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10 ブルーナ=イーレン

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『グルルルル──』

シルヴィは、お姉様の言葉を理解していないのか、未だに敵意を剥き出しにしている。

「ふん…私の言葉が理解できないぐらいの……大した事ないレベルの魔獣なのね?ふふっ。飼い主に似て、無能で役立たずね…お似合いだわ。」

パチン─と、お姉様が右手を鳴らせば、小さな光の輪が現れ、その光の輪がシルヴィの首に嵌められた。すると、シルヴィはそのままその場に力が抜けたかのように体を傾けた。

「何……を………」

「“魔力封じの枷”を、少ししたモノよ。本来であれば、魔力が枯渇する迄奪い取るモノだけど、これは最低限の魔力を残して……ギリギリ生かす為の枷よ。こんな魔獣でも、私の可愛い妹のお友達なら…殺す訳にはいかないでしょう?私って……優しいでしょう?」

「────っ」
『…………』

ーシルヴィ……ごめんなさい……ー

日本では、いつも側に居てくれて私を助けてくれたのに……私は、シルヴィを助けてあげる事ができない。
この魔法使いであるお姉様の前で……意識を保っているだけで……精一杯だ。

「ねぇ……ブルーナ……どうして逃げたの?この国の王族として生まれながら、何の能力も持たないお前を……育ててあげていたのに、王族としの責務も果たさずに逃げ出して、恥ずかしくないの?」

“王族としての責務”

私の事を、王族─王女として扱った事などなかったのに。王城の離宮に閉じ込められて……まともな教育すら受けていない。その日その日で食べる事にも苦労して……魔力を持たない私で……魔法の実験相手をさせられる事も…あった。10歳にも満たない私に───。お姉様付きの騎士達も、そんな私達の様子を嗤うように見ていた。

ー騎士とは、弱者を護る者ではなかったのかー

幼いながらも、助けを求めた手は………振り払われた。その時の騎士の顔は、今でもハッキリと覚えている。そう─その時の騎士は、今でも……お姉様の後ろに控えている、あの騎士だ。きっと、あの騎士が私やシルヴィを助けてくれる事は無い。もう、騎士には期待なんてしない。誰も、魔法使いお姉様には敵わない。魔力の強いお父様でさえ、お姉様の魔法には敵わないだろう。

それでも、そんな中でも、私を護ってくれた人も居た。

“ヒューゴ=イーレン”

イーレン王国の王太子である、私のお兄様。
お兄様だけは、私を妹として見てくれた。魔法使いのお姉様には敵わないけど、それなりの魔力持ちだ。

「15年もの間王族としての義務を放棄していたのだから、それ相応のは…受けないとね?」
「────っ!」

お仕置き──

ーそうか……また……に…戻るのか……ー

日本で温かな両親と出会って…温かな生活を送っていたから忘れていた。
お姉様がスッと手を上げた時─


「ニコル!その手を下ろすんだ!」
「───ちっ……」

お姉様は、忌々しいと言う様な顔をして舌打ちをした後、その手を下ろした。

「───ブルーナ……」
「お兄……さま……」

お姉様の横を素通りして私の元へとやって来たお兄様は、膝をついて私の体を優しく抱き締めてくれた。

「ブルーナ……元気そうで…良かった……」
「………」

お兄様は相変わらず優しくて温かい。
無能な私を、唯一“妹だ”─と、私に手を差し伸べて助けてくれた。お兄様が居たから、私は何とか生きてこれていたのだ。でも──

ー私はこれから……どうなるの?ー

これからの不安のせいか、お兄様の温もりで安心したせいか……そこで私の意識は途絶えた。













『──吉岡さんと過ごしたこの1ヶ月の事を忘れたくないし、俺の事を忘れて欲しくないなと思って…。』



ーセオ君ー




『翠ちゃん!セオ君から貰ったネックレスは、絶対に…肌身離さず持っててね!絶対!失くしたり、誰かにあげたりしないでね!きっと、護ってくれるから!』


ー小南さんー












「本当に……還って来たんだ………」

目が覚めたら全てが夢で……独り暮らしにしては無駄に広いマンションの寝室で目が覚めて、朝食にトーストを食べて、歩いて大学に行って───いつもの生活が始まると思っていた。

ーどうして?ー

私は要らないから…異世界である日本に送られたのではなかったのか…。
何故、“無能”と言うなら……私を召還したのか…。



「お目覚めになりましたか?」
「っ!?」

いつの間にやって来たのか……この寝室の入り口の扉の前に………フライアが居た。

「フライア………」
「私の事を…覚えておいででしたか……」

忘れる訳がない。

フライア=ヨルン──子爵家の次女で……お姉様であるニコル第一王女の専属侍女。誰よりも、お姉様を崇拝レベルで慕っている侍女だ。お姉様の命令は絶対遂行する。フライアの用意する食事は…本当に酷い物だった。具のない冷たいスープはまだマシで、肉料理は生だったり焦げていたり…パンは硬かったりしょっぱ過ぎて食べれなかったり…1日1食は当たり前で、その1食の食事がソレだったから、私は……10歳には見えない体格となっていたのだ。









❋エールを頂き、ありがとうございます❋
(♡︎´꒳`*)(*´꒳`♡︎)




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