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47 過去の真実
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「私は……恨まれて当然だった…………エリナ」
「───っ!」
ガタンッ─
思わずソファーから立ち上がると、音は聞こえてはいないだろうけど、私の動きに部屋の中に居た護衛2人が反応した。すると、すかさず、王太子様はその護衛2人の動きを止めるように手を上げた。
「「……………」」
片手を上げたまま座っている王太子様と、立ち上がったままの私と、暫く無言で視線を合わせた後、私はもう一度ソファーに腰を下ろした。
「座ってくれて…ありがとう」
私が座り、王太子様が手を下げると、護衛2人もまた、元の位置へと戻った。
「……いつから………エリナだと?」
「いつから……か……」
王太子様は、軽く息を吐いてから、ゆっくりと話し始めた。
******
アーティーの記憶がよみがえったのは、リュシエンヌ=クレイオンを初めて見た時だった。
「エリナ………」
それは、クレイオン侯爵が、彼女を連れて登城した時に偶然見掛けた時だった。見た目は全く違うのに、彼女がエリナだと分かった。皮肉な事に、今世では私は人で彼女が獣人だった。
ー今の彼女に、前世の記憶が無ければ良いが…ー
その時、私はそれだけを思い願った。
もし記憶があれば、それは獣人として生きて行く上で、枷にしかならないだろうと思ったからだ。
それから、2度目に彼女を目にしたのは、アラスターと街にお忍びで遊びに出掛けた時だった。私が15歳でアラスターが11歳で彼女が9歳。まだ幼さの残る彼女だったが、騎士としては既に頭角を現していた。そんな彼女が、とある令嬢を助けた姿を偶然目にしたのだ。
その時の凛とした姿は、9歳とは思えない程だった。その後、獣化した彼女の姿は、綺麗としか言えない姿だった。月の光を受けて輝く姿は、今でもしっかりと覚えている。
あの、触れれば折れてしまいそうな儚いエリナではなく、芯を持った強い瞳で、しっかりと自分の足で立っている姿は、もう、かつてのエリナではないのだと。彼女はリュシエンヌ=クレイオン侯爵令嬢なのだと。
「その時、ようやく、エリナとクレイオン嬢が別人なんだと素直に受け入れる事ができたんだ。だから、それ以降はクレイオン嬢とは、できるだけ関わらないように─と思っていたんだけど…まぁ…私の口からは言いにくい事もあるが…聖女の事やらで関わらざるを得なくなってしまって………」
「そうですか…それで…ケイトさんは……」
「ケイトは…ケイトが、私─アーティーの元婚約者だった事は説明していたと思う。そのケイト自身が、番のエリナ付きの侍女になって手助けしたいと言ってくれて、私はそれを信じて、ケイトにエリナを任せたんだが…」
それからの話は、本当に驚いた。
ケイト=フローラント
猫の獣人で、アーティー様の元婚約者だった彼女は、エリナに良くしてくれた侍女だった。人間だからと虐げられていた中、唯一私に普通に接してくれる獣人だった。
それが、私を虐げでいた中心人物だったとは──
それなら、あの薔薇の花の贈り物も納得だ。
『真っ赤な薔薇は綺麗ですよね。私も大好きな花なんです』
と、毎朝薔薇の花束を嬉しそうに持って来ていたケイトさん。アーティー様に、私の好きな花は薔薇だと言っていたのだろう。
人間であるエリナ様が怖がらないように距離を置いた方が良い
食事は1人でゆっくり食べたい
夜は1人でなければ眠れない
アーティー様は、ケイトさんからのそれらの言葉を、全て鵜呑みにしていたのだ。
「本当に…アラールの事は言えない様だろう?」
ははっ─と、王太子様は顔を歪ませて自虐的に笑う。
「そんな事とは知らずに、ずっとケイトを信じて…私は護らなければいけなかったエリナを…殺してしまったんだ。それも、ポレットに言われる迄全く気付かなかったんだ」
「ポレット………」
そう。私の味方はポレットだけだった。
「ポレットは……私が死んだ後は……」
「ポレットは、『ここには私の家族は居ない』と言って、喪が明けるとすぐに家を出て行ってしまったんだ。それから何年かした後一度だけ手紙が届いてね。他国ではあるけど、恋愛して結婚して子供も生まれて幸せだと書いてあった」
「良かった……」
いつも人間のエリナに寄り添ってくれていたポレット。私が死んだ後、酷い扱いをされなかったか気になっていたけど…色々大変だったかもしれないけど、幸せだったのなら良かった。
「ユベールは………」
「…………」
自分の本当の母親への仕打ちを知った上司である騎士団長から、騎士道に反する行いだ─として、除籍処分を喰らった後、公爵邸で使用人として働き続けた。ただ、そのユベールもまた──
『可哀想なユベール様。母親が人間だと言うだけで、立派な公爵にも騎士にもなれないなんて…私が母親なら、誰にも文句を言わせる事なく、全てを手に入れられたのに…』
と、ケイトさんから言われ続けていたそうだ。
「だが、それもまた、ケイトとユベールだけが悪いのではなく、私がエリナと距離を置いて話をしなかったから…エリナを知ろうとしなかった私が悪かったんだ」
「………」
ー本当に…その通りだー
「───っ!」
ガタンッ─
思わずソファーから立ち上がると、音は聞こえてはいないだろうけど、私の動きに部屋の中に居た護衛2人が反応した。すると、すかさず、王太子様はその護衛2人の動きを止めるように手を上げた。
「「……………」」
片手を上げたまま座っている王太子様と、立ち上がったままの私と、暫く無言で視線を合わせた後、私はもう一度ソファーに腰を下ろした。
「座ってくれて…ありがとう」
私が座り、王太子様が手を下げると、護衛2人もまた、元の位置へと戻った。
「……いつから………エリナだと?」
「いつから……か……」
王太子様は、軽く息を吐いてから、ゆっくりと話し始めた。
******
アーティーの記憶がよみがえったのは、リュシエンヌ=クレイオンを初めて見た時だった。
「エリナ………」
それは、クレイオン侯爵が、彼女を連れて登城した時に偶然見掛けた時だった。見た目は全く違うのに、彼女がエリナだと分かった。皮肉な事に、今世では私は人で彼女が獣人だった。
ー今の彼女に、前世の記憶が無ければ良いが…ー
その時、私はそれだけを思い願った。
もし記憶があれば、それは獣人として生きて行く上で、枷にしかならないだろうと思ったからだ。
それから、2度目に彼女を目にしたのは、アラスターと街にお忍びで遊びに出掛けた時だった。私が15歳でアラスターが11歳で彼女が9歳。まだ幼さの残る彼女だったが、騎士としては既に頭角を現していた。そんな彼女が、とある令嬢を助けた姿を偶然目にしたのだ。
その時の凛とした姿は、9歳とは思えない程だった。その後、獣化した彼女の姿は、綺麗としか言えない姿だった。月の光を受けて輝く姿は、今でもしっかりと覚えている。
あの、触れれば折れてしまいそうな儚いエリナではなく、芯を持った強い瞳で、しっかりと自分の足で立っている姿は、もう、かつてのエリナではないのだと。彼女はリュシエンヌ=クレイオン侯爵令嬢なのだと。
「その時、ようやく、エリナとクレイオン嬢が別人なんだと素直に受け入れる事ができたんだ。だから、それ以降はクレイオン嬢とは、できるだけ関わらないように─と思っていたんだけど…まぁ…私の口からは言いにくい事もあるが…聖女の事やらで関わらざるを得なくなってしまって………」
「そうですか…それで…ケイトさんは……」
「ケイトは…ケイトが、私─アーティーの元婚約者だった事は説明していたと思う。そのケイト自身が、番のエリナ付きの侍女になって手助けしたいと言ってくれて、私はそれを信じて、ケイトにエリナを任せたんだが…」
それからの話は、本当に驚いた。
ケイト=フローラント
猫の獣人で、アーティー様の元婚約者だった彼女は、エリナに良くしてくれた侍女だった。人間だからと虐げられていた中、唯一私に普通に接してくれる獣人だった。
それが、私を虐げでいた中心人物だったとは──
それなら、あの薔薇の花の贈り物も納得だ。
『真っ赤な薔薇は綺麗ですよね。私も大好きな花なんです』
と、毎朝薔薇の花束を嬉しそうに持って来ていたケイトさん。アーティー様に、私の好きな花は薔薇だと言っていたのだろう。
人間であるエリナ様が怖がらないように距離を置いた方が良い
食事は1人でゆっくり食べたい
夜は1人でなければ眠れない
アーティー様は、ケイトさんからのそれらの言葉を、全て鵜呑みにしていたのだ。
「本当に…アラールの事は言えない様だろう?」
ははっ─と、王太子様は顔を歪ませて自虐的に笑う。
「そんな事とは知らずに、ずっとケイトを信じて…私は護らなければいけなかったエリナを…殺してしまったんだ。それも、ポレットに言われる迄全く気付かなかったんだ」
「ポレット………」
そう。私の味方はポレットだけだった。
「ポレットは……私が死んだ後は……」
「ポレットは、『ここには私の家族は居ない』と言って、喪が明けるとすぐに家を出て行ってしまったんだ。それから何年かした後一度だけ手紙が届いてね。他国ではあるけど、恋愛して結婚して子供も生まれて幸せだと書いてあった」
「良かった……」
いつも人間のエリナに寄り添ってくれていたポレット。私が死んだ後、酷い扱いをされなかったか気になっていたけど…色々大変だったかもしれないけど、幸せだったのなら良かった。
「ユベールは………」
「…………」
自分の本当の母親への仕打ちを知った上司である騎士団長から、騎士道に反する行いだ─として、除籍処分を喰らった後、公爵邸で使用人として働き続けた。ただ、そのユベールもまた──
『可哀想なユベール様。母親が人間だと言うだけで、立派な公爵にも騎士にもなれないなんて…私が母親なら、誰にも文句を言わせる事なく、全てを手に入れられたのに…』
と、ケイトさんから言われ続けていたそうだ。
「だが、それもまた、ケイトとユベールだけが悪いのではなく、私がエリナと距離を置いて話をしなかったから…エリナを知ろうとしなかった私が悪かったんだ」
「………」
ー本当に…その通りだー
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