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私の負け

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「イツキ殿とミオ嬢が、精霊の加護を授かったらしい。」

「そうなんですね!それって、巡礼に出るにあたって、とっても良い事ですよね?」

「あぁ。加護があると言う事は、ある程度の身は護られるからね。」



2人と再会してから2ヶ月。

今日は仕事が休みのリュークレインさんと、アリスタ邸の庭にあるガゼボでお茶をしている。

「それじゃあ、ウンディーネ様は樹君と美緒さんに対しては怒ってないって事ですよね?良かった!」

あれから、アシーナさんが気を使ってくれているのか、2人とは一週間に1回は会ってお茶をしたりする日を作ってくれている。お陰で、2人とは………“良い友達”になれそうな気がして、私は嬉しい。今は無理だけど、浄化巡礼が終わったら、王都の街に行こうと約束もしている。

その前に───



「キョウコ、今日はどうだった?」

と、対面に座っているリュークレインさんが、私を見つめたまま微笑む。

ーゔ……この笑顔…本当に綺麗だよねー

ついつい見惚れてしまいそうになるのを我慢する。

「なんとか、この世界での最低限のマナーは合格しました。」

「そうか。無理は…していないか?別に、急ぐ事もないから、辛くなったら言ってくれ。まぁ、母上は、“キョウコは何に関しても飲み込みが早いから問題無い”と言っていたけどね。」




そう。驚いた事に、リュークレインさんと私の想いが通じ合ったあの日の夜。国王陛下とアシーナさんの許可を得て、すでに、アリスタ邸には知らせが飛ばされていたのだ。

私が異世界人で、白狼ルーナであり、キョウコ女の子である事。水の精霊の加護を持っている事。リュークレインさんが─────私との婚約を考えていると言う事を。

ーえ?私異世界人でもふもふで平民だよ?公爵家嫡男のお相手なんて無理じゃない?断罪とかされちゃう?ー

とビクビクしていたけど──

その翌日、リュークレインさんと杏子の姿でアリスタ邸に帰った時のお出迎えが……凄かった。

クラリス様には泣きながら抱きつかれ、学校を休んだリナティアさんには、「こんな可愛い女の子だったって、秘密にしてたなんて!狡いわ!」と、可愛い顔で怒られながら抱きつかれた。
その後ろに控えてる使用人さん達も、ホロッと涙を流す人や、微笑ましく見守る人と、私に嫌悪感を示す人は誰も居なかった。

ー何で?ー

その理由は簡単に知る事ができた。

それはやっぱり、リュークレインさんの魔力が原因だった。皆、リュークレインさんが公爵家の為に我慢して、婚約者選びを頑張っていた事を知っていたからだった。それも、諦め掛けた時に、私が現れたから。しかも、もふもふのルーナだったから。勿論、ルーナが杏子である事は、アリスタ邸以外の者には口外禁止事項である。

杏子の扱いは、“東の森の魔女─アシーナさんの後ろ盾を得ている、水の精霊の加護持ち”と言う事になった。それだけで、公爵家嫡男のリュークレインさんとはどころか、お釣りが出るそうだ。

そうして、アリスタ邸では両手を上げて迎え入れられ、そこから、この世界の事、国の事、マナーについて、公爵夫人であるクラリス様から学ぶ事になったのだ。




────あれ?私、もうリュークレインさんと…婚約どころか、結婚する事が……決定事項になってる?

と気付いたのが2日前だった。



「王城で開かれる夜会で、召喚された4人がお披露目される事になった。そこで、キョウコも一緒にお披露目する事になった。その為に、ドレスを作ろう。で着るドレスも作ろうと思っていたから、丁度良かった。」

「───ん?結婚………式??」

ー誰と誰の?ー

余程、私の顔が驚きに満ちていたんだろう。リュークレインさんは、そんな私の顔を見て「やっぱり……卑怯な事をした俺とは結婚は……無理なんだろうか………」と、また垂れ下がった耳が見える程にシュンとするリュークレインさん。

「い─────っ嫌じゃないんです!はい!ビックリしただけなんです!はい!」

と言えば、ホッとしたような顔をした後、フワリと微笑んで「良かった」と言いながら、私の頬にキスをしたリュークレインさん。

「ふわぁーっ!?」

ポンッ───

と、私は恥ずかし過ぎて───白狼ルーナの姿になった。

ーよし、このまま全速力で逃げ────ー

『──きゅぅっ!?』

──られなかった。

「はい。の場所はだから。」

と、逃げ出す前にブラーンと持ち上げられ、そのままリュークレインさんの膝の上に乗せられた。

ーこうなったら、私の負けなんだよねー

は、とても心地好くて安心する場所なんです。恥ずかしいけど……私の大好きな……場所なんです。だから、抵抗せずにそのまま素直に身を任せる。尻尾だって、自然とゆらゆらと動く。

何て……幸せな時間なんだろう。

でも───

5人お披露目の夜会───。


ーそれ迄に……陽真と大森さんと会って、ケリを付けないとねー

そう思いながら、私は目を閉じた。

















「ルーナ?寝てるのか……。はーぁ…。キョウコの時も、これ位俺に甘えてくれたら良いのになぁ…………いや……今はまだいいのか?甘えられたら甘えられたで………我慢ができる気がしないな。」

と、苦笑しながらルーナを撫でるリュークレインの目は優しかった。












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