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44 最後の夜②

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「ニコル様が牢から脱走しました!」

どうやら、穏やかな時間は終わりのようだ。

「はぁ────ニコルは……本当に…最後の最後迄馬鹿だったな……。」

魔法使いニコルが脱走した─にも関わらず、お兄様は焦る事も驚いた様子も無い。想定内の出来事だと言う事だろうか?

ーあ、そう言えば…ー

リュウさんが、ニコルに嵌められた枷に掛けた魔法は、体内に流れている魔力の流れを止める魔法で、それでも、魔法を使おうとすれば、その魔力は“魔力封じの枷”と同じ様に、その魔力を全て吸収してしまうと言うモノだったっけ?魔力持ちが、全ての魔力を失うと死に至ってしまうから、流石のニコルも魔法を使ってどうこうする事は無い─と思っていたけど…。

ーニコルは、そこまでの……馬鹿だったと言う事だろうか?ー

それに、リュウさんに至っては、寧ろ、悪足掻きして魔法を使って自滅すれば良い─と言わんばかりの顔をしていたよね。

ーあぁ、そうかー

ソレを……望んでいるのか。

きっと、ニコルが魔法を使っても、死んでしまうまで魔力が吸収される事はないだろうけど、もう、魔法使いとしてだけではなく、魔道士とも呼べない程の魔力に、ニコルを崇拝、支持している魔道士や貴族の力を削ぐつもりなんだ。
それに、魔法使いでなくなれば、イーレンではお兄様が一番の魔力持ちになる。しかも、お兄様の後ろにはリュウさんやミヤ様が居ると分かれば……後は、お父様を、お兄様が即位するだけだ。

「でも…無効化の魔法が掛かった牢から、どうやって脱走したのかなぁ?」
「多分、聖女のナギサだね。」
「え?清水さん?」
「正確に言えば、ナギサは知らないまま利用されただけなんだろうけどね。」


『明日、元の世界に戻る前に、私を召喚したニコルに会いたいんですけど……』

清水さんはそう言って、今日の午前中にニコルとの面会の許可を得ていたそうだ。清水さんにはもう殆ど魔力は残っていない上、牢には無効化の魔法が掛けられている為、面会の許可を与えて面会させる事にした─結果が、ニコルの脱走だった。

「おそらく、ナギサを使って何らかの魔道具をニコルに渡して、ニコルを脱走させたんだろうね。」
「脱走して…どうするつもりなのかなぁ?枷がある限り、魔法を使えても自分の命を削るようなものなのに……。」
「“私は魔法使い大丈夫”と言う過信があるんだろうね。そして、アレは単純馬鹿だから、必ず──ここに来るだろうね。」

お兄様がニヤリ─と嗤ったのと同時にバンッ─と、部屋の扉が大きな音を立てて開かれた。

「ニコル!」

現れた人物の名前を呼びながら、お兄様と私を庇うように立ち塞がったのは、お兄様の側近の1人で魔道士のカーシー。

「カーシー…そこを退きなさい。私は…お兄様に用があるの。」
「ニコル、私はもうお前の兄ではないよ。お前は既に王族籍から抜けているから。」
「……なら……お兄様──ヒューゴを倒して、私が王位に就けば良いのよ。」

ニコルは、本当に分かっていないんだろうか?枷を嵌めたまま魔法を使えば、自分がどうなるのか。
お兄様は冷静な上、ニコルを煽っている。魔法を使わせようとしている。ここでニコルが魔法を使えば、ニコルは完全に……アウトだ。

「枷を嵌められているのに、魔法が使えると思ってるのかい?」
「ふんっ。これ位の枷なんて、魔法使いの私にはどうって事ないわ。」

そう言うと、ニコルは魔法を発動させる為か、右手を振り上げた。

「───え?」

でも、ニコルの手から、魔法が発動する事はなかった。魔法が発動する気配は全くないのに、ニコルはフルフルと震えながらその場に崩れ落ちた。


「本当に……お前は本物の馬鹿だったな。それとも……俺の事、舐めてたのか?」
「え?」

どこから現れたのか、声がした方へと視線を向けると、そこにはリュウさんとハルさんが居た。
リュウさんはそのままニコルの前迄歩み寄り、ハルさんはお兄様の少し前に立っている。

「ちゃんと、お前にも説明したな?その枷は、魔法を使おうとすれば、その魔力を吸い取ると。魔力を多く有する魔法使いが、魔力が吸い取られるとどうなるのか……分からなかったのか?それとも、俺の魔法に、勝てると思ったのか?」
「…………」

ニコルの顔色は真っ青だ。フルフルと震えるだけで、言葉を発する気配がない。否。話す事が出来ない程、魔力が失われているのだ。

「安心しろ。魔力が枯渇する迄吸い取るモノではないから、死ぬ事はない。死ぬ事は無いが……魔力が戻る事も無い。二度と……。」
「──っ!?」

魔力が戻らない─と言う事は、ニコルは、もうこれから先ずっと、この状態のままだ─と言う事だ。

「魔法使いでありながら、イーレンレベルの魔道士よりも遥かに劣る魔力の魔法使いであり………寝たきりの元王女様になるだけだ。まるで……お前が馬鹿にして虐げ続けた第二王女のようだな?」

ニッコリ微笑むリュウさんは、どこまでも黒いものだった。








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