番から逃げる事にしました

みん

文字の大きさ
48 / 59

48 前世と今世と

しおりを挟む
「私……エリナの話を聞いてくれたのは、ポレットだけでした。ポレットだけが、いつも私に寄り添ってくれて、小さいながらも私の心を守ってくれていました。私は、ポレットだけを愛してました。薄情な事に……ユベールの話を聞いても……何の感情もわきません。今更…なんです。今更真実を知らされても、あの時の苦しみが癒やされる事も消える事もありませんから」
「薄情だとは思わない。それが正しいのだと思う。赦す必要なんてない。私も、赦して欲しいなんて思っていない。恨まれて憎まれて当然だと思っている。私が今謝罪したのも……結局は自己満足でしかないのだから」

正しくは、エリナはアーティー様やユベールの事を憎んではいないが、赦す事はない。謝罪は受け取るけど、受け入れる事はない。

「そうですね。でも………」

私がそうであるように、目の前の彼もまた、アーティー様ではなく、ユーグレイシア王国の王太子レイモンド様なのだ。

「貴方はアーティー様ではなく、レイモンド=オズ=ユーグレイシア様なんです。だから、王太子殿下が、エリナの事で気に病む必要は無いんです。それに、リュシエンヌとしては、王太子殿下には命を助けていただいたので、命の恩人であり、尊敬する王太子殿下でしかありません」

これも、本当に思っている事だ。目の前の人が前世で夫だったアーティー様だと知った今でも、王太子様には感謝と尊敬の気持ちしかない。それは、同じ過ちを繰り返す事なく前に進んでいるからだろう。

「エリナとして、アーティー様を赦す事はありませんが……リュシエンヌ=クレイオンとしては、烏滸がましい話ですが、気軽に声を掛けていただける事は嬉しい事です」
「クレイオン嬢……ありがとう」

ー王太子が気軽に声を掛けるなんて……実際無理だろうけどー

「最後に…アランの事は…知りたいかい?」
「アラン………はい、お願いします」



アランは、私と婚約解消した後、誰とも婚約せずに孤児院で孤児達の世話をしていたそうだ。そして、10年程経ったある日、私達と同じように、婚約者を獣人に番だと言われ奪われた女性が自殺しようとしたところを助けて、そのまま孤児院で一緒に働くようになり、3年後に結婚、2年後には子供が生まれて、孤児院で働きながら家族3人仲良く暮らしていたそうだ。

「それでね…実は、その女性が伯爵家の令嬢だったようでね。しかも嫡子だったようで、そのまま爵位を継いでいたんだ」
「と言う事は…アランは伯爵家に婿入りしたと言う事ですか?」
「そう。女伯爵の婿だ。とても、仲の良い夫婦だったと聞いている」
「良かった……」

アランの事もずっと気になっていた。私と幸せになる事ができなかったのは、やっぱり少し胸は痛むけど、好きだった人が幸せだった事は、とても嬉しい事だ。

「それがまた…運命的と言うか……本当に驚いたんだけど…その伯爵の家名がね……“ヴェルティル”なんだ」
「─────────はい?」
「アランが婿入りした伯爵の家名が“ヴェルティル”なんだ」
「はぁ!!??」

ガタンッ─と、また音を立てながらソファーから立ち上がると、また護衛2人ガ反応して、王太子様が手を振って護衛2人の動きを止めた。

「まさか…アランの記憶持ちだったり──」
「あ、それはないよ。アラスターはアラスターだ。生まれ変わりとか記憶持ちではなく、単純にアランの子孫だと言う事だ。勿論、過去の記録にブラウン公爵とヴェルティル伯爵家の出来事は、一切残されていない」
「良かった…のかな?」

ストン─とソファーに腰を下ろすと、護衛2人もまた元の位置へと戻った。何とも優秀な護衛だ。音が一切遮断されているのにも関わらず、反応がいちいち早いのだ。流石としか言いようがない─ではなく!

「ヴェルティル様が私の番と言う事は─」
「勿論、言ってないよ。クレイオン嬢が隠しがっている事が分かったし……何より、その番にトラウマがあると思ったから…私がアーティーだと…打ち明ける事にしたんだ。クレイオン嬢は、アラスターが番だと分かる前から、アラスターに好意を寄せていただろう?それなのに、番と分かってからは、アラスターから距離を取る─逃げようとしたのは…過去のせいだろう?」
「…そう…です。今世では、私が他人ひとの幸せを壊してしまうのか─と思うと…怖くて……でも、後少し我慢すれば、ヴェルティル様とリリアーヌ様が結婚するので……トルガレントでの残りの2年の訓練の間に、何とか気持ちを整理して───」
「はぁぁぁぁぁぁ……」

何故か、王太子様が盛大なため息を吐きながらテーブルの上に突っ伏した。

「えっと…??」
は……馬鹿なのか?いや、頭は良いのは確かだし、腹ぐ……計算高いのも確かだが、馬鹿は馬鹿だな。肝心な事が抜けているだろう!」
「はい?」

突っ伏したままぶつぶつと呟いていた王太子様が、ガバッと顔を上げて「来たか…」と言って、パチンッと指を鳴らして張っていた結界を解除すると

「レイモンド!」

と、大声を上げてヴェルティル様が部屋へと入って来た。そして、その後ろにはリリアーヌ様も居た。



しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】そう、番だったら別れなさい

堀 和三盆
恋愛
 ラシーヌは狼獣人でライフェ侯爵家の一人娘。番である両親に憧れていて、番との婚姻を完全に諦めるまでは異性との交際は控えようと思っていた。  しかし、ある日を境に母親から異性との交際をしつこく勧められるようになり、仕方なく幼馴染で猫獣人のファンゲンに恋人のふりを頼むことに。彼の方にも事情があり、お互いの利害が一致したことから二人の嘘の交際が始まった。  そして二人が成長すると、なんと偽の恋人役を頼んだ幼馴染のファンゲンから番の気配を感じるようになり、幼馴染が大好きだったラシーヌは大喜び。早速母親に、 『お付き合いしている幼馴染のファンゲンが私の番かもしれない』――と報告するのだが。 「そう、番だったら別れなさい」  母親からの返答はラシーヌには受け入れ難いものだった。  お母様どうして!?  何で運命の番と別れなくてはいけないの!?

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...