10番目の側妃(人質)は、ひっそりと暮らしたい

みん

文字の大きさ
14 / 42
*テイルザール王国*

14 名無しのネル

しおりを挟む
ある日突然、何かを失ったかのように心に大きな穴が空いた。ソレが何だったのか──。そもそも、私は誰で何故こんな所に居るのか。ここは、私の居る場所ではないような気がした。何かを思い出そうとすると頭の中に霧が掛かり、ズキズキと頭と胸が痛くなるから、思い出そうとする事を止めてしまった。ただ、薬草に関しての記憶は残っていたから、自分は薬師だったのか─と思っていたそんなある日、獣人の薬師だと知った私を、国王が保護すると言う形で王城へと連れて来られて、そのまま後宮の奥のこじんまりした邸─小屋のような所に閉じ込められた。

獣人族にとっての薬師は大切な存在だから、私の出自が不明でも、軟禁状態とは言え邪険に扱われる事はなかった。名無しのネルであっても、毎日3食美味しい食事を与えられ、フカフカのベッドで眠れて、好きな薬師の仕事に集中できるのだから、有り難い事だ─と思っていた。


私の護衛として付く事になったのは、テオフィル=ユーリッシュ。まだまだ若いだろうに、既に威厳が備わっているような、少し圧のある雰囲気がある。綺麗な顔をしているからか、少し冷たい印象があるが根は優しい青年だ。
ただ、時折苦しそうな顔をして私を見る事がある。

ーテオフィルは、私の何かを知っているのだろうか?ー






相変わらず、自分に関して何かを思い出そうとすると頭と胸が痛み、更に頭の中がモヤモヤとしたモノが広がって来ていた頃、彼女がやって来た。

レイ=ダンビュライト

アイスブルーの髪がサラサラとしていて、琥珀色の瞳はキラキラと輝いていた。その姿に、何故か胸がチクリと痛んだ。


『そこで何をしている!?ネルから離れろ!』

私がぼんやりしていると、私に過保護なテオフィルが彼女に鞘に収めたままだったけど剣先を向けていた。

ー過保護にも程があるー

どこからどう見ても彼女は人間ひと族だ。しかも、人間の中でも小さい……弱い人間だ。どうして後宮こんな所に?と不思議に思っていると、どうやら国王の10番目の側妃としてやって来たと言う。どうして獣人の国王が人間を?

『所謂“人質”です』

何てことない─みたいにサラッとそんな事を口にした彼女は、色々と諦めたような目をしていた。そんな彼女を見ると、更に胸が痛んだ。テオフィルは、眉間の皺が深くなっていた。




それから、庭いじりをするレイ様とアルマと一緒に、私もそれを手伝ったり、庭園の一画を借りて薬草を育てたりするようになった。そこで、レイ様の過去の話を聞き、テオフィルが静かにキレていたのには、レイ様達は気付いていないだろう。

それと─

レイ様達と一緒にお茶をするようになってから、少しずつ頭の中に掛かっていたモヤモヤしたものが晴れていっている事に気付いたのは、半年経った頃だった。
未だに自分が何者なのか、名前すら思い出せてはいないが、思い出そうとしても、以前程の痛みが襲って来る事が無くなった。
そして、思い出そう─とした日の夜は、夢の中で誰かが私を呼ぶ声が聞こえるようになった。それが、何と言っているのかは分からないのに、涙が出る程の温もりが私を包み込む。

ーこの温もりを…私は知っているー

知っている筈なのに、分からない。それでも、それは苦痛ではなく、目が覚めた後も不思議と心が落ち着いているのだ。



『レイ様の創る浄化の水が、ネルにとって良いように働いているのかもしれません』

と言ったのはテオフィル。テオフィルは、何かを耐えるようにして眉間に皺を作っている。
テオフィルはこの国─獣人族の騎士だとばかり思っていたが……何となく違和感がある事に気が付いた。その違和感が何なのか─そのうち分かる時が来るだろうか?



「ネルさん、そろそろお茶にしませんか?今日はアルマがチョコレートケーキを作ってくれたんですよ!」

そう言って、少し顔を綻ばせるのは第10側妃のレイ様。少し前までは表情があまり変わらなかったが、最近では少し……少しだけ…偶に軽く緩む時がある。傍目には同じ様に見えるかもしれないが、その軽く緩んだ顔を見ると、私の心が少し温かくなる。テオフィルもそんなレイ様の変化に気付いているのか、その緩んだ顔を見ると──何故か眉間の皺が更に深くなるのだ。未だに、その辺りのテオフィルの感情が理解できないのは、仕方無い。それも、頭の中のモヤモヤが綺麗に晴れれば分かるかもしれない。

「レイ様は、チョコレートが好きなんですか?」
「好き…ですね。亡くなった姉が、よく私にお土産にと買って来てくれてたので……」

おずおずと少し恥ずかしそうに答えるレイ様を、テオフィルはやっぱり眉間に皺を寄せて見ている。
嫌っている─訳では無いんだろうが、あれではレイ様がテオフィルに対してびくびくするのも仕方無い。

ー顔は良いのに勿体無いことだー

「それじゃあ、今日も有り難く頂きますね」

と、今日もレイ様とアルマとテオフィルと4人でお茶の時間を楽しんだ。



しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

[完結]間違えた国王〜のお陰で幸せライフ送れます。

キャロル
恋愛
国の駒として隣国の王と婚姻する事にになったマリアンヌ王女、王族に生まれたからにはいつかはこんな日が来ると覚悟はしていたが、その相手は獣人……番至上主義の…あの獣人……待てよ、これは逆にラッキーかもしれない。 離宮でスローライフ送れるのでは?うまく行けば…離縁、 窮屈な身分から解放され自由な生活目指して突き進む、美貌と能力だけチートなトンデモ王女の物語

【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

【完結】レイハート公爵夫人の時戻し

風見ゆうみ
恋愛
公爵夫人である母が亡くなったのは、私、ソラリアが二歳になり、妹のソレイユが生まれてすぐのことだ。だから、母の記憶はないに等しい。 そんな母が私宛に残していたものがあった。 青色の押し花付きの白い封筒に入った便箋が三枚。 一枚目には【愛するソラリアへ】三枚目に【母より】それ以外、何も書かれていなかった。 父の死後、女性は爵位を継ぐことができないため、私は公爵代理として、領民のために尽くした。 十九歳になった私は、婚約者に婿入りしてもらい、彼に公爵の爵位を継いでもらった。幸せな日々が続くかと思ったが、彼との子供を授かったとわかった数日後、私は夫と実の妹に殺されてしまう。 けれど、気がついた時には、ちょうど一年前になる初夜の晩に戻っており、空白だったはずの母からの手紙が読めるようになっていた。 殺されたことで羊の形をした使い魔が見えるようになっただけでなく『時戻しの魔法』を使えるようになった私は、爵位を取り返し、妹と夫を家から追い出すことに決める。だが、気弱な夫は「ソラリアを愛している。別れたくない」と泣くばかりで、離婚を認めてくれず――。

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

暗闇に輝く星は自分で幸せをつかむ

Rj
恋愛
許婚のせいで見知らぬ女の子からいきなり頬をたたかれたステラ・デュボワは、誰にでもやさしい許婚と高等学校卒業後にこのまま結婚してよいのかと考えはじめる。特待生として通うスペンサー学園で最終学年となり最後の学園生活を送る中、許婚との関係がこじれたり、思わぬ申し出をうけたりとこれまで考えていた将来とはまったく違う方向へとすすんでいく。幸せは自分でつかみます! ステラの恋と成長の物語です。 *女性蔑視の台詞や場面があります。

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

妃殿下、私の婚約者から手を引いてくれませんか?

ハートリオ
恋愛
茶髪茶目のポッチャリ令嬢ロサ。 イケメン達を翻弄するも無自覚。 ロサには人に言えない、言いたくない秘密があってイケメンどころではないのだ。 そんなロサ、長年の婚約者が婚約を解消しようとしているらしいと聞かされ… 剣、馬車、ドレスのヨーロッパ風異世界です。 御脱字、申し訳ございません。 1話が長めだと思われるかもしれませんが会話が多いので読みやすいのではないかと思います。 楽しんでいただけたら嬉しいです。 よろしくお願いいたします。

処理中です...