそうだ。
『私の事なら、気にしなくても良いですよ?犬として、それらしくしときますし、必要なら隠れておきますよ?』
東の森には大分慣れたし、アシーナさんが結界を張った洞窟があり、そこで寝泊まりする事もできる。
「ルーナを隠そうとは思ってないわよ。街の人達も知ってるからね。ただねぇ……滞在中に満月の夜があるのよ。」
『──あ!』
私が人間だと言う事は、まだアシーナさんしか知らない。
本来であれば、異世界から落ちて来た者を見付けた場合は国王に報告をしなければいけないのだけど、一緒に召喚された筈の他の4人の情報が全く無い事。逆に、私を探していると言う情報も無い事で、ひょっとしたら、召喚したのはこの国ではないかもしれない。それに、水の精霊の加護付き、おまけに白狼になっている。その私に何かあったら、水の精霊がどう反応するか分からない─と言う事で、アシーナさんは私の事を国王に報告しない事にしたのだ。
精霊と言うのは、人間なんかが対応できる相手ではないらしい。大昔には、火の精霊を怒らせ、たった一晩で火の海で焼き消されたと言う国もあったそうだ。
ーその国の人は、一体何をしたの!?ー
と叫びたくなった。
「兎に角、満月の夜だけなんとかしないといけないわね。あの子達が来る迄後一週間。何とか…なるかしら?」
『?』
アシーナさんは「何とかするわ!」と、小首を傾げて見ている私を一撫ですると、「少し部屋に篭もるわね!」と、いつもポーションを作っている部屋に入って行った。
そうして、次にアシーナさんがその部屋から出て来たのは、その日の夕方だった。
「この前、見掛けた時に買っておいて良かったわ」
アシーナさんが手に持っていたのは、黒色?の石のピアスだった。そのピアスはピン状のモノではなく、ノンホールピアスみたいなタイプのモノだ。
「このピアスに、“認識阻害”の魔法を組み込んでみたの。満月の夜にコレを着けて、後は……申し訳ないけど、普段使っていない3階の屋根裏部屋か、森の洞窟で寝るか。それで、あの子達には気付かれないと思うわ。」
『アシーナさん、態々作ってくれて、ありがとうございます!この黒色は、何か意味があるんですか?』
「この世界では、自分の色の宝石や石を身に着ける習慣があるのよ。恋人なんかは、お互い自分の色を贈り合ったりもするわね。それで、この前お店に行った時に黒曜石─シルバーオブシディアンを見掛けたから、ルーナに何か作ろうと思って買っておいたのよ」
アシーナさんが、私の左耳にそのピアスを装着してくれた。
「普段は普通のピアスとして着けられるわ。ルーナの出す水玉をその石に吸収させると、“認識阻害”の魔法が発動するようにしたわ。その効果は半日」
『石に水玉を吸収させる……ファンタジーですね』
「もともと、黒曜石は水と月とは相性が良いし、その上シルバーオブシディアンなら、本当にルーナにピッタリだと思ったのよ。ちゃんと発動するか、また明日にでも確認してみましょう。取り敢えず……今日は時間がないから、夕食は外で食べましょうか」
そうして、その日の夕食はペット同伴可能なお店で食事を済ませた。
その帰り道─
「アシーナさん!」
「───デルバート様…。」
アシーナさんの名前を呼びながら駆け寄って来たのは、青色の瞳に、金髪の長髪を右サイドで一括りにして胸の方に髪を垂らした、アシーナさんと同年代位の男性だった。“─様”と呼ぶと言う事は、貴族の人なのかもしれない。
「こんな時間に街に居るとは、珍しいですね?」
「えぇ。今日は…この子と食事をしに来ていたので…。」
アシーナさんが、私の頭を撫でる。
「この子?あぁ…。街の人達が噂をしていた…犬か…。」
スッと私を見下ろすその目が、何となく冷たいような…?と思ったのは一瞬で、その人はニコッと笑って私の頭を撫でた後、もう一度アシーナさんへと視線を戻した。
「時間も遅いから、私が森迄送りましょう」
「いえ、大丈夫です。遅いと言っても人通りはありますし、この通り、番犬も一緒ですから。それでは、失礼しますね」
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その男性は、少し残念そうな顔をしてもと来た道を戻って行った。
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