異世界で守護竜になりました

みん

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23 マシロだけ

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「そろそろ、交流会を開いても良いかもしれませんね」
「そう言えば、バージルさんにも言われてたっけ」

それは、文字通り、守護竜わたしと貴族との交流を図るパーティーの事だ。守護竜が貴族に対して忖度する事はないけど、貴族にはそれぞれに保有する領地があり、交流を深める事で色々と役に立つ事があるから、全く交流をしない訳にはいかない。私は100年ぶりの新人守護竜だから、落ち着いたら交流会を開いた方が良いと、バージルさんから言われていた。西領の貴族に、私の顔を覚えてもらう為にも。

その交流会は、この浮島の西の離宮ではなく、街の外れにある“西の宮殿”で執り行われる。簡単に言うと、離宮は守護竜わたしのプライベートな邸で、宮殿は職場と言ったところだ。だから、離宮には本当に限られた人達しか来る事ができないのだ。

「マシロ様の許可が出れば、執務の状況に応じて都合の良い日程で執り行う準備を始めます。準備は私達でするので、マシロ様には、貴族名鑑や、マナーの再確認をしてもらう事になります」
「マナー……」

貴族名鑑は、ある程度自信はある。もともと、記憶力が良かったし、守護竜になってからは、更に記憶力が良くなった気がする。ただ、マナーに関しては、頭では分かっていても体が追いつかなかったりする。カーテシーなんて、上手くできた事が無い。

『守護竜がカーテシーをする相手は竜王だけだし、マシロがバージルにする必要は無いから、できなくても問題無いわ』
『ローゼ……』

なんて事をローゼさんが言っていた。バージルさんは苦笑していたけど。兎に角、この交流会でも、私がカーテシーをする相手は居ないから大丈夫だろう。ただ、気になる事があるとすれば───

「問題はジャスミーヌ=ハイエット公爵だな」
「ハイエット公爵ですか?」
「だよね………」

眉間に皺を寄せたカイルスさんに、小首を傾げるキースと、ため息を吐く私。

「ああ、確か、ハイエット公爵は白竜だったね」

アルマンさんは、ジャスミーヌさんとカイルスさんとの関係は知らないようだ。

「白竜……と言うと、マシロ様にチクチク言っている貴族達が持ち上げている白竜と言う事ですか?」
「そうだね」

キースの纏う空気がピリッと張り詰めた。
キースが怒るのも無理はない。側衛が主である守護竜を間違える事など有り得ないから。どれだけ同じ色の竜が居たとしても、側衛は主にしか心を動かされることが無いから。

ジャスミーヌ=ハイエットは、白竜で竜力もそれなりのもので、『側衛がまだ目覚めていないだけで、彼女こそが守護竜なのだ』と、彼女を持ち上げていた貴族がそれなりに居たそうだ。そんな中で現れたのが、まだまだ竜力が不安定な子竜の私。空を飛ぶのもやっとだった私を見て、不信を持った貴族が居たとしてもおかしくはない。かもしれないけど、嘘で守護竜になれる事は無く、側衛に選ばれなければ守護竜にはなれないのだから、私は正式な守護竜で間違いない。その事をちゃんと理解している貴族は、私の事を喜んで受け入れてくれている。それでも、今でも反感している貴族も居るそうだ。
それに、ジャスミーヌさんには、違う意味でも私の事を良く思う事はないだろう。

「後で、マイラとイネスとジュストを呼んでから、話しておきたい事がある」

と言ったのはカイルスさん。ジャスミーヌさんとの事を話すつもりなんだろう。報連相ほうれんそうは大事だけど、カイルスさんは大丈夫なのか?

「もともと隠していた訳ではないし、俺が悪い事をした訳でもないから。マシロにとっての不安要素になるなら、皆で情報を共有しておいた方が良い」


そうして、マイラさんとイネスとジュストを呼んでから、カイルスさんは、ジャスミーヌさんとの話をした。

「この事を、ユマ様には?」
「今はまだ言ってないの。ジャスミーヌさんが、どう出て来るか分からないうちは、黙ってた方が良いかな?と思って」

お母さんはお母さんで、聖女として毎日が忙しそうで、まだどうなるか分からない事で、心配を掛けるような事はしたくない。特に、ベレニスさんとの事があったから、恋愛事に関しては敏感になっているだろうから。

「私、女運悪いのかなぁ?」
「男運が良ければ問題無いだろう?俺はマシロだけだから」
「ふぁっ!?」

こんな時にこんな所で爆弾投下は止めて欲しい!のまえに──

「ま……茉白……って………え!?」

いやいや、落ち着こう。唯一の主と言う事かもしれない。そうだ。きっとそ───

「“唯一の主”と言う意味ではないからな?俺が可愛い…愛しいと思うのが、トリイ=マシロだけだと言う事だからな?そろそろ、素直に受け留めた方が良い」
「へぁっ!?」

そんな……甘い事を……人が居る前で───

「あれ?何でキース達が居ないの?」

気が付けば、部屋には私とカイルスさんの2人だけになっていた。


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