(自称)我儘令嬢の奮闘、後、それは誤算です!

みん

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「今日は、アンカーソン子息がいらっしゃっているようですよ」

「そっか。じゃあ、お姉様は今、本邸こっちに居るのね?」

姉の婚約者─ブレイン=アンカーソン様は、婚約者として挨拶をしに来て以来、週に一度は姉に会いに来ている。そんなアンカーソン様に、姉が別邸で過ごしているとは知られたくないようで、アンカーソン様が来る日は、姉が本邸こっちにやって来るのだ。母の目がある為、姉とゆっくり話をする事はできないけど、エメリーにお願いして、私の作ったお菓子や手紙を渡してもらっている。

そして、今日もアンカーソン様が来ているらしい。とは言え、私がアンカーソン様と会う事はない。そもそも、アンカーソン様は婚約者である姉のジェマに会いに来ているのだから、私が会う必要は無い。それに、母からも『ブレイン様がいらっしゃっている時は、部屋に居てちょうだいね』と言われている。なので、私は今、自分の部屋で刺繍の練習をしている。

「あ……」

使いたい色の糸が無くなってしまい、邸にあるのかどうかエメリーに訊こうと思い、私はソッと自分の部屋から出た。

姉とアンカーソン様は、いつも応接室でお茶を飲みながら話をしている─と聞いていた為、応接室には近付かないように─と思っていると、その応接室の方からリンディの声が聞こえて来た。

ー何故、応接室の方からリンディの声が?ー

お行儀が悪いのは分かってはいたけど、そのまま静かに応接室に足を向けて、聞き耳を立てた。



「ふふっ。様は、本当に話がお上手なんですね!」

「──そうかな?まぁ……そう言ってもらえると…嬉しいけどね……」

「あ、それじゃあ、コレは知ってますか?」

と、何故か、リンディとアンカーソン様の声しか聞こえて来ない。

ーあれ?お姉様は…どうしたんだろう?ー

何故リンディがこの部屋の中に居るのか、何故お姉様の声が聞こえないのか──私にはサッパリ意味が分からない。すると、

「───少し…失礼しますね………」

と姉の声が聞こえたと思ったら、応接室から姉が出て来た。

「!?」

扉の近くに居た私は、咄嗟に隠れる事もできなくて、部屋から出て来た姉は私を見てビックリしていたけど、何事も無かったように静かにその扉を閉めた。
それから、周りを確認した後、チョイチョイ─と手招きされたので、私は歩いて行く姉の後ろ姿を追って行った。


「何故、リンディがあの部屋に?」と姉に直接訊けば、「ブレイン様がいらっしゃる時は……いつもリンディと…お義母様が同席するのよ」と。

「同席?」

意味が分からなかった。母は、私には、2人の邪魔にならないように自室に篭もれ─と言わなかっただろうか?それなのに、何故リンディだけではなく、母自身も同席するのか。
姉とアンカーソン様が婚約者でなければ、部屋に2人切りと言うのはあまり良くないけど、2人は婚約者だ。2人切りになったとしても全く問題はない。

「そろそろ戻らないとね…。エヴィ、また別邸に遊びに来てね?」

そう言って、姉はまた応接室へと戻って行った。






その日の夜の事だった。

「お嬢様、起きてらっしゃいますか?」

「───ん?エメリー?どうしたの?」

自室のベッドでうとうととしていたところに、エメリーが慌ててやって来た。

「お嬢──ジェマ様が高熱を出されて…。それで、エヴィ様の名前を呼んでいると、アリスが知らせてくれたんです」

「お姉様が!?エメリー、私、お姉様の所に行きたい!あの……行けるかしら?」

「旦那様も奥様も、もう寝ていらっしゃいます。念の為、使用人が、使う通路を通って行けば大丈夫かと…」

「エメリー、それでお願い!」

それから私は、寝夜着の上からカーディガンを羽織って、エメリーに案内されながら姉の元へと向かった。





「あ、エヴィ様!来ていただけたんですね!ありがとうございます!」

姉が寝ている部屋に入ると、アリスが泣きそうな顔で私を迎え入れてくれた。

「お姉様は?大丈夫なの?」

「それが……先程迄は、エヴィ様の名前を呼んでらっしゃたんですけど…今は…苦しそうで………」

「──え?」

姉が寝ていると言うベッドに視線を向けると、姉が寝ているだろうと思われる所に、黒い影が浮んでいた。

ーあの影は…何?ー

エメリーとアリスの態度を見る限り、その影に気付いている?見えている感じが無い。

ーあれはー

ふと、何かを忘れているような感覚に陥る。
よく分からないし、今はその違和感の事は置いておいて…。

あの影が、だと言う事は分かる。

ーでも、どうしたら良い?ー

水の魔法が使えるなら、それで祓えたかもしれない。違う。魔力が無い訳じゃない。使える程の量が無いだけ。
姉を見て、グッと両手に力を入れて、その黒い影がある胸元に手を当てる。

ーお願い、黒い影を…祓って!ー

そう願った瞬間、一気に魔力が空っぽになったかのように、体から力が抜けてしまい、そのままベッドの縁に倒れ込んでしまった。



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