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*テイルザール王国*
14 名無しのネル
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ある日突然、何かを失ったかのように心に大きな穴が空いた。ソレが何だったのか──。そもそも、私は誰で何故こんな所に居るのか。ここは、私の居る場所ではないような気がした。何かを思い出そうとすると頭の中に霧が掛かり、ズキズキと頭と胸が痛くなるから、思い出そうとする事を止めてしまった。ただ、薬草に関しての記憶は残っていたから、自分は薬師だったのか─と思っていたそんなある日、獣人の薬師だと知った私を、国王が保護すると言う形で王城へと連れて来られて、そのまま後宮の奥のこじんまりした邸─小屋のような所に閉じ込められた。
獣人族にとっての薬師は大切な存在だから、私の出自が不明でも、軟禁状態とは言え邪険に扱われる事はなかった。名無しのネルであっても、毎日3食美味しい食事を与えられ、フカフカのベッドで眠れて、好きな薬師の仕事に集中できるのだから、有り難い事だ─と思っていた。
私の護衛として付く事になったのは、テオフィル=ユーリッシュ。まだまだ若いだろうに、既に威厳が備わっているような、少し圧のある雰囲気がある。綺麗な顔をしているからか、少し冷たい印象があるが根は優しい青年だ。
ただ、時折苦しそうな顔をして私を見る事がある。
ーテオフィルは、私の何かを知っているのだろうか?ー
相変わらず、自分に関して何かを思い出そうとすると頭と胸が痛み、更に頭の中がモヤモヤとしたモノが広がって来ていた頃、彼女がやって来た。
レイ=ダンビュライト
アイスブルーの髪がサラサラとしていて、琥珀色の瞳はキラキラと輝いていた。その姿に、何故か胸がチクリと痛んだ。
『そこで何をしている!?ネルから離れろ!』
私がぼんやりしていると、私に過保護なテオフィルが彼女に鞘に収めたままだったけど剣先を向けていた。
ー過保護にも程があるー
どこからどう見ても彼女は人間族だ。しかも、人間の中でも小さい……弱い人間だ。どうして後宮に?と不思議に思っていると、どうやら国王の10番目の側妃としてやって来たと言う。どうして獣人の国王が人間を?
『所謂“人質”です』
何てことない─みたいにサラッとそんな事を口にした彼女は、色々と諦めたような目をしていた。そんな彼女を見ると、更に胸が痛んだ。テオフィルは、眉間の皺が深くなっていた。
それから、庭いじりをするレイ様とアルマと一緒に、私もそれを手伝ったり、庭園の一画を借りて薬草を育てたりするようになった。そこで、レイ様の過去の話を聞き、テオフィルが静かにキレていたのには、レイ様達は気付いていないだろう。
それと─
レイ様達と一緒にお茶をするようになってから、少しずつ頭の中に掛かっていたモヤモヤしたものが晴れていっている事に気付いたのは、半年経った頃だった。
未だに自分が何者なのか、名前すら思い出せてはいないが、思い出そうとしても、以前程の痛みが襲って来る事が無くなった。
そして、思い出そう─とした日の夜は、夢の中で誰かが私を呼ぶ声が聞こえるようになった。それが、何と言っているのかは分からないのに、涙が出る程の温もりが私を包み込む。
ーこの温もりを…私は知っているー
知っている筈なのに、分からない。それでも、それは苦痛ではなく、目が覚めた後も不思議と心が落ち着いているのだ。
『レイ様の創る浄化の水が、ネルにとって良いように働いているのかもしれません』
と言ったのはテオフィル。テオフィルは、何かを耐えるようにして眉間に皺を作っている。
テオフィルはこの国─獣人族の騎士だとばかり思っていたが……何となく違和感がある事に気が付いた。その違和感が何なのか─そのうち分かる時が来るだろうか?
「ネルさん、そろそろお茶にしませんか?今日はアルマがチョコレートケーキを作ってくれたんですよ!」
そう言って、少し顔を綻ばせるのは第10側妃のレイ様。少し前までは表情があまり変わらなかったが、最近では少し……少しだけ…偶に軽く緩む時がある。傍目には同じ様に見えるかもしれないが、その軽く緩んだ顔を見ると、私の心が少し温かくなる。テオフィルもそんなレイ様の変化に気付いているのか、その緩んだ顔を見ると──何故か眉間の皺が更に深くなるのだ。未だに、その辺りのテオフィルの感情が理解できないのは、仕方無い。それも、頭の中のモヤモヤが綺麗に晴れれば分かるかもしれない。
「レイ様は、チョコレートが好きなんですか?」
「好き…ですね。亡くなった姉が、よく私にお土産にと買って来てくれてたので……」
おずおずと少し恥ずかしそうに答えるレイ様を、テオフィルはやっぱり眉間に皺を寄せて見ている。
嫌っている─訳では無いんだろうが、あれではレイ様がテオフィルに対してびくびくするのも仕方無い。
ー顔は良いのに勿体無いことだー
「それじゃあ、今日も有り難く頂きますね」
と、今日もレイ様とアルマとテオフィルと4人でお茶の時間を楽しんだ。
獣人族にとっての薬師は大切な存在だから、私の出自が不明でも、軟禁状態とは言え邪険に扱われる事はなかった。名無しのネルであっても、毎日3食美味しい食事を与えられ、フカフカのベッドで眠れて、好きな薬師の仕事に集中できるのだから、有り難い事だ─と思っていた。
私の護衛として付く事になったのは、テオフィル=ユーリッシュ。まだまだ若いだろうに、既に威厳が備わっているような、少し圧のある雰囲気がある。綺麗な顔をしているからか、少し冷たい印象があるが根は優しい青年だ。
ただ、時折苦しそうな顔をして私を見る事がある。
ーテオフィルは、私の何かを知っているのだろうか?ー
相変わらず、自分に関して何かを思い出そうとすると頭と胸が痛み、更に頭の中がモヤモヤとしたモノが広がって来ていた頃、彼女がやって来た。
レイ=ダンビュライト
アイスブルーの髪がサラサラとしていて、琥珀色の瞳はキラキラと輝いていた。その姿に、何故か胸がチクリと痛んだ。
『そこで何をしている!?ネルから離れろ!』
私がぼんやりしていると、私に過保護なテオフィルが彼女に鞘に収めたままだったけど剣先を向けていた。
ー過保護にも程があるー
どこからどう見ても彼女は人間族だ。しかも、人間の中でも小さい……弱い人間だ。どうして後宮に?と不思議に思っていると、どうやら国王の10番目の側妃としてやって来たと言う。どうして獣人の国王が人間を?
『所謂“人質”です』
何てことない─みたいにサラッとそんな事を口にした彼女は、色々と諦めたような目をしていた。そんな彼女を見ると、更に胸が痛んだ。テオフィルは、眉間の皺が深くなっていた。
それから、庭いじりをするレイ様とアルマと一緒に、私もそれを手伝ったり、庭園の一画を借りて薬草を育てたりするようになった。そこで、レイ様の過去の話を聞き、テオフィルが静かにキレていたのには、レイ様達は気付いていないだろう。
それと─
レイ様達と一緒にお茶をするようになってから、少しずつ頭の中に掛かっていたモヤモヤしたものが晴れていっている事に気付いたのは、半年経った頃だった。
未だに自分が何者なのか、名前すら思い出せてはいないが、思い出そうとしても、以前程の痛みが襲って来る事が無くなった。
そして、思い出そう─とした日の夜は、夢の中で誰かが私を呼ぶ声が聞こえるようになった。それが、何と言っているのかは分からないのに、涙が出る程の温もりが私を包み込む。
ーこの温もりを…私は知っているー
知っている筈なのに、分からない。それでも、それは苦痛ではなく、目が覚めた後も不思議と心が落ち着いているのだ。
『レイ様の創る浄化の水が、ネルにとって良いように働いているのかもしれません』
と言ったのはテオフィル。テオフィルは、何かを耐えるようにして眉間に皺を作っている。
テオフィルはこの国─獣人族の騎士だとばかり思っていたが……何となく違和感がある事に気が付いた。その違和感が何なのか─そのうち分かる時が来るだろうか?
「ネルさん、そろそろお茶にしませんか?今日はアルマがチョコレートケーキを作ってくれたんですよ!」
そう言って、少し顔を綻ばせるのは第10側妃のレイ様。少し前までは表情があまり変わらなかったが、最近では少し……少しだけ…偶に軽く緩む時がある。傍目には同じ様に見えるかもしれないが、その軽く緩んだ顔を見ると、私の心が少し温かくなる。テオフィルもそんなレイ様の変化に気付いているのか、その緩んだ顔を見ると──何故か眉間の皺が更に深くなるのだ。未だに、その辺りのテオフィルの感情が理解できないのは、仕方無い。それも、頭の中のモヤモヤが綺麗に晴れれば分かるかもしれない。
「レイ様は、チョコレートが好きなんですか?」
「好き…ですね。亡くなった姉が、よく私にお土産にと買って来てくれてたので……」
おずおずと少し恥ずかしそうに答えるレイ様を、テオフィルはやっぱり眉間に皺を寄せて見ている。
嫌っている─訳では無いんだろうが、あれではレイ様がテオフィルに対してびくびくするのも仕方無い。
ー顔は良いのに勿体無いことだー
「それじゃあ、今日も有り難く頂きますね」
と、今日もレイ様とアルマとテオフィルと4人でお茶の時間を楽しんだ。
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