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26 畑中芽依
「マシロ様とカイルス様の婚約が進められるそうだ」
そう言って、嬉しそうに笑っているのはリシャール。彼は今、私─畑中芽依─と一緒に、プチトマトを収穫している。見た目キラキラ王子様の顔には土がついていて、家庭菜園との絵面の違和感が半端無い。それでも、リシャール本人は何とも思っていないし、いつも嫌な顔をする事もなく私に付き合ってくれる優しい人だ。
ーまさか、私がこんな日々を送る日が来るなんてー
私は日本人で、少し裕福な家庭に生まれた。
両親は小さい会社の経営者で、私は何不自由無い生活を送っていた。ただ、両親は良い意味でも悪い意味でも放任主義だった。嫌われていた訳じゃない。でも、愛情はあったのか?と訊かれたら、それは今となっては分からない。
鳥井由茉さん
名前は知らなかったし、言葉を交わした事もなかったけど、通学のバスでよく見掛ける人だった。
あの日も同じバスに乗っていた。今でもハッキリと覚えている。バスが大きく傾いて、体が真横に倒れてガラスに打ち付けられて───
気が付けば、何処だか分からない森の中だった。しかも、体に痛みどころか怪我すらなかった。あの事故は夢だったのか?とホッとしたのも束の間で、いきなり知らない男の人に腕を掴まれて首輪を嵌められて──
話す事が出来なくなって、周りの人達が何を話しているのかも全く分からなかった。食事は硬いパンと冷たいスープが1日に1回。
移動しては野宿を繰り返し、何か気に食わない事があると鞭で打たれる事もあった。
私と同じように首輪を着けられた人が何人か居たけど、特に男の人への暴力は更に酷いものだった。
そして、この西領にやって来た時、同じ首輪を嵌められた男の人達の助けもあって、私は逃げる事に成功した。そして、運良くキースさんやアルマンさんに助けてもらう事ができた。ただ、何処を見てもここが何処の国なのか分からず、目にした事の無い色が溢れていて、私はそれがとても恐ろしかった。だから、久し振りに黒色のカイルスさんを目にした時は、思わず抱きついた。
その次に目にした茉白さんにも抱きついた。しかも、久し振りの日本語だった。そこで、緊張の糸が切れたのか、私は声を上げて大泣きした。今となっては恥ずかしい限りだけど、あの時の茉白さんの優しさと温もりは忘れない。
私を保護してくれた茉白さん。私を見守ってくれる由茉さんとレナルドさん。レナルドさんは、私が還れる方法を探してくれている。そのレナルドさんは、今では私の父親だ。由茉さんとは良い雰囲気だけと、お互い気付いていないのか、何とも焦れったい関係を維持している。
日本に還れる可能性は低いから、今後の為にもと、この世界でのマナーや語学を勉強させてもらっている。
それが少し慣れて来た頃に、以前から興味のあった家庭菜園をさせてもらえる事になって、それを手伝ってくれると言う事で、その時初めてリシャールに会った。
「リシャールです。家庭菜園のお手伝いに来ました」
金髪に青色の瞳をした、絵本に出て来るような王子様。なのに、なんとなくその瞳には影が落ちていた。
“救国の聖女に手を出した犯罪者の子”
“守護竜に手を出した犯罪者の子”
それが、リシャールに向けられたモノだった。
西の離宮で働く人達は、リシャールにも普通に接しているし、茉白さんも由茉さんもリシャールの事を大切にしているのに、全く関係の無い人達がリシャールに憎悪を向けていた。
「犯罪者の子に売るものは無い」
「犯罪者の子のくせに、のうのうと生きているとは…」
そんな事を言って来る人達にも、リシャールは何も言い返さず黙っている。“堪えている”のではなく、“諦めている”と言った方が正しいのかもしれない。
「どうして、親の犯した罪を、何もしていない子が償わないといけないの?」
それに、その両親は、処罰を受けて幽閉されていると聞いた。なら、それ以上何をしろと言うのか?
「それに、リシャールの事をよく知りもしないくせに!いい大人が偏見だけで攻撃するなんて、恥ずかしくないんですか!?」
「何を生意気な事を!私は男爵だぞ!犯罪者と平民のくせに───」
「男爵がどうしたって?」
「由茉さん!?」
「ユマ様!?」
「リシャール、芽依ちゃん、大丈夫?」
リシャールは困ったような顔で頷く。
男爵とやらは焦った顔をしていて、由茉さんはそんな男爵に対してより一層笑みを深めた。
「罪を犯したのはリシャールじゃなくて、ベレニスとイーデンよ。この子には何の罪も無いわ。それに、被害者の私が受け入れているのに、貴方は何の権利があってリシャールを罰しようとしているの?私が、それを貴方にお願いでもした?してないわよね?なら、それこそが、罪ではないの?」
「………」
男爵が何かを言う事は無い。
「またリシャールを犯罪者扱いするようなら、正式に男爵家に抗議文を送らせてもらうわ。守護竜と、処罰を下した竜王陛下の許可を得て」
「も……申し訳ありませんでした!」
と、その男爵は必死の形相で謝った後、急いでその場から去って行った。
その時のリシャールは、泣くのを堪えているような……でも嬉しい気持ちを隠し切れていないような、何とも言い難い顔をしていた。
その日以降、リシャールは私にも心を開いてくれたようで、笑顔を向けてくれる事が増えた。そうすると、私も単純で、リシャールの事が好きになっていった。
執務の合間に、一緒に家庭菜園をしたりお茶をしたり、とても穏やかで幸せな日々を送れるようになった。そんな時に、茉白さんとカイルスさんの婚約話。リシャールは、本当に嬉しそうだ。
「マシロ様とユマ様には、幸せになって欲しいから」
「うん。私もそう思ってる」
茉白さんと由茉さんには、本当に感謝している。本当の家族が恋しいのは本当だけど、この世界での暮らしも嫌いではなく、寧ろここでの暮らしの方が幸せを感じている。それも、茉白さんと由茉さんのお陰だと思っている。
「でも、私は、リシャールにも幸せになって欲しいと思ってる。それで……そのリシャールの幸せに、私も一緒になれたらなぁ……なんて思ってる」
「メイ………私の両親は犯罪者だし、私と一緒に居れば、嫌な事もあると思う。そんな私でも…これからも一緒に居てくれる?」
「勿論!私は、リシャールと一緒が良い!」
「ありがとう……メイ」
茉白さんの婚約の話が進む中、私とリシャールの事を報告すると、茉白さんも由茉さんも喜んでくれた。
「嫁にいく?少し……早過ぎないか?」
と、レナルドが呟くと、由茉さんがお父さんの背中を笑いながら撫でていた。
「後は、お母さんとレナルドさんが……したら、私が………えさんだ」
「?」
茉白さんは何かを呟きながら笑っていた。
そう言って、嬉しそうに笑っているのはリシャール。彼は今、私─畑中芽依─と一緒に、プチトマトを収穫している。見た目キラキラ王子様の顔には土がついていて、家庭菜園との絵面の違和感が半端無い。それでも、リシャール本人は何とも思っていないし、いつも嫌な顔をする事もなく私に付き合ってくれる優しい人だ。
ーまさか、私がこんな日々を送る日が来るなんてー
私は日本人で、少し裕福な家庭に生まれた。
両親は小さい会社の経営者で、私は何不自由無い生活を送っていた。ただ、両親は良い意味でも悪い意味でも放任主義だった。嫌われていた訳じゃない。でも、愛情はあったのか?と訊かれたら、それは今となっては分からない。
鳥井由茉さん
名前は知らなかったし、言葉を交わした事もなかったけど、通学のバスでよく見掛ける人だった。
あの日も同じバスに乗っていた。今でもハッキリと覚えている。バスが大きく傾いて、体が真横に倒れてガラスに打ち付けられて───
気が付けば、何処だか分からない森の中だった。しかも、体に痛みどころか怪我すらなかった。あの事故は夢だったのか?とホッとしたのも束の間で、いきなり知らない男の人に腕を掴まれて首輪を嵌められて──
話す事が出来なくなって、周りの人達が何を話しているのかも全く分からなかった。食事は硬いパンと冷たいスープが1日に1回。
移動しては野宿を繰り返し、何か気に食わない事があると鞭で打たれる事もあった。
私と同じように首輪を着けられた人が何人か居たけど、特に男の人への暴力は更に酷いものだった。
そして、この西領にやって来た時、同じ首輪を嵌められた男の人達の助けもあって、私は逃げる事に成功した。そして、運良くキースさんやアルマンさんに助けてもらう事ができた。ただ、何処を見てもここが何処の国なのか分からず、目にした事の無い色が溢れていて、私はそれがとても恐ろしかった。だから、久し振りに黒色のカイルスさんを目にした時は、思わず抱きついた。
その次に目にした茉白さんにも抱きついた。しかも、久し振りの日本語だった。そこで、緊張の糸が切れたのか、私は声を上げて大泣きした。今となっては恥ずかしい限りだけど、あの時の茉白さんの優しさと温もりは忘れない。
私を保護してくれた茉白さん。私を見守ってくれる由茉さんとレナルドさん。レナルドさんは、私が還れる方法を探してくれている。そのレナルドさんは、今では私の父親だ。由茉さんとは良い雰囲気だけと、お互い気付いていないのか、何とも焦れったい関係を維持している。
日本に還れる可能性は低いから、今後の為にもと、この世界でのマナーや語学を勉強させてもらっている。
それが少し慣れて来た頃に、以前から興味のあった家庭菜園をさせてもらえる事になって、それを手伝ってくれると言う事で、その時初めてリシャールに会った。
「リシャールです。家庭菜園のお手伝いに来ました」
金髪に青色の瞳をした、絵本に出て来るような王子様。なのに、なんとなくその瞳には影が落ちていた。
“救国の聖女に手を出した犯罪者の子”
“守護竜に手を出した犯罪者の子”
それが、リシャールに向けられたモノだった。
西の離宮で働く人達は、リシャールにも普通に接しているし、茉白さんも由茉さんもリシャールの事を大切にしているのに、全く関係の無い人達がリシャールに憎悪を向けていた。
「犯罪者の子に売るものは無い」
「犯罪者の子のくせに、のうのうと生きているとは…」
そんな事を言って来る人達にも、リシャールは何も言い返さず黙っている。“堪えている”のではなく、“諦めている”と言った方が正しいのかもしれない。
「どうして、親の犯した罪を、何もしていない子が償わないといけないの?」
それに、その両親は、処罰を受けて幽閉されていると聞いた。なら、それ以上何をしろと言うのか?
「それに、リシャールの事をよく知りもしないくせに!いい大人が偏見だけで攻撃するなんて、恥ずかしくないんですか!?」
「何を生意気な事を!私は男爵だぞ!犯罪者と平民のくせに───」
「男爵がどうしたって?」
「由茉さん!?」
「ユマ様!?」
「リシャール、芽依ちゃん、大丈夫?」
リシャールは困ったような顔で頷く。
男爵とやらは焦った顔をしていて、由茉さんはそんな男爵に対してより一層笑みを深めた。
「罪を犯したのはリシャールじゃなくて、ベレニスとイーデンよ。この子には何の罪も無いわ。それに、被害者の私が受け入れているのに、貴方は何の権利があってリシャールを罰しようとしているの?私が、それを貴方にお願いでもした?してないわよね?なら、それこそが、罪ではないの?」
「………」
男爵が何かを言う事は無い。
「またリシャールを犯罪者扱いするようなら、正式に男爵家に抗議文を送らせてもらうわ。守護竜と、処罰を下した竜王陛下の許可を得て」
「も……申し訳ありませんでした!」
と、その男爵は必死の形相で謝った後、急いでその場から去って行った。
その時のリシャールは、泣くのを堪えているような……でも嬉しい気持ちを隠し切れていないような、何とも言い難い顔をしていた。
その日以降、リシャールは私にも心を開いてくれたようで、笑顔を向けてくれる事が増えた。そうすると、私も単純で、リシャールの事が好きになっていった。
執務の合間に、一緒に家庭菜園をしたりお茶をしたり、とても穏やかで幸せな日々を送れるようになった。そんな時に、茉白さんとカイルスさんの婚約話。リシャールは、本当に嬉しそうだ。
「マシロ様とユマ様には、幸せになって欲しいから」
「うん。私もそう思ってる」
茉白さんと由茉さんには、本当に感謝している。本当の家族が恋しいのは本当だけど、この世界での暮らしも嫌いではなく、寧ろここでの暮らしの方が幸せを感じている。それも、茉白さんと由茉さんのお陰だと思っている。
「でも、私は、リシャールにも幸せになって欲しいと思ってる。それで……そのリシャールの幸せに、私も一緒になれたらなぁ……なんて思ってる」
「メイ………私の両親は犯罪者だし、私と一緒に居れば、嫌な事もあると思う。そんな私でも…これからも一緒に居てくれる?」
「勿論!私は、リシャールと一緒が良い!」
「ありがとう……メイ」
茉白さんの婚約の話が進む中、私とリシャールの事を報告すると、茉白さんも由茉さんも喜んでくれた。
「嫁にいく?少し……早過ぎないか?」
と、レナルドが呟くと、由茉さんがお父さんの背中を笑いながら撫でていた。
「後は、お母さんとレナルドさんが……したら、私が………えさんだ」
「?」
茉白さんは何かを呟きながら笑っていた。
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