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第四章ー王都ー
贄
しおりを挟む「あれ?まだ動ける奴が居たのか。」
「え─!?」
ビックリして振り返ると…そこには、あのパルヴァン元副団長が居た。
「なん…で…」
確か、シルヴィア様に締め上げられた後、領地追放になったんだっけ?そうか…パルヴァン辺境地からの追放だから、この人が王都に居ても不思議ではない。ないけど…。追放と同時に爵位も剥奪され平民になった彼が、どうして王城に居るのか…。それに、何故ここに居るのか…。
「見た事ない顔だな?新入りの薬師か?眠り草に耐性でもあるのか?」
眠り草─この人の仕業だったのか─。でも何故?
「まぁ…どうでもいいや。薬師殿、怪我をしたくなかったら…そこで寝てる奴を私に渡してくれるか?」
ニヤリと、下卑た笑いを浮かべながら近付いて来る。
「何故…カテリーナ様を?」
攻撃はできないけど、いざとなれば魔法でなんとかなるだろう。それにここは王城内の一室。相手も無理な事はしないだろう。時間を稼げれば、そのうちレオン様が来るかもしれない。
「何故?はっ!そんな事、パルヴァンの者であれば、だいたい予想はつくだろう?私はね、ずっと…ずーっと、グレンとシルヴィアの2人の苦痛に染まる顔を見たいと思っていたんだよ。本来なら…パルヴァン辺境伯を引き継ぐのは私だったんだ!それをアイツが─!」
とんだ逆恨みだ。確かにパルヴァンの元騎士だけあって武に長けているのは確かだろう。でも、長けているだけでは駄目なのだ。人を見下すような人ではパルヴァン辺境地を治める事なんてできる筈がない。
「それで…直接グレン様とシルヴィア様に手を出せないから、カテリーナ様を狙ったと言う事ですか?ふふっ…そこに羞恥心はないんですか?」
「な─っ!」
私の言葉にカッとなって怒りを露にするが─
「─っ…まぁいい。薬師殿は、私がここに居る事の意味を…分かっているのか?」
「ここに居る事の意味?」
「私は平民に堕とされた身。でも、王城に居る。何故なら…グレンの事を良く思っていない貴族が…居ると言う事だよ。」
ニヤッと嗤う。
「グレンは滅多な事がない限り、パルヴァンを出る事はない。嫡男夫婦も然別。だが、今日の夜会には、そのレオンとカテリーナが来ると知ってね。レオンの苦痛に歪む顔も見たくなってね?それで、ターゲットをカテリーナにしたって訳だよ。」
愉悦に浸っているかの様な笑顔で、饒舌に語っている。この人…レオン様やパルヴァン様の事、全く分かってないよね。カテリーナ様に手を出して、自分がどうなるか…それに…。まだ国王陛下以外には知られていないけど、カテリーナ様は妊娠している。ここでカテリーナ様を連れて行かせるわけにはいかない。
「カテリーナ様ではなく、私ではいけませんか?」
「は?何故ただの薬師がカテリーナの代わりになれる?」
本当に分かっていないようだ。
「ただの薬師ならそうですけど…。覚えてませんか?私の事。」
「お前には会った事もないだろう?とにかく早くカテリーナを…」
「あなたが、領地追放処分になった原因の…ハルですよ。」
そう言うと、目をカッと見開いた後、一瞬にして私の目の前迄やって来て、私の首をグッと掴み
「あの時の…お前が…。そうだなぁ…カテリーナも惜しいが…お前をやった方が、私がスッキリするし、グレンの苦痛の顔も拝めるなぁ…ははははっ!」
「─ごほっ…」
急にパッと手を離されて、咳き込む。
「ふん。お望み通りお前にしてやる。これを羽織って、おとなしく付いて来い!」
「こほっ…何処…に?」
「お前を…“贄”にするんだよ。」
チラリとカテリーナ様を見遣る。私が渡したピアスの“防御”の魔法が作動しているのが分かる。恐らく、カテリーナ様は意識を戻している筈。私達が出て行った後、レオン様にこの事を伝えてくれるだろう。だから、少しでもこれから連れて行かれる場所についての情報を引き出しておきたい。
「“にえ”にする─?」
「アレを従属させるには、“贄”が要るらしい。お前一人だけで済むと良いなぁ。」
渡されたローブを羽織る。これは…魔導師のローブだ。色は違うが、これと同じ刺繍が施されたローブを、ダルシニアン様が着ていた。
ーと言う事は、今から行く所は魔導師に関係がある場所なんだろうか?ー
「これ、魔導師のローブ…ですよね?」
「ふんっ。今からは余計な事は口にせず、黙って私に付いて来い。それが守れなかったら…カテリーナも道連れだからな?」
ーこれ位の情報があれば…大丈夫かな?まぁ、いざとなれば、魔法を使おうー
そう、魔法があれば何とかなると思っていた。相変わらずイメージができない攻撃魔法は使えない。でも、防御には自信があるし、逃げようと思えばいくらでも方法があると思っていた。
連れて行かれたのは、召喚の間がある神殿だった。予想外の場所で…少し動揺して、周りが見えていなかった。そこに、もう一人男が居たようで──
カチャリッ
「えっ!?」
自分の首もとで金属音がした。
その瞬間、体が一気に重たくなった。
「…な…に…?」
指一本…動かすのも辛い程に──
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