192 / 203
第七章ー隣国ー
デレ?
しおりを挟む「エディオル、明日、あんたをウォーランド王国に還すから。」
俺が泊まっている宿に、突然現れたリュウ殿が、開口一番そう言った。
「明日?」
「そう。あの聖女様がすぐに動いてくれたみたいでね。詳しくは言えないけど、政権交代もスムーズにいきそうなんだ。後の報告は、国同士でやり取りされるだろうから、あんたはもう帰っても良いだろうと思って。」
「そうか─。なら、俺は断る理由はないから、帰らせてもらう。」
ようやく帰れるのか─と思うと、自然と口元が緩んでしまったようで─
「くくっ…良かったな?ようやく…ハルとゆっくり会えるな?」
「──お前にだけは…言われたくないが…」
と、リュウ殿を一睨みすると、「確かにね─」と、肩を竦めた。
それから、直ぐに“明日、ウォーランド王国に帰る”と手紙を飛ばしてもらい、俺も急いで帰る準備を始めた。
「それじゃあ、取り敢えず、ありがとう。また…国が落ち着いたら、ジークフラン殿下が改めてお礼をすると言っていた。俺も─その時に罪を償いに来る。」
そう言って、俺をウォーランド王国の王城近くに転移させた後、リュウ殿はすぐに隣国へと転移して行った。
“罪を償いに”─か。何となく…ハル殿が動きそうだな─と思うのは…俺だけじゃないだろうな─と思いながら、久し振りのウォーランド王国の王城に足を向けた。
「老害タヌキ達がすまなかったのう。」
帰国の報告を─と、国王陛下とランバルトが居ると言う国王陛下の執務室に向かうと、王太后様と王妃陛下も居て、何故か王太后様に謝られた。
ー“老害タヌキ”とは、よく分からないがー
「それは─王太后様と王妃陛下のせいではありませんので…。どうか頭をお上げ下さい!」
「本当に、陛下とランバルトがごめんなさいね?2人には…キッチリと言ってあるから─。」
ニッコリ笑う王太后様と王妃陛下とは対照的に、げっそり顔の国王陛下とランバルト。その2人の顔を見て、少し溜飲が下がった─のは、ここだけの秘密だ。
「それとな、ハル殿はパルヴァン預かり。聖女ミヤ様はハル殿預かりとなる。国の管理下には置かぬ。今回、阿保な提案をした老害タヌキどもは貴族院を退任し、領地へ引っ込む予定だ。もう、ハル殿─魔法使いの事で貴族院を気にする必要は無い。」
ーそうか、ハル殿はパルヴァンに…良かったー
「ふふっ。エディオルは、本当にハル様の事が好きなのね?ハル様の話が出た途端に…優しい顔になったわよ?」
と、王妃陛下に微笑まれながら指摘された。
「──失礼しました。」
「それこそ、謝る必要はなかろう。あぁ、そうじゃ。そなた、隣国での働きも大変だったであろう?こっちも、色々再教育やら世代交代やらでバタバタするであろうから、そなたは1週間から2週間程休んでおれ。その間、そこなボンクラとお馬鹿が呼び出そうとも、登城禁止じゃ。良いな?」
ーボンクラとお馬鹿?ー
チラリと国王陛下とランバルトを見遣ると…げんなり顔のまま、2人が頷いた。
「あーエディオル。おかえり。無事に帰って来てくれて良かった。それで…ハル殿は、今も王都のパルヴァン邸に居るそうだ。」
少し気まずそうに話すランバルト。それにコクリと頷き、隣国についての話しと、ジークフラン殿から預かった親書を渡してから王城を後にした。
「エディ、おかえり。」
「エディ、おかえりなさい。」
王城を出た後、俺はカルザイン邸へと帰って来た。
「父上、母上、只今戻りました。」
丁度、父も休みだったようで、2人揃って出迎えてくれた。
「色々話もあるだろうけど、取り敢えずは食事を用意してあるから、先にゆっくり食べなさい。」
「父上、ありがとうございます。話したい事があるので、食後に時間をもらえますか?」
「分かった。食後に、サロンででも話を聞こう。」
と、父との話の時間を確保した。
食後、サロンに行くと、既にお茶が用意されてあり、父と母が待っていてくれた。
「一体話とは…と言っても、何となく分かっているけどね。」
と、俺が椅子に座るなり、父が苦笑しながら口を開いた。
「だったら…話が早くて助かります。俺は─もう、今回の様な思いをするのは…嫌なんです。それに…俺は、彼女じゃなければ…嫌なんです。彼女以外は…要らない。」
「エディ、あなたの気持ちは分かったけど、彼女はどうなの?無理強い…なんてしていないでしょうね?」
いつも我が子一番の母が、珍しくハル殿の事を気に掛ける。
「…無理強いは……してません。」
「…エディ?その間は何なの?あなた、まさか─」
母が珍しく顔色を悪くし、纏う雰囲気がピリッとなる。
「ルーチェ、少し落ち着こうか?」
すると、父が母の背中を撫でながら母を落ち着かせる。
ーこんな母は初めて見るなー
と不思議に思っていると
「ルーチェ─お母さんが元女騎士だったと知っているだろう?お母さんにとって、パルヴァンの三強は、尊敬する騎士なんだ。それで、ハル殿はその三強が可愛がる娘であり、グレン殿とゼン殿の命の恩人だから…。どうやら、可愛い可愛い息子のエディより、ハル殿の方が…少し優先順位が上になるようだよ?」
「─あぁ…成る程…」
ーハル殿に、また保護者が増えたなー
「エディ、誤解しないでよ?私にとってエディも大切な息子に変わり無いのよ?ただ─本当に無理強いはしていないのね!?」
「───はい。」
「だから!その間は何なの!?」
「ルーチェ、落ち着いて?エディは無理強いはしていないよ。ただ、彼女が気付かないように外堀をガッツリ埋めて、今、彼女本人だけがエディの気持ちに気付いてないから、エディが必死になって彼女を攻めまくってるだけだから。彼女にとっては、無理強いにはなっていないんだ。」
「───え?」
父が無意識に、軽く俺の心を抉って来る。
「………」
「─エディ?泣いて良いのよ?」
「泣きませんよ!それに─それが、ハル殿の可愛いところなんです。」
「─やだっ!ルイス、聞いた!?エディが可愛い!」
「ルーチェ、落ち着いて?それで?エディが話したい事とは、グレン殿に婚約の申し入れをして欲しい─とかかい?」
はしゃぐ母とは対照的に、父は落ち着いている。
「いえ、逆です。俺の気持ちは、既にグレン様もシルヴィア様も知っています。後は─俺とハル殿次第なんです。俺は、ハル殿の気持ちが俺にしっかり向いてから、俺から、俺の気持ちを伝えたいと思ってるんです。だから、父上と母上には、黙って…見守っていて欲しいんです。ただ、一つだけお願いがあって─」
「あぁ、エディに来る釣書の事かな?」
「─そうです。それらは…今迄通り突っぱねて下さい。」
「分かった。それに関しては問題ないよ。ハル殿には、最強の布陣の保護者達が沢山居るからね?何があっても、相手が誰でも─簡単に一蹴できるからね?」
と、父はニッコリ笑った。
“最強の布陣の保護者達”
確かに。最強メンバー揃い踏みだな─
「本当に、エディが可愛いわー」
「ルーチェも可愛いよ?」
183
あなたにおすすめの小説
水魔法しか使えない私と婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた前世の知識をこれから使います
黒木 楓
恋愛
伯爵令嬢のリリカは、婚約者である侯爵令息ラルフに「水魔法しか使えないお前との婚約を破棄する」と言われてしまう。
異世界に転生したリリカは前世の知識があり、それにより普通とは違う水魔法が使える。
そのことは婚約前に話していたけど、ラルフは隠すよう命令していた。
「立場が下のお前が、俺よりも優秀であるわけがない。普通の水魔法だけ使っていろ」
そう言われ続けてきたけど、これから命令を聞く必要もない。
「婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた力をこれから使います」
飲んだ人を強くしたり回復する聖水を作ることができるけど、命令により家族以外は誰も知らない。
これは前世の知識がある私だけが出せる特殊な水で、婚約破棄された後は何も気にせず使えそうだ。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
藍生蕗
恋愛
子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。
しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。
いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。
※ 本編は4万字くらいのお話です
※ 他のサイトでも公開してます
※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。
※ ご都合主義
※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!)
※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。
→同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる